イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(訂正あり) IMP.「CRUISIN'」のリリースに関する動向をどう捉えるか…チャート分析者としての見方を記す

(※訂正(8月24日18時54分):一部文言に誤りがありました。

"ヒットにおいて大事なのは、ビルボードジャパンソングチャートで最も大きなポイント獲得源となるストリーミング指標にて継続的に再生回数を得ることdす。"→"ヒットにおいて大事なのは、ビルボードジャパンソングチャートで最も大きなポイント獲得源となるストリーミング指標にて継続的に再生回数を得ることです。"が正しい内容です。つきましては訂正を実施しています。

ご指摘くださった方に感謝申し上げると共に、誤字があったことをお詫び申し上げます。)

 

 

 

昨日の朝、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんがYahoo! JAPANに寄稿したコラムを興味深く拝見しました。ジャニーズ事務所所属時代にIMPACTorsとして活動していた7名が滝沢秀明さんの立ち上げた芸能事務所TOBEに移籍し、IMP.として先週金曜初の音源となる「CRUISIN'」をリリースしています。

コラムでは施策等についても紹介されていますが、ここでは自分なりの見方を示したいと思います。徳力さんが週に数回行うTwitter(現X)の生配信にて、本日開催分ではこのコラムに即した内容が語られるとのことですが、そこに自分が参加できないゆえの事前の情報提示(提供)という形でもあります。なお徳力さんが生配信を行う理由については下記エントリーをご参照ください(全文は会員登録後に読むことができます)。

 

 

IMP.「CRUISIN'」については一度このブログで取り上げています。同曲のリリースは8月18日金曜であり、同曲も含む最近のJ-POP注目作品が金曜にリリースされてきていることを紹介しています。

この金曜というのは海外における標準リリース日であり、たとえば米ビルボードの各種チャートや、その米ビルボードが2020年秋に立ち上げたグローバルチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.)の集計期間初日にあたります。すなわちこれらのチャートにおいて金曜リリース作品は、初登場週において1週間分がフルで加算され、上位進出を果たしやすくなるのです。

金曜リリースおよびグローバルチャートの成果は、滝沢秀明さんが退社される数日前にジャニーズ事務所所属歌手では初めてデジタルリリースという形でデビューを果たしたTravis JapanJUST DANCE!」が象徴的です。ブログでも記したように、ふたつのリミックスを同時リリースしたことも相まって、2022年11月12日付では「JUST DANCE!」がGlobal 200で28位、Global Excl. U.S.では5位に初登場を果たしています。

ジャニーズ事務所所属歌手がビルボードジャパンに対して積極的にコメントをすることは少ないという印象ですが(今も音楽チャートはオリコンの結果について積極的に発信していると感じています)、「JUST DANCE!」については米ビルボードグローバルチャートにおける成績を紹介し、感謝の意を添えています。

JUST DANCE!」ではデジタル関連施策も採られていました。滝沢秀明さんはTravis Japanのデビューに尽力しており(そのことは、たとえば先月のデイリースポーツの記事(→こちら)から確認可能)、その経験をIMP.のデジタルリリースに活かしたものと考えます。日本では月曜リリースのほうがチャート上で有利になりますが、金曜リリースは"世界同時配信"と謳うならば必須と言え、そして既に実績が誕生していたわけです。

 

もうひとつ興味深いのは、IMP.は「CRUISIN'」にてデジタル関連施策を採るものの、そこにLINE MUSIC再生キャンペーンを含んでいないということです。

(なお、上記リンク先掲載のキャンペーンはダウンロードキャンペーン(→こちら)同様、本日月曜から開始。ゆえに日本向けのチャート施策という意味合いも大きいと捉えています。)

ストリーミングサービス(Apple Music、SpotifyおよびLINE MUSIC)を対象としたキャンペーンは再生ではなく"フォロー"という形。特に日本ではLINE MUSIC再生キャンペーンが重要視され、ビルボードジャパンソングチャートにも大きく影響することについてはたとえば昨日のブログエントリーでも示しています。ただこの再生キャンペーンは企画終了後に勢いが持続せず、歌手自身の人気上昇につながりにくいと捉えています。

(またこれは断言できかねるのですが、再生キャンペーンを行うLINE MUSICは米ビルボードによるグローバルチャートのカウント対象外であると考えます。)

ヒットにおいて大事なのは、ビルボードジャパンソングチャートで最も大きなポイント獲得源となるストリーミング指標にて継続的に再生回数を得ることです。主にライト層の人気がそこに反映されるのですが、とはいえコアファンの再生も重要となります。そこで各サブスクサービスのユーザーが歌手をフォローすれば、たとえば情報追加や新曲解禁時にその旨がユーザーに届き、歌手や作品への注目度キープにつながるわけです。

Yahoo! JAPANのコラムにて紹介されたTikTok施策はどちらかといえばライト層向けといえるかもしれない一方でフォローキャンペーンはコアファンが対象ともいえますが、しかしながら再生キャンペーンのようなハードルはないためライト層向けのキャンペーン的意味合いも小さくないと感じています。ゆえに再生キャンペーン以上に、中長期的な視野でこのキャンペーンを採用したのではというのが私見です。

 

実際、日本では8月18日付SpotifyデイリーチャートでIMP.「CRUISIN'」が120位に初登場を果たし、翌日はダウンするも177位につけています。J-POPの新曲が解禁初日にこのチャートで200位以内に登場することはそこまで多くないため、注目すべき動向と捉えていいでしょう。なおTravis JapanJUST DANCE!」は昨年10月28日にリリースされ、3日後188位に初登場。翌日には最高位となる153位に達し、通算5日間登場しています。

(Travis JapanJUST DANCE!」のSpotifyにおける成績はこちらにて確認できます。)

 

 

サブスクでヒットすることはコアファンの多い歌手でも難しく、またサブスクに強い歌手でもコンスタントに社会的ヒット曲を輩出することは不可能な状況です。その現状においては短期的な数値以上に中長期的動向をみて、真の社会的ヒットに至るかを確認する必要があります。IMP.「CRUISIN'」についても、米ビルボードのグローバルチャートやビルボードジャパンの各種チャートを追いかけた上で、ここで分析を記す予定です。

 

再掲しますが、『サブスクでヒットすることはコアファンの多い歌手でも難しく、またサブスクに強い歌手でもコンスタントに社会的ヒット曲を輩出することは不可能な状況』です。コアファンが多く熱量が高ければフィジカルリリース時に売上ランキングや、複合指標でもそのウエイトが大きいランキングを常に制することは可能ですが、今の社会的ヒット曲の鑑たるチャートはビルボードジャパンと断言していいでしょう。

(そのことは、こちらのエントリーで掲載したビルボードジャパンソングチャートとオリコン合算シングルランキングの差からもはっきり解るはずです。)

IMP.のデジタルリリースは、金曜リリース、そしてキャンペーンの月曜スタートを踏まえるに、世界そして日本のチャートでまず最初のインパクトを刻むべくスケジュールや施策が組まれたと捉えていいでしょう(なお、本来ビルボードジャパンがグローバルチャートのチャートポリシー(集計方法)に合わせて金曜を集計期間初日とすることが最善であるということを、このブログでは以前より提案しています)。

日本の音楽業界のデジタルへのシフト、フィジカルセールス主義といえる状況からの脱却は、先述した『』内と正反対の考え方、すなわち【フィジカルリリース時に売上ランキングや、複合指標でもそのウエイトが大きいランキングを常に制することは可能】という思考や習慣からの脱却でもあります。確実に首位を獲得可能という地に安住するのではなく攻めること、それが今後のヒット曲獲得の足がかりに成ります。

 

ちなみに、IMP.「CRUISIN'」がリリースされた8月18日は、KAT-TUN亀梨和也さんによるソロシングルがフィジカルおよびデジタルでリリースされた日でもあります。

リリースがいわば被ったことについては、このような指摘もあります。

また「IMP.」がデビューした8月18日は、ファンの間ではジャニーズJr.の5人組ユニット「HiHi Jets」の「HiHiの日」として知られている。長谷川氏は「HiHiのファンからすると『なんでこの日に持ってきたの?』ということになりますし、亀梨(和也)さんが4年ぶりにソロで新曲を出す日でもある。『ぶつけてきたのか』って記事が出る。結果的に『IMP.』がデビューしたことが分かるじゃないですか」と滝沢氏の〝戦略〟を分析。

IMP.側がリリースを意図的に被らせたのかは分かりかねますが、たとえばフィジカルセールスのリリーススケジュール(下記表参照)を見る限り、フィジカルセールスで競合がほぼ被らない状況が自然だろうかと考えることは少なくなく、むしろ競合作品の存在こそ自然ではというのが私見です。実際、たとえばBE:FIRSTはこれまでずっとフィジカルセールスにおいて競合作品とリリースが被っていますが、それこそ自然と考えます。

リリーススケジュールが被るという刺激もまた、日本の音楽業界のリリース(形態)に関する考え方を変える一助になるかもしれません。

 

 

IMP.の登場、そしてヒットに至ったならば尚の事、日本特有のガラパゴスと形容される状況からの脱却が自発的に発生するものと期待します。既存の業界に"積極的に変える"そして"省みる"という思考プロセスが発生し、リリース以外の面においても前向きな変化をもたらすはずです。