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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ソングチャートにおける”ヒップホップのトップ40脱落”への私見を記す

ビルボードは10月25日公開分が2026年度初週のチャートに。そのタイミングで、総合ソングチャートのトップ40からヒップホップが姿を消しています。

今回はこの件に関する私見を提示します。

 

ビルボードの記事はこちら。上記ポストはビルボードジャパンによる翻訳内容となります。

記事を要約すると、総合ソングチャート40位以内におけるヒップホップ曲の不在は1990年2月2日付以来35年ぶり。この要因として、"リカレントルールの強化"そして"テイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』収録曲の大挙エントリー"が挙げられるとのこと。一方でドレイクやケンドリック・ラマー等の(チャート面でも)大物といえるラッパーが新曲をリリースしていないことについても指摘しています。

その後、最新11月8日付米ビルボードソングチャートでは、ミーガン・ザ・スタリオン「Lover Girl」が38位に初登場を果たし、同チャートトップ40におけるヒップホップの不在は2週にとどまっています。しかし同曲は当週初登場ゆえ、ストリーミングやダウンロードの後退が見込まれる次週以降にトップ40内にとどまるか、代わりに上昇する作品が現れるかは不透明です。

 

 

記事で採り上げられた要因を詳しくみてみましょう。

 

ビルボードソングチャートにおけるリカレントルールについては、2026年度から"強化"されています。一定週数以上ランクインした曲が一定順位を下回ることでチャートから外れるというのがこのルールですが、そのハードルを高くしたことで、ケンドリック・ラマー & シザ「Luther」が10月18日付における38位、ビッグXザプラグ & ベイリー・ジマーマン「All The Way」が同日付における47位から、翌週姿を消しています。

一方でこのルールが強化される前の段階においても、2025年度最終週にてトップ40内に入っていたヒップホップが1曲のみだったということは注視する必要があります。

 

もうひとつはテイラー・スウィフトによるアルバム収録曲のソングチャート大挙エントリー。10月18日付米ビルボードアルバムチャートにて『The Life Of A Showgirl』が首位初登場を果たしたタイミングで、ソングチャートでは収録曲が12位までを占拠しています。

アルバムチャートには指標のひとつとしてストリーミングのアルバム換算分(SEA)が存在し、SEAが強い作品はロングヒットすると共に、瞬発力も大きいためソングチャートでの高位置初登場にも影響します(リカレントルールに抵触しチャートから消える曲も登場しやすくなります)。ただ翌週以降はリード曲や先行曲等を除き急落する傾向にあるのですが、ストリーミング時代においてヒップホップが強かった一因がこちらといえます。

 

 

ヒップホップが弱くなったという点はこのエントリー冒頭にて貼付した記事で紹介されています。このジャンルの市場シェアはおよそ30%(2020年)から25%強(2023年)、そして2025年10月23日週の段階では24%と推移。一方で注目したいのは、このタイミングでR&Bが伸びているという可能性です。具体的な数字は明らかになっていないものの、このジャンルが興隆していることを米ビルボードが紹介しています。

ビルボードによるコラムを上記エントリーにて意訳していますが、直近2週においては「Mutt」でレオン・トーマスが、「Folded」でケラーニが、それぞれキャリア初のトップ10ヒットを輩出。ソウルやソウルライクなポップミュージックも含めるならば、オリヴィア・ディーン(「Man I Need」)も該当します。

重要なのは、そのR&Bとヒップホップは近しい関係にあるということ(ラップには歌モノと呼べる作品も少なくありません)。ケンドリック・ラマーの今年のヒット曲の中にはシザとの共演曲が複数存在し、どちらのアルバムに収録されるかで厳密なジャンルが決定すると考えるならば「30 For 30」は(シザのアルバム収録曲ゆえ)R&Bと捉えられておかしくないでしょう。そのような背景も、考慮に入れる必要があるのかもしれません。

 

なお、K-POPがヒップホップのトップ40陥落につながっているという見方も目にしていますが、K-POP全体というよりも『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ (原題:Kpop Demon Hunters)』サウンドトラック収録曲が強いと捉えるほうが自然ではというのが自分の見方です。ただしこの映画人気を機にK-POP人気が米で高まればこのジャンルでのロングヒットが増え、米でのシェアは高まることでしょう。

 

 

さて、先述したケンドリック・ラマーは昨秋にアルバム『GNX』をリリース。昨年は「Not Like Us」等でのドレイクへのビーフも話題となりましたが、今年に入り音楽チャートで彼の存在感が高まったのはスーパーボウルハーフタイムショーでのパフォーマンスに他なりません。今年2月22日付の米ビルボードソングチャートではケンドリックがトップ3を独占、さらにはトップ5内4曲/トップ10内5曲エントリーを達成しています。

今年のスーパーボウルでは現在の米大統領が現職(在籍期間中)として初めて観戦しているのですが、ハーフタイムショーにてケンドリック・ラマーは大統領を暗に批判する(と解釈できる)姿勢を示しています。

総合ソングチャートのトップ40からヒップホップが姿を消した件について、現政権下で政治や政治批判に辟易した人が多いことがヒップホップ離れを招いたという言説を目にしています。ならば、現在のヒップホップ界で最も強く批判等の姿勢を提示しているであろうケンドリック・ラマーが支持を集め続けることは矛盾といえるかもしれません。ただ、彼の一人勝ち的な状況を踏まえて言説が正しいと捉えることも可能でしょう。

 

 

ヒップホップが米ビルボードソングチャートで存在感を高められるかですが、まずは3ヶ月程度の動向を確認する必要があると考えます。次週以降クリスマス関連曲が大挙登場するためであり、それらが一掃された後の状況でロングヒット曲がみえてくるものと捉えています。一方、昨日はリル・ベイビーや、(DJスネイクへの客演の形で)フューチャーとトラヴィス・スコットが新曲を発表しており、11月22日付の動向にも注目です。

 

また、現時点でいつ発表されるかはアナウンスされていないものの、米ビルボードによる2025年度年間ソングチャートの結果も判断する必要があるでしょう(年間チャートについてはこのブログにて分析を行います)。週間チャート、年間チャートそして数年の年間チャート推移を確認し、真にヒップホップが衰退したのかを冷静に判断する必要があると考えます。この点は今後も追いかけていく予定です。