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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「初恋キラー」「I wonder」そして「ライラック」…最新ソングチャートにおける上昇曲の背景とは

今回は最新5月22日公開分ビルボードジャパンソングチャートにて特筆すべき動きを示した曲を紹介します。下記表にて黄色で示した3曲が、今回採り上げる作品です。

 

最新5月22日公開分ビルボードジャパンソングチャートでは乃紫(のあ)「初恋キラー」が42→17位、Da-iCE「I wonder」が31→19位に上昇。ポイント前週比はそれぞれ169.8%、133.2%を記録し、共にトップ20入りを果たしています。注目はストリーミング指標(基となるストリーミング再生回数)で、「I wonder」は再生回数前週比が不明ながら36→21位に、そして「初恋キラー」は記事にて紹介されています。

当週で一番大きく再生回数を伸ばした楽曲は、乃紫「初恋キラー」だ。3月のデモ公開以降、10万件に迫るUGCTikTokで投稿され、注目を集めている楽曲となっている。5月8日に配信リリースされると、5月15日公開の同チャートで38位に登場。その後、ミュージック・ビデオも公開され、前週比173.5%となって当週12位となった。

TikTokチャート(TikTok Weekly Top 20)では乃紫「初恋キラー」が8位初登場、Da-iCE「I wonder」が20→11位に上昇し、動画の話題がストリーミングにも波及しているといえます。またDa-iCEは集計期間中に複数の地上波音楽番組、とりわけ『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に初出演しパフォーマンスを披露したことも大きな反響につながったと考えます。

ミュージックステーション』放送の1時間前には音楽フェスでの「I wonder」パフォーマンス動画を公開。番組を観て気になった方がライブをさらに追いかけることのできる流れを築いた、この投入も特筆すべきです。

 

2曲については前週のエントリーにて紹介していますが、その勢いはますます高まっています。集計期間における平日が前週は4日に対し当週は5日であり、ストリーミング再生回数がダウンし総合ポイントにも影響する中にあって、2曲の動きは見事です。乃紫さんは次週の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)にも(披露曲は異なりますが)出演が決定しており、認知度の上昇は間違いありません。

 

 

さて、当週のビルボードジャパンソングチャートにおいてもうひとつ注目したい曲が、Mrs. GREEN APPLEライラック」です。

ライラック」はポイント前週比101.1%を記録し総合ソングチャートで4→3位に、またストリーミング再生回数も前週比102.5%となりストリーミング指標3→2位に上昇しています。ビルボードジャパンはストリーミングの記事にて、この曲の上昇の要因を紹介しています。

続く2位には、Mrs.GREEN APPLEライラック」が10,751,733回再生で登場。「ミセス史上最高難易度のギター」と言われており、実際に若井滉斗(Gt.)が「弾いてみた」動画を投稿したことも後押しとなっている。

”弾いてみた”は”踊ってみた”に代表されるユーザー生成コンテンツ(UGC)の一種ですが、公式側の発信は新鮮だといえます。そしてこの動画は、前日に公開されたテレビパフォーマンス動画との相乗効果も生んだというのが私見。ダンスボーカルグループやアイドルにおけるミュージックビデオとダンスプラクティス動画の関係に似ており、”弾いてみた”動画投稿の意義は大きいといえるのです。

前日のエントリー(【ビルボードジャパン最新動向】Aぇ! groupデビュー曲が2位発進、リリース背景からみえるものとは(5月23日付)参照)にて、様々な動画をタイミングよく投稿する重要性を説きましたが、「ライラック」は当週の集計期間直前に相次いで公開された関連動画が見事な役割を果たしたといえます。今週月曜リリースされた「Dear」の期待度を高める施策も相まって、歌手全体の注目度上昇にもつながっています。

 

結果として「ライラック」は次週、さらに伸びる可能性が考えられます。ビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標(の基となる再生回数)にておよそ2割を占めるSpotifyでは、5月22日付デイリーチャートで「ライラック」が首位に立っています。

カラオケや投稿動画といった活用に優れたCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は土日の伸びが大きいため、しばらくは首位入れ替わりが続くかもしれません。しかしながら「ライラック」はMrs. GREEN APPLEの相次ぐ新曲、そして様々な施策の投入に伴い、その地位を盤石なものとしているのです。

 

 

メルトウォーターの新規ソリューション担当のバロウズ・ジェイク氏は、「ミセスさんの特徴として、Xに単純な告知だけでなく、芸能人と一緒に撮った写真なども多数投稿しており、ファンが喜ぶ投稿でつながりを強化できています。その結果、YOASOBIさんに迫るエンゲージメント数を獲得できています」と分析する。

(※ 記事は『日経エンタテインメント!』2024年6月号 P55より(上記リンクではログインが必要ですが、雑誌側から引用しています)。なお、メルトウォーターについては会社ホームページ(→こちら)をご参照ください。)

この姿勢はSNSのみならず、今週も行われた対バンライブからもみえてくると感じています。

同じステージに立った歌手のコアファンがMrs. GREEN APPLEのパフォーマンスを観て、また対バンの機会を与えていただいたことに感謝し、Mrs. GREEN APPLEを気になっていく(グレーゾーンからライト層、ライト層からコアファンへの昇華)につながっていくのではないでしょうか。このような企画の実施は、音楽チャートの側面のみならずエンタテインメント業界活性化の意味においても見事だと感じています。