最新12月9日付の米ビルボードソングチャートは、ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が初めて制しています。この点は昨日、ブログにて記事の翻訳版を掲載しています。
「Rockin' Around The Christmas Tree」の首位獲得については取り上げるメディアも少なくないのですが、しかしその表現に違和感を覚えるものが目立ちます。
1960年代の米歌姫ブレンダ・リー(78)が65年前にリリースしたクリスマスソングが4日、米ビルボードの「ホット100」で初めて1位に輝くという珍現象が起きた。
東スポWEBの記事では冒頭にて"珍現象"と表現されていますが、今のチャートを追いかければこれが如何に自然なことかがよく解るでしょう。そしてブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が制したことでマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」は2位となりましたが、この2位に焦点を当てた日刊スポーツの記事タイトルには釈然としません。
クリスマスソングの定番「恋人たちのクリスマス」を代表曲に持つ米歌手マライア・キャリー(54)が、19年以来独走してきた12月のヒットチャートのトップから初めて転落した。
それでは、それら言及した理由を記します。
まずは米ビルボードソングチャートにおける変遷について紹介する必要があります。このことは、マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が発売から25年を経た2019年に掲載したエントリーで代弁可能でしょう。
チャートの変革とは、音楽の所有/接触方法の変化およびそれに対応した米ビルボードのチャートポリシー(集計方法)変更を指します。リリース当初はラジオヒットしてもフィジカル未リリース曲はチャート対象外だった「All I Want For Christmas Is You」はその後デジタルの興隆に合わせて最高位を徐々に上げていき、2017年のクリスマスシーズンに初のトップ10入り、そしてその2年後に初の頂点に達するのです。
「All I Want For Christmas Is You」が初の頂点に達した2019年は、同曲および収録アルバム『Merry Christmas』のリリースから25年というタイミング。マライア・キャリーはアドベントカレンダーを用意したり、(その一環として)東京ドームでのライブ映像を公開する等、様々な施策を用意したことも首位獲得に大きく寄与しています。
そして今年は、ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」のリリースから65年。ブレンダ側も実は施策を徹底しており、これが貢献したことが日本時間の本日公開された米ビルボードの座談会記事から理解できます。ちなみにこの座談会は、米ビルボードソングチャートで特筆すべき曲が登場した際に行われる傾向があります。
The Christmas classic, which rose to No. 2 each of the last four holiday seasons but was previously unable to unseat Mariah Carey’s beloved “All I Want for Christmas is You,” gets all the way to the Hot 100’s apex on the chart dated Dec. 9 — making Lee’s third career No. 1, after “I’m Sorry” and “I Want to Be Wanted” both reached pole position in 1960. It comes after a major promotional push from both Lee and her UMG Nashville label, including a new music video, a new holiday EP, and a whole lot of new Lee TikToks, all timed to the song’s 65th birthday celebration this year.
