イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アリアナ、テイラーそしてビヨンセ…この春リリースの注目アルバムにおける”予告”について

現地時間の2月11日に行われたアメリカンフットボールの祭典、スーパーボウルのハーフタイムショーはアッシャーがパフォーマーを務めました(ショーの模様はこちらで確認できます)。次回2月24日付の米ビルボードソングチャートでは、ショーでも披露されたアッシャー feat. リル・ジョンリュダクリス「Yeah!」が再登場するという予想も出ています(予想担当者によるポストは後述しています)。

スーパーボウルでは試合そのもの、ハーフタイムショーもさることながら、話題となるのがCMです。

放映料は高額ながら人気となり、そして話題を集めるものも少なくありませんが、今年においてはビヨンセによる新譜告知を兼ねたCMが注目を集めています。米ビルボードによるCMランキングでは首位を獲得しました(記事はこちら)。

(上記2曲は共にリリックビデオ。)

ビヨンセは3月29日にニューアルバム『Renaissance Act II』をリリースするとアナウンスし、CMがOAされた後に「Texas Hold 'Em」および「16 Carriages」をリリース。ビヨンセはその後前者において複数のバージョンをリリースしたこともあり、2月27日公開分の米ビルボードソングチャートにて2位に初登場することが予想されています。集計期間3日目後半のリリースながら、猛チャージを決めた形です。

 

さて、スーパーボウルの放送中には映画『ウィキッド』の予告編が披露されましたが、この作品でシンシア・エリヴォと共に主演を務めるアリアナ・グランデは3月8日にニューアルバム『Eternal Sunshine』をリリース。さらに今月来日公演を行ったテイラー・スウィフトはニューアルバム『The Tortured Poets Department』を4月19日に発売することとなり、今年の春は女性ソロ歌手による注目の作品が目立ちます。

そしてこのブログで注目したのは、各歌手がニューアルバムのリリース日等に関する情報を、どこで発表したかということです。

 

3組の中で最も早くニューアルバムをアナウンスしたアリアナ・グランデは、先行曲「Yes, And?」のミュージックビデオにて、アルバムタイトルをいわば予告していました。

先行曲のミュージックビデオ、冒頭に紹介する赤い招待状には7枚目のアルバムを意味する"AG7"と共に、映画『エターナル・サンシャイン』(2004年)のロケ地となったニューヨーク州モントークを示す地理座標(41.0359° N 71.9545° W)が記載されています。「Yes, And?」がニューアルバムのリード曲であり、さらには地理座標が何を意味するかについてコアファンを中心とした考察合戦が行わていたと推測可能です。

 

テイラー・スウィフトは、グラミー賞の受賞の壇上にてニューアルバムのリリースを予告しました。その後テイラーは主要部門のひとつである最優秀アルバム賞を受賞しており、『The Tortured Poets Department』の期待感がさらに高まったと言えるでしょう。なおテイラーは、仮にグラミー賞が受賞できなかった際は、その直後に行われた東京ドームでのライブにて告知する予定だったとのことです。

 

そのグラミー賞では、ビヨンセの夫であるジェイ・Zが壇上にてグラミー賞側を非難しています。

ジェイ・Zの発言はその後の行動も含めて非難と呼べるものであり、幼いというというのが厳しくも私見です。特にここ最近の主要部門受賞作品は米ビルボードチャートでのヒットとリンクする傾向に感じており(テイラー・スウィフトやアデルの強さが際立つのはそれが理由でしょう)、ならばきちんと施策を立ててヒットを持続させることが重要と捉えています。非難を述べる一方で賞を受け取るのは、矛盾といえるかもしれません。

(一方で、非難されたグラミー賞側がきちんと動画を残すことについては、賞が毅然としたものであることを示しているといえるでしょう。無論、投票については毎年のように見直しが必要だと考えます。)

それでもジェイ・Zが壇上に立ったのは、ビヨンセによるニューアルバムの予告が既に決まっており、ビヨンセへの注目を高める、さらにはグラミー賞最優秀アルバム賞を獲れていないことへの同情票を集めてコアファンを中心に加熱させんとする意図があったかもしれません。この考え方はひねくれているかもしれませんし、ジェイ・Zの発言はその場の感情に因るものかもしれませんが、結果として期待度は高まっています。

 

 

アリアナ・グランデテイラー・スウィフト、そしてビヨンセ。注目を集めるためにどうするかについて、アプローチは異なりながらもきちんと取り組んでいるといえます。

3組のアルバムは、いずれも来年行われるグラミー賞の候補となり得るものです。ノミネートには自薦が必要なために”なり得る”と書きましたが、ジェイ・Zの発言を踏まえればビヨンセが『Renaissance Act II』を自薦しない可能性は低い、すなわち最優秀アルバム賞を狙いにいっているものと捉えています。

 

今回紹介したのはあくまで、アルバムのタイトルやリリースタイミングの予告に関する施策です。重要なのはリリース後も施策を徹底すること、そしてそれ以前に内容が素晴らしいということなのですが、施策は作品の素晴らしさをコアファンそしてライト層にも広めるべく、認知度や期待感を高めるためにどの歌手も行っている手段なのです。