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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビヨンセも行うチャート上昇施策、KAI-YOUのビルボードジャパン記事への違和感および施策についての私見

日本時間の明後日早朝、米ビルボードソングスチャートが発表されます。前の日に発表されるアルバムチャートで首位初登場が見込まれるビヨンセ『Renaissance』のリード曲、「Break My Soul」がソングスチャートも制するのではという見方が生まれています。

複数の予想担当者による内容は明日までに続々登場しますが、ある予想者は「Break My Soul」がリゾやハリー・スタイルズと接戦になるとの見方を示しています。その予想から考えたのは、後述するビヨンセの施策がチャート上昇目的もあったのではということです。

ビヨンセが「Break My Soul」で行った施策とは、複数バージョンの投入でした。

 

最新8月6日付米ビルボードソングスチャート(トップ10はこちらで解説)では「Break My Soul」が最高位となる6位に到達。7月28日までを集計期間とする最新チャートにおいて、ビヨンセは集計期間初日にインストゥルメンタルおよびアカペラの2バージョンをリリースしました。アルバムリリース直前で音源の買い控えも起こりそうな中、ダウンロード指標が前週比18%アップしたのはこのリリースが影響したものと思われます。

そして日本時間の明後日に発表される8月13日付米ビルボードソングスチャート(集計期間:7月29日~8月4日)では、新たなリミックスも加算対象となります。

現地時間の8月3日にリリースされたのは、「Break My Soul」の4つのリミックス。アルバム『Renaissance』の音楽性をよりはっきり示した内容と言えるでしょう。

注目は、これらリミックスが8月13日付米ビルボードソングスチャートの集計期間半ばにリリースされたことにあります。通常リミックスの投入は集計期間初日となる金曜が大半であり、チャートアクションに最大限活かそうとする動きがみられるのですが、「Break My Soul」リミックス集は集計期間6日目に登場しました。

その投入目的を、チャート予想者のツイートから垣間見ることができるでしょう。8月13日付米ビルボードソングスチャートではビヨンセ「Break My Soul」がリゾ「About Damn Time」やハリー・スタイルズ「As It Was」と大接戦となる模様なのです。米ビルボードではリミックス等異なるバージョンも合算対象となりますが、仮にビヨンセがリミックスを投入しなかったならば首位奪取自体難しかっただろうことが判ります。

このチャート担当者も明日までによりブラッシュアップした予想を発表する模様ですが、他の担当者も頭を悩ませているところでしょう。そして何よりビヨンセ側も、ソングスチャート首位獲得が難しいと察してリミックス集を前倒しでリリースし、アルバムチャート初登場のタイミングでストリーミングも伸びるこの機会にソングスチャートも制すべく動いたのではないかと捉えています。

無論、ビヨンセのリミックス集投入はアルバム『Renaissance』の世界観をリミキサーの人選も含めてさらに強く押し出したという意味もありますが、チャート上昇施策という目的もあったはずです。仮に8月13日付米ビルボードソングスチャートにおいて「Break My Soul」の首位が堅かったならば、次週のチャートでポイントが減少するのを食い止めるべくリミックスの投入を8月5日金曜にずらしたのではないでしょうか。

 

 

さて、昨日はこのような記事が登場し、多くのリアクションが寄せられています。

この記事には評価すべき点や納得できる部分もありますが、チャート上昇施策についてのビルボードジャパン側の考えや表現、またそれらを完全に止められてはいないチャートポリシーの不備について、スレッドの形でツイートしました。下記ツイートから自分の考えを辿っていただきたいのですが、KAI-YOU編集部や記者の方によるチャート分析側への見方にも愕然とさせられたことを今一度はっきり記載させていただきます。

(今朝の段階で、"多方"という誤字は"他方"に訂正されていたことを確認しましたが、『チャートアナリストたちが、チャートに乗せるためのデータ分析を行う』という表現は残されています。)

 

ビヨンセが「Break My Soul」で次回の米ビルボードソングスチャートを制するかは分かりませんが、ビヨンセのリミックス等別バージョン投入はチャート上昇の目的も見受けられます。リミックス投入以外にもiTunes Storeでの安価販売やホームページでのフィジカル販売(米ビルボードでは歌手のホームページにおけるフィジカル/デジタルの売上もカウント対象)は様々な歌手が実施し、これらもチャート上昇施策の一種と言えます。

施策がコアファン側の物理的(金銭や時間)、精神的な疲弊につながってはいけませんし、そもそもそのような過度なものをチャートハックと記事にて表現したのでしょうが、米ビルボードでは絶妙なタイミングで施策を実施した曲が制する傾向にあります。また行き過ぎた施策にはその都度チャートポリシーを変更して反映されにくくしており、歌手側もチャート運営側もチャート上昇施策の存在や効果を分かっているのです。

ビルボードジャパンソングスチャートではリミックス等が基本的に合算されませんが、米ビルボードとは違う形の施策が生まれ、実行されています。行き過ぎたものもありますが施策の多くは歌手側や各指標のデータ提供元によって生まれるわけであり、あたかもコアファンのチャート施策のみに、それも"ハック"と形容した上で言及するビルボードジャパン上層部やKAI-YOU側に強い違和感を覚えるというのが私見です。

 

最新8月6日付米ビルボードソングスチャートで「About Damn Time」が2連覇を達成したリゾのみならず、米ビルボードを制した歌手は喜びのツイートを行う傾向が強いのですが、それは米ビルボードが権威と実績を持ち合わせているからにほかならないでしょう。

ビルボードジャパン側は記事にて『『ヒットチャートとして権威になる』という発想を持たない』と表明していますが、むしろ権威は持つべきです。それが自身に責任を宿らせ、チャートハック等に柔軟に対応していく態度につながるわけで、それがなければ歌手や音楽好きに心から支持されることは難しいのではと考えます。そしてその姿勢が信頼されれば、リゾのようなランクイン歌手の引用ツイート数上昇にも表れるはずです。