(このクリスマス・クラシックは、過去4回のホリデー・シーズンでそれぞれ2位を獲得したものの、マライア・キャリーの人気曲「All I Want for Christmas is You」を追い抜くことはできませんでしたが、12月9日付のチャートでソングチャートの頂点に立ちました。これは、ブレンダ・リーと彼女の所属するUMGナッシュヴィル・レーベルの双方が、新しいミュージック・ビデオ、新しいホリデーEP、そして新しいTikTok動画の数々等、大規模なプロモーション・プッシュを行った後のことです。)
(意訳部分はDeepL翻訳ツールを基に、一部表現を訂正しています。)
ミュージックビデオでは、オリジナルの音源を用いて現在のブレンダ・リーが(いわゆる口パクで)歌っています。この動画、そしてブレンダによるクリスマスEPについては下記エントリーにて紹介しています。
ブレンダ・リーはさらに、公式TikTokアカウントを開設しています。最初の投稿が今年9月20日となっていることからも、クリスマスシーズンに「Rockin' Around The Christmas Tree」が伸びることを見据えた開設とみていいのかもしれません。そしてこのアカウントにて、米ビルボードソングチャートを制したことが発信。なおこの動画は公式YouTubeアカウントでも、ショート動画にて公開されています。
@brendaleeofficial #RockinAroundtheChristmasTree is officially #1 on the @billboard #HOT100 charts! 🎉 Thank you so much for listening and rockin’ this holiday season! #65YearsLater #Hot100Charts #ARockinChristmas ♬ Rockin' Around The Christmas Tree - Brenda Lee
クリスマスソングが米で伸びるのは自然であり、日本でもクリスマス関連曲がback number「クリスマスソング」を筆頭に上位進出することは自然なこととなっています。
その傾向が米ではより強いゆえに、新旧様々なクリスマス関連曲が大挙上昇するといえるでしょう。ストリーミングの動向を踏まえるに家や店舗で流れる傾向が高く、またパーティも多く開催されそのBGMに用いられているだろうと考えられますが、そもそもストリーミング指標の基となるサブスクが浸透していることも影響しているでしょう。
ストリーミングの浸透は旧曲のフックアップにつながります。たとえば今年、日本では新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」がヒットしましたが元々は3年前リリースの作品です。つまり日本でも新曲以外がヒットする現象が起きており、懐かしの作品がヒットすることは東スポWEBが用いた表現である"珍現象"ではないと言えるのです。そしてサブスク等の浸透が広いほど、クリスマス等季節を彩る曲の存在感は高まります。
もうひとつ。米ビルボードソングチャート首位獲得作品の変遷も紹介します。
マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が2019年のクリスマスシーズン(米ビルボードソングチャートにおいては2020年度に該当)以降通算12週首位を獲得しており、また他のクリスマス関連曲が「All I Want For Christmas Is You」を追い抜いていないこともあって、日刊スポーツ側は"転落"という表現を用いたのかもしれません。
しかし2020年のクリスマスシーズン(2021年度)においてはテイラー・スウィフト「Willow」ががマライアの首位獲得を一時的に阻んでいます。これは下記エントリーでも触れたように、テイラー・スウィフトがダウンロードを安価販売したことが功を奏した形です。2020年12月26日付米ビルボードソングチャートはこちらから確認できます。
施策の重要性も理解できますが、このテイラー・スウィフト「Willow」に一時的にでも首位の座を奪われている以上、日刊スポーツによる『19年以来独走してきた12月のヒットチャートのトップから初めて転落した』という表現が正しくないことが解るでしょう。
最新12月9日付米ビルボードソングチャートでブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が初めて制したことは非常に興味深い出来事ですが、米クリスマス文化、そしてサブスク等ストリーミングの浸透を踏まえれば季節を彩る曲の上昇は自然なことです。そしてマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」以上に施策が活きた結果でもあるということは、日本の音楽業界も参考にすべきと考えます。
加えて、マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」におけるこれまでのチャートアクションも見事です。ともすれば2023年のクリスマスシーズンでは首位の座を逃すかもしれませんが、それを"転落"と表現することは彼女に失礼でしょう。
メディアの表現は尖ったものが多く、それがアクセス上昇を見越したものであることは理解できますが、だからといって不正確な表現を是としていいのでしょうか。個人ではなくメディア、つまり報じる立場である以上は事実をきちんと伝えること、そして煽るような表現をやめることを強く願います。
しかしながら、チャートの紹介自体は好いことです。メディアにおいては音楽チャートに関する発信が消極的であること、また歌手やレコード会社からのプレスリリースがなければ発信しない可能性が高いと捉えており(下記エントリー参照)、ゆえに今回の発信は内容自体に違和感はあれど、意義自体は評価できます。
メディアには、音楽チャートへの理解と精度を高めることを願います。K-POPの米やグローバルでの成績をきちんと紹介する韓国メディアとの差を踏まえれば尚の事です。そしてその改善において、自分に協力できることがあるならば駆けつけたいと思っています。