毎年行っている私的な選曲集、2019年版です。
<2019年私的邦楽ベスト (2019年12月27日作成)>
◯ 作成時のルール
・昨年12月から今年11月にかけて発売されたシングル、またはアルバムからのリード曲で、基本的にはミュージックビデオが制作された曲から選出(ミュージックビデオ未制作ながらアルバムのリード曲としてラジオオンエアされた作品を一部含む)
・1組の歌手につき主演曲は1曲のみ。客演曲はその限りでない
・1枚のCD-R(80分弱)に収まるように編集。歌手名の前の数字はプレイリストを考慮した曲順であり順位ではない
昨年はこちら。
昨年は上半期と下半期をそれぞれ選んだ上で年間分を選曲していたのですが、今年は正直そこまでの余裕は持てず、また歌手の人選はここ数年固まってきています。良曲を発信しているゆえ選んだとはいえ、新しい曲に触れる感性のアンテナが鈍っていないとは言い切れない点で反省するばかり。とはいえ今年選んだ曲は自信を持って紹介出来る曲、そして例年以上に曲と自分自身が密接にリンクしているように思います。またラジオ番組を担当していることやチャートを毎週紹介していることもあってか人気曲が多いとの指摘があるかもしれませんが、好い曲だからこそチャートで上昇するのだなあと感じたりも。というわけで、選んだ理由を添えて、一曲ずつ紹介。
01. RHYMESTER「待ってろ今から本気出す」
RHYMESTERの47都道府県ライブ、自分は岩手県と秋田県の2箇所に参戦。青森県でのライブは自分がスタッフの一員を務めるラジオ番組『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時。サイマル放送で全国どこからでも聴取可能)と重なったため、この日はRHYMESTER特集を勝手ながら企画。自分にとっての憧れの大人が齢五十にして邁進し続けるのですから負けていられません。
02. 中村佳穂「LINDY」
RHYMESTER主催フェス、人間交差点の最前列で観て圧倒されました。会場の空気を掌握し自由に操る姿勢は神々しくもあり。
その後の夏フェス、また自身のライブが配信される度に音楽好きや評論家等の間でどんどん話題になっていくのは当然と言ってよく、来年以降さらに化ける予感が。人間交差点以降にリリースされたこの曲をいつか全身で受け止めたいものです。
03. サカナクション「モス」
アルバム『834.194』は6年ものオリジナルアルバム不在を埋めてくれるに十分の充実作。リード曲として用意された「忘れられないの」も素晴らしいのですが、ドラマ『ルパンの娘』(フジテレビ)にハマったこともありこちらをチョイス。「新宝島」の流れを汲み、1980年代感あるあるなアレンジを格好良く鳴らしたこの曲でサカナクションは新たなジャンルの確立に成功したと言えそう。
04. 杏沙子「ファーストフライト」
邦楽がストリングスに取り込まれる際、大仰になってしまうものが少なくないのが気になってしまうところですが、この曲は主人公にさらなる自信の翼を与えるための魔法としてストリングスが十二分に機能しているよう。次の曲までの序盤5曲は自分への自身というテーマが通底。
05. 土岐麻子「美しい顔」
自分の内なる美しさ、自信を持つことの大切さを説いた曲。近年活躍目覚ましいプロデューサー、アレンジャーのトオミヨウさんと組んだアルバム3作(『PINK』(2017)、『SAFARI』(2018)および『PASSION BLUE』(2019))はいずれも素晴らしく、土岐麻子さんの新たな側面の開拓に成功したと言えるでしょう。
06. 鈴木京香「海岸線より」
ドラマ『グランメゾン東京』(TBS)のでは木村拓哉さんに負けない主演級の役どころを演じた鈴木京香さんが初めてリリースした音楽作品。音楽プロデューサーとしての藤井隆さんの手腕がいかんなく発揮された大人のダンスチューン。そろそろレーベルオーナーでもある藤井さんのリーダー作も聴いてみたいものです。
07. 三浦大知「Corner」
J-Popとしての美しいメロディが堪能できる「片隅」のアナザーサイド的「Corner」は、傑作の誉れ高き『球体』を経てステップアップした三浦大知さんによるJ-Popの進化を存分に堪能出来る逸品。ここでいうJ-Popとは歌謡曲がヒットしていた時代から受け継がれる大団円的なメロディが落とし込まれたものを指しますが、三浦大知さんによる作品は昨年末の「Blizzard」共々J-Popを自然な形で如何に世界標準に出来るか(それこそ「片隅」と比較すれば明白)を示したものであり、新たな時代の開拓者になりうると感じずにはいられません。絶賛された12月27日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)スペシャルにおける10分パフォーマンスについては、それら先駆的な楽曲群があるからこそラストのJ-Pop的「EXCITE」もまた際立っていたように思います。
08. Official髭男dism「Rowan」
