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米レコード協会にて日本語楽曲初のゴールド認定…米津玄師「KICK BACK」の海外チャート動向を確認する

米津玄師さんが昨年リリースした「KICK BACK」が、米で日本語楽曲として初の記録を達成しました。

この記録については、米津玄師さんの新作リリース毎にインタビューを実施し米津さんから全幅の信頼を得ているといえる音楽ジャーナリストの柴那典さんが、Real Soundにてその意義を記しています。下記ポストのインプレッション数の多さからは今回の記録達成への注目度の高さが、そして引用リポスト等におけるリアクションからは柴さんが米津さんファンから信頼されていることがよく解ります。

では、音楽チャートの面からこの曲の持つ意義をみてみます。

 

 

Real Soundによる音楽ジャーナリスト柴那典さんのコラムにもあるように、米レコード協会(RIAA)における現在のゴールド等認定基準は”ユニット”単位となっています。

ダウンロードおよびストリーミング(動画再生を含む)は米ビルボードソングチャートを構成する3つの指標のうちふたつを指します。下記は「KICK BACK」がリリースされた2022年度および2023年度の米ビルボードソングチャート首位獲得曲の指標構成を一覧化したものですが、近年はダウンロード数が少なく、またストリーミング再生回数も以前に比べてダウンする傾向にあります。

その中にあっては、デジタルダウンロード1回で1ユニット、オーディオストリーミング(動画含む)150回で1ユニットとしてカウントされるRIAAにおいて50万ユニットを獲得しゴールドを記録することは難しい(難しくなった)といえるかもしれません。ゆえに米津玄師「KICK BACK」の記録達成は見事といえます。

 

さて、米津玄師「KICK BACK」は米ビルボードソングチャート100位以内にはランクインしていないものの、米ビルボードによるグローバルチャートでは上位に進出を果たしています。紹介するグローバルチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.)については、下記エントリーにてまとめています。

上記表は主に日本で活動する歌手の日本語曲における、米ビルボードによるグローバルチャートでのトップ10ヒット一覧となりますが、YOASOBI「アイドル」のヒットが目立つ中で米津玄師「KICK BACK」はGlobal Excl. U.S.にてわずか1週のランクインにとどまります。またGlobal Excl. U.S.に米の分を含めたGlobal 200ではトップ10入りを逃しています。ゆえに世界全体では「KICK BACK」以上に「アイドル」が強いことが解ります。

一方、グローバルチャートにおいてストリーミング指標の一要素となっているSpotifyの動向をみると、米津玄師「KICK BACK」はReal Soundでも紹介されたようにグローバルデイリーチャートで最高47位、米では最高59位を記録しています。YOASOBI「アイドル」はグローバルで最高78位となった一方、米ではデイリー200位以内にランクインしていません。少なくとも米では「KICK BACK」がより高い位置に進出したといえます。

(Spotifyにおける動向は上記リンクにてまとめられています。)

無論この2曲の差にはタイアップ先アニメの米での浸透度等が影響しているでしょう。データ分析および提示に長ける徒然研究室(仮称)さんが先日このようなポストをアップしていますが(スレッドの一部を下記に掲載)、日本人歌手は米で受け入れられている土壌があるといえます。その中にあって米での『チェンソーマン』の浸透が、「KICK BACK」の一層の普及につながったのではないかと考えます。

 

 

ビルボードに話を戻すと、一部歌手については米ビルボード各種チャートでの成績を確認することができます。

米津玄師さんおよびYOASOBIの米ビルボード各種チャートにおける成績一覧は上記リンクから確認できます。YOASOBI「アイドル」は東南アジアの複数の国や地域で上位に進出している一方、米津玄師「KICK BACK」は東アジアをはじめカナダのソングチャートでも登場していることが解ります。そして「KICK BACK」は米ビルボードのジャンル別チャートにも登場しているのです。

総合ソングチャートと計算方法が同一となるホットロック&オルタナティブソングチャート、そしてホットロックソングチャートにおいