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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2023年度、サブスク未解禁により大きなヒットに至れなかったと考える曲をまとめました

このブログでは一昨日、このようなエントリーをアップしました。

この中で番外編として紹介したブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」は、リリースから65年の時を経て今年遂に米ビルボードソングチャートを制しました。施策も反映されていますが、そもそもデジタルを解禁しているからこそブレイクにつな

がったことは間違いありません。同曲は数年前に公式リリックビデオを用意しましたが、これは公式動画のみがストリーミング指標の対象に成ることに合わせた対応です。

 

ビルボードジャパンにおいても、ソングチャートにおけるストリーミングの比重は徐々に高まっています。これは一方で、フィジカルセールス指標の週間セールスが一定枚数を超えた分に係数処理が施されるようになったことも影響しており、2017年度以降はデジタルヒットが週間単位で少しずつ首位を獲得できるようになりました。そして2023年においてはYOASOBI「アイドル」が21週、Ado「唱」が9週首位獲得に至っています。

デジタルに強い曲がロングヒットし、年間単位でも上位に進出するようになったのはこの数年の傾向です。一方でフィジカルセールス指標が突出したヒット曲については週間でも上位進出が難しくなり、年間ではほぼ100位以内に登場していません。そしてフィジカルに強い歌手の中にはデジタル未解禁を続ける方が少なくありませんが、それは非常に勿体ないことだと考えます。

 

今回は前年も実施した、サブスクを解禁していれば大ヒットした可能性のある作品をリスト化します。前年分は下記をご参照ください。

 

今回は2023年度のビルボードジャパン年間チャートを用います。解説はこちら。

また年間チャートにおける各種データは下記でまとめています。

 

今回表示するCHART insightについては下記ポストをご参照ください。基本的に、2023年12月13日公開分までの最大60週分を表示しています。

 

 

2023年度 サブスク未解禁により大きなヒットに至れなかったと考える曲

※⑤~⑦および⑩のうちB'z「STARS」は後日デジタル解禁、⑨は一部サブスクサービスで既に解禁されています。また⑩のうちMr.Children「Fifty's map ~おとなの地図」については収録アルバムのフィジカルリリース前日にデジタル解禁されていますが、アルバム全体のデジタル解禁は後日となっています。

 

 

① King & Prince「ツキヨミ」「Life goes on」

(King & Prince「Life goes on」のCHART insightは、11月29日公開分までを表示。)

メンバー3名の脱退(平野紫耀さん、神宮寺勇太さんおよび岸優太さんはTOBE所属となり、Number_iとして活動することを表明)という出来事もあり、脱退アナウンス前にリリースされた「ツキヨミ」はロングヒット、またアナウンス後で5名時代の最後のシングルとなる「Life goes on」は初週フィジカルセールスが100万枚を突破しています。

特に「ツキヨミ」は2023年度ビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標でロングヒットしており、旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)所属歌手では同年度の年間ソングチャート100位以内に唯一ランクイン。そして6名~5名時代のKing & Princeを網羅したベストアルバム『Mr.5』は年間アルバムチャートを制しています。

ベストアルバムのヒット、そして動画再生指標の高位置での安定を踏まえるに、ライト層への訴求も十分あったものと捉えていいでしょう。一方でフィジカル購入についてはその購入環境や可処分所得の割当の変化、CDプレイヤーの普及率等を踏まえればライト層のみならずコアファンにも厳しい選択となっているかもしれません。それゆえ尚の事、サブスク解禁を行えばより大きなヒットに成ったものと捉えています。

 

Snow Manタペストリー」「Dangerholic」

ジャニーズ事務所所属歌手の中で最もフィジカルセールスが安定して強いのはSnow Manで間違いないでしょう。オリジナルアルバム『i DO ME』がミリオンセールスを記録したことはまさにその象徴といえます。また動画再生指標においても安定して上位を推移する傾向です。彼らにおいてはコアファンの視聴のみならずライト層へもリーチは十分行われていると捉えるに、解禁された際の動向が非常に気になるところです。

 

SixTONES「こっから」

ドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ)の主題歌のひとつであり、動画再生指標も高位置で安定。YouTubeでは1億回再生を突破しています。

