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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビヨンセ、ニューアルバム『Cowboy Carter』リリース日に渋谷でサイン会を開催...その背景を想像する

ビヨンセ、渋谷に降臨。この言葉が決して大げさではないことが、昨日のタイムラインからよく解ります。突如のサイン会開催は音楽ファンを熱狂の渦に巻き込みました。

前夜には夫のジェイ・Zが来日していることがSNS上で話題になりましたが、まさかビヨンセが、待望のニューアルバムリリース当日に日本にいて、しかもサイン会を行うとは意外でした。

いや、意外なのですが、今考えればひとつ引っ掛かる点がありました。というも、ニューアルバム『Cowboy Carter』のデジタル解禁が日本時間の3月29日、"午前0時"だったのです。

音楽評論家の林剛さんによる上記ポストは、3月29日金曜の午前1時36分に投稿されたものゆえ、午前0時解禁であることが解るはずです。

 

海外では基本的に新作が金曜に解禁されるのですが、その解禁時間は日本時間の午前0時と、アメリ東部標準時(EST)における午前0時(サマータイム中は日本時間の金曜13時)に分かれ、特に注目度の高い歌手においては後者が多い状況です。たとえば今月リリース作品ではアリアナ・グランデやフューチャーとメトロ・ブーミンのコラボ作、BTSのVによるソロ曲が該当しますが、ビヨンセは日本時間の0時に解禁していました。

ビヨンセは今作からの先行2曲を、2月11日日曜に開催されたスーパーボウルのテレビ中継にて流れたCMを機に同日夜リリースしています。そのこともありアルバム『Cowboy Carter』においてもリリース時間が変則的になったと考えていいのかもしれませんが、R&Bを主軸に置く歌手がカントリーに挑戦すること等の話題性も踏まえるに、午前0時の解禁は尚の事意外といえるのです。

 

あくまで私見と前置きしますが、ビヨンセ側はSNSの話題づくりに長けているのではないかと感じています。ジェイ・Z来日の噂を機にビヨンセも来日の可能性および新譜リリースの認識が高まる、ビヨンセ『Cowboy Carter』が間髪入れず午前0時に解禁される、そしてサイン会が開催される(ジェイ・Zも同じ場所にいる)という流れで音楽ファンに息をつかせる暇を与えず、話題性や熱量を高めることに成功したと感じています。

そして今作がタワーレコード渋谷店にて最も早くフィジカル(CD)を手に入れられるという状況にも驚きました。サイン会は最新作を手に取ってもらうための施策でもあるためフィジカルが用意されるのは自然なことですが、終了後もたとえばタワーレコードオンラインでは『Cowboy Carter』の未登録が続いています。サイン会等がどのタイミングで決まったかは分かりかねますが、今後このような動きは出てくるかもしれません。

 

 

さて、サイン会の開催にも驚きましたが、『Cowboy Carter』の発売当日にビヨンセアメリカではなく日本にいることそのものが大きな驚きでした。その理由を考えた際、今年のグラミー賞におけるジェイ・Zのスピーチを思い出した次第です。

授賞式でのジェイ・Zの発言やその後の態度は、厳しい物言いですが幼いという私見は上記エントリー執筆時から変わっていません。ただ、彼の真意を汲み取るならば、ビヨンセの作品がジャンルや人種を超えて常に人気であること、そして今後も人気と成り続け、いずれ必ずやグラミーで最優秀アルバム賞を獲るという宣言だったのではと感じています。

『Cowboy Carter』の先行曲リリース以降、アメリカでは人種差別が可視化されています。黒人歌手のビヨンセがカントリーを歌うことへの反発が、カントリージャンルを好む白人保守層から登場していました(上記リンク先参照)。さらに、先日のアカデミー賞では俳優部門を受賞した方々からアジア人俳優が差別的な態度(そう受け取っておかしくない対応)をされたばかりです(下記リンク先参照)。

ビヨンセがカントリージャンルを主体とするアルバムのリリース当日にアメリカではなく、カントリーが浸透しているとは言い難い日本でプロモーションを行ったことは、話題づくりの枠を大きく超えて自身の作品がジャンルや人種を超えて人気であること、人気と成り続けていくことを示すため、そしてアジア人との連帯を示すためのものだったのかもしれません。考えすぎかもしれませんが、ビヨンセの情愛を嬉しく思います。