イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

お笑い芸人による素晴らしい音楽作品集...Stationhead『imaoto on the Radio』第4回振り返り

4月から毎週日曜17時にお送りしているStationheadの配信番組、『imaoto on the Radio』。昨日は18時からとなりましたが、第4回をお送りしました。お聴きくださった皆さんに感謝申し上げます。アーカイブおよび選曲リストはこちら。

最新曲、音楽チャート上位曲や色褪せることのない名曲等、"好い曲推し"をテーマにお届けする1時間の配信番組では、この1週間にリリースされた作品を軸に関連曲をお届けするプレイリスト企画も用意しています。今回は、お笑い芸人による素晴らしい音楽作品をお届けしました。

 

 

土岐麻子さんが4月24日、ソロデビュー20周年記念を記念したオールタイム・ベストアルバム『Peppermint Time 〜20th Anniversary Best〜』をリリース。この冒頭を飾るのが、「美しい顔」(2019 アルバム『PASSION BLUE』)における礼賛とのニューバージョンです。土岐さんはリリースに際し、『楽曲のメッセージがもっともっと伝わってほしい』という思いから「美しい顔」の再構築に着手しています(下記インタビュー参照)。

礼賛はゲスの極み乙女。等を担当する川谷絵音さん等から成るグループで、土岐さんは川谷さんによる別バンド、indigo la End「夏夜のマジック」(2015)をカバーしたことも(リリックビデオはこちら)。今回川谷さんが礼賛にて参加した経緯は分かりかねるものの、礼賛のボーカル、CLR(クレア)さんによるラップが曲の世界観、そして土岐さんのメッセージをさらに加速させてくれています。何より、ひたすらに格好いいのです。

土岐麻子 美しい顔 (with 礼賛) 歌詞 - 歌ネット

このCLRさんとは、お笑い芸人ラランドのサーヤさんです。

 

サーヤさんの実力は、ラランドのYouTubeチャンネルにアップされている即興のラップバトルでよく解ります。韻の踏み方、また選んでいるであろうビートも含めてその巧さが発揮されています(相方のニシダさんがアナグラムだけで対抗するのも見どころ)。このバトルは下ネタが凄いので大きい声ではお勧めできないものの、こちらで確認することができます。

自分がサーヤさんの音楽活動を知ったのは、ASOBOiSM「自分の機嫌は自分でとる」(2022)のリミックス版(2023)にて、あっこゴリラさんと共に参加したバージョンに触れたのがきっかけ。当初CLRさんとサーヤさんがイコールと認識できていなかったものの、その巧さ、そしてお笑い芸人のサクセスストーリーを示したリリック(歌詞)が巧いと実感した次第です。

そして、『imaoto on the Radio』でOAした礼賛「スケベなだけで金がない」(2023)のインパクトたるや。このタイトルはライブでコール&レスポンスが起きるということですが、口にするとめちゃめちゃ気持ちいいフレーズだと解ります。個人的には離婚伝説「愛が一層メロウ」(2022)級の言葉だと感じるくらいです。

礼賛「スケベなだけで金がない」の作詞はCLRことサーヤさんが手掛けており、面白い要素を入れ込みながらも格好良く仕上げるというセンスの好さが活きていると実感します。このセンスこそ歌手活動を行うお笑い芸人に今増えているものだと感じ、今回の配信番組で特集を組んだ次第です。

 

番組では続けて、ザ・ドリフターズ「「ヒゲ」のテーマ」(1980)をOA。ヒゲダンスというコントのBGMとしてあまりにも有名なこの曲は、志村けんさんが好きだったテディ・ペンダーグラス「Do Me」(1979)を基に作られています。後にリーダーのいかりや長介さんがビールのCMでウッドベースを弾いていた姿が評判となりましたが、ザ・ドリフターズソウルミュージック好きだということがここからも解ります。

(ザ・ドリフターズ「「ヒゲ」のテーマ」の公式動画がないため、テディ・ペンダーグラス「Do Me」のみ掲載。)

「「ヒゲ」のテーマ」は「Do Me」のベースラインのみならず、ディスコティークの空気感も巧く踏襲。ディスコサウンドは今も数多く作られていますが、たとえば「「ヒゲ」のテーマ」でディスコサウンドをより強く印象付けているギターの音は、直近でいえばなにわ男子「NEW CLASSIC」のサビからも感じられます。

(「NEW CLASSIC」はなにわ男子のニューアルバム『+Alpha』(6月12日リリース)に収録。なにわ男子はサブスク解禁していないため、SpotifyApple Musicを用いたStationheadで紹介できないことを残念に思います。)

 

配信番組では最後に、藤井隆「YOU OWE ME」を紹介。アルバム『COFFEE BAR COWBOY』(2015)のリード曲は8分近い尺があるものの、その疾走感、上品な音使いや曲構成はフル尺で聴いてこそ伝わると思い、今回フルでお届けしました。なおミュージックビデオはショートバージョンですが、センスの好さがよく解ると思います。

藤井隆さんについては以前担当していたラジオ番組にて音楽特集を担当しています。アルバム『Music Restaurant Royal Host』(2022)リリースを踏まえての特集でしたが、手に取りたくなるフィジカル、アルバムの紹介動画のセンスの好さ等、あらゆる角度からアルバムの魅力を最大限に伝えているところが素晴らしく、今の音楽業界がこの作品から学べる点は多々あるといっても過言ではないでしょう。

藤井隆さんの高い音楽性についてはRHYMESTER宇多丸さんが『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(2007-2018 TBSラジオ)にて、"国産シティポップス最良の遺伝子を受け継ぐ男"として紹介。その流れが藤井さんの音楽活動再加速の契機につながり、SLENDERIE RECORD設立に至っています。ラジオ特集から伝わる音楽への真摯な姿勢は、リリース作品ひとつひとつの質の高さに活きていると実感しています。

 

配信番組では紹介していませんが、オリエンタルラジオ等から成るRADIO FISHによる「PERFECT HUMAN」(2016)もお届けしたかった曲のひとつでした。2010年代前半に世界中でヒットしたEDMサウンドのJ-POPへの踏襲として、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「R.Y.U.S.E.I.」(2014)、w-inds.「We Don't Need To Talk Anymore」(2017)そしてこの「PERFECT HUMAN」が特筆しているというのが私見です。

EDMはサビ直前でピークを迎え、サビでは歌なしという構成が主な中、「R.Y.U.S.E.I.」はダンス(ランニングマン)、「We Don't Need To Talk Anymore」はボーカルドロップ、そして「PERFECT HUMAN」では自身の名前の連呼と独特のダンスによる曲名つぶやきをサビに添えるという、独自のJ-POPへの落とし込み方が見事だと思うのです。「We Don't Need To Talk Anymore」については直近の配信番組で紹介しています。

 

 

お笑い芸人が真摯に音楽と向き合い、歌唱力も磨き、またお笑い要素も交えながら素晴らしいセンスを発揮した作品は昔からありましたが、この10年で良曲は一気に増えた印象です。藤井隆さんはSLENDERIE RECORDというレーベルを、そしてサーヤさんはレモンジャムという自身の事務所を、それぞれ興しています。ともすればそのような場所の存在も重要なのかもしれないと感じた次第です。