イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

"CDデビュー" "プレデビュー"について考える...Stationhead『imaoto on the Radio』振り返り

4月から毎週日曜17時にお送りしているStationheadの配信番組、『imaoto on the Radio』、昨日は第3回をお送りしました。お聴きくださった皆さんに感謝申し上げます。アーカイブおよび選曲リストはこちら。

最新曲、音楽チャート上位曲や色褪せることのない名曲等、"好い曲推し"をテーマにお届けする1時間の配信番組では、この1週間にリリースされた作品を軸に関連曲をお届けするプレイリスト企画も用意しています。今回は、ここ最近耳にする機会が増えた"CDデビュー"という言葉に基づき、"プレデビュー"時にリリースされた曲をお届けしました。

 

 

5月15日にデビューシングル「《A》BEGINNING」をリリースするAぇ! group。彼らが3月中旬にそのデビューを発表した際、"CDデビューします"という言葉を使っていました。そして彼らのデビューを紹介するメディアは、そのほとんどにおいてこの表現を用いており、【デビューイコール初のCDリリース】という位置付けが成されています。

また、4月17日に初のCDシングル『MIRAI』をリリースしたME:Iにおいても、デビューイコール初のCDリリースという位置付けを採っているといえます。リード曲「Click」は3月25日に先行配信、カップリングの「Sugar Bomb」はフィジカルリリースの2日前にデジタル解禁されていますが、ME:IもCDリリースを重要な位置として据えています。

 

【デビューイコール初のCDリリース】という位置付け、そしてそもそも【"CDデビュー"という表現】は、この2組のリリース前後によく耳に(目に)するようになっています。一方で、ME:Iにおいてはデジタルが先行で配信されていたこと、Aぇ! groupにおいてはデジタルリリースの可能性が不明であることを踏まえれば、デジタルの重要度がCDに比べて高いかどうかが引っ掛かるというのが正直な私見です。

(そもそもAぇ! group「《A》BEGINNING」において、公開されたミュージックビデオには"Streaming Ver."との記載があります。ともすれば同曲は、そしてAぇ! group側はサブスク配信を行わず、このバージョンをサブスクの代替と位置付けているのかもしれません。ただしオリジナルバージョンと音源が一部異なることから、その異なる旨を示唆すべく"Streaming Ver."と名付けた可能性も考えられます。)

 

 

CDデビューとは別に、"プレデビュー"という言葉も存在します。

たとえば上記サイトにおいて、プレデビューとは『収益を発生させつつ、宣伝効果が期待できる』意味との回答がなされています。プレデビューという表現や位置付けは各歌手や運営側によって若干異なるだろうものの、しかしプレデビュー時にリリースした曲がその歌手にとっての代表曲になっている場合も少なくはありません。

 

音楽ナタリーで"プレデビュー"を検索すると(→こちら)、NiziU「Make you happy」およびBE:FIRST「Shining One」に関する報道が多く登場します。

プレデビューデジタルミニアルバムの表題曲であるNiziU「Make you happy」(2020)は現時点で上記ミュージックビデオが3億1千万回再生を突破。また2023年末の段階でストリーミング3億1千万回を記録しています(ビルボードジャパン調べ)。NiziUは2020年に「Step and a step」でCDデビューを果たしていますが、そのデビュー年に初出場した『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)では「Make you happy」が披露されています。

またBE:FIRST「Shining One」(2021)もプレデビュー時に放ったシングルで、彼らの大ファンである森三中大島美幸さんもダンスをカバー。後のCDデビュー曲「Gifted.」との曲調の対比という意味でも、「Shining One」の存在は大きかったと考えます。なおBMSG発でBE:FIRSTの後輩にあたるMAZZELにもプレデビューシングルが存在します。

(ちなみにBE:FIRSTは、2022年の『NHK紅白歌合戦』初出場時に「Shining One」を披露しています。選曲権は番組側にあるのが通常と考えられることから、よりキャッチーで浸透度が高いとしてこの曲が選ばれたのかもしれません。)

