イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

先月発表された上半期のオリコン合算シングルランキングを、YOASOBI「アイドル」を軸に考える

オリコンは6月下旬、上半期の各種ランキングを発表しています。

フィジカルセールスの公開範囲が25位までだったのに対しデジタル、そして今回紹介する合算ランキングはそれぞれ10位までが公開。この公開範囲はビルボードジャパンによる上半期各種チャートとは大きく異なります(ソングチャートにおいて総合は100位、各指標は20位まで公開)。

このブログでは以前から年度末に、複合指標から成るビルボードジャパンソングチャートおよびオリコン合算シングルランキングにおける年間チャート(ランキング)を比較してきましたが、その後YOASOBI「アイドル」が大ヒットしたことを踏まえて週間単位でふたつのチャートを比較するようにしています。今回の上半期ランキング発表を踏まえ、あらためてオリコン合算シングルランキングについて探っていきます。

 

 

オリコンによる上半期の合算シングルランキング、トップ10はこちら。ポイントも記載され、King & Prince「Life goes on / We are young」が首位、Snow Manタペストリー / W」が2位に入っています。オリコン合算シングルランキングではフィジカルセールスに係数処理(一定以上の週間売上枚数に対し施す)が適用されないためフィジカルが強い作品が上位に進出する傾向にあるほか、ダブルAサイドの曲も表記されます。

一方でビルボードジャパンソングチャートはフィジカルセールスに係数処理が適用。リンク先では100位まで公開されていますが、ポイントは可視化されていません。ただし毎週50位までのポイントが可視化されていることから、Official髭男dism「Subtitle」は217,149ポイント、米津玄師「KICK BACK」は153,912ポイント、そしてYOASOBI「アイドル」は143,907ポイントを獲得していることが判明しています。

 

オリコンによる上半期合算シングルランキングではYOASOBI「アイドル」が4位に入り、ポイントは80万を突破。このYOASOBI「アイドル」はデジタルで記録的なヒットになっていることを踏まえ、同曲の初登場以降におけるビルボードジャパンソングチャートとオリコン合算シングルランキングの比較表を作成しています。なお”上半期”とは「アイドル」ランクイン以降、前者は7週分、後者は9週分と範囲が異なります。

今回比較するのは、King & Prince「Life goes on」、Snow Manタペストリー」そしてYOASOBI「アイドル」の3曲について、オリコン合算シングルランキングでの累計ポイントにおける初登場週のポイントの割合です。これは上半期および初登場時の記事を用いて割り出すことができます。なおここでは、ダブルAサイドのシングルについては片方を記載します。

(※オリコン合算シングルランキングではOfficial髭男dism「Subtitle」が3位に入っていますが、同曲は前年度からのランクインであること、またオリコンでは最新週以外のランキングはポイントが可視化されないことを踏まえ、ここでは比較に用いません(用いることができません)のでご了承ください。)

<上半期オリコン合算シングルランキング

 上位作品の初登場時ポイント、および累計ポイントにおける初週分の割合>

・King & Prince「Life goes on」

 初登場週のポイント:1,039,439 累計ポイントにおける初週割合:91.1%

Snow Manタペストリー」

 初登場週のポイント:911,788 累計ポイントにおける初週割合:83.5%

・YOASOBI「アイドル」

 初登場週のポイントを踏まえた、累計ポイントにおける初週割合:6.0%

(※YOASOBI「アイドル」については初登場週の記事にてポイントの記載がありませんでした(記事はこちら)。またオリコンは記事の無断掲載を固く禁じているため、詳細の掲載は控えます。)

(※King & Prince「Life goes on」およびSnow Manタペストリー」については、掲載したリンク先にて初週フィジカルセールスが確認可能です。なおフィジカルセールスは1枚につき1ポイントとなっています。)

