イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

音楽チャートに影響を与えるLINE MUSIC再生キャンペーン、その効果と問題をまとめる

先月、日本のSpotifyデイリーチャートにおける特性を紹介しました。

一方、日本で人気のサブスクサービスのひとつ、LINE MUSICにおいても独自の特性が存在します。今回はLINE MUSIC、そして音楽チャートにも影響を与える【LINE MUSIC再生キャンペーン】について紹介します。

 

 

まずはLINE MUSIC再生キャンペーンの特徴をまとめます。

LINE MUSIC再生キャンペーン(LINE MUSIC再生回数キャンペーン)とは、いちユーザーがひとつの曲を期間中に一定回数以上聴取し、応募することでプレミアムなプレゼントが絶対当たる、もしくは当選する可能性が生じるというものです。再生回数のハードルを大きく上回るほど当選確率が上昇すると謳うところも存在します。

プレミアムなプレゼントとは非売品やサイン入りのグッズ、オン/オフラインのミートアンドグリートイベント等多岐に渡るのみならず、希少性が高いといえます。このキャンペーンにおいては、LINE MUSICの有料会員であることが条件となります。

 

 

このLINE MUSIC再生キャンペーンは2010年代後半の開始を確認しています。先月ビルボードジャパンがストリーミング6億回達成をアナウンスしたBTS「Butter」でもこのキャンペーンが採用されていました。

ビルボードジャパンのストリーミング・ソング・チャートでは、2021年5月26日公開チャートで首位にデビュー。チャートイン2週目となる6月2日公開チャートでは、歴代最多の週間再生数となる29,935,364回再生を記録した。

このLINE MUSIC再生キャンペーンがチャートに大きな影響を与えてきたことは間違いありません。一方でビルボードジャパンがキャンペーンについて対応した(チャートポリシー(集計方法)を変更した)ことについては後述します。

 

 

LINE MUSIC再生キャンペーンは音楽チャートに影響を及ぼします。LINE MUSIC自体のみならず、(LINE MUSICを含む)ビルボードジャパンのStreaming Songsチャートでのキャンペーン開始直後から開催終了時までの一時的な上昇にもつながります。Streaming Songsチャートはビルボードジャパンソングチャートにおけるストリーミング指標の基となります。

ビルボードジャパンはストリーミング指標において、有料会員による1回再生が無料会員によるそれよりウエイトが大きくなるようチャートポリシーを設定しています。LINE MUSIC再生キャンペーンは基本的に有料会員のみ参加資格を有するため、採用曲は再生回数のみならずウエイトの面でもチャート上で有利に。これがチャートへの意識が高いファンダムの集客につながり、LINE MUSICが有料会員を増やす背景にあると考えます。

 

 

さて、LINE MUSIC再生キャンペーンは音楽チャートに影響を与えるのですが、しかしながらその効果は一時的です。キャンペーン終了直後はLINE MUSICのみならずStreaming Songsチャートやストリーミング指標でも急落し、総合ソングチャートにも影響を及ぼします。

上記は昨年11月15日公開分におけるビルボードジャパンソングチャートでのAdo「唱」(総合ソングチャート1位)および櫻坂46「承認欲求」(同100位未満(300位圏内)のCHART insightですが、青で示されるストリーミング指標には大きな差が生じています。

(※なお当時と現在では、CHART insightの表示が異なります。CHART insightのリニューアルについてはビルボードジャパンがCHART insightをリニューアル...その内容自体、そして対応を踏まえて提案を記す(3月29日付)にて記載しています。)

ストリーミング指標は他指標以上にライト層(歌手のファンというわけではないが曲が気になる方)の人気が反映され、乱高下することはほぼないというのが本来の特徴ですが(Ado「唱」の動きはその象徴といえます)、一方で櫻坂46「承認欲求」における急落(10位以内から100位目前まで、そして100位以内から300位圏外への急降下)は、LINE MUSIC再生キャンペーン直後におけるコアファンの流出ゆえといえます。