(ただし「こっから」はYouTubeでCM展開されたことを確認しています。無料会員が動画を再生中に挿入されたCMは一定時間以上再生されることでYouTube自体ではカウントされる一方、ビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標は加算対象外となります)。

『だが、情熱はある』はW主演を務めたSixTONES森本慎太郎さん(南海キャンディーズ山里亮太さん役)およびKing & Prince高橋海人さん(オードリー若林正恭さん役)の役作りも相まって評判となり、「こっから」の動画再生指標にも反映されたと考えます。ドラマの世界観を踏襲した主題歌ゆえ、仮にデジタル解禁されていれば(歌手のファンではない)ドラマファンも聴取したのではないでしょうか。

 

④ King & Prince「ichiban」/ Snow Man「W」

(Snow Man「W」のCHART insightは、2023年11月15日公開分までを表示。)

King & Prince「ichiban」はアルバム『Made in』(2022)のリード曲で同年の『NHK紅白歌合戦』でも披露、Snow Man「W」はシングル「タペストリー」とのダブルAサイドシングルですが、両曲ともソングチャートのフィジカルセールス指標は加算対象外となります。シングルの場合、ダブルやトリプル等のAサイドシングルについてはフィジカルセールス指標が一曲のみに反映されるためです。

このような形でリリースされたデジタル未解禁曲の場合、動画再生やラジオ指標だけで上位に進出することは難しいのが現状です。またフィジカルシングルで複数のAサイド曲が用意された場合にラジオ指標では票割れが起きることもあり、尚の事です。

アルバムリード曲やフィジカルシングルのセールス指標未加算曲については、BE:FIRST「Boom Boom Back」がひとつの好例となることでしょう。シングル「Smile Again」のカップリングとしてフィジカル化されたこの曲はデジタル先行リリースの結果、2月22日公開分のビルボードジャパンソングチャートを制しました。年末の音楽特番では「Mainstream」共々披露され、彼らにとって今年を代表する曲になったといえます。

「Boom Boom Back」は上位をキープしたとは言い難いかもしれませんが、デジタル解禁の重要性を知るには十分です。

 

Hey! Say! JUMP「DEAR MY LOVER」

ドラマ『王様に捧ぐ薬指』(TBS)主題歌で、ドラマでは主演の橋本環奈さんの相手役をメンバーの山田涼介さんが務めています。TBS火曜22時台のドラマは恋愛要素が強く、主題歌を務める旧ジャニーズ事務所所属歌手のメンバーは共演者として主演俳優を支え、また主題歌もヒットする傾向にあります。

たとえばKis-My-Ft2「Lux Bias」(玉森裕太さん出演の『オー・マイ・ボス! 恋は別冊で』(2021)主題歌)や、最近ではなにわ男子「I Wish」(道枝駿佑さん出演の『マイ・セカンド・アオハル』(2023)主題歌)も「DEAR MY LOVER」と同じ位置付けにあり、いずれも動画再生指標が目立った動きをしていましたが、フィジカルリリースのタイミングでデジタル未解禁だったために曲の拡がりが抑えられていた状況です。

しかし「Luv Bias」はその後ダウンロード(iTunes Storeを除く)やサブスク(LINE MUSIC限定)で解禁し、注目の動きを示しました。そしてHey! Say! JUMP「DEAR MY LOVER」については、彼ら初のデジタル解禁作となる)EP『P.U!』にて唯一の既発曲として収録され、総合100位以内に再登場しています。

「DEAR MY LOVER」を収録したフルアルバム『PULL UP!』はデジタルが未解禁の状況なのですが、仮にフィジカルのリリース日までにデジタルが用意されていれば、今年を代表する旧ジャニーズ事務所所属歌手のヒット曲と成ったことでしょう。

 

⑥ ゆこぴ「強風オールバック」

ニコニコ動画ビルボードジャパンによるニコニコ VOCALOID SONGS TOP20における年間チャート制覇曲であり、ニコニコ動画の枠を越えて日清食品のCMソングにも(替え唄の形で)起用。尤も日清食品が尖ったCMを多く扱うようになったことも起用の背景にあるものと捉えていますが、ゆこぴさんのみならずボカロP全体(および彼らの作品)、そしてニコニコ動画に対する注目度は高まったものと思われます。

