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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2024年度の集計期間開始日に、ビルボードジャパンへの改善提案をまとめる

ビルボードジャパンは本日が2024年度各種チャートの集計期間初日となります。ビルボードジャパンはポッドキャストにて2023年度年間チャートを12月8日金曜午前4時に発表すると発表しており、そのスケジュールを踏まえれば2023年度は昨日までとなります。

今回は2024年度初回チャートが12月6日水曜に発表されるのを前に、ビルボードジャパンの各種チャートに対する改善提案をまとめます。

 

ビルボードジャパンへの改善要望>

 

それでは、それぞれの提案理由を提示します。

 

(1) ソングチャート 各指標の変更

① フィジカルセールス指標のウエイト減少

ビルボードジャパンソングチャートにおけるヒットの理想形は、ストリーミングや動画再生といった接触指標群が高水準で安定し、総合チャートでロングヒットに至ることです。所有指標は瞬発力はある一方で持続力には欠けながらも、曲の勢いを一時的にも加速させるのに有効です。

特に2023年度は所有指標、その中でもフィジカルセールスのストリーミングとの乖離が目立つ印象です。加えて、たとえばリリースから時間が経過した曲に施策を実行しフィジカルセールス指標が再浮上するケースが際立っていますが、その上昇時においては他指標との乖離も生まれています(下記エントリーに事例を表示)。それがフィジカルセールス指標のウエイトを下げていいのではないかと考える理由です。

年間チャート発表時にこのブログにて週間1~5位の定点観測表を掲載する予定ですが、フィジカルセールスばかりが突出した曲は急落が際立ちます。1週間単位でも真の社会的ヒット曲が把握可能なチャートが理想と考えるならば、フィジカルセールス指標のウエイトを引き下げる必要があるのではないでしょうか。

 

② ストリーミング指標のカウント範囲の拡大

ビルボードジャパンはソングチャートにおいて、構成する指標は300位までを加点対象としています。ただこれではストリーミングヒットを拾いにくくなっているのではというのが私見です。

ストリーミング指標にデータを提供する日本のSpotifyデイリーチャートの200位における再生回数はこの1年も大きく上昇していることが上記ポスト掲載のグラフから理解できるでしょう。これはサブスクユーザーの拡大を示すに十分です。

ユーザーの拡大は聴かれる曲の裾野を広げます。よってストリーミング指標300位に入らず加算されない曲が出てくるかもしれません。他の指標と伴い数値も大きい以上、たとえばこの指標だけでも500位まで拡大するのを検討してみることを勧めます。

 

③ ラジオ指標のカウント対象範囲拡大

ラジオ指標はプランテックによる全国31のFMならびにAM局のOAランキングを基に、各放送局の聴取可能人口等を加味して算出されます。一方でこの指標は放送局のパワープレイや番組ゲスト/コメント出演等の影響度が高く、総合チャートとの乖離が大きくなっています。元来ラジオは他指標以上にロングヒットが難しいのが日本の特徴ですが、その中でもパワープレイ選出曲等はその終了後の急落が目立つ状況です。

31局はいずれも都心部にある放送局であり、ともすれば地方局を加味することでOAランキングならびにそれに基づくラジオ指標のチャートは少しでも総合チャートに近い形になるかもしれません。それも踏まえ、たとえばradikoの対象局すべてを網羅することを視野に入れてもいいのではと考えます。

 

④ 動画再生指標のウエイト上昇

この点については、今年度を代表する社会的ヒット曲となり『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)でも初出場が決定したano「ちゅ、多様性。」や新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」を例に、以前提示しています。

現在、動画再生指標には含まれないショート動画の需要が高まっています。TikTokは米ビルボードが関連チャートを今秋新設し(TikTok Billboard Top 50についてはこちらで解説しています)、またYouTubeショート動画にて用いられた曲のランキングも誕生しています。下記はarne代表の松島功さんによるポストとなります。

11月17~23日を集計期間とするYouTubeショートウィークリートップソングランキング(→こちら)ではAdo「唱」が首位をキープしながらも、2位に原口沙輔「人マニア」、4位にしぐれうい「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」がランクイン。前者はニコニコ動画で今年を代表するヒット曲となりましたが、そのチャートでは今年はゆこぴ「強風オールバック」も大ヒットを果たしています。

