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【海外ビルボード】グラス・アニマルズ「Heat Waves」が米で初の首位達成、グローバル共々TikTokがヒットに貢献

現地時間の3月7日月曜に発表された最新3月12日付米ビルボードソングスチャート(Hot 100)。グラス・アニマルズ「Heat Waves」が映画『Encanto (邦題:ミラベルと魔法だらけの家』サウンドトラック発となる「We Don't Talk About Bruno (邦題:秘密のブルーノ)」を破り、初の首位に輝きました。

グラス・アニマルズ「Heat Waves」はストリーミングが前週比1%アップの1480万(同指標5位)、ダウンロードが同4%ダウンの2900(同指標25位)、ラジオが同3%ダウンの6670万(同指標2位)となり、米ビルボードソングスチャート63年の歴史において1134曲目の首位を獲得しました。

「Heat Waves」はグラス・アニマルズにとって初の100位以内エントリー曲であり、登場59週目で首位を獲得。首位獲得までの最長記録はこれまでマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」の35週が保持していましたが、「Heat Waves」は大きく上回りました。

上記のほか、ヴァーティカル・ホライズン「Everything You Want」は26週目で、UB40「Red Red Wine」は25週目で首位に到達。「Heat Waves」は2021年1月16日付で初登場を果たし、2週退いた後同年2月6日付で再登場。そこからエントリーし続けていました。米ビルボードソングスチャートにはこれまでおよそ3万曲がエントリーを果たしていますが、グラス・アニマルズ「Heat Waves」は首位獲得か否かに関係なく、59週以上ソングスチャートにエントリーした23曲目の作品に。その「Heat Waves」は昨年11月13日付でトップ10入り、今年1月15日付でトップ5に到達。前者の42週目、後者の51週目到達は共に最長記録となっています。

 

「Heat Waves」のヒットの要因はラジオでのクロスオーバーヒット。2021年3月から3週オルタナティヴエアプレイチャートを制し、今年1月にはポップエアプレイで、2月にはアダルトポップエアプレイで共に2週首位を獲得しています。リリース自体は2020年6月だったこの曲はTikTokでも話題に。歌詞の”all I think about is you”の部分を用いた動画が昨年の晩夏にバズを起こし、さらにグラス・アニマルズ自身も同年9月初めに動画を投入しています。

 

グラス・アニマルズ「Heat Waves」はメンバーのデイヴ・ベイリーがソングライトおよびプロデュースを手掛けた曲。ソングスチャートで同一ソングライターとプロデューサーが共に単独で手掛けた作品の首位到達はファレル・ウィリアムス「Happy」(2014年3月8日付以降10週 ファレル自身によるソングライトおよびプロデュース)以来となり、その前はアッシャー「OMG」(2010年5-6月 4週)におけるウィル・アイ・アムまでさかのぼります。

グループにおいてメンバーのひとりがソングライトおよびプロデュースを手掛け、同種の記録を達成したのはボストン「Amanda」(1986年11月 2週)まで遡ります。同曲はメンバーのトム・ショルツが手掛けています。

 

さて、グラス・アニマルズ「Heat Waves」は先述したように2021年1月16日付でソングスチャートに初登場を果たしましたが、その際の順位は100位でした。100位初登場で首位到達という記録は、今回が11曲目となります。

今週の米ビルボードアルバムチャートでは『Encanto (邦題:ミラベルと魔法だらけの家)』サウンドトラックが通算8週目の首位を獲得していますが、同作品は197位という低位置で初登場。今回はソングス/アルバム両チャートともに低位置で初登場した作品が首位を獲るという極めて珍しいケースとなりました。ソングスチャートでは初登場で首位を獲得したのが58曲ありますが、そのうち23曲が2020年4月以降に記録したものであり、またアルバムチャートにおいても2021年に23作品、2020年に29作品、その前2年とも37作品が初登場で首位に至っています。

 

先述の通り、グラス・アニマルズ「Heat Waves」はオルタナティヴエアプレイチャートを制していますが、同チャートを制した曲が総合ソングスチャートも制したのはビリー・アイリッシュ「Bad Guy」以来(オルタナティヴエアプレイチャートは2019年8月10日付および翌週、総合ソングスチャートは同年8月24日付で首位を獲得)。その前はロード「Royals」(2013年)まで遡り、またグループではファン feat. ジャネル・モネイ「We Are Young」(2012年)以来となります。なお「We Are Young」は先に総合ソングスチャートを制しており、「Heat Waves」はニッケルバック「How You Remind Me」(2001年)以来オルタナティヴエアプレイ→総合ソングスチャートの順で制した曲となりました。

オルタナティヴエアプレイチャートの登場は1988年9月であり、同チャートおよび総合ソングスチャートの双方を制したのは「Heat Waves」がちょうど10曲目に。オルタナティヴエアプレイチャートはこれまで413曲が首位に至っていますが、総合ソングスチャートでも首位に達した曲となると狭き門となるのです。

なお、グラス・アニマルズ「Heat Waves」は最新のホットロック&オルタナティヴソングスチャートおよびホットオルタナティヴソングスチャートも制覇。総合ソングスチャートと同じ集計方法に基づく両チャートで、共に24週目の首位に輝きました。

 

グラス・アニマルズはイギリス出身。昨年10月以降ソングスチャートを制したイギリスの歌手による曲はコールドプレイが韓国のBTSとコラボレートした「My Universe」(1週)、アデル「Easy On Me」(10週)以来となります。