今年最大のブレイクを果たしたと断言していい、Official髭男dismによるアルバム『Traveler』収録曲。シングルやリード曲ではないものの、RHYMESTER「The Choice Is Yours」等を手掛けてきたプロデューサーのIllicit Tsuboiさんと組み、ギターの小笹大輔さんが書いた曲から溢れ出す黒さたるや。先行し大ヒットした作品群とはまた異なるアプローチを施しながら、彼らの根底にはソウル(ミュージック)があると実感します。
09. King Gnu「白日」
出だしからしてファルセットという、歌うには難解な曲がビルボードジャパンソングスチャートを駆け上がり、とりわけカラオケ指標でヒットし続けている状況は、今後の日本の音楽業界にとって明るい材料ではないでしょうか。安易にJ-Popに落とし込む必要はないというのがこの曲以降のKing Gnuの大ブレイクから言えることではないかと。
10.椎名林檎と宇多田ヒカル「浪漫と算盤 (LDN ver.)」
出せば必ず結果を残すというのが今の椎名林檎さんの凄いところ。ミュージックビデオにおけるゴージャスすぎる大型テトリスというアイデアも、そして盟友宇多田ヒカルさんとの相性も◎。いつかは宇多田ヒカルさんとのコラボアルバムというのも、面白いかもしれません。
11. WONK「Orange Mug」
原稿書きが業務としての意味をもちはじめ、時間があるときにコーヒーチェーンやファストフード店で作業することが増えたのですが、とあるファストフード店で流れていたこの曲にとにかく浸りました。彼らも今年のRHYMESTER主催フェスの人間交差点に出演。
12. Da-iCE「FAKE ME FAKE ME OUT」
Official髭男dismのボーカル、藤原聡さんによる提供曲。80年代ブギーやマイケル・ジャクソン「Black Or White」を意識したと思しきアレンジ、花村想太さんと大野雄大さんという好対照なふたりの声が重なる最後のサビ、そして隙のない曲そのものの完成度たるや。今年最も多く聴いたのは間違いなくこの曲です。この曲を以前紹介した際に”Official髭男dismはさらに化ける”と書きましたが、予感的中です。
13. ヨルシカ「だから僕は音楽をやめた」
スタッフの一員を務めるラジオ番組『わがままWAVE It's Cool!』では今年月イチペースで歌手の特集を組んだのですが、自分の中でも大きな発見となったのがヨルシカ。曲の純粋な好さと強いメッセージ性の自然な融合に才能の豊かさを感じます。そして彼らがリリースしたようなコンセプチュアルなアルバムは、サブスクリプションサービスやアルバムのプレイリスト化が進む現代において今後より存在感を増すのではないかと。
14. 女王蜂「火炎」
EDMにトラップ、ジャングル等、ともすればちょっと強引にまとめたと思われかねないかもしれませんが、ロックの可能性を広げていることは間違いなく。世界の流行を貪欲に吸収し発信する女王蜂の意欲には感心させられます。
15. LiSA「紅蓮華」
テレビアニメ『鬼滅の刃』(TOKYO MXほか)の人気と共に主題歌のこの曲がヒットし、徐々に曲への注目が高まっていく中で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)への出演が決定。来年は今年における米津玄師「Lemon」のようなチャートアクションを示すものと期待します。自分はillionのバイラルヒットを調べるうちにこの曲にたどり着き、後に発信された一発録り動画での豊かな表現力と純粋な格好良さになおさら惹かれた次第。
16. 折坂悠太「朝顔」
ドラマ『監察医 朝顔』(フジテレビ)主題歌。先述したようなJ-Popの姿をなぞるように感じられ一瞬たじろぐも、アップテンポになってからの展開があまりにも強いこの曲に、スロウな展開は最後のための長き助走だったのかと実感。RHYMESTER宇多丸さんがパーソナリティを務める『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)でのスタジオライブも本当に格好良かったですね。
17. 米津玄師「海の幽霊」
映画『海獣の子供』はスタッフの長時間労働問題という問題が露呈し残念でしたが、米津玄師さんがこの作品に心底惚れ込むのも納得出来る程の物語の哲学的ともいえる深さと映像美だと、原作の同名漫画を目にして強く感じました。昨年も終盤にゴスペル的作品を選出しましたが、この曲のコーラスワークもまたゴスペルの形と言えるのではないでしょうか。
18. RADWIMPS feat. 三浦透子「グランドエスケープ」
今年大ヒットした映画『天気の子』はRADWIMPSと新海誠監督の二度目のタッグであり、今回は女優(個人的には来年映画化される『架空OL日記』(読売テレビ) のかおりんの印象が強い)、三浦透子さんの透明感溢れるボーカルを用いて先述したゴスペルに挑戦。終盤のゴスペルクワイアの圧倒感、そこに向けての構成は見事。
19. 星野源「Pop Virus」
J-Popシーンを代表しながら攻めの姿勢を忘れずそして結果を残す星野源さんが存在することで、2020年代の日本の音楽業界は明るいのではないかと思うのです。ヒップホップ的アプローチを施したアルバム『POP VIRUS』(2018)の次がどうなっていくか注目。
以上、およそ79分のプレイリストとなりました。今年も好い音楽に出会えたことに感謝します。