一方でゆこぴ「強風オールバック」のデジタル化はアルバム『アルバム1号』がリリースされた11月29日まで待つことになったのが勿体ないと感じています。

ボカロP、そしてニコニコ動画のユーザー(リスナー)がニコニコ動画のみならずビルボードジャパンの総合ソングチャートを意識するようになれば、社会現象化するヒット曲がこのジャンルからどんどん輩出されるのではというのが私見です。

 

⑦ KAN「愛は勝つ

訃報は歌手の注目度を高めます。KANさんについては特に大ヒットし、最も多くの方に親しまれたといえる「愛は勝つ」に人気が集中。ダウンロードやラジオ指標を伸ばし総合ソングチャートで100位以内に到達しました。一方でこの曲を含む初期の作品は当時サブスク解禁されておらず、より高い位置に至れていません。

サブスク解禁していれば伸びたと断言したのは、公式YouTubeチャンネルにてKANさんの初期の作品が無料会員向けにも公式オーディオとして配信されており、その結果動画再生指標が加算対象となったため。訃報以外でも曲や歌手がいつ何時注目を集めるかは分かりませんが、スポットが当たった際にデジタル環境がきちんと構築されていれば、上昇幅はさらに大きくなるはずです。

 

実はこの原稿を仕上げつつある中で、KANさんの初期作品が順次サブスク解禁されるというアナウンスがありました。

KANさんが存命中にサブスク解禁を予定していたのか、それとも遺族の方等による意志なのかは分かりかねます。無論解禁は喜ばしいことです。一方で、なぜこれまで未解禁だったかを検証し、機会損失を繰り返さないよう務めることが音楽業界全体に求められるものと考えます。

 

WANDS「世界が終わるまでは…」

(オリジナルバージョンの公式動画は存在しないため、織田哲郎さんと上杉昇さんによる"Animelo Summer Live 2012 -INFINITY∞- Day2"のパフォーマンス映像を貼付しています。)

昨年も取り上げたこの曲は、映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットに伴い注目度がさらに上昇。『TVアニメーション スラムダンク テーマソング集』(1996)は年間ダウンロードアルバムチャートで19位にランクインを果たしました。ソングチャートのカラオケ指標では20位前後にランクインを続けましたが、サブスク未解禁、さらにオリジナル版のミュージックビデオがYouTubeにないことは機会損失といえます。

カラオケ指標の人気は総合ソングチャートにおいても安定したヒットを呼び、いつ何時でもフックアップされた際にデジタル環境が整っていれば上昇幅は大きくなります。それを証明したのがポルノグラフィティサウダージ」(2000)であり、2023年度のビルボードジャパン年間ソングチャートでは99位に入りました。「世界が終るまでは…」がデジタルに明るいならば、年間総合100位以内もあり得たでしょう。

 

山下達郎「クリスマス・イブ」

(公式動画はYouTubeにアップされていないため、オリコン公式YouTubeチャンネルにアップされた映画『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(2014)の特別映画版プロモーションビデオを貼付しています。なおサムネイルは用意されていない模様です。)

クリスマス時期のチャートアクションについては先日お伝えしたばかりですが、昨年のインタビューにてサブスクを解禁しないと話していながら「クリスマス・イブ」がApple MusicやAmazon Music Unlimitedといったサブスクサービスにて解禁しているというのは矛盾といえるでしょう。実際、解禁の成果はチャートアクションに表れています。

デジタルの未解禁を正当化する、もっといえばデジタルに関わる方を悪しく述べる歌手、またデジタル未解禁にこだわる芸能事務所の存在は、日本の音楽業界を世界に拡げないネックだと考えます。解禁する歌手は増えてきているものの、たとえばシティポップムーブメントにおける最重要人物のデジタル不在は世界の音楽ファンに失望を与え、日本のエンタテインメント全体への印象悪化も招くのではないでしょうか。

 

Mr.Children「Fifty's map ~おとなの地図」/ B'z「STARS」

(Mr.Children「Fifty's map ~おとなの地図」のCHART insightは、11月15日公開分までを表示。)

(B'z「STARS」の公式動画はYouTubeにアップされていないため、シングルのフィジカル盤収録曲のダイジェスト映像を貼付しています。)