3曲の動向を踏まえるに、フィジカルセールスに強い作品は、オリコン合算シングルランキングにおけるフィジカルセールスへの係数処理未適用も踏まえれば尚の事、合算ランキングでの初週割合が高まることが判ります。その中にあってYOASOBI「アイドル」はデジタルの強さで上半期4位に到達しており、同曲が如何に強いかがよく解るのです。この初週割合の算出も、真の社会的ヒットを知る意味で重要に成ると考えます。

 

 

そのYOASOBI「アイドル」はビルボードジャパンソングチャートでの年間最上位を(ライバルの登場がない限り)確実としていますが、オリコン合算シングルランキングにおいても年間最上位の可能性が高いかもしれません。ただ同曲が今後、週間単位で後者を制することは難しいでしょう。

上記はフィジカルリリース予定表およびビルボードジャパンソングチャートにおける前作売上枚数となりますが、オリコンでも似た売上となる可能性が高く、週間10万枚を超えるフィジカルセールスが存在することで「アイドル」がオリコン合算シングルランキングにて首位に立てないものと思われます。5月末の段階では一度目の首位獲得後少なくとも7週は首位未達に成ると記しましたが、その週数はさらに伸びることでしょう。

先述したフィジカルリリース予定表は、オリコンシングルランキングや合算ランキングでこそ週間での最上位を予想する上で参考にしやすいものの、これら作品はデジタルでも強くない限りビルボードジャパンにおける週間ソングチャートでの制覇は難しく、またオリコン合算シングルランキングでは週間単位を制することはできてもたとえばダブルミリオンを達成しない限り、年間単位での最上位到達は厳しいものと考えます。

YOASOBI「アイドル」はオリコン合算シングルランキングで現在までに116万ポイントを突破しており、King & Prince「Life goes on」やSnow Manタペストリー」を年間単位で上回るものと思われます。デジタルに強い曲がロングヒットすることでフィジカルセールスの影響力が強い複合指標ランキングでも中長期で勝ることを踏まえれば、デジタルの強化、未解禁作品や歌手の施策見直しの必要性がよく解るはずです。

 

 

最後に。このブログではフィジカルセールスについての考え方について、以前オリコン合算シングルランキングとビルボードジャパンソングチャートとを比較した際に述べており、今回あらためて掲載します。

フィジカルセールスの高さはコアファンの熱量の大きさに因る部分が徐々に大きくなっていますが、(コアファンが過度な負担を感じなければ)その結果としての売上枚数は評価可能とは考えます。ただし複合指標から成る音楽チャートにおいてはライト層の支持を獲得(すなわちコアファン向けキャンペーンに頼ることなくストリーミング等デジタルでヒット)し、フィジカルセールスでバックアップするのが理想形というのが私見です。

フィジカルセールスが日本独特且つ旧態依然のやり方である、もしくはフィジカルセールス指標を複合指標の音楽チャートから外すべきという声があるならば、それら声には完全には賛同しかねます(なお後者については指標自体のウエイトを下げる必要があると考え、理由は以前提示しています→こちら)。フィジカルはデジタルの補完的な役割として位置付けるのが最善と考えるに、すべての歌手がデジタルできちんと挑むこと、デジタル未解禁歌手や芸能事務所側を業界全体で説得することが必要です。

チャートポリシーが変わらないままのオリコンや、デジタル未解禁を続ける歌手側を説得してきたか、そのプロセスを開示することをエンタテインメント業界側に対し切望します。そのプロセスが見えることで、業界全体の改善がより速まるかもしれません。

この考え方が完全に正しいとは限らないかもしれませんが、ビルボードジャパンソングチャートが真の社会的ヒットの鑑と成ってきていることは間違いありません。提示した考え方やビルボードジャパンのチャートがより広く認知浸透すること、歌手側がデジタルに明るくなりオリコンが合算ランキングに対するスタンスを適宜見直すこと、そしてエンタテインメント業界全体が足並みを揃えるべく積極的に改善することを願います。