イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) グローバルチャート(Global 200およびGlobal Excl. U.S.)とは何か、そしてJ-POPの現在と課題とは (最新版)

(※追記(7月4日8時52分):このブログエントリーと同日、7時台にアップされたnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんによるYahoo! JAPANのコラムにて、TikTok発のヒット曲が時間を超えてヒットしている状況を紹介されています。このエントリーではTikTok発でヒットに至った経緯について詳しく触れていないこともあり、コラムを貼付する形で補足しました。)

 

 

 

このブログでは毎週火曜、米ビルボードによるソングチャート(Hot 100)共々グローバルチャートについても速報記事を翻訳し、紹介しています。グローバルチャートは2020年秋に米ビルボードが新設し、2021年度以降は年間チャートも発表されています。

グローバルチャートについては発足後間もないタイミングで概要等を、また今年はじめに最新版と題して紹介しました(1月2日付エントリーはこちら)。それ以降現在までにJ-POPにおいて大きな動きもみられたことから、現段階での最新版を以下に記載します。

(なお、本来は今年はじめのエントリーに加筆修正する予定でしたが、別途ブログエントリーを立てる形を採りました。また今回のブログエントリーはツイートの貼付もあり、1万字を超えています。)

 

 

グローバルチャートとは何か

 

 

 

グローバルチャートとは

ビルボードが2020年9月に新設したグローバルチャートは、世界全体のヒットを示すGlobal 200と、Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.の2種類が存在します("Excl."とは除外を意味するExcludeのこと)。このふたつのグローバルチャートにより、世界規模でヒットしている曲が複合指標によって可視化されます。またGlobal 200とGlobal Excl. U.S.とを比較することで、米で人気の曲やジャンルも見えてきます。

データは世界200以上もの地域の分が集計されます。データを提供するルミネート(旧MRCデータ)のディアナ・ブラウン氏は『世界的な最有力アーティスト、国際的にインパクトのある楽曲、そして米国外でどの曲がトレンドし始めるかなどに関するインサイトを業界に提供できるグローバル・チャートを発表することを大変嬉しく思います』とコメントしています(『』内は米ビルボード、世界200以上の地域のストリーミングとダウンロードに基づいたグローバル・チャート発足 | Daily News | Billboard JAPAN(2020年9月15日付)より)。

 

 

発表スケジュールと発表内容

グローバルチャート発表はトップ10の速報が日本時間の火曜早朝に発表され、チャート全体の更新は同日夜となります(米において月曜が祝日の場合、基本的に翌日にずれ込みます)。なおチャート全体の更新については、サマータイムが導入されていれば日本時間の火曜18時台、導入されていない時期は19時台の公開が通常となっています。

また発足当初はGlobal 200、Global Excl. U.S.共に100位までが無料で公開されていましたが、現在ではGlobal 200が200位まで無料公開されている一方でGlobal Excl. U.S.については米ビルボードの有料会員にのみ公開される形となります。

 

 

構成指標と集計方法

グローバルチャートはストリーミングとダウンロードというふたつの指標で構成され、米ソングチャートが用いるラジオエアプレイは含みません。また米ソングチャートとの違いとして、フィジカルセールス(CD、レコードおよびカセットテープ)や、デジタルダウンロードであっても歌手のホームページにて販売されたものはグローバルチャートにおいて対象外となります。

世界200以上の地域におけるデジタルヒットを可視化すべく、世界の主要デジタルプラットフォームにおけるストリーミングやダウンロードがカウント対象となります。その対象サービスは米ビルボードにおいて具体的には公表されていませんが、ビルボードジャパンのホームページにはこのような記載があります。

米国ビルボードでは、当週(2020年9月14日週)公表分より、グローバルチャートの公表を開始しました。これは、世界200国以上に亘って展開しているストリーミングサービス(Apple Music、SpotifyYouTube、Tidal、NapsterVEVOなど)とダウンロードサービス(Apple Music、Beatport、Bandcamp、CD Babyなど)をサービス形式と有償無償とによってそれぞれポイント換算したチャートです。

【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 - その他のデータについて - ②グローバル・チャート【Global 200】、【Global Excl.U.S.】について。より

一方で、日本におけるLINE MUSICは対象外と思われます。これはドメスティックなサービスであるのみならず、LINE MUSIC独自の再生キャンペーンが米ビルボードには好意的に受け止められていないゆえと捉えています。ただし、ドメスティックなサービスにおいては先日、韓国最王手のデジタルプラットフォームであるMelOn(メロン)がカウント対象となったばかりゆえ、今後カウント対象先が増える可能性も考えられます。

