イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり)【ビルボードジャパン最新動向】tuki.「晩餐歌」がソングチャート初制覇、上昇の要因を探る

(※追記(7時44分):YouTubeにおけるtuki.「晩餐歌」の関連動画投稿数推移を紹介した徒然研究室さんによるポストを追記しています。)

 

 

 

最新1月24日公開分のビルボードジャパンソングチャート(集計期間:1月15~21日)では、前週通算22週目の首位を獲得したYOASOBI「アイドル」が3位に後退。tuki.「晩餐歌」が初の首位を獲得しました。tuki.さんは今回の首位獲得について、喜びのコメントを発信しています。

前週は首位のYOASOBI「アイドル」と2位のAdo「唱」がわずか44ポイントでしたが、当週はtuki.「晩餐歌」と2位のAdo「唱」がわずか75ポイントの差となっています。今回、「晩餐歌」がチャートを制した要因を考えます。

 

当週のソングチャートトップ5の指標構成をみると、YOASOBI「アイドル」(首位の「晩餐歌」とは279ポイント差)までの上位3曲はダウンロード、ストリーミング、動画再生およびカラオケの4指標がいずれもトップ10入り。「アイドル」のみフィジカルリリースされているものの生産限定盤ゆえにフィジカルセールス指標が300位未満となって久しく、上位3曲の指標構成は似ています。

その中にあってtuki.「晩餐歌」は、順位以上にデジタル指標群の数値が大きく伸びています。

当週で累計1億を突破したストリーミングでは、前週比約9.7%増の9,760,960再生で3位→1位へ上昇し、ダウンロードは約41.8%増の6,629DLで8位→5位。また、音源リリース前からカバーなど二次創作の人気が高く、現在も増加し続けていることからか、動画再生も前週比約19%増の1,980,614再生で5位→4位、カラオケは7位→4位と順位を上げている。

(なお、"歌ってみた"等に代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)動画は動画再生指標の加算対象外となりますが、そのUGC動画を機に公式動画やサブスクサービスの再生につながったといえるでしょう。)

ビルボードジャパンは記事において動画再生指標の基となる再生回数を通常載せていないため、tuki.「晩餐歌」の当週の動向が特筆すべきだったといえます。この「晩餐歌」はリリースに至る過程が今の時代ならではであり、リリース直後からのヒット、またビルボードジャパンの記事で言及されたような二次創作の人気の高さにつながっているというのが自分の見方です。

制作過程がTikTokおよびYouTubeショートにて投稿され、また弾き語りver.が音源リリースに先駆けて公開されたこともあってか、tuki.「晩餐歌」はリリース後初の1週間フル加算週に総合14位を記録。その後も安定した成績を収め、最終的にトップ10入りを果たした形です。TikTokでの先行公開とも形容可能な「晩餐歌」のヒットの図式は、最近では米ソングチャートを制したジャック・ハーロウ「Lovin On Me」にも通じます。

上記リンク先では、音源の異なる複数の動画(オリジナルバージョンと弾き語り版)が合算対象となっていることも紹介(合わせてビルボードジャパンに対し、合算に関するチャートポリシー(集計方法)の見直しを求めています)。リリース前に公開された弾き語り版、オリジナルバージョンの公式オーディオに加えて昨年末にはミュージックビデオも公開されており、複数の動画の投稿も認知浸透に大きく作用したものと考えます。

(※追記:YouTubeにおけるtuki.「晩餐歌」の関連動画投稿数推移を紹介した徒然研究室さんによるポストを掲載。ブログエントリー公開後にこちらのポストを知ったのですが、ミュージックビデオの公開がUGC(ユーザー生成コンテンツ)動画の制作意欲向上を招き、そしてUGC動画が接触指標群を中心とした「晩餐歌」のさらなる人気につながったといえるでしょう。)

 

「晩餐歌」のCHART insightをみると、当週はストリーミング指標(青で表示)にて初制覇、また動画再生指標(赤)も最高位の一歩手前となる4位に上昇しています。

そして、CHART insightで黄緑にて表示されるラジオ指標の加点も大きかったと考えます。3位までが僅差となった当週のチャートにおいてtuki.「晩餐歌」が一歩抜け出したのは、ポイント自体は大きくないとしてもこの指標の再加点も影響したと言っていいかもしれません。ただ気になるのは、そのラジオ指標自体は強くないということ。このことは総合(黒で表示)およびラジオ指標のみを示したCHART insightから解るはずです。

これは紅蓮・疾風さんのポストに対する自分の反応(→こちら)でも記したことですが、紅蓮・疾風さんが「晩餐歌」に似た動きとして挙げた優里「ドライフラワー」の初期30週分の動向からは、ラジオ指標の高くなさが見て取れます。同指標は100位前後で推移した後に急浮上しているのですが他指標よりも上昇が遅く、また3週のブランク(300位未満につき未加点)という事態が発生しているのです。

今年は瑛人「香水」やYOASOBI「夜に駆ける」等、メジャーレーベルに頼らない曲がTikTok等を発として大ヒットを遂げました(尤もYOASOBIはソニーミュージックのバックアップがありましたが)。その後もこれらの曲に続けとばかりに様々なスマッシュヒットが生まれていますが、それらが「香水」や「夜に駆ける」ほどの大ヒットに至れなかったのはラジオエアプレイの強くなさが原因のひとつとして挙げられます。TuneCore JapanやBIG UP!等の配信代行サービスが台頭していますが、おそらくこれらサービスにはラジオ局への働きかけが入っていないことが、広く世間へ認知させることに繋がらず社会的なヒットにまで至れないのではというのが自分の見方です。一方では、ラジオ局や番組の流行へのアンテナ(感度)にも疑問を抱くのですが。

優里「ドライフラワー」が初登場を果たす直前となる2020年11月に、このような内容をブログで記しています。尤もこの時はラジオ指標でもヒットの兆しがみられるとして記したのですが、しかし「ドライフラワー」は先述した未加点の期間が発生していました。

 

tuki.「晩餐歌」のリリース元は"月面着陸計画"とSpotifyにて記されており(→こちら)、おそらくは自主制作/インディ発と捉えていいかもしれません。ゆえにメジャーレーベル発の新人歌手がパワープレイを獲得してラジオ指標で上位に進出するというような事態が起きにくいことは想起可能ですが、一方ではラジオ業界側が今のヒット曲に対して高い興味を持ち合わせているかについて、疑問は拭えないというのが厳しくも私見です。

ラジオ指標は他の指標よりもロングヒットしにくいゆえ、言い換えればこの指標が複数週上位に進出することは大きな意味があるといえます。今回の首位獲得を機に、tuki.「晩餐歌」がラジオでもヒットするか、ラジオ業界内がどう動くかも注視していきます。