歌手名に"Glass"がつく歌手による首位獲得は、ルッキング・グラス「Brandy (You're A Fine Girl)」が1972年8月26日付で制して以来およそ50年ぶり。曲名に"Glass"が付く作品では3曲が首位を獲得しています(ジョン・フレッド & ザ・プレイボーイズ「Judy In Disguise (With Glasses)」(1968年)、ブロンディ「Heart Of Glass」(1979年)およびピンク「Raise Your Glass」(2010年))。

関連して、グラスと名付けられた動物を歌手名とした方による作品では、グラス・タイガー「Don't Forget Me (When I'm Gone)」が1986年に2位を記録。さらにマーサ & ザ・ヴァンデラス「Heat Wave」が1963年に4位を記録し、同曲のリンダ・ロンシュタットによるカバー版が1975年に5位に。またR&Bグループのヒートウェイヴは1977年から翌年にかけて、「Boogie Nights」(2位)、「Always And Forever」(18位)、「The Groove Line」(7位)を輩出しています。なお、"Heat"が付く曲での首位獲得は今回が初となります。

 

前週まで5週連続で首位を獲得していたカロリーナ・ガイタン、マウロ・カスティージョ、アダッサ、レンジー・フェリズ、ダイアン・ゲレロ、ステファニー・ベアトリス & エンカント・キャスト「We Don't Talk About Bruno (邦題:秘密のブルーノ)」はストリーミングが前週比12%ダウンの2630万(同指標9週目の首位)、ダウンロードが同8%ダウンの6100(同指標4位)、ラジオが同12%アップの890万(同指標50位未満)となっています。

「We Don't Talk About Bruno」はリン=マニュエル・ミランダによる提供曲であり、ワンツーが逆転しながら今週も上位2強が単独ソングライターによる作品に。単独ソングライターによる作品が首位交代を果たしたのは2000年7月におけるヴァーティカル・ホライズン「Everything You Want」(マット・スキャンネル)→マッチボックス・トゥエンティ「Bent」(ロブ・トーマス)以来となります。

ゲイル「Abcdefu」は3位をキープ。ストリーミングは前週比4%ダウンの1280万(同指標8位)、ダウンロードは同27%アップの10500(同指標3週目の首位)、ラジオは同6%アップの6130万(同指標5位)を記録しました。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (2位) グラス・アニマルズ「Heat Waves

2位 (1位) カロリーナ・ガイタン、マウロ・カスティージョ、アダッサ、レンジー・フェリズ、ダイアン・ゲレロ、ステファニー・ベアトリス & エンカント・キャスト「We Don't Talk About Bruno」

3位 (3位) ゲイル「Abcdefu」

4位 (5位) コダック・ブラック「Super Gremlin」

5位 (6位) ザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」

6位 (4位) アデル「Easy On Me」

7位 (7位) ジャスティン・ビーバー「Ghost」

8位 (8位) エド・シーラン「Shivers」

9位 (9位) エド・シーラン「Bad Habits」

10位 (10位) エルトン・ジョン & デュア・リパ「Cold Heart (Pnau Remix)」

コダック・ブラック「Super Gremlin」は最高位となる4位に。最新の米ビルボードアルバムチャートでは『Back For Everything』が2位に初登場しています。またアデル「Easy On Me」(総合6位)はラジオ指標が前週比8%ダウンしながらも6780万を獲得し15週連続の首位を達成。1990年12月以降、同指標で15週以上首位を獲得したは「Easy On Me」が6曲目となります。なお最長記録は2020年4月から26週に渡り、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」が獲得しています。

またデュア・リパとの「Cold Heart (Pnau Remix)」が10位をキープしたことで、エルトン・ジョンは1971年1月23日付においてキャリア初のトップ10となった「Your Song」以来、最新のトップ10入りまでのスパンを51年1ヶ月と2週に伸ばしています。

 

 

ビルボードが一昨年新設したグローバルチャートもチェック。200を超える地域の主要デジタルプラットフォームによるストリーミングとデジタルダウンロードで構成され、歌手のホームページでの販売分を含まないグローバルチャート。3月12日付ではグラス・アニマルズ「Heat Waves」がGlobal 200で2連覇、ゲイル「Abcdefu」がGlobal Excl. U.S.で9連覇をそれぞれ達成しました。

Global 200ではグラス・アニマルズ「Heat Waves」が2連覇を達成しました。ストリーミングは前週とほぼ変わらず5480万、ダウンロードは前週比5%ダウンの4800を記録。このチャートでは前週、「Heat Waves」が初登場から60週目にして首位に到達しています。なおGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.では2位をキープしました。

そのGlobal Excl. U.S.ではゲイル「Abcdefu」が9連覇を達成。ストリーミングは前週比4%ダウンの3480万、ダウンロードは同5%ダウンの5000を記録しています。2020年秋に発足したふたつのグローバルチャートのうち、Global Excl. U.S.における9週首位達成はザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」およびオリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」と並ぶ最長記録となりました。

 

 

最後に私見を。今回米ビルボード初制覇&Global 200で2連覇を達成したグラス・アニマルズ「Heat Waves」のみならず、Global Excl. U.S.で9連覇を記録したゲイル「Abcdefu」もまた、TikTokがヒットの大きなきっかけとなりました。

調べた限り、グラス・アニマルズ「Heat Waves」のバズがTikTokにも起因しているとする日本版記事は見当たりません。ともすれば「Heat Waves」の大ヒットにTikTokは大きく貢献していないのかもしれませんが、アメリカそして世界の音楽チャートにおいてTikTokの存在意義が実に大きいと感じずにはいられないチャートアクションとなりました。