昨年末、地上波で放送された大型音楽特番の出演者傾向を分析します。2021年については下記ブログエントリーにて記載しています。なお2022年については出演歌手のみ取り上げ、歌唱曲については記載していません。
今回参考とした番組は以下の通り。リンク先はすべて音楽ナタリーとなります。なお『第55回年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京 12月31日放送 番組ホームページはこちら)については演歌歌謡曲主体という性質上、ここでは取り上げません。
・11月10日放送『ベストヒット歌謡祭2022』(読売テレビ)
・11月23日放送『テレ東音楽祭2022冬~思わず歌いたくなる!最強ヒットソング100連発~』(テレビ東京)
・12月3日放送『ベストアーティスト2022』(日本テレビ)
・12月7日放送『2022FNS歌謡祭』第1夜
・12月14日放送『2022FNS歌謡祭』第2夜 (いずれもフジテレビ)
・12月19日放送『CDTVライブ!ライブ! クリスマス4時間SP』(TBS)
・12月23日『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE 2022』(テレビ朝日)
・12月28日『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード2022~』(日本テレビ)
・12月30日『第64回 輝く!日本レコード大賞』(TBS)
・12月31日『第73回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)
・12月31日『CDTVライブ!ライブ! 年越しスペシャル! 2022→2023』(TBS)
・12月31日『ジャニーズカウントダウン2022→2023』(フジテレビ)
全11番組(『FNS歌謡祭』は2回分まとめてひとつとして)を対象とします。これらの中にはジャニーズ事務所所属歌手のみ参加する『ジャニーズカウントダウン』や、ノミネートや受賞歌手のみ参加できる『輝く!日本レコード大賞』がありますが、後者も音楽特番のひとつとして括ります。なお日本レコード大賞や『発表!今年イチバン聴いた歌』『NHK紅白歌合戦』については、放送から間もないタイミングで私見を記しています。
それでは、年末音楽特番の出演歌手一覧表を下記に掲載します。5番組以上の出演は青、1番組のみの出演は黄色、1番組ながら『NHK紅白歌合戦』のみ出演はピンクで表示しています。また客演や共演等、タイムテーブルにクレジットされた歌手も記載しています。
ここからみえることをまとめます。なお歌手によっては、スケジュールの都合等により出演が叶わなかった可能性があることを予め記しておきます。
最多出演は乃木坂46の9番組で、『ジャニーズカウントダウン』『輝く!日本レコード大賞』を除く全番組に出演しています。他の坂道グループやAKB48が6番組であることを踏まえれば、女性アイドルグループで最も人気だろうことが伺えます。また女性ダンスボーカルグループのNiziUも7番組に登場した一方、モーニング娘。'22(今年はモーニング娘。'23)は2番組、ももいろクローバーZはゼロ等、大きな差が生じています。
Adoさんも出演本数が多く、ウタ名義で参加した音楽特番は『NHK紅白歌合戦』を含む7番組に達しています。『ONE PIECE FILM RED』側、そしてフジテレビが他の放送局の音楽番組と協力していることがよく解ります。
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— NHK紅白歌合戦 (@nhk_kouhaku) 2022年12月31日
ONE PIECE UTA LIVE
RED×WHITE
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ウタ、最高のライブをありがとう !!!!!#NHK紅白 #みんなでシェア
「新時代」NHKプラスでもう一度✨https://t.co/MuJbhamYPD pic.twitter.com/M5wCufwEgo
上記ツイート内画像は『ONE PIECE』作者、尾田栄一郎さんによる書き下ろし。『NHK紅白歌合戦』における「新時代」パフォーマンス後にも、その旨が紹介されています。
その『NHK紅白歌合戦』効果が音楽チャートに大きく表れていることについては1月3日付ブログエントリーにて紹介していますが、Spotifyデイリーチャートで大きく飛躍したVaundyさんや藤井風さんは紅白のみの出演となっていることもポイントです(なお、藤井風さんをフィーチャーした番組や、Vaundyが以前出演した番組の再放送もNHKでは年末にOAされています)。
紅白では他にも加山雄三さんや安全地帯等ベテラン歌手の参加が目立つ一方、あいみょんさんやIVE、幾田りらさんがこの番組のみの出演であることも特筆すべきであり、ともすれば今後音楽チャートに反映されるかもしれません。また桑田佳祐さんは客演参加歌手(佐野元春さん、世良公則さん、Charさんおよび野口五郎さん)も含めて年末音楽特番への出演が『NHK紅白歌合戦』のみだったことも、注目点と言っていいでしょう。