 

計算方法は非公表ながら、チャート予想者によってこのように示されています。

(現在ブログではソングチャートという表現を用いていますが、以前はソングスチャートと記していました。ソングチャートもソングスチャートも同じ意味となります。)

"paid"は有料会員、"free"は無料会員を指します。ストリーミングにおいてはデジタルプラットフォームの有料会員による1回再生と無料会員によるそれとでは前者のウエイトが大きくなるよう設定されており、より利益を上げている作品が上位に進出可能な構造となっています。

なおストリーミングにはミュージックビデオのみならずリリックビデオや公式オーディオ等、公式動画の再生回数が含まれます。一方で歌ってみたや踊ってみたに代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)は対象外となります。動画プラットフォームについてはYouTubeおよびFacebookが該当します。

 

グローバルチャートが米ソングチャートと共通するのは合算に関して。オリジナルバージョンとリミックスや客演追加版等別バージョンは合算されます。また曲の獲得ポイントのうち客演や共演追加版がマジョリティとなれば、歌手名表記は客演等追加版のほうとなります。

 

グローバルチャートには米ビルボードソングチャートのようなリカレントルールはありません。リカレントルールとは一定週数以上ランクインした曲が一定順位を下回った際にチャートから外れるというもので、新陳代謝を目的としています(ただし米ビルボードソングチャートにおいては、クリスマス関連曲によって押し出された場合、クリスマス曲の急落に伴い再度ランクインできます)。

 

 

集計期間

ビルボードソングチャート同様、グローバルチャートの集計期間も金曜が起点。米東部標準時(EST)の午前0時が開始時間となります。日本では米がサマータイムの際は金曜13時、サマータイム以外では同14時となります。

 

 

これらのルールにより、グローバルチャートは世界規模でのヒットを示す鑑と成っていると断言していいでしょう。現時点でチャートポリシー(集計方法)変更は一部にとどまりますが、今後時代の流れ等に応じた変更が行われるものと考えます。

 

 

ランクイン曲の特徴

それでは実際に、ふたつのチャートからその特徴を見てみましょう。最新2023年7月1日付までの直近4週における双方のトップ10について、画像が貼付されたツイートを紹介します。

この1ヶ月は動きが鈍いとも言えますが、これはストリーミングが強い曲についてはポイントを下げたとしても下落幅が小さいため。また所有指標に強い歌手がストリーミングを維持できなければ初登場の翌週に急落する傾向も目立ちます。たとえば6月24日付でBTS「Take Two」が双方のチャートで首位初登場を果たしていますがが、翌週にはトップ20前後に大きく後退しています。

 

前回のグローバルチャート紹介エントリーからの半年でヒット曲の傾向は大きく変わったと言えるかもしれません。そのひとつはメキシコの曲のヒット。TikTokでのバズを気にジャンル全体がヒットしており、特にペソ・プルマは6月24日付以降、双方のチャートでトップ10内に3曲を送り込んでいます。またグルーポ・フロンテラには昨年世界のチャートを席巻したラテン歌手のバッド・バニーが参加し、ヒットに至っています。

 

またK-POPも引き続きヒットしていますが、BTS「Take Two」のように初登場の翌週に急落する傾向も少なくありません。その中で第4世代女性ダンスボーカルグループ(たとえばIVEやLE SSERAFIM、NewJeans)が安定したチャートアクションを示すようになり、接触指標が充実、安定していることが見て取れます。

その中にあって、FIFTY FIFTY「Cupid」はこれまでにないヒットを継続しています。これはTikTokでのスピートアップバージョン(”Sped Up”)、そして英語詞版(”Twin Ver.”)の投入も大きく影響しています。英語詞版の重要性については後述しますが、普遍的なポップナンバーであることも世界的な人気の確立に大きく影響し、同曲は米ビルボードソングチャートでもトップ20入りを果たしています。

(上記は「Cupid」の韓国語バージョン。)

そのFIFTY FIFTY「Cupid」はGlobal Excl. U.S.を制した一方でGlobal 200では最高2位、後述するYOASOBI「アイドル」もGlobal Excl. U.S.を制しながらGlobal 200では7位が最高となっています(ブログエントリー執筆段階で最新となる7月1日付時点において)。アジアの作品は瞬発力の高い作品以外、順位面でGlobal 200よりもGlobal Excl. U.S.が高くなる傾向です。逆に米が人気のジャンルには、ヒップホップやカントリーが該当します。

 

