イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(訂正・追記あり) 米ビルボード年間チャート発表、2020年のチャートトピックス10項目とは

(※追記(2020年12月6日8時8分):年間ソングスチャートトップ100における総合順位、期間内の最高位ならびに各指標の順位を一覧化した表について色付け等の変更を行いました。またソングスチャート100位未満ながら各指標で50位以内に入っている曲について、一覧表に追加しました。)

(※追記(2021年11月30日14時18分):年間ソングスチャート翻訳記事のリンク先が掲載されておらず、米ビルボードの記事を重複して掲載した状態となっていました。よって記事のリンク先を差し替えました。)

(※追記(2023年4月3日5時19分):はてなブログにてビルボードジャパンのホームページを貼付すると、きちんと表示されない現象が続いています。そのため、表示できなかった記事についてはそのURLを掲載したビルボードジャパンによるツイートを貼付する形に切り替えました。)

 

 

 

今年の音楽業界をチャートから振り返る企画。今回は日本時間の12月4日金曜早朝に発表された米ビルボード年間チャートをみてみます。集計期間は2019年11月23日付~2020年11月14日付となります。

なお、邦楽については昨日紹介しています。

昨年のアメリカの動向についてはこちらをご参照ください。

ビルボードによる記事、およびビルボードジャパンの翻訳記事はこちら。

・ソングスチャート

・アルバムチャート

・アーティストランキング(翻訳記事なし)

 

ソングスチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(ウェイトの大きい順にサブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等を基とするストリーミング、ラジオエアプレイ、およびフィジカルを含むダウンロード)はそれぞれ75位まで紹介されています。年間ソングスチャートトップ100について総合順位、期間内の最高位ならびに各指標の順位を一覧化しました。

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それでは、今年度の10項目を取り上げていきます。

目次

 

 

① ザ・ウィークエンド、ポスト・マローン…ジャンルを超越したヒットの誕生

年間チャートを制したのはザ・ウィークエンド「Blinding Lights」、2位にはポスト・マローン「Circles」が入りました。ザ・ウィークエンドはR&B、ポスト・マローンはヒップホップをメインのジャンルとしながら共にポップ(ジャンル)とクロスオーバーしたサウンドを展開。「Blinding Lights」はシンセウェイブ、ポスト・マローンはポップ・ロック等のジャンルでもあり、「Circles」が収録され今年度の年間アルバムチャートを制した『Hollywood's Bleeding』はグラミー賞ではポップフィールドでノミネートされています。この2曲は、ソングスチャート構成3指標で唯一、全指標トップ10はおろかトップ5に入っており、別格とすら言えるのです。

一方でザ・ウィークエンドは「Blinding Lights」も、アルバム『After Hours』もヒットに至っているのですが、来年開催のグラミー賞からは完全に無視されてしまいました。自分なりに考えたその理由については後述します。

 

 

② ストリーミング・ラジオエアプレイの好調がロングヒットを確立

①で取り上げた2曲は、米ビルボードソングスチャート62年の歴史においてトップ10在籍記録でワンツーを獲得。「Circles」は39週、「Blinding Lights」に至っては現段階で41週となり記録を更新中。特に強かったのはラジオエアプレイ(米ビルボードの記事では”Radio Songs”と表記)であり、こちらにおいても「Blinding Lights」は26週もの首位を獲得。「Circles」も11週同指標を制し、この2曲でラジオエアプレイワンツーフィニッシュを果たしていることから、ラジオエアプレイ指標が如何にロングヒット、さらにポイントの蓄積にとって大事なのかがよく解ります。

3指標のバランスは欠いていますが、ラジオエアプレイが突出したのがマレン・モリス「The Bones」。週間チャートは最高12位にとどまりながら年間では9位に入り、ポーラ・コール「I Don't Want To Wait」が週間11位ながら年間で10位に入った1998年以来となる記録を樹立しました。

 

 

 

