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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードコラム】J-Popがグローバルチャートにその名を轟かせるために必要なこととは

月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いています。これまではビルボードジャパンソングスチャートにおける各指標の解説、米ビルボードに対するチャートポリシー変更希望、ビルボードジャパンの知名度向上案について記しました。ビルボードコラムについては下記リンク先からご確認ください。

 

今回は、J-Popを世界へ轟かせる方法について考えます。

 

 

昨年秋に米ビルボードがふたつのグローバルチャートを新設。発足から1年が経過したタイミングで、米ビルボードが総括記事を掲載しています。

ビルボードジャパンからも翻訳記事が登場しましたが、米ビルボードではもうひとつの記事も公開しており、こちらではふたつのチャートでの首位獲得曲が基軸となっています。

Global 200では5曲、Global Excl. U.S.では4曲もの首位を獲得しているのがBTS。またBLACKPINKのロゼは「On The Ground」でこの春双方のチャートを制しました。韓国メディアでもその点について触れています。

一方、J-Popはふたつのグローバルチャートを未だ制したことがありません。

ビルボードジャパンのチャートディレクションを務める礒崎誠二さんは記事を受けて上記のツイートを発信しています。Global Excl. U.S.はGlobal 200から米の分を除いたものであり、K-Popが米でより強いこと/J-Popが米ではより弱いことが見て取れます。

 

米を除く海外ではJ-Pop人気はK-Popに引けを取らないとデータで示されているものの、大ヒット曲をベースに考えれば海外ではJ-PopとK-Popの認知度に大差が発生しているのではと想像します。Global Excl. U.S.ではJ-Popのランクインが目立つ一方でK-Popは世界進出する一部歌手以外のランクインをそこまで見かけない印象があるのですが、長期間上位にエントリーを果たしているのはやはりK-Popが多いのが現状です。

 

 

では、J-Popがグローバルチャートにその名を轟かせるためには何が必要でしょう。

今回は、音楽制作上の工夫については基本的に触れません。以前J-Popが人気だったという記事を拝見したことがあり、海外の流行とは一線を画すJ-Pop独自のサウンドが全くもって受け入れられないわけではないと考えるためです。J-Popの各歌手の音楽や世界観はそのままに、世界に通じていくための手段を提案します。

 

なお、下記リンク先から【Global Music and Chart Report: A Year in Review】と題した報告書を、登録の上で無料ダウンロードすることが可能です。

またこのブログでは、J-Popの世界における認知度上昇について、グローバルチャート発足直後に記載しています。今回の提案内容はその当時の内容と一致、もしくは踏襲するものが多いと言え、あらためて当時の提案内容を紹介します。

 

 

J-Popがグローバルチャートにその名を轟かせるために必要なこと

 

 

① グローバルチャートの存在および内容をまずは日本国内で浸透させる

グローバルチャートについて、日本できちんと毎週報道する媒体が見当たりません。自惚れではと揶揄されるのを覚悟で書くならば、弊ブログで米ビルボードソングスチャート速報時に合わせて紹介するくらいにとどまっているのではないでしょうか。ビルボードジャパンでも報じていない状況は、実は激しく機会損失だと思うのです。

 

グローバルチャートの認知度を向上させることが大切です。そのチャートの存在は勿論のこと、中身(とりわけチャート上昇の仕組み)を知ってもらうことが重要だと考えます。概要については下記ブログエントリーにまとめていますので是非ご参照ください。

最新のグローバルチャートは基本的に日本時間の火曜早朝にトップ10速報が、同日夕方に全容が公開されます(現地の月曜が祝日の場合、1日遅れることになります)。火曜夕方に詳細が判明次第、ふたつのグローバルチャートのトップ10ならびにJ-Popのランクイン曲を紹介する記事をビルボードジャパン等が発信することが必要です。

(求められるならば、ブログの枠を超えて自分が他媒体で認知浸透に貢献したいと考えています。グローバルチャートの存在が圧倒的に認知されていないことは大きな損失だと考えるためです。その理由は②で説明します。)

 

 

② 定額制音楽配信サービスを日本でより深く浸透させる

①でその浸透先を"まずは日本国内で"としたのは、日本国内の獲得ポイントだけでも上位進出が可能なため。ダウンロードとストリーミングで構成されるグローバルチャートにおいて、世界全体ではダウンロードが落ちている印象があり、ゆえに日本のダウンロード数が際立ち国内の売上だけで上位への初登場が狙える状況にあります。一方でストリーミングは極めて弱く、順位をキープできないのがJ-Popの現状です。

冒頭で紹介した報告書にはふたつのグローバルチャート共に開設時から52週連続で200位以内にランクインした24曲が掲載されており、唯一のJ-PopがYOASOBI「夜に駆ける」。ストリーミング指標を武器に昨年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートを制した同曲はグローバルチャートでも存在感を示していることから、日本の獲得ポイントだけでもランクインが可能な状況、そしてストリーミングの重要性が解ります。

そのストリーミング(指標を形成する定額制音楽配信サービス再生回数)は減少傾向にあるのでは、と昨日指摘したばかりです。音楽業界、各デジタルプラットフォームはこの点を危機と考え、ストリーミングの認知浸透をどう図っていくかを議論してほしいと切に願います。

 

無論海外でのJ-Pop認知浸透も必要ですが、まずは日本での足固めが重要と考えます。その上でビルボードジャパンソングスチャートを、その発表から間隔を空けることなく米ビルボード等世界のメディアで発表することが大切です。『CDTVライブ!ライブ!』のようなチャート動画があるとなお好いでしょう。なお下記は最新9月29日公開(10月4日付)ビルボードジャパンソングスチャートの米ビルボード掲載記事となります。