実はMr.Children「Fifty's map ~おとなの地図」はアルバム『miss you』リリースの前日にデジタル解禁されていますが、アルバム全体のデジタル化は5週後となります。またB'z 「STARS」についてはデジタル化までに2ヶ月以上が経過しています。Mr.Childrenにおいてはリード曲を解禁しながらアルバム全体をデジタル化しないことで、フィジカル購入の流れを作ることを意識したのかもしれません。

フィジカル先行/デジタル後発という姿勢は、ベテランで際立ちます。B'zの場合はフィジカルセールスのランキングで連続首位がかかっていたこともあったかもしれません。ただ、アイドルやダンスボーカルグループを除けばフィジカルが以前ほど売れなくなっている状況下でそれでもベテランがデジタルを後回しにしているのは、デジタルに対する悪しきイメージ、そしてフィジカルが売れなくなるという懸念ゆえかもしれません。

日本はエンタテインメント業界全体がベテランの方への正しくない認識に対して"触れぬが吉"という姿勢を採り続けてきたものと感じています。それが少しずつ、確実に日本のエンタテインメント全体の信頼度を自ら逸したというのが厳しくも私見です。

 

⑩ (番外編) 安室奈美恵 全曲

(上記は「Hero」における、NHKが用意したミュージックビデオ。なおNHKの公式YouTubeアカウント発の動画はブログにおいて通常の貼付ができず、はてなブログにおける通常の貼付方法では上記のように表示されます。)

安室奈美恵さんがサブスクのみならずダウンロード、さらにはYouTubeからも作品を引き上げたことは大きな話題となりましたが、これは大きな問題だと考えます。

尤も安室奈美恵さんのベストアルバム『Finally』は収録曲の大半が再録となっており、芸能事務所やレコード会社との関係性への疑問を抱かせるものでした。加えてYouTubeにて公開されていたミュージックビデオは1分前後の尺となっていたことも気になっていました。記事からは事情があるものと推測できるものの、ならばその事情を公式に発表する(デジタルからの引き上げ前に行う)ことはできなかったのでしょうか。

また、フィジカルこそ最善という市井の声も散見されましたが、これもまた誤りです。フィジカルを購入してもデジタルでチェックする方がいること、今は音源のすべてがフィジカル化されているわけではないこと(デジタルを引き上げれば聴取の代替措置がなくなること)がその理由。フィジカルリリースが当たり前だった時代の認識をそのままに、それを正しいとする市井の認識もまた業界が変わらない一因だと強く考えます。

音源引き上げ後、初の一週間フル加算となった11月29日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートでは『Finally』が総合92→44位、フィジカルセールス指標では85→34位へ上昇しています。同日付のフィジカルセールスは1,161枚であり、これをどう捉えるかが重要でしょう。個人的には、今のCDを巡る環境を踏まえれば売れることは凄いと考えますが、一方でこの動向からフィジカルが最善との断言は難しいと感じています。

 

仮に再度デジタルが解禁されるのならば速やかに、そしてミュージックビデオをフルバージョンで解禁することを願います。そして契約上の問題があるならばその経緯を発信し、同様の問題が今後二度と起きないよう業界全体に周知浸透してほしいというのが私見です。

 

 

 

デジタル未解禁を続ける歌手の、その背景にあるものは本人が語らない限りは厳密には解りません。フィジカル購入の促進、所属事務所やレコード会社側の意向、サブスク運営側への不信感等が想像できますが、サブスクユーザーにとってはそれら理由に関係なく、"気になった音楽を聴くことができない"という点において等しくマイナスです。

ましてやコアファンも置き去りにしかねない、また海外の音楽ファンが日本のエンタテインメント業界そのものに不信感を抱きかねないこともマイナスイメージに大きく作用します。日本のエンタテインメント業界側は総出で未解禁歌手や芸能事務所等の説得を試みるべきであり、それは同時にこれまでの不条理をなくす契機となります。今年は大きく業界が動いた年であり、これを機に健全化を図ることを強く願います。

 

最後に。STARTO ENTERTAINMENTにおける姿勢に対する私見を綴ったポストを貼付します。

(上記ポストにおいて、『"独自"に必要はありません』は『"独自"の必要はありません』が正しい表現でした。訂正し、お詫び申し上げます。)

(上記ポストにおいて、『START ENTERTAINMENT』は『STARTO ENTERTAINMENT』が正しい表現でした。訂正し、お詫び申し上げます。)