(なお、松任谷由実さんは『輝く!日本レコード大賞』に登場したもののVTR出演にとどまり、実質『NHK紅白歌合戦』のみのパフォーマンスとなっています。ちなみに紅白では当初アナウンスされた曲に加えて「卒業写真」も披露し、パフォーマンス後には郷ひろみさんに対して”60周年もここ(紅白のステージ)でお会いしたいですね”と語っています。)
複数番組への出演歌手に話を戻すと、『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たしたJO1は紅白を含め5番組、BE:FIRSTは6番組に登場し、また一昨年の日本レコード大賞を受賞したDa-iCEは紅白を除く6番組に出演。男性ダンスボーカルグループの中でも特に活躍した歌手をテレビ局側がきちんと起用する姿勢が示された一方、『ミュージックステーション』には未だ出演が果たせておらず、年末特番でもその体制は変わっていません。
1年3ヶ月前のブログエントリーを再掲。Da-iCEが「CITRUS」で、後にBE:FIRSTが「Bye-Good-Bye」でそれぞれストリーミング1億回再生を突破し、JO1やINIはビルボードジャパンソングチャートのフィジカルセールス指標で年間トップ10入りを果たしました。しかし1億回再生突破歌手が出演できている『ミュージックステーション』にて彼らが今も出演できないことに強い違和感を抱きます。年間チャートは下記に掲載しています。
ジャニーズ事務所所属歌手以外ではDA PUMPが7番組に出演していますが、より大きなヒットを2022年に輩出した男性ダンスボーカルグループはDa-iCE等であることを踏まえれば、まずはDa-iCE等が優先されてもおかしくないか、もしくは同じステージに立つことが必要でしょう。社会的ヒットの鑑に最も近いビルボードジャパンで結果を残しながら未だ出演に至れないという事態は、きちんと議論される必要があると考えます。
DA PUMPの出演がベテラン歌手ゆえ優先されるという見方もあるかもしれません。しかし紅白への私見を記したブログエントリーでも指摘したように、重要なのはベテラン歌手の重用以上にその年ヒット曲を輩出した歌手をきちんと出演させ、きちんと尺を与えることだと考えます。
年末音楽特番の出演者傾向から私見を述べましたが、最後にもうひとつ。昨年秋以降ブレイクした歌手について、未だ地上波音楽番組ではほぼ取り上げていないことを強く疑問視します。
上記はいずれも2022年12月28日公開分までのCHART insightを指します。昨年10月にビルボードジャパンソングチャートで最高4位を記録したなとり「Overdose」、また同年11月に最高35位を記録したヤングスキニー「本当はね、」はいずれもストリーミング指標が牽引しており、若年層への浸透がみてとれます。しかしヤングスキニーは深夜の音楽番組に登場してはいるものの、ゴールデン帯音楽番組出演の形跡はみられません。
ともすれば歌手側が出演を打診されながら断った可能性もありますが、地上波テレビ局の編成が特番主体となったことで音楽番組が毎週OAされず、流行を追えなくなった(もしくは追わなくなった)側面も否定できないでしょう。2022年における放送回数は『CDTVライブ!ライブ!』が25回(年越し特番を含む)、『ミュージックステーション』が26回となり、共に2週に1回のペースでしか放送されていないのです。
特番主体編成を採る理由は全体的な視聴率の低下、特に音楽番組の高くなさが背景にあると考えますが、そこで考慮される数字はリアルタイム視聴率というひとつの尺度でしかありません。視聴率に関しては高い数字を獲得できなかった『NHK紅白歌合戦』が、言葉は悪いですが槍玉に挙げられている印象は拭えません。しかしそこからは、叩く側の考え方が旧態依然ではないかという疑問が浮かんできます。
スポーツ新聞や週刊誌のみならずネットメディアが #NHK紅白 を執拗に叩く一因として、叩く側の評価基準が数字に偏り過ぎていることがあるのではと考えます。つまりは部数やアクセス数以外の評価軸がなく、且つ利益と直結するため、よりセンセーショナルな方向になっているのではと。
— Kei (@Kei_radio) 2023年1月2日
また先述しましたが、リアルタイム視聴率のダウンはどの番組も免れないものと考えます。リアルタイム視聴率の低下を叩く材料とするのならば、たとえば『#silent』が常時10%に届かなかったことをどう捉えているのか、#NHK紅白 を叩くことを是とする側は自問自答する必要があると感じています。
— Kei (@Kei_radio) 2023年1月2日
テレビ局側、そして受け手の双方がテレビ番組の評価基準について、録画視聴率や総合視聴率、見逃し配信数等を含む複合的な見方を持つことが必要です。その考え方が浸透すれば番組編成が正常化し、認知浸透はこれからでもブレイクが期待できる歌手の積極的な紹介や、その年ヒットを輩出した歌手の重用にもつながるのではないでしょうか。