先述した通りグローバルチャートにはリカレントルールがないため、過去曲もランクイン、またロングヒットする傾向がみられます。たとえば昨年大ヒットしたハリー・スタイルズ「As It Was」は米ビルボードソングチャートにて6月10日付を最後に姿を消しましたが、Global 200では最新7月1日付で13位にランクインしています。

 

 

 

グローバルチャートにおけるJ-POPの位置について

J-POPのランクイン状況、およびランクイン曲の傾向

今年はじめのエントリーではこのようなことを書きました。こちらについては後述する表からも解ります。

グローバルチャートにJ-POPがランクインするのかという問いに対しては、"実は既にランクインしている"というのが適切な解答です。

そしてその後、YOASOBI「アイドル」が双方のグローバルチャートで実績を残しているのは多くの音楽ファンがご存知のことでしょう。最新7月1日付ではGlobal 200で最高位となる7位に到達、Global Excl. U.S.では通算2週に渡り首位を獲得しています。

上記表はGlobal 200およびGlobal Excl. U.S.におけるJ-POP作品のトップ10ヒット一覧、および2023年度におけるふたつのグローバルチャートの首位曲推移。Global 200の首位曲表には各週において200位以内にランクインしたJ-POPも併記し、またここでいう”J-POP”という定義は最初に掲示した表にて記しています。これらの表をみると、ヒットにはいくつかの特徴が見えてきます。

 

J-POPにおけるグローバルヒットには、【アニメソング】、【アニメを想起させる曲】(ミュージックビデオにてアニメを用いたYOASOBI「夜に駆ける」等)、【アニメ以外の映像作品タイアップ】(ドラマ『silent』主題歌のOfficial髭男dism「Subtitle」等)、【アイドルソング】そして【TikTokを機にバズが発生した曲】という傾向がみられます。

特にアニメソングは海外でも聴かれる傾向にありますが、大半の曲では獲得ポイントの多くが日本によるもの。そして極端に言えば国内獲得分だけでもグローバルチャートにランクインが可能です。Travis JapanJUST DANCE!」が顕著な例ですが、日本は海外よりも所有行動が強いためにダウンロード指標が牽引する形でリリース週に上位進出を果たすことが可能となります。

(Travis JapanJUST DANCE!」についてはオリジナル版に加えてふたつのリミックスバージョンが同時リリースされたことで、所有指標がより高くなったことも上位進出につながっています。様々なバージョンを合算するというグローバルチャートのチャートポリシーが活きた形です。)

上位進出にはダウンロードを大きく獲得することも必要ですが、上位で安定するには高いストリーミングを維持することが重要となります。そのためにJ-POPは市場範囲を海外に拡大することが鍵となります。デジタルリリースは海外進出と同等と言えるため、海外、そしてグローバルチャートを意識しない手はないでしょう。

 

 

グローバルチャートにおけるJ-POPの課題

グローバルチャートは、世界規模でヒットしている曲を複合指標によって可視化したおそらく初のチャートとなります。たとえばSpotifyにもグローバル規模での再生回数に基づくチャートはありますが、米ビルボードによるグローバルチャートは複合指標というのがポイント。このチャートが注目され認知度が高まれば、チャートの上位進出曲が世界中の音楽ファンに知られていくことでしょう。

グローバルチャートにおいてはダウンロードを大きく稼ぎつつ、高いストリーミングをキープすることがヒットの鍵と先程述べました。前者ばかりが強いと短期的なヒットに終わってしまいますが、日本におけるダウンロード数は他国より高いため短期的にでも上位進出はあり得ます。それを中長期的なヒットに昇華させるにはストリーミングの拡充が必須といえます。

 

J-POP躍進のヒントについてはまず、昨年6月にTOKIONへ寄稿したコラムにて提案した内容を再掲します。チャートの認知度を日本国内で上昇させること、ドメスティックなリリースタイミングを改善すること、ビルボードジャパンの音楽チャートがグローバルチャートに近づける形でチャートポリシーを見直すこと、歌手側やコアファンの意識が高まること等、いわば【音楽業界が総出で環境を改善すること】が必要と考えます。

日本の音楽業界においては未だにサブスク未解禁歌手が少なくないのみならず、そのサブスクサービスにマイナスイメージを堂々と述べたり、サブスクに絶対解禁しないと公言する歌手も存在します。利益率の低さ等が問題ならば歌手側と話し合い妥協点を見出す等、前向きな議論を業界全体が重ねなければなりません。サブスク未解禁歌手の多さは海外のJ-POPに対する失望度を高めます。

