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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本のSpotifyデイリーチャートからクリスマスソングの動向をみる(2022年版)

今年もクリスマスソングの動向を、Spotifyを用いてチェックします。Spotifyビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標にデータを提供し、デイリーチャート200位までの再生回数が可視化されたサブスクサービスです。昨年の分析については下記ブログエントリーをご参照ください。

ビルボードジャパンが明日発表する12月28日公開分ソングチャートの集計期間はクリスマスまでの1週間であり、この数年で最もクリスマス関連曲が存在感を示すかもしれません。その発表を前に、チャート予想の意味でもSpotifyの動向を確認します。なおストリーミング再生回数首位曲におけるSpotifyの割合を踏まえれば、同サービスは日本においてサブスク全体のおよそ2割近いシェアを占めているものと思われます。

 

まずはクリスマスにおける上位曲の再生回数推移をグラフ化したものを紹介します。

マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」がクリスマスイブに頂点に立ちました。再生回数は50万弱まで上昇し、他にもクリスマス曲の多くは12月24日付において前日のおよそ倍の再生回数を獲得しています。一方でクリスマス当日においては前日の7割前後で推移。洋楽のクリスマス曲ほどクリスマスイブにおける上昇度およびクリスマス当日のダウン幅が大きい傾向です。

昨年および今年において日本のSpotifyデイリーチャート200位以内に登場したクリスマス曲の一覧を上記に(2022年12月24日付における上位から順に記載)。クリスマスイブにおけるランクイン曲は55→62曲へ伸び、再生回数に至っては362万回から626万回、前年と比べて72.6%上昇しています。一方でクリスマス当日にはランクイン曲が49→44曲へ減少し、再生回数は12.9%の伸びにとどまっています。

日本においてはクリスマス当日よりもクリスマスイブのほうがクリスマス曲が好まれる傾向があります。またSpotifyの再生回数は平日より土曜や日曜が伸び、一方で平日の中では金曜が低いことも特徴です。2022年においてはクリスマスイブが土曜でありパーティー等を土曜もしくは前日の夜に開催したところが多い一方、クリスマス当日は休息に充てる方が少なくなかったことが前年との比較から予想できるのではないでしょうか。

 

それでは人気曲をチェックしてみましょう。

全体の傾向は昨年述べたように、クリスマス曲プレイリストの影響が今年も大きいと感じています。

たとえばCHEMISTRYは「クリスマス・イブ」のカバーによって、「PIECES OF A DREAM」以来2曲目となる日本のSpotifyでの100位以内エントリーを達成。同曲が含まれる"日本のクリスマスソング"プレイリストはSpotify公式ではなく個人のプレイリストであることも興味深く、誰もがセレクターになれる時代であると言えるでしょう。

またボビー・ヘルムズ「Jingle Bell Rock」やブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」といった、半世紀以上前にリリースされた往年のクリスマス曲の上昇率が高いことも特徴。これらはたとえば"Christmas Classics"プレイリストに入っていますが、ここ数年米ビルボードにおいてストリーミングの興隆等に伴い総合ソングチャートで往年のクリスマス曲が占拠する状況をなぞってきていると感じています。

上記は12月27日5時現在のSpotifyにおける"Christmas Classics"プレイリスト。また下記ブログエントリーでは最新12月24日付米ビルボードソングチャート速報を紹介しています。

日本時間の明日発表される12月31日付米ビルボードソングチャート(集計期間:12月16~22日)ではマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」の連覇が予想されますが、その翌週はブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が初の栄冠に輝くという予想が登場しています。この予想通りになれば、往年のクリスマス曲の人気が日本でも今後ますます高まっていくのではと捉えています。

 

クリスマス曲の大挙上昇は、必ずしもそれ以外の曲の再生回数を落としているわけではないと感じています。これはクリスマス曲以外の作品におけるクリスマスイブおよびクリスマス当日の再生回数が前週同曜日とほぼ変わっていないことに加えて、下記グラフからも言えるのではないでしょうか。

ビルボードジャパンにおける2022年度以降の、Spotifyデイリーチャート50位および200位の再生回数を定点観測したグラフがこちら。200位においては今年のクリスマスイブおよびクリスマス当日に初めて4万回再生を突破しています。これを踏まえれば、普段から音楽を聴く習慣があるわけではない方々がこの時期にSpotifyを利用したのではないかというのが自分の見方です。

さらにはこのタイミングで会員登録した方、有料会員ではなく無料会員として活用した方も少なくないかもしれません。そう捉える理由が最新12月24日付米ビルボードソングチャートにおけるシザ「Kill Bill」のストリーミング指標制覇。再生回数は「Kill Bill」が4位、マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が首位でしたが、指標化後は逆転しています。この現象から想像できることが日本でもみられたものと考えます。

(上のほうのツイートにて"3690"とありますが、"3690万の誤りでした。)

ビルボードジャパンソングチャートにおいても有料会員の1回再生と無料会員のそれとでウエイト差がつけられているため、再生回数がストリーミング指標にそのままスライドされるわけではありません。それでもクリスマスイブやクリスマス当日にSpotifyでデイリー200位以内に入るのは凄いことです。ならばランクインした歌手はそのヒットをクリスマス曲以外に波及させるべく施策を実行することが大切です。

これは無料会員を増やしたであろうSpotify等サブスクサービス全般にも当てはまります。Spotifyではある映画に登場した往年のヒット曲を無料で聴こうと謳ったプロモーションツイートがありますが、"無料"を強く訴求することや解禁した歌手に対しての利益につながりにくい点において好ましくはないと感じています。有料会員のメリットや歌手への利益創出の意義をきちんと伝えることで有料会員を増やしてほしいと願います。

 

そして、今回Spotifyデイリーチャートにランクインしたクリスマス曲の傾向から、サブスク未解禁歌手の姿勢をあらためて勿体ないと感じています。

(上記はショートバージョン。)

先述したCHEMISTRY「クリスマス・イブ」は山下達郎さんのカバーであり、昨年はクリス・ハートさんによる同曲カバーもランクイン。竹内まりや「すてきなホリデイ」が今年最高位を更新したことを踏まえれば尚の事、本家「クリスマス・イブ」のニーズは間違いなくあるものと考えます。

(上記はショートバージョン。)

また安室奈美恵「Christmas Wish」が2年連続で入っていることも注目です。「Christmas Wish」は2016年のセブン-イレブンタイアップ曲であり、翌年のベストアルバム『Finally』に収録。安室奈美恵さんは2005年にクリスマス曲である「White Light」をリリースしていますが、非シングル曲の「Christmas Wish」が上位に登場した形です。

(上記はいずれもショートバージョン。)

安室奈美恵さんの例から、CMに起用されたクリスマス曲が上位に進出する傾向があると考えられます。ならば、セブン-イレブンにおけるKing & Prince(「I promise」等)やローソンのなにわ男子(「#MerryChristmas」)も、デジタル解禁していれば再生回数を伸ばしたと予想できるでしょう。昨日はこのようなブログエントリーをアップしましたが、その際に感じた勿体なさをこのエントリー記載時にも抱いた次第です。

 

 

2022年のクリスマスシーズンにおける関連曲の動向をまとめてみました。今年リリースされたクリスマス曲は目立たなかった印象がありますが、その中で優里「クリスマスイブ」は健闘しています。この曲が来年のクリスマス時期にも登場すれば、クリスマス曲として定番化するかもしれません。

そして歌手やレコード会社、芸能事務所側が今年のクリスマス曲の傾向を分析し、来年どのような施策を実施するかに注目しましょう。