 

また、プレデビューはデジタル時代より前にも用いられています。

映画『ゴールデンカムイ』の主題歌を手掛けたACIDMANは、ファーストアルバム『創』(2002)リリースの前に用意した複数のシングルにてこの表現を用いていました。(「造花が笑う」は最初のプレデビューシングル)。300円という安価で発売されたこと、またアルバムリリースが(プレデビューシングル群の先にある)ゴールとして設定されていたことが、その表現を用いた理由と考えられます。

他にもプレデビューシングルは存在しますが、その位置付けに据えられた曲が歌手の代表作品となったり、キャリア最大のヒットに至るものも存在しているのです。

 

 

ACIDMANが登場した2000年代初頭にもプレデビューという言葉がありましたが、現在は特にオーディション出身のダンスボーカルグループ、もしくはアイドルと形容可能なグループにこの言葉の使用率が高いと感じています。そしてこのジャンルではCDシングルも多い印象です。ストリーミングヒットの多い優里さんのCDシングルがアニメタイアップの「インフィニティ」(2021)のみという状況からも、それは明らかでしょう。

ダンスボーカルグループやアイドルについてはコアファンの熱量がより高く、さらにはフィジカルをリリースすることに歌手側が、それを購入することにコアファンがより高い価値や意味を見出していると思われます。それも相まってCDデビューという言葉や、デビューイコールCDデビューという位置付けが自然なものとなっていると考えます。

 

しかし、先述したようにデジタルリリースしたプレデビュー曲にも素晴らしい作品が多く、また代表曲になることも充分考えられることから、CDデビューとプレデビューを分ける等の必要はあるのだろうかという私見を抱いています。

また、日本の音楽業界がCDというビジネスモデルありきになっていることに対しての違和感は業界内外から出ていますが、しかしながらこのCDデビューという言葉が自然に存在し、メディアや市井が違和感を抱かないならば尚の事、このビジネスモデルへの依存から脱却することは難しいのかもしれないと、厳しくもそう感じた次第です。デビューイコール初のCDリリースという位置付けを疑うことが、脱却の第一歩かもしれません。

 


今回のエントリー冒頭にて紹介したAぇ! groupの場合は、所属している旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)が未だ配信に明るくない姿勢を見せていること、またこれまでジュニア(旧ジャニーズ事務所Jr.)という位置で活動していた方がデビューする際にはCDという形でのデビューが当たり前だったことから、CDデビューという表現が使われ続けてきたと捉えることが可能です。

ただ、旧ジャニーズ事務所初代社長による性加害問題の発覚を機に、特にNHKが事務所との強固な関係を解消し(現在でもその状況が続いています)、ジュニアがCDデビュー前の曲を発信する機会は少なくなっています。その最たる例が『ザ少年倶楽部』の終了です。所属事務所が今後もデジタルに明るくない姿勢を続けるならば、ジュニア期の楽曲を配信することを検討していいのではと思うのです。

ただしこれはあくまでCDというビジネスモデルやCDの価値がより高いという前提、CDデビューこそ重要という概念の下で成り立つことでもあるかもしれません。

屋良朝幸, 浜中文一, いつか (Charisma.com), 草間リチャード敬太 THE YOUNG LOVE DISCOTHEQUE 歌詞 - 歌ネット

Aぇ! groupの草間リチャード敬太さんが参加した屋良朝幸さんのリーダー作『THE YOUNG LOVE DISCOTHEQUE』が今年のCDリリースに先立ち、デジタル先行で配信していることを踏まえれば、Aぇ! groupの一部メンバーはデジタルでのデビューを果たしていると捉えていいのかもしれません。強引な結論かもしれませんがこのことに基づき、Aぇ! groupやSTARTO ENTERTAINMENT全体がデジタルに舵を切ることを願います。