音楽業界の環境改善は、J-POPを世界に届ける意識も高めます。Spotifyの世界における新曲プレイリスト(New Music Friday)をチェックすると、J-POPが入ることはあっても数ヶ月に一度、1曲のみという状況であり、毎週のようにプレイリスト入りするK-POPとは大きく異なります。この点もまた機会損失であり、日本の音楽業界が各デジタルプラットフォームに働きかけることも差を埋めるのに重要と考えます。

 

海外作品の解禁が基本的に金曜なのは、海外チャートの集計開始日に即しているため。他方日本では未だフィジカルセールスが軸ゆえかデジタルも水曜解禁が目立ち、そして日本の音楽チャートはビルボードジャパンも含め、月曜が集計開始日となっています。この集計開始日のずれがJ-POPの施策をドメスティックに狭めかねない一因と考えるに、合算等も含めてチャートポリシーをグローバルに沿わせるよう検討すべきです。

ビルボードジャパンソングチャートは日本における複合指標チャートの代表、社会的ヒットの鑑となっているのは間違いありません。ビルボードジャパン自身がそれを胸に日本での認知度を高めなければ、自分たちのチャートの優位性、そして同じく複合指標から成るグローバルチャートの重要性を日本国内で認知拡大させることは難しいでしょう。ビルボードジャパンの、特にSNSを介した発信力の強化を願うところです。

 

グローバルチャートにおいては、J-POPとK-POPとで大きな差がついたと感じています。この1年におけるJ-POPとK-POPとの差は、グローバルな視野を持ち合わせているかどうかの違いと考えても差し支えないでしょう。2021年度と翌年度の年間チャートは以下のリンク先から確認可能です。

 

 

J-POPがグローバルチャートで躍進するために

J-POPのヒット曲の傾向として先程5つ挙げました。そのうち【TikTokを機にバズが発生した曲】にはYOASOBI「アイドル」も挙げられますが、藤井風「死ぬのがいいわ」やimase「NIGHT DANCER」も該当します。Global 200における最高位は「死ぬのがいいわ」が118位、「NIGHT DANCER」が112位となり他の曲より低くなっていますが、それでも他のJ-POPより海外で聴かれる割合は高いと捉えています。

TOKIONにコラムを寄稿した後、藤井風「死ぬのがいいわ」のバズが世界中で発生しました。過去曲がTikTokを機に日本以外でバズを起こし世界へ伝播、最終的に過去曲がグローバルチャートに登場するというのはそれまでのJ-POPにはなかった流れです。

しかし「死ぬのがいいわ」は、日本でそこまで大きなヒットに至れていません。アルバム収録曲(『HELP EVER HURT NEVER』(2020))ゆえという以前に、そのバズが昨年大晦日 の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)やその直前に放送されたNHKの特番OAまで、地上波テレビの音楽番組や情報番組にてほぼ(いや、全くでしょう)アナウンスされなかったことが大きく、メディアのグローバルチャートに対する意識の高くなさを感じます。

 

実際、YOASOBI「アイドル」がGlobal Excl. U.S.を初めて制した際の報道をみると、レコード会社等から発せられるプレスリリースに基づいた記事がほとんどでした(YOASOBI「アイドル」がGlobal Excl. U.S.を初めて制した理由、そしてYOASOBI側の巧さに触れる(6月7日付)参照)。

他方、韓国の聯合ニュースでは毎週、K-POPの米ビルボードにおけるチャートアクションが紹介されています(上記リンク先記事は最新7月1日付各種チャートを踏まえたもの)。チャート状況は少し調べれば書けると指摘する方もいらっしゃるかもしれませんが、であれば尚の事日本でも毎週定点観測記事を用意すべきです。これもまた、J-POPとK-POP、日本と韓国のエンタテインメントの意識の差と呼べるものでしょう。

(ビルボードジャパン側がグローバルチャートのトップ10速報記事や米ビルボード各種チャートにおけるJ-POPの状況を記事化しないのも機会損失と感じています。それもあって、このブログでは毎週速報記事を翻訳し紹介しています。)

 

そしてJ-POPが海外で轟くために、現地の言葉で発信するということが欠かせないと感じています。

たとえばYOASOBI「アイドル」がGlobal Excl. U.S.を初めて制したのは英語詞版「Idol」が初加算されたタイミングであり、「Idol」はグローバルチャートの集計開始日となる金曜にリリースされたことが大きく影響しています。この金曜解禁設定や英語詞版の存在をSNSで示すこと等において、YOASOBI側の施策の巧さを感じます。ちなみにSNSTikTok等での音源先行公開(チラ見せ)手法は海外でみられ、日本でも増えています。

