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デュア・リパ「Levitating」米ビルボード70週エントリー達成…最近のロングヒット曲を支えるヒットの3条件とは

日本時間の昨日発表された3月19日付米ビルボードソングスチャートではグラス・アニマルズ「Heat Waves」が2連覇を達成。さらに同曲は通算60週目のチャートインを果たしたほか、16位にランクインしたデュア・リパ「Levitating」は70週目に突入したことを昨日のブログエントリーにて紹介しました。

(デュア・リパ「Levitating」はリリックビデオ。)

デュア・リパ「Levitating」の記録についてはビルボードジャパンで翻訳記事が登場しており、そちらでも通算60週以上のエントリーを果たした20曲が掲載されています。

この20曲のうち2020年以降にピークを迎えた曲では、グラス・アニマルズ「Heat Waves」(60週)、デュア・リパ「Levitating」(70週)をはじめ、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」(歴代最長となる90週)、ザ・ウィークエンド & アリアナ・グランデ「Save Your Tears」(62週)、ギャビー・バレット feat. チャーリー・プース「I Hope」(62週)が該当。「Save Your Tears」は最新週でも17位にランクインしています。

これらの作品はなぜロングヒットに至ったのでしょう。

 

ビルボードソングスチャートはストリーミング、ダウンロードおよびラジオの3指標で構成されます。ストリーミングはサブスクや公式動画の再生回数、ダウンロードはフィジカルや歌手のホームページにおける販売分を含み、ラジオはOA回数に聴取可能人口等が加味される形で、それぞれ算出されます。

3指標のうちダウンロードのみが所有指標となり、基本的にリピート購入がみられない分この指標は下がりやすい傾向にあります。またデジタル2指標は初動が大きい一方で漸減する傾向の一方、ラジオは初動は低いもののゆっくり上昇し、2指標よりも遅くピークが来るのが通常です。ゆえにこの3指標がうまく合致することでロングヒットに至れると言えます。

また米ビルボードソングスチャートには新陳代謝を目的としたリカレントルールが存在します。これは20週以上在籍した曲が50位を、52週以上の曲が25位を下回ればチャートから除外されるというものであり、クリスマスソングの大量エントリーによって押し出された場合を除きます(クリスマスソング自体についても該当しません)。

これら指標構成、およびリカレントルールの適用下でロングヒットを続ける曲にはいくつかの特徴があります。

 

 

TikTokのバズが大きく貢献

グラス・アニマルズ「Heat Waves」の貢献にはTikTokのバズも大きいことについては、米ビルボードソングスチャートでトップ10入りする前、グローバルチャートのうちGlobal Excl. U.S.でトップ入りした段階で紹介しています。

またデュア・リパ「Levitating」についても、昨年5月1日付で5位に浮上し当時の最高位タイに並んだ際、米ビルボードTikTokのバズが影響していると紹介しています。なお当時は後述するダベイビー客演版が(複数バージョン内で)オリジナルバージョンを上回るポイントを獲得しているため、クレジットは客演ありのものとなっています。

TikTokのヒットは主に動画再生やサブスク再生回数の上昇に寄与します。米ビルボードではビルボードジャパンと異なり動画再生もストリーミング指標の構成要素であり、ストリーミング指標に大きな影響を与えていることは間違いありません。

 

 

② リミックスの追加とオリジナルバージョンを上回る人気

デュア・リパ「Levitating」は米音楽賞のノミネート、先述したTikTokのバズに加えてダベイビーをフィーチャーしたバージョンの投入もヒットの鍵となりました。なおそのダベイビーは昨年の音楽フェスでのパフォーマンス時にLGBTQへの差別発言を行ったことで、ラジオ中心にOA回避が発生。このこともありデュア・リパは日本のアニメを踏襲した単独版ミュージックビデオを新たに用意。これもロングヒットの要素と言えます。

共演や客演の追加はリミックスの一種であり、ザ・ウィークエンドについては「Save Your Tears」で以前も共演したアリアナ・グランデを迎えたバージョンを追加投入。それにより同曲は昨年5月8日付で初の首位を獲得しました。

また、カントリー歌手のギャビー・バレットによる「I Hope」ではチャーリー・プースをフィーチャーしたバージョンを追加投入。カントリー音楽賞での両者によるパフォーマンスが拍車をかけ、昨年11月21日付で最高となる3位を記録しています。最終的にはテレビでのパフォーマンスが影響していますが、それに至る道筋は客演追加版の投入があってのことです。