尤もゆこぴ「強風オールバック」においては未だダウンロードや、サブスクでの聴取もできませんが、カップラーメンのCMソングに用いられる等により社会への浸透度が高いだろうことを踏まえれば、音源リリースがまだであっても動画再生指標のウエイトを高め、「強風オールバック」のような立ち位置の作品が週間で総合ソングチャート100位以内に入るような仕組みを作ることも検討していいのかもしれません。

 

 

(2) アルバムチャートへのストリーミング指標導入

この点については、チャート分析や予想を行うあささんが直近でエントリーを公開しています。自分のブログエントリーも引用してくださっており、この場を借りて感謝申し上げます。

ビルボードジャパンは2022年度にてソングチャートからTwitter、ソングおよびアルバムチャートからルックアップという指標を廃止しました。これらはコアファンによるチャート押し上げを目的とした活動が反映されやすかったことも廃止の理由として挙げられます(以前のエントリーで紹介しています→こちら)。これにより、2023年度のアルバムチャートはフィジカルセールスとダウンロードという所有指標のみとなっています。

一方でルックアップは、所有のみならず接触指標の意味も持ち合わせていたといえます。CDをパソコン等インターネット接続機器にインポートする際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示すのがこの指標ですが、これはCDの実際の購入者数(ユニークユーザー数)のみならず、レンタル枚数の推測を可能とするものでした。

レンタル店舗の減少等を踏まえればこの指標の廃止は自然かもしれませんが、とはいえそのレンタル人気が把握できなくなったことで接触指標的な意味を持つ指標が2023年度になくなったことになります。実際、米と日本ではアルバムチャートの動きが大きく異なり、ソングチャートとアルバムチャートのヒットの乖離が大きくなっているといえるでしょう。その意味でも、米ビルボード的な形への改善が必須と考えます。

 

以下に、あささんのブログエントリーに基づき、自分のデータを追加したポスト等を貼付します。スレッド(最初のポストはこちら)では音楽業界全体に対する改善提案も行っていますが、チャートに関わる部分を中心に抜粋します。

 

 

(3) グローバル関連チャート発足に伴う、日本のチャート集計方法のグローバル化

この点についてはまず、米ビルボードが2020年秋に新設したグローバルチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.)について紹介した下記エントリーをご参照ください。

またビルボードジャパンは9月にGlobal Japan Songs Excl. Japan、およびJapan Songs (国名)という二種類のチャートを新設しています(後者は現時点で9ヶ国が対象)。前者についてはグローバルチャートがベースとなっていること等について、下記エントリーにて解説しています。

この前提の下、以下の提案を記載します。

①リミックス等の合算や集計期間の統一等、海外に倣ったチャートポリシー変更
② グローバルチャート記事の翻訳公開

この二点は既に、Global Japan Songs Excl. Japan紹介時にも改善提案を実施。また前者についてはTOKIONへ寄稿したコラムでも詳しく記しています。

デジタルリリースは海外での発信とほぼイコールであり、米ビルボードによるグローバルチャートでは日本市場でのヒットもチャートに反映されます。YOASOBI「アイドル」は英語版をグローバルチャートの集計期間初日にリリースしたことも相まって、日本の楽曲がGlobal Excl. U.S.で初制覇を果たしています。

一方でビルボードジャパンによるGlobal Japan Songs Excl. Japanは世界市場のうち日本の分を除いた上で日本の楽曲を抽出するというもので、それ自体強く意義のあることです。ならばその際に世界のトレンドも紹介することで、日本の歌手の海外での施策立案につなげられると考えますが、しかしながらビルボードジャパンは米ビルボードのグローバルチャート記事を、特筆すべき状況が発生した際以外は翻訳公開していません。

(※韓国メディアの動向については上記ポスト内リンク先のエントリーにて紹介しています。)

日本のメディアは歌手側のプレスリリースを基に記事は書くものの、独自に追求する姿勢に乏しい状況です。上記ポストで言及した年間チャート紹介についてはビルボードジャパンが翻訳記事を用意せず、チャート発表から4日近く経ってようやくYOASOBI「アイドル」の好成績が伝えられるという事態であり、明らかに遅すぎます。せめてビルボードジャパンだけでも、年間および毎週の記事翻訳を行うことを希望します。