藤井風「死ぬのがいいわ」については、所属レコード会社の現地法人がその国や地域の言語でTikTok等にて翻訳等を発信することがヒットの持続につながっています。

またimase「NIGHT DANCER」は韓国のMelOnチャートでJ-POP初のランクインを果たしました。その後BTSのジョングクがお気に入り曲と挙げたことが日本で伝わったことも大きく、「NIGHT DANCER」は日本で、そしてグローバルでチャートを駆け上がっています。

その「NIGHT DANCER」については英語詞版、そして韓国語版を含むEPが先月リリース。実は韓国語版は5月にリリースされていたものですが、この度英語詞版も用意し、既発リミックスを含む6バージョン収録のEPという形で登場しています。このコンパイルは、様々なバージョンが合算対象となるグローバルチャートでの上昇にもつながることでしょう。

 

たとえばimaseさんはアジアでのプロモーションを行い、藤井風さんは現在アジアライブツアー中、そしてYOASOBIは今夏ロサンゼルスで開催される88rising主催の音楽フェスに出演が決定しています。海外を見据えた活動という共通点もさることながら、たとえば藤井風さんが韓国ライブでNewJeans「Ditto」をカバーする等、現地の言葉を用いた音楽表現を行うこともまた共通していると感じます。

@universalmusicvietnam 😎😃 Ai đã giựt được vé concert của Fujii Kaze cho toy thấy cánh tay nào 🤌 #fujiikaze #ditto #umvn ♬ Ditto - NewJeans

(上記動画はユニバーサルミュージックベトナムが発信しているものです。)

 

TOKIONに寄稿したコラムでは『グローバルチャートでさまざまな言語の作品がランクインする状況を踏まえれば、海外進出のために英語詞版を用意する必要はないでしょう』と記しました。藤井風さんについては「死ぬのがいいわ」について英語詞版を用意しているわけではなく、現地レコード会社による取組も重要ですが、それらに加え歌手側自身が外国語で歌うことについて、以前に比べてその重要性を強く感じています。

無論これはチャート強化の側面もありますが、外国語での歌唱は現地の方が曲や歌手に親しみやすくなることで結果的にチャート上昇に表れるものと考えます。これは実際、FIFTY FIFTY「Cupid」を紹介したブログエントリーでも記しています。

(上記は「Cupid」の英語版となる”Twin Ver.”。)

英語詞版を絶対に用意しなければならないとは今も考えていませんが、FIFTY FIFTY「Cupid」ではTwin Ver.の人気がオリジナルの韓国語版より高いことを踏まえれば、外国語によるポップスに対し抵抗感を強く抱く国や地域はイギリス以外でも少なくないかもしれません。グローバルを市場と見据えるならば、英語版の用意は前向きに考えたほうがいいのではなと感じた次第です。

 

(※追記:今回紹介した「死ぬのがいいわ」や「NIGHT DANCER」、「アイドル」や「Cupid」は、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんがYahoo! JAPANに寄稿したコラムでもTikTok発のヒット曲として紹介されています。このエントリーではTikTok発ヒット曲の経緯について詳しく触れていないこともあり、コラムを貼付する形で補足しています。TikTokは時間、そして国や地域という境界も溶かす効果があると感じます。)

 

 

 

最後に

音楽業界の改善を提案してきた者として、音楽業界のみならずメディアも含むエンタテインメント業界全体におけるグローバルへの意識の高くなさを今も根強く感じています。日本語で紡がれた作品だからドメスティックな範囲で拡がればいいという認識を仮に持つ方がいらっしゃるならば、まずはその認識を変えることが重要でしょう。ネット時代にあってデジタルリリースは世界進出とほぼ同等の意味を持つため、尚の事です。

音楽業界のみならずエンタテインメント業界全体が改善すること、グローバルの視野を広く世間の人々が持ち合わせること、そしてドメスティックへの悪い意味でのこだわりを捨てること…これらによってJ-POPのグローバルチャート上位進出が可能になることでしょう。加えて外国語バージョンの用意も重要になってくるものと考えます。

YOASOBI「アイドル」のGlobal Excl. U.S.制覇は、J-POPの大きな見本に成ったと言えます。無論アニメタイアップ効果はあるとして、少数精鋭のスタッフによる柔軟な思考ときちんとした施策の成果と考えるに、J-POP発のグローバルヒットが登場する可能性は大いに有り得るのです。