最新5月9日付米ビルボードソングスチャートで4位に入り、初のトップ10入りを果たしたミーガン・ジー・スタリオン「Savage」。この急上昇の要因にはリミックスに参加したビヨンセの存在が大きいことは速報の際に紹介しています。
次週はビヨンセ参加バージョンがストリーミング、ダウンロードそしてラジオエアプレイすべてで集計期間1週間フルで加算されるため、オリジナルバージョンよりポイントが上回れば歌手名のクレジットは”ミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ”となり、ビヨンセにとって2年以上を経てのトップ10カムバックを果たすことになります。しかも、米ビルボードソングスチャートの予想を行う方は「Savage」が次週の1位になると予想していることから、期待が膨らみます。
— Simon Falk (@simmnfierzig) 2020年5月6日
今日紹介する内容は、前日に更新した日米最新ソングスチャートを紹介するポッドキャスト、【Billboard Top Hits】8回目で紹介したものの詳細版です。
ビヨンセは1997年、デスティニーズ・チャイルドの一員として「No, No, No」でデビュー。ワイクリフ・ジョンの客演によるパート2のリリースもあり米ビルボードソングスチャートで3位に輝いて以降、4曲のナンバーワンを含む10曲のトップ10ヒットを輩出。2003年に初のソロアルバム『Dangerously In Love』をリリースすると、現在は夫であるジェイ・Zをフィーチャーした「Crazy In Love」が首位に輝き、現在までに6曲のナンバーワンを含む18曲をトップ10に送り込んでいます。1年に1曲以上はトップ10ヒットを出した計算となり、ビヨンセが如何にヒットを量産しているかが理解出来ます。
とはいえ、ビヨンセの2010年代におけるトップ10ヒットはわずかに5曲、そして主演曲よりも客演参加のほうが多い状況なのです。言い換えれば、ミーガン・ジー・スタリオン「Savage」同様、他の歌手の作品に後から参加し、チャートを押し上げ主演歌手をフックアップすることが目立っている印象があります。それでは2010年代の客演曲を振り返ってみましょう。
まずはレディー・ガガのEP『The Fame Monster』(2009)から翌年シングル化された「Telephone」。ファーストアルバムにして4曲のトップ10ヒット(うち2曲はナンバーワン)を送り出した『The Monster』(2008)に次ぐEPであり、ファーストアルバムと2in1でもリリースされたこの作品にビヨンセを迎えたことで、レディー・ガガがビヨンセを招ける立ち位置になったという印象を広く知らしめることに成功したのではないでしょうか。
コロンビアのレゲトン歌手、J・バルヴィンとフランスのDJ、ウィリー・ウィリアムによる「Mi Gente」(2017)にビヨンセが参加。新バージョンがチャートに大きく反映された同年10月21日付米ビルボードソングスチャートでは前週より18ランクアップし3位に達しました。
ビヨンセ参加版の収益は、プエルトリコなどのハリケーン被災者に対するチャリティに使われたとのこと。今回の新型コロナウイルスに際しても自身が設立した基金から600万ドルを寄付していますが(ビヨンセ、新型コロナウイルス救済に6億円以上を寄付 | BARKS(4月24日付)参照)、積極的に社会貢献活動を行う姿勢は素晴らしいですね。チャートや寄付の内容についてはこちらで解説しています。
そして、エド・シーランに2曲目の米ビルボードソングスチャート制覇をもたらした「Perfect」。オリジナルバージョンはアルバム『÷ (Divide)』(2017)に収録されていますが、シングル化した後にビヨンセ参加のデュエットバージョンが送り込まれ、合算されて首位に立ちました。オリジナルバージョンよりポイントが上回っていたため、歌手名のクレジットにはビヨンセも記載されています。初の首位を獲得した、2017年12月23日付米ビルボードソングスチャートの解説はこちら。
2010年代のビヨンセ、主演作ではジェイ・Zとの「Drunk In Love」(2013 アルバム『Beyoncé』収録)が2位、「Formation」(2016 アルバム『Lemonade』収録)が10位を記録。アルバム『4』(2011)からは1曲もトップ10ヒットが生まれていないのが意外ですが(同作収録曲の最高は「Best Thing I Ever Had」の16位)、しかし主演作のチャート成績以上に客演参加時の存在感の大きさを感じます。さらにはライブパフォーマンスも素晴らしく、たとえば日本でもYouTubeでの生配信により知名度が上昇しているコーチェラ・フェスティバルにおいて、ビヨンセが出演した2018年は”ビーチェラ (Beychella)”と形容されるほど絶賛されているのです。
この模様は翌年映像化され、さらには音源化もされています。
このライブアルバム、『Homecoming: The Live Album』(2019)の巻末に収められたのが「Before I Let Go」。オリジナルはメイズ(feat. フランキー・ビヴァリー)による1981年のナンバーであり、メイズはR&Bを代表するエッセンス・フェスティバルで幾度なくトリを飾っていることから、R&Bを語る上で欠かせないのが「Before I Let Go」と言っても過言ではないでしょう。”ビーチェラ”、そしてそこに至るまでに築き上げたビヨンセの功績は、「Before I Let Go」をカバーするに相応しい存在と言って良いはずです。曲などについては、音楽プロデューサーの松尾潔さんが『松尾潔のメロウな夜』(NHK-FM 月曜23時)で語っておりますので、みやーんさんによる書き起こしを紹介させていただきます。
番組開始までは、みやーんさんの #メロ夜 書き起こしをお楽しみください。ビヨンセは理屈いらずの越境する魅力を備えた稀有な歌手ですが、その「文脈」を知ればもっともっと好きにならずにいられないひと。#メロ夜書き起こし #nhkfm
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) 2019年5月20日
松尾潔 Beyonce『Before I Let Go』を語るhttps://t.co/mlVeOrwX6H
ビヨンセバージョンはシングル化されてはいないものの、米ビルボードソングスチャートで65位を記録するスマッシュヒットに。このチャートアクションからも、ビヨンセの存在の大きさを知ることが出来ます。
今回のミーガン・ジー・スタリオン「Savage」でもそうですが、「Mi Gente」も「Perfect」もビヨンセ参加バージョンが追加されたタイミングでチャートを構成する3つの指標がすべて前週を大きく上回る伸びを示しており、チャートで強烈な実績を残しています。客演の数は決して多いとは言えないものの、ビヨンセが如何に影響力を持っているかが良く分かります。そしてそこには彼女の作品なら信頼出来るという受け手の思いが確実に存在していることでしょう。