(※追記(2022年12月5日7時40分):筒美京平さんの訃報に関するNHKの記事がリンク切れとなっていたことから、同日付で掲載された朝日新聞の記事に差し替えました。)
今週発表された10月17日付米ビルボードソングスチャートでは、21位にフリートウッド・マック「Dreams」が再登場を果たしています。
TikTokで再熱のフリートウッド・マック「ドリームス」、全米“Hot 100”に復帰 1977年以来初 https://t.co/peq5scv5ND pic.twitter.com/21io7ow1P0
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2020年10月14日
今から43年前、1977年6月18日付で首位を獲得した「Dreams」。今回人気再燃のきっかけとなったのはTikTokのバズであり、さらにその動画をメンバーのミック・フリートウッドが再現したことも上記記事で示されています。
@420doggface208 Morning vibe ##420souljahz ##ec ##feelinggood ##h2o ##cloud9 ##happyhippie ##worldpeace ##king ##peaceup ##merch ##tacos ##waterislife ##high ##morning ##710 ##cloud9
♬ Dreams (2004 Remaster) - Fleetwood Mac
@mickfleetwood @420doggface208 had it right. Dreams and Cranberry just hits different. ##Dreams ##CranberryDreams ##FleetwoodMac
♬ Dreams (2004 Remaster) - Fleetwood Mac
元動画の投稿は9月25日、一方でミック・フリートウッドの投稿は10月5日。最新10月17日付米ビルボードソングスチャートの集計期間はストリーミングおよびダウンロードが8日まで、ラジオエアプレイが11日までとなっており、ミックの動画がビルボード再浮上を加速させたといっても過言ではないでしょう。しかもミックのTikTokアカウントはこの動画のみというのが興味深いところです。
「Dreams」のミュージックビデオや、同曲が収められた名盤の誉れ高き『Rumors』(1977)のサブスク解禁等はきちんと成されています。つまりはTikTokの人気がデジタルの増加につながり、そのデジタル環境を整えていることがリバイバルヒットにつながっているわけです。さらにミック・フリートウッドのTikTokアカウント開設は流行に乗り楽しもうとするチャレンジ精神ゆえと言えるかもしれず、その行動にも好感が持たれていると言えるでしょう。
TikTokによるリバイバルヒットはこの数年での特徴ですが、訃報による再浮上もある種のリバイバルヒットと言えるかもしれません。そしてサブスクサービスやYouTubeが浸透した現在にあっては、ファン等の追悼の思いが再生回数を増加させ、チャートを押し上げることも度々みられます。
10月6日に亡くなったギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンを偲んでヴァン・ヘイレンやエディの参加曲等、様々な曲がラジオを中心に再浮上。とりわけアルバム『1984』に収録されたこの「Jump」(1983)は最新10月19日付ビルボードジャパンソングスチャート(集計期間:10月5~11日)で90位にリエントリーを果たしました。ラジオエアプレイ5位となったのみならず、ダウンロード、Twitterそして動画再生の各指標が100位以内に入っているのです。無論こちらも上記ミュージックビデオの他、サブスクも解禁されています。
流行や訃報等に触れた際に生まれる”聴きたくなった”という衝動は、デジタルの興隆により即座に叶うようになりました。そして先のミック・フリートウッドによる動画投稿は、その衝動を加速させることに一役買っていると言えます。次週発表される10月24日付米ビルボードソングスチャートでは「Dreams」がトップ10入りするという見方がありますが、それも納得です。
ただこれは、海外の歌手だからこそチャート再浮上の傾向がより強まるのかもしれません。日本の歌手、作品についてはどうでしょうか。
筒美京平さんの訃報を機に、ラジオ番組で特集が組まれる等様々な形で故人の作品に再度光が当たっています。ならば故人を偲び筒美さんの作品を率先して聴いてみようと、サブスクをチェックした方もいらっしゃることでしょう。しかしそのリストはデジタル上では完璧とは言い難いのが日本の現状です。
一昨年リリースされた『筒美京平自選作品集 50th Anniversaryアーカイヴス』(2018)でみてみましょう。このコンピレーションアルバムはコンセプトの異なる3作品が用意され、それぞれ40曲が収められています。各コンピレーションにおいていくつの曲がサブスクで確認できるか、Spotifyを例に取り上げてみると。
AOR歌謡が26曲、アイドル・クラシックスが28曲そしてシティ・ポップスは20曲。シティ・ポップスに至っては半分のみの解禁にとどまっています。アイドル・クラシックスは女性アイドルのみで構成されるため男性アイドル曲は他のシリーズに収録されていますが、ジャニーズ事務所所属歌手の作品群を含め、未解禁が目立つ形です。無論このリスト以外にも様々な有名曲や名曲はありますが、上記リストを見る限りSpotifyで確認可能かは期待を抱きにくいと思わせかねません。ましてYouTubeにおいては公式なアップロードが少ないだろうことが容易に想像できるのです。
大物歌手の未解禁は減ってきた印象があります。本日になって久保田利伸さんがサブスクを解禁しており、尚の事です。
デビューから34年、久保田利伸の全楽曲サブスク解禁(動画あり)https://t.co/L1IGReqcCE
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) 2020年10月15日
#久保田利伸 pic.twitter.com/Gbxod1IWyT
他方、かつて一世を風靡した歌手の作品は未だ解禁されない作品が多いのが現状と捉えています。無論、海外の歌手においても一部未解禁の歌手や作品があるものの、フリートウッド・マックやヴァン・ヘイレンの再浮上を踏まえれば、日本の歌手の作品のほうがデジタル未解禁が多いだろうことは容易に想像がつきます。
仮に、このような日本の音楽業界の下で今回のフリートウッド・マック「Dreams」のようなバズが発生した際、リバイバルヒットのうねりがより大きくなりはしないのではという強い疑問を覚えるのです。至極単純に、”解禁していないんだ…”という印象を抱かせイメージを悪化させかねない点においても、未解禁は勿体無いと思わざるを得ません。
日本においてTikTokでバズを起こしソングスチャートにランクインした曲は今年のヒットの一形態となっていますが、瑛人「香水」等この数年内にリリースされたものが多いと言えます。しかしTikTokに用いられる曲、バズを起こす可能性のある曲に発売時期は関係ないはずです。だからこそいつ何時でも光が当たってもいいように、デジタル環境を整備することが必要ではないでしょうか。そしてその整備こそ、日本の素晴らしい音楽のアーカイヴス構築につながるものと考えます。