 

 

LINE MUSIC再生キャンペーン効果が突出する曲を、どこで見極めればよいでしょう。

まずは、Apple MusicやSpotifyとの順位の乖離がポイントのひとつです。LINE MUSICを含む3つのサブスクサービスにおける週間チャートの集計期間(開始曜日)は厳密には異なるものの、サブスクに強い曲は本来どのサービスでも安定した強さを誇るはずです。なお再生キャンペーン参加者は深夜から早朝にかけても再生する傾向にあるため、同時間帯のLINE MUSICリアルタイムチャート上昇曲も注視する必要があります。

(上記はLINE MUSICにおける4月10日午前4時段階でのリアルタイムチャート。トップ10内にランクインした大半の曲にてLINE MUSIC再生キャンペーンが採用されています。)

 

ビルボードジャパン総合ソングチャートのCHART insightにおけるストリーミングと他のデジタル指標(紫で表示されるダウンロードや、赤の動画再生)との乖離も、LINE MUSICの影響度を見極めるポイントとなります。ストリーミングと動画再生は同じ接触指標として人気が比例する傾向があり、またデジタルで人気ならば所有指標であるダウンロードでも幾分人気になる傾向があるはずです。

1月31日公開分ビルボードジャパンソングチャートではM!LK「Kiss Plan」が6位に初登場。LINE MUSIC再生キャンペーンの採用とフィジカルリリースを同時に行ったことが総合トップ10入りの要因となりました。一方でストリーミング指標はその後20→32→93位と推移し、初登場の4週後には300位圏外にダウンしています。

LINE MUSIC再生キャンペーンはライト層の支持が大きいストリーミング指標にコアファンの熱量を導入するものであり、フィジカルセールス指標と似た動向(初週の上位進出と直後の急落)を辿ります。また「Kiss Plan」では動画再生およびダウンロードのデジタル指標群が獲得できていませんでした。上記ブログエントリーでは総合ソングチャート急落の可能性を示唆したのですが、実際その通りの結果となっています。

 

 

実は、LINE MUSIC再生キャンペーンの影響力は以前ほどではありません。LINE MUSICは2年前まで、他のサブスクサービスとは異なり全ての再生回数をカウントしていたことから、LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲のStreaming Songsチャートおよびビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標における以前の影響力は甚大でした。

ビルボードジャパンは2022年4月20日公開分ソングチャートにて一部サブスクサービスにおける全体の係数処理を実施(詳細はこちら)、そして同年5月11日公開分ではLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲がStreaming Songsチャートを制した際に他のサブスクサービスとの乖離を踏まえ指標化時の係数処理適用を開始しました。同年秋までにはLINE MUSIC側がすべての再生をカウント対象としなくなったことも判明しています。

ゆえにLINE MUSIC再生キャンペーンのビルボードジャパンソングチャートに対する影響力は下がったものの、しかしキャンペーン採用曲の係数処理適用はStreaming Songsチャートの首位曲に限られるため、同チャート首位以外のキャンペーン採用曲は未だストリーミング指標での急上昇と急落が目立ちます。

ここ最近はYOASOBI「アイドル」やAdo「唱」、現在ではCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の強さが際立つため、LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲の係数処理適用が免れているともいえるのです。先述したストリーミング指標の不自然な急降下を踏まえ、このブログではビルボードジャパンに対しLINE MUSIC再生キャンペーン採用全曲への係数処理適用を随時提案しています。

 

 

音楽チャート上での影響力は下がりながらも、LINE MUSIC再生キャンペーンを今も採用する歌手は少なくありません。では、このキャンペーンをどのように活用するのが好いでしょう。