③ ダウンロード特化型ヒットの年間チャートの弱さとフィジカル施策の無効化

ダウンロード指標(米ビルボードの記事では”Digital Songs Sales”と表記)に特化した曲が初登場で首位を制する曲が多く見られたのが今年の特徴。62年の歴史上たった46曲しかない初登場での首位獲得曲(直近は最新12月5日付におけるBTS「Life Goes On」で、2021年度では初めて)のうち、実に10曲が今年度に誕生しています。これはテイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」(2019 年間43位)に端を発したフィジカル施策(歌手のホームページでレコード等を販売し発送ではなく購入段階でダウンロード指標に加算、さらには到着までの間に別途用意されたデジタルダウンロードも加算という仕組みを活用した方法)が多くの曲で徹底されたゆえであり、所有指標であるダウンロードが10万を超えたことで初登場首位に立つ曲が多くなっています。

しかし翌週にダウンロードが急落、ストリーミングもダウンする一方でラジオエアプレイはそこまで伸びないため、所有指標のダウンを接触指標群が補填できずに総合順位を落とす曲が続出。10曲の初登場曲のうち、シックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」(6月27日付1位)、テイラー・スウィフト「Cardigan」(8月8日付1位)およびトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」(10月10日付1位)は年間チャート100位以内にも入っていません(なお、アリアナ・グランデ「Positions」も首位獲得曲ですが、集計期間終盤の登場につき年間100位以内の登場が厳しかったと思われます)。

この首位という称号の形骸化を憂慮したであろう米ビルボードは今年秋に、発送段階でのカウント変更および別途用意されるダウンロードのカウント無効化を行い、フィジカル施策を実質無効にしています。

一方で、ドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」(客演有の名義にて首位を獲得)、メーガン・ザ・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」(同じく客演有の名義にて首位を獲得)、ハリー・スタイルズ「Watermelon Sugar」等は、既に上位進出中のタイミングにて追加策としてフィジカル施策を投入し首位に至っています。これらの曲はいずれも11~20位以内に入っており、施策はタイミングが重要であると実感します。

このタイミングについて解説すると、デジタル2指標であるストリーミングおよびダウンロード(アナログであるフィジカルも含む)がリリース初週に伸びその後ダウンするのに対し、ラジオエアプレイはどんなに強くとも1ヶ月でトップ10入りする曲は稀であるため、ダウン幅がとりわけ大きいダウンロードの急落分をストリーミングの安定とラジオエアプレイの上昇でどこまでカバーできるかが、登場2週目以降のロングヒットの鍵となるのです。

 

 

K-Popは週間首位獲得も、定番化するかはこれから

アジアの歌手による作品では坂本九上を向いて歩こう (英題:Sukiyaki)」以来となる首位を獲得したBTS「Dynamite」。自身4曲目のトップ10入りにして初の首位に至りました。この首位獲得の要因は、コアなファンの多さや熱量の高さによる所有指標の強さであり、相次ぐリミックスの投入で連覇も達成しています(最新12月5日付ではアルバム『Be』の首位初登場に伴いトップ3に返り咲き)。その反面、ラジオエアプレイがそこまで強くなれず結果的に「Dynamite」のトップ10在籍は2ヶ月にとどまりましたが、しかし11月28日付ソングスチャートではラジオエアプレイ指標が11位まで上昇し、PSY「Gangnam Style」の記録を更新。BTS自身「Dynamite」が初のラジオエアプレイ50位以内登場となりましたが、全編英語詞の楽曲でアメリカのラジオ局にも受けれられていることが解ります。

一方で、その後にリリースされた「Life Goes On」がラジオエアプレイで100万にすら届かなかったことで、BTSの人気が定着したとは必ずしも断言できないものと考えます。年間ソングスチャートではBTS以外のK-Popアクトの曲(BLACKPINK等)が構成3指標共々登場していないこと、そしてBTS「Dynamite」がラジオエアプレイはおろかストリーミングでも年間75位までに入っておらず、総合でも年間38位にとどまったことは気掛かりです。米ビルボードのストリーミング指標にはYouTube再生回数も含まれますが、BTSの動画は解禁後世界最速レベルで再生回数を伸ばすものの米ではそこまでではないということが見えてきます。このことは後述するグローバルチャートの動向からも判ることで、日本も含めた世界各国とアメリカとでは、定着済かそれともまだまだこれからなのかという差があるように考えます。これは最新12月5日付米ビルボードソングスチャートの解説の際に述べた通りです。