 

 

(4) 発信の重要性、そして表現への責任を自覚すること

① CHART insightおよびチャート更新時間、記事発信時間の定時化
② インタビュー記事やポッドキャストでの表現は適切か、自問自答の意識を持つこと

①については下記エントリーにて示した内容がそのまま当てはまります。言い換えれば、その際挙げた三つの改善提案(管理の徹底、チャートポリシー変更および自問自答の姿勢を持っているかについて)が今も改善されていないと感じずにはいられません。管理の徹底に関しては今秋、毎週のように総合ソングチャートの記事が訂正された点だけをみても十分当てはまるといえるでしょう。

そして、自社記事以上に他媒体におけるインタビュー記事やポッドキャストにおいて、チャートディレクター/上席部長でありポッドキャストではMCを務める礒崎誠二さんが発言にて用いる表現からは、特に違和感を抱くことが少なくありません。この違和感は自分のブログやポストでこれまでも表明してきましたが、ともすれば仲の良いメディアや、自社制作のポッドキャストではそのような表現を用いがちなのではと考えます。

今の時代は、どの歌手であれすべての曲が社会的ヒットに至るのは非常に難しいことです。それを伝えるべく礒崎さんは上記ポッドキャストの冒頭(1分30秒過ぎ)にて"死屍累々"という表現を用いたと考えますが、チャート成績の形容であるにせよその表現は強く引っ掛かります。この指摘はサウンズ・オブ・ブラックネス「Optimistic」リミックス名から考えた命の"軽さ"への不安(2017年9月22日付)で述べた内容ともリンクします。

上記の指摘等は考え過ぎと言われたり、ともすれば切り取りと捉えられるかもしれません。また礒崎さんは以前、ポッドキャストにて発言内容は個人の見解とも述べていましたが、ビルボードジャパンの看板を背負っている以上はやはり違和感が拭えません。先述したルックアップやTwitter指標の廃止についてビルボードジャパンがその理由をいわば後出ししたという姿勢も、不信を招くものと危惧しています(下記エントリー参照)。

 

おそらく、ポッドキャストや仲の良いメディアは喋る内容に制約はない(もしくは薄い)と捉えているのではと感じるのですが、この意識は他のポッドキャストYouTube動画、SNSからも感じることが少なくありません。いわゆる内輪ノリにいそしむラジオ番組についても同様です。どんなに内々のやり取りであったとして、それを外部からアクセス可能な環境に置いているならば客観視というスタンスは必要と考えます。

ラジオスタッフを担当してきた身としては、音声に特化するラジオというメディアが表現にきちんと注意を払っていることを実感しています。ポッドキャストにてラジオ番組経験者をMCに据えるだけでも、表現についての意識は高まるでしょう。

ビルボードジャパンには、チャートを紹介するレギュラーラジオ番組の用意を願います。チャート紹介をイベント化し、リスナーの聴取習慣が芽生えることでチャートへの注目度は高まるでしょう。ビルボードジャパンが業界内での信頼度を高めていると考えるに、次は世間の認知度を高め、信頼も得る必要があるはずです。定時発信が決まれば、発信への意識向上や、たとえばスタッフの増強等へも取り組んでいけるでしょう。

 

 

 

以上、ビルボードジャパンに対する提案内容を記載しました。

 

音楽への接し方が時代に即して常に変わっている以上、音楽チャートが完全になることはないと考えます。その中にあってビルボードジャパンは、少なくとも複合指標から成る音楽チャートでは最良といえるでしょう。その精度をさらに、そして常時高めるべく、(ともすれば上記提案の中には違うと思われるものもあるかもしれませんが)議論を進めることを願います。

最後に。自分の指摘はチャート管理者側にとって厄介と思われているかもしれません。それでも批判と改善を続けるのは、チャートがより最良の形に成ること、より認知されていくことを願うためです。良い部分はきちんと評価しながら違和感はきちんと言語化し改善提案を続けるというウォッチドッグ(監視)の役割を、今後も続けていきます。