これらの曲はいずれも、オリジナルバージョンよりリミックスが人気となったことで共演もしくは客演あり名義となっています。

また、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は2週首位を獲得後、一度はドレイク「Toosie Slide」に首位を奪われながらも中一週で返り咲きに成功。その理由はメジャー・レイザーによるリミックスを投入したことにあります。

このようなリミックス戦略はオリジナルバージョンに違った色を施し、共演もしくは客演者やリミキサーのファンを巻き込んでロングヒットにつなげていることが解ります。なおこのようなリミックス投入は、ロングヒットに至らないとしても首位獲得時の施策には極めて有効です。

 

 

③ 最高位到達のタイミングで既にラジオが好調

先述の通り、ラジオ指標はゆっくり上昇するタイプのものです。60週以上在籍曲が最高位に到達した際の指標構成をみれば、ラジオの重要性がよく解ります。

<最高位獲得時の順位>

 (最高位を獲得した日付はビルボードジャパンの記事を参照→こちら)

 

・ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」(2020年4月4日付 1位 解説はこちら)

  ストリーミング1位 / ダウンロード3位 / ラジオ2位

・デュア・リパ「Levitating」(2021年5月22日付 2位 解説はこちら)

  ストリーミング5位 / ダウンロード1位 / ラジオ4位

・ザ・ウィークエンド & アリアナ・グランデ「Save Your Tears」

  (2021年5月8日付 1位 解説はこちら)

  ストリーミング2位 / ダウンロード1位 / ラジオ2位

・ギャビー・バレット feat. チャーリー・プース「I Hope」

  (2020年11月21日付 3位 解説はこちら)

  ストリーミング30位 / ダウンロード6位 / ラジオ2位

・グラス・アニマルズ「Heat Waves」(2022年3月12日付 1位 解説はこちら)

  ストリーミング5位 / ダウンロード25位 / ラジオ2位

ギャビー・バレット feat. チャーリー・プース「I Hope」においてはデジタル指標群が強くありませんが、カントリーはジャンルを通してストリーミングが強くないのが特徴。しかしながらテレビでのパフォーマンスが行われたことで総合3位に到達したこの曲は、ピーク時のソングスチャートにおいてラジオ以外の指標が上昇しています。

そして通算60週以上エントリーした5曲の中で最も安定しているのがラジオ。たとえばグラス・アニマルズ「Heat Waves」はTikTokでのバズ発生前、昨年春の段階で既にオルタナティブエアプレイを制しており、大ヒットに至る最初のきっかけはラジオだったと言えるのです。

ラジオが強い理由として、「I Hope」を除く4曲がオリジナルアルバムから2曲目以降のシングル化だったことも挙げられます。尤もザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は「Heartless」の2日後のリリースであるため、『After Hours』から2曲がリード曲という位置付けだったかもしれません。

またグラス・アニマルズは「Heat Waves」がアルバム『Dreamland』から4曲目のシングルとなり、デュア・リパ「Levitating」に至っては『Future Nostalgia』から5曲目となります。デュア・リパは同作から初のシングルとなった「Don't Start Now」が米ビルボードソングスチャートで週間2位、2020年度年間4位を獲得しています。

ロングヒット曲のシングル化はアルバムリリース前後とバラバラですが、アルバムが初登場するタイミングで収録曲がソングスチャートでも初登場もしくは上昇します。これは主にストリーミングの強さに因るものですが、以降仮にデジタルがダウンしても曲の評判を受けてラジオが上昇し、ストリーミングも安定することでシングル化(シングルカット)のタイミングで既にラジオが軌道に乗っていることが考えられます。歌手側もチャート動向を見て、アルバムからの次のシングルを決めているかもしれません。

 

 

TikTokのバズ、リミックスの投入そしてラジオの好調…今回紹介したうちギャビー・バレット feat. チャーリー・プース「I Hope」を除く4曲は複数の要因によってロングヒットに至っています。「I Hope」についてはカントリー曲特有のロングヒット傾向も味方した可能性があります。

ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」の最長エントリー記録も素晴らしいですが、デュア・リパ「Levitating」は週間チャートで首位を逃したものの2021年度の米ビルボード年間ソングスチャートを制しました。「Levitating」大ヒットの背景には、3つの要因すべてを手に入れたことが影響していると言えるはずです。