 

 

③ コラボレーション環境醸成のためにも、ビルボードジャパンソングスチャートが様々なバージョンを合算対象とする

ビルボードジャパンソングスチャートでは言語の違いは合算対象ですが、客演や共演者の追加や尺の変更、アコースティックバージョン等の追加はオリジナルバージョンと別扱いとなります。一方で動画再生指標においてはTHE FIRST TAKE等に代表される別バージョンの動画が合算されており、この矛盾を解く意味でもビルボードジャパンは各バージョンを合算すべきではないか、とこのブログでは幾度となく提案しています。

合算の目的は、コラボレーションしやすい環境を作ることでもあります。客演追加というリミックス方法は米ビルボードソングスチャートにおけるチャート上昇の常套手段であり、グローバルでも通用可能です。冒頭の記事でも触れられていますが、ジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」はBTS参加のタイミングで、米ビルボードおよびGlobal 200を制しています。

BTSはグローバルチャート誕生前から、自身の曲にホールジーやニッキー・ミナージュを招聘しており、BLACKPINKもレディー・ガガやセレーナ・ゴメスと組んでいます。知名度向上にはタッグを組むことが欠かせず、そしてチャートでも結果が出るようになっているのです。

ビルボードジャパンソングスチャートでは合算が基本的に非対象ながらグローバルチャートや米ビルボードソングスチャートでは対象となっているため、わざわざビルボードジャパンのチャートポリシーを変更する必要がないと言われればそれまでです。しかしながら現状の非合算という状況では、他の歌手を招聘することやリミックスという文化は醸成し難いと言えるでしょう。

 

 

④ 新曲リリース日およびビルボードジャパンソングスチャートの集計開始日を金曜にする

日本のソングスチャートはビルボードジャパンにせよオリコンにせよ、月曜が集計期間初日となっています。一方でグローバルチャートは金曜開始であり、米ビルボードソングスチャートでもラジオ指標が今夏になって集計期間が3日前倒しされ、ストリーミングやダウンロード指標と同じ金曜スタートに統一されました。

たとえばSpotifyには、日本時間の毎週金曜に更新される”New Music Friday”プレイリストが存在します。プレイリスト入りした曲の注目度は格段に上昇しますが、J-Popが入ることは年に数曲しかないのが実情です。水曜リリースという独自の環境を貫くことは、世界標準に遅れを取ることになりかねません。金曜を集計期間初日とするグローバルチャートでも不利に働くのは当然のこと、他にも様々な問題が発生すると考えます。

さらに、金曜リリースを標準とする海外の作品が日本のチャートアクションで好成績を収めにくくなる以上、たとえばプロモーションやライブでの来日を敢えて避けるパターンが登場するかもしれません。金曜を標準リリース日とし、CD店着も同日、さらにビルボードジャパンの集計期間を金曜からとしたほうが好いだろうことは、グローバルチャート対策としても、また週末の実店舗来客数の増加につながるだろう点においても有効ではないでしょうか。

昨年末に指摘した内容を再掲しますが、ビルボードジャパンが率先してチャート集計期間を金曜始点に変えることで、日本の音楽業界の改善を先導することも可能ではないでしょうか。

 

 

⑤ 音楽番組や音楽賞でのパフォーマンスをYouTubeにてアーカイブ化する

K-Popの優れたところは、世界の様々な出演番組におけるパフォーマンス映像をYouTubeアーカイブ化し、世界中のファンが追いかけることを可能にしたことにあります。これはK-Popアクトが自社等のスタジオを用意し、世界中のテレビ番組や音楽賞に訴求可能なことと強くリンクしていると言えるでしょう。

一方でJ-Popにおいては、現在の知名度を踏まえれば世界のテレビ番組等への出演は難しいでしょう。また自社スタジオを持ったとしても練習スタジオを利用したダンスプラクティス動画が限界かもしれません。しかしながら、日本の音楽番組等に出演した際の映像をアーカイブ化すれば、世界中に自身の音楽を知ってもらうことは可能です。

J-Popにおいてはようやく、K-Popのような活用例が登場しました。たとえば三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE「線香花火」の『ミュージックステーション』披露バージョンが先月末、番組の公式YouTubeチャンネル経由でアップされています。概要欄にはには各デジタルプラットフォームへのリンク先も掲載され、ストリーミングやダウンロードに遷移しやすくなっています。

 

 

 

以上5点を紹介しましたが、他にもYOASOBI「夜に駆ける」のように英語詞バージョンを用意してグローバルチャートで再浮上させたことは興味深い事例です。

 

J-Popが世界を牽引する存在に成りたいと思うならば、海外に失礼があってはいけないという意味においても、人権意識の常日頃からのアップデートやリテラシー教育の徹底もまた必要だと考えます(この点については後日まとめたいと思っています)。

そして何より、デジタル配信が大前提です。グローバルチャートはフィジカルセールスを含みません。日本で未だにデジタル未配信を貫く歌手が少なくない状況が海外の音楽ファンを愕然とさせ、J-Pop全体への失望につながっているのではないでしょうか。ビルボードジャパンソングスチャートの首位獲得曲を確認できなかったり、シティポップのさらなる復興につながらない等の点において、この状況は大きな問題だと考えます。

 

他にも改善案があれば追記する予定です。これら提案がビルボードジャパンや日本の音楽業界の議論の叩き台になることを願っています。