「Life Goes On」はフィジカル施策が実質無効化となって以降の首位獲得であり、コアなファンを中心に所有指標を押し上げればBTSは今後初登場で首位獲得することが半ば当たり前になるかもしれません。所有指標に長けたK-Popアクト、そしてBTSはファンともども、首位獲得のその先を見据えて動くべきでしょう。

 

 

⑤ ディスコティークの定番化

先の「Dynamite」、そしてBLACKPINKとは「Kiss And Make Up」で共演したデュア・リパのアルバム『Future Nostalgia』のコンセプト(上記は同作からの先行曲で年間4位を獲得した「Don't Start Now」)に代表されるように、数々のディスコティークなサウンドがヒットしたのが2020年の特徴。ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」がa-haを思わせる点も面白いですね。

 

 

⑥ リミックス投入策の徹底

リミックスには様々な種類がありますが、今最も重宝されているのが客演追加型。

首位獲得に至ったタイミングで投入されたのがこれらリミックス。最近では24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」(年間47位)にジャスティン・ビーバー & J.バルヴィンが参加するなど、ジャンル違いの歌手をを超えたリミックスも存在します。人気の歌手を客演に呼ぶ(もしくは追加する)リミックスは、主演となる若手をベテランがフックアップする、また呼ばれた歌手がアイドル的人気を誇るならば所有指標を刺激する効果をもたらします。

 

 

TikTok発のヒット曲の連発と、アプリ追放の危機

TikTokを起源とするヒットはこれまでにも発生していましたが、今年も続々。アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」(年間16位)がその代表例であり、インディペンデントで活動していても楽曲がフックアップされればメジャーレーベルとの契約を獲得するに至れるのです。アリゾナ・ザーヴァスはTikTok発のヒットにおける最大の成功例と言えるであろう「Old Town Road」を生んだリル・ナズ・Xとレーベルメイトに。ストリーミングが強いのはTikTok発のヒット曲の特徴ですが、「Roxanne」はラジオエアプレイおよびダウンロードでもきっちり50位以内に入っています。

このTikTok発のヒットでは今年、面白い動きがいくつかありました。

その最たる例が、TikTokインフルエンサーに一般公開前に曲を渡して新曲を先取り公開させたことで注目を集めたドレイク「Toosie Slide」(年間32位)。米ビルボードソングスチャートではフィジカル施策を用いず、初登場で首位を獲得。ミュージックビデオでの分かりやすいダンスも真似したい欲を高め、曲の聴取につなげる効果をもたらしています。

TikTokで既に人気となっていたジョーシュ・シックスエイトファイヴ「Laxed (Siren Beat)」を、TikTokに積極的だったジェイソン・デルーロが当初勝手に拝借しカバーした曲が公式認定され、「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」として両者の名義でリリースされたことでトップ10ヒットに(年間35位)。後にBTSをフィーチャーしたリミックスを用意したことで所有指標を刺激し首位に躍り出るのですが(ただしその翌週には首位から陥落しBTSの名が外れており、リミックスは短期的な効果にとどまっています)、ロングヒットはまさしくTikTok人気のさらなる活用による賜物と言えます。

そして、リリースから43年の時を経てヒットしたフリートウッド・マック「Dreams」は、TikTokインフルエンサーの動画をフリートウッド・マックのメンバー自らが再現したことで人気に火が付いた形。これもまた仕掛けの一種と言え、歌手によるTikTokの活用法は拡がりをみせています。

TikTokで如何に人気を広めるかについては、未だに多くの歌手が試行錯誤の中にいると思われますが、これら仕掛けは今後のヒットの生む参考になるのではないでしょうか。