冒頭、BTS「Butter」がビルボードジャパンで歴代最多となる週間再生回数を記録したことをお伝えしましたが、達成のタイミングにてLINE MUSIC再生キャンペーンが採用されていました。しかしキャンペーン効果が途切れた後も「Butter」は6週連続連続で首位を獲得。再生回数は29,935,364回という記録達成の翌週には18,729,013回と大きく落ち込むも、その後も週間1千万回台をキープ。「Butter」は社会的ヒットに至っています。

何度も申し上げているように、LINE MUSIC再生キャンペーンはライト層の人気が反映されやすいストリーミング指標にコアファンの熱量を導入するというものです。言い換えれば、そのキャンペーン終了時までにライト層を十分獲得すれば、ストリーミングでのヒットが持続します。現在のヒット曲においてはストリーミング指標が獲得ポイントの過半数となることから、総合ソングチャートでの大ヒットにもつながります。

ソングチャートでは大ヒット曲の登場がその歌手の過去曲も(再度)押し上げます。BTSは結果的に2021年度ビルボードジャパンソングチャートで「Butter」が6位、「Dynamite」が2位となり、トップ10内に2曲を送り込みました。そしてソングチャートとアルバムチャートを合算した同年度のトップアーティストチャート(Artist 100)では、BTSが首位を獲得しています。

他方、LINE MUSIC再生キャンペーン効果は採用曲への一時的な波及に限られることが大半です。キャンペーン実施の多い歌手におけるトップアーティストチャートのCHART insightからは、その採用が真に歌手側の人気につながっているわけではないことがみえてきます。歌手のスタッフ側には中長期的に活躍できる環境を整備することが求められ、LINE MUSIC再生キャンペーンもその一環、契機として用いるのが最善と考えます。

 

 

ここからはLINE MUSICへの希望を記します。

LINE MUSICは、米ビルボードによるグローバルチャートのデータ提供元になっていません。これはビルボードジャパンのチャートディレクターを務める礒崎誠二さんの著書『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書』にて明らかになっています(145ページ参照)。

LINE MUSICの再生キャンペーン実施には有料会員増加、そして熱量の高いコアファン(音楽チャート等をより強く意識する等のいわばファンダム)の集客という目的があるはずです。他方このようなキャンペーンは少なくとも米のサブスクサービスではみられません。ゆえに米ビルボードがグローバルチャート立ち上げの際、ドメスティックであるのみならずこのキャンペーンの存在もLINE MUSICを不採用とした理由と考えます。

しかしながら、米ビルボードはドメスティックなサブスクサービスをすべて採用しないというわけではありません。チャートの新設時ではないのですが、昨年にはグローバルチャートに韓国MelOnのデータが取り込まれるようになっています。言い換えれば、LINE MUSICが今後採用される可能性もゼロではないはずです。

グローバルチャートに採用されることで、同チャートにおける日本の楽曲の上位進出の可能性はより高まります。そしてその注目度の上昇が日本の音楽ファンを増やし、LINE MUSICの有料会員増加にもつながるはずです。LINE MUSIC側には自身の(短期的な)利益以上に、そのサービスを活用する歌手側の中長期的な活動への還元を意識し、動くことを願います。

 

また、LINE MUSIC再生キャンペーンは参加者の物理的/精神的な疲弊につながりかねません。推す歌手のため、プレゼントを当てるためという心理がそれを感じさせにくくするとして、しかしそのダメージは決して小さくはないでしょう。加えて、聴く以上に回すことを主体とするそのキャンペーンにて一時的に上昇した曲が社会的ヒットに至ったとはいえません。そのことは、サービス側も採用する歌手も認識すべきと考えます。

 

 

3月のLINE MUSIC月間ランキングトップ10内には再生キャンペーン採用に伴い上昇した曲が2作品入っていますが(3位および6位)、この2曲は10代トレンドランキングにてトップ10内入りしていません。後者のランキングからは、キャンペーン採用に伴う上位進出曲をユーザーが実際の流行と異なると判断していることが見て取れます。社会的に浸透するには、キャンペーンの影響がなくとも上位に進出することが重要だと解るのです。