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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』への疑問を記し、改善策を提案する

日本テレビで一昨日放送された『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』への疑問が強くあり、問題点を整理します。

(上記ポストのリンク先はこちら。キャプチャした理由は後述します。)

 

『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』は昨年に続き2回目の放送。昨年同様Apple Musicの年間トップソング(上位100曲)を紹介しながら、歌手がパフォーマンスをするというものです。

さて、今回浮かんだ疑問は5つあります。

 

<『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』への疑問点>

 

① ”アワード”と名乗りながらも音楽賞ではない

『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』ではApple Music年間100位までを発表していますが、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)のオリジナルランキングのように一定順位までの全曲をVTR付きで発表することもなければ、”アワード”として賞を授与することもありませんでした。

元々音楽チャートがイコール音楽賞となるのは米ビルボードによるアワード(ビルボードミュージック・アワード)くらいかとは思いますが、アワードと銘打っているならば(番組がXにて”#ミュージックアワード”をハッシュタグに推奨しているゆえ尚の事)、せめて首位獲得作品には賞を授与するか、出演していただきパフォーマンスしてもらうというのが最善のはずです。

番組側が”アワード”という名前を用いたのは、いわばテレビ的なとも形容可能かもしれない大袈裟な演出が背景にあるものと考えます。このテレビ的という表現については後述します。

 

② そもそも基礎となるチャートに違和感がある

『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』では今回もApple Musicの年間トップソングを用いているのですが、実はこのチャートはほぼ1ヶ月前となる11月28日に発表されたものです。

集計期間は昨年11月から今年10月までの1年間。そもそもサブスクの特性を踏まえれば集計期間中盤以降にリリースされた作品は上位に来にくい傾向があるのですが、仮に今回の番組に即して集計期間を変更したならばYOASOBI「アイドル」は2位から首位に、Ado「唱」は57位からトップ40圏内に入った可能性も高く、今回の順位を低く感じた方は少なくないでしょう。しかしこの集計期間、番組内では明示されなかった模様です。

しかも番組では当初の発表にて、Apple Musicとは明示せず”サブスクランキング”と記載(上記キャプチャ部分はこちらで確認できます)。Apple Musicは他のサブスクサービスに比べて再生に偏りが生じにくいとはいえ、一サービスのみのチャートを紹介するのは当初の発表内容と違うと言われてもおかしくなく、やはり違和感が拭えないのです。

 

③ サブスクでヒットしたとは言い難い歌手の出演が目立つ

Apple Musicのチャートを基にした『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』ですが、そのトップ10内にランクインした歌手で番組に出演したのはMrs. GREEN APPLEおよびNewJeansに限られます。またトップ10は22時台に発表されていますが、その時間帯に彼らは出演していませんでした。

歌手の出演時間帯が掲載されたタイムテーブルをみると、番組後半ほどベテラン歌手の登場率が高まっています。そして2023年のヒット曲(Apple Musicの年間トップソングはこちら)と乖離しているともいえるでしょう。

決してベテラン歌手の登壇が問題だということではありません。ベテラン歌手に時間を割くならば、同様にこの1年でヒットした曲についてもきちんと時間が割かれなければならないと考えます。これは決してこの番組だけの問題ではないのですが、『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』では次の理由も相まって、問題の根は深いと感じています。

 

④ 音楽賞と名乗りながらテレビ局のカラーが強い

『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』は19時スタートでしたが、関東地方では直前に『news every.』が放送されており、両番組のやり取りが19時にまたがって流れていました。また番組内では日本テレビ系列の特番等も宣伝されています。

また冒頭ではXにおけるこちらのポストをキャプチャして紹介しましたが、実はこのポストを発信するアカウント(@musicday_ntv)は日本テレビのふたつの音楽特番(夏放送の『THE MUSIC DAY』および冬放送の『ベストアーティスト2023』)と共有のものです。

音楽特番がアカウントを共有することが問題ではなく、音楽賞という名を冠した『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』がテレビ局のカラーを持つことが問題。Xアカウント共有の問題は『輝く!日本レコード大賞』も同様であり、結果的に音楽賞(の中身)よりも局のカラーが優先という姿勢が見て取れるのです。

 

⑤ サブスクヒットを紹介する番組ながら、サブスク未解禁曲が披露されている

田原俊彦さんは『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』にてメドレー形式で3曲披露しましたが、いずれも旧ジャニーズ事務所所属時代の作品でした。それらの曲はApple Musicではあるもののセルフカバー版とのことです。

(Xにて教えていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。なおセルフカバー版はSpotifyにはありません。)

当時ヒットしていたオリジナルバージョンがサブスクで存在しないにもかかわらず、番組で披露したことことに違和感を抱きます。そもそもサブスクにある曲を紹介する番組ゆえ尚の事、この問題は大きいはずです。無論、未だデジタル解禁に明るくない旧ジャニーズ事務所側に問題の本質があるでしょうが、メディアが取材等で旧ジャニーズ事務所側をきちんと問い質してこなかったこともまた問題でしょう。

 

 

以上、『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』に感じた違和感を5点紹介したのですが、改善策を記すならばタイトルはあくまで『発表!今年イチバン聴いた歌』に変更し、”ミュージックアワード”の文言を消すことを勧めます。チャート紹介は音楽賞とは異なること、また年間1位の表彰もないことから、音楽賞と銘打つことで紛らわしさを与えてはならないというのがその理由です。

そもそも、日本テレビのカラーを強めていることや出演歌手の大半が年間チャートにランクインしていない状況を踏まえれば、Apple Musicの年間トップソングはあくまで番組発足のひとつのきっかけに過ぎないと捉えていいでしょう。

アワードと銘打ち、チャート紹介方式を貫くならば、『ベストアーティスト2023』と放送時期は被ったとしてもApple Musicが年間トップソングが発表される直後に『発表!今年イチバン聴いた歌』を放送するのが最善でしょう。その際はサブスク全体を網羅すること、サブスクの仕組み(聴取方法、チャートにおいて後半リリース作品が有利ではないこと等)、集計期間等を明示し、年間トップソングを表彰することも必要です。

 

と書いたところで、ならばビルボードジャパンの年間チャートを番組と連動して発表したらどうかという考えを強く抱いています。ビルボードジャパンの年間チャートを紹介すれば、サブスクサービスを網羅するのみならずサブスク未解禁曲も紹介できるようになるのです。また年間チャート発表は12月前半であり、『ベストアーティスト』と放送時期が大きく被ることもありません。

先述したように米ビルボードには音楽チャートに基づく音楽賞(ビルボードミュージック・アワード)があります。先月行われたこの音楽賞は2023年度の年間チャートと集計期間が合致しており、アワード発表後に年間チャートが発表されています。ビルボードミュージック・アワードの存在が年間チャートの注目度を高めたといえるかもしれません。

ビルボードジャパンがメディアと共同にて音楽賞を開設、そこまでいかなくとも年間チャートをメディアで発信することはビルボードジャパンの認知度向上につながります。とりわけ2010年代後半以降において複合指標から成る音楽チャートとして唯一信頼可能なチャートがビルボードジャパンであるゆえ(断言する理由はこちらで記載)、そのチャートを紹介することはテレビ局的にもメリットがあるはずです。

 

ビルボードジャパンがチャートを自負するならば音楽賞開設も含め、より広く伝える仕組みの構築が必須でしょう。他方、今回の『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』、また先日放送の『CDTVライブ!ライブ!』における年間ランキングも問題を抱えるゆえ、これらメディアがきちんとビルボードジャパンと協力すれば番組の信頼度も高まり、いわばWin-Winとなるはずです。双方の英断を願っています。