そのTikTokドナルド・トランプ氏によって一時国外追放される可能性があったことは音楽業界にとっての危機だったと考えます。たとえ政権が交代しても、氏のような者の存在により今後も同様の危機が訪れる可能性はゼロではない気がします。国同士のいがみ合いで文化を平然と奪うという姿勢はとても感心できません。

 

 

⑧ カントリーのストリーミング施策強化

大きな動きではないかもしれませんが、カントリーとストリーミングの結びつきは注目すべき出来事です。

モーガン・ウォレン「7 Summers」は都市の看板設置やサブスクサービスでのプッシュが功を奏し、8月29日付で6位に初登場。翌週は急落し、同曲は年間100位以内には入っていませんが、ストリーミング指標では一定の成功を収めています。

11月7日付ではルーク・コムズ「Forever After All」が2位に初登場。アルバムのデラックス・エディションにおける追加収録曲のひとつでありそのデラックス・エディション初登場のタイミングで登場したこの曲もストリーミングが強く、しかも夏にTikTokで一部を"チラ見せ"していることも功を奏した形です。

これらの曲は、保守的な動きが強い、ラジオエアプレイやダウンロードに長けたカントリーにあっては例外の動きと言えます。しかしマレン・モリス「The Bones」(年間9位)はストリーミング61位、ダン+シェイ feat. ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」(年間23位)はストリーミング52位と、ストリーミングは強くないとしても一定の成果を収めているのです。サブスクサービスが徐々にカントリーとの結びつきを強め、上手く押し出していけばジャンル全体のさらなる興隆も十分あり得ると思うのです。

 

 

 

⑨ アルバムにおけるデラックス・エディション投入のスピードアップ

ソングスチャートではリミックスや新たな動画の投入等がチャート上昇策として今年も用いられていますが、アルバムも同様。フィジカルの販売に加え、オリジナルアルバムに曲を複数追加して再リリースするというデラックス・エディション商法が多くの作品で使われるようになりました。さらにそのデラックス・エディション化のスピードが著しく速くなったことは、特筆すべき事象と言えます。

とりわけ速かったのがリル・ウージー・ヴァート『Eternal Atake』(年間5位)とザ・ウィークエンド『After Hours』(同8位)。前者はリリースの1週間後に以前リリース予定だったミックステープを丸々1枚分追加、後者は2週間で複数のデラックス・エディションを用意しています。

このデラックス・エディションはサブスク時代にあっては喜ばれるものかもしれませんが、ダウンロードやフィジカルで手にしている方もいるはずです。それら所有を選択した方にとって、デラックス・エディション商法はどう映るでしょうか。尤も、コアなファンならば全部手に入れるはずだという考えを持つ方がいらっしゃっるでしょうが、その負担は金銭という物理面だけでは済まない気がします。

来年開催のグラミー賞ではザ・ウィークエンド、そしてリル・ウージー・ヴァート共にノミネーションから漏れていますが、もしかしたら極端なデラックス・エディション商法の実施への疑問が根底にあったかもしれません(個人的にはそれでも、せめて「Blinding Lights」はノミネートされても好いとは思うのですが)。そしてこのデラックス・エディション商法は、"オリジナルアルバムとは何か、軽視していないか?"という考えを抱かせるに十分だと考えます。

 

 

⑩ グローバルチャートの誕生

ビルボードが今年9月にグローバルチャートを用意し、世界中でヒットしている曲が可視化されました。2020年度は年間でのグローバルチャートが登場しませんでしたが、来年度以降は世界中でヒットした曲が年間チャートでも可視化されることになるはずです。グローバルチャートについては新設のタイミングでブログにて紹介しています。

先のBTSについては、米チャートとグローバルチャートを踏まえれば米ではこれからが勝負という状況が見えてきます。グローバルチャートではBTSをはじめとするK-Popやラテンジャンルが強いことが見えてきており、今後これらジャンルがどんどんアメリカに進出してくる、もしくは受け入れられやすい環境が醸成されてくるかもしれません。果たして日本の音楽は入り込む余地があるでしょうか。

 

 

以上10項目、如何だったでしょうか。2021年度も素晴らしい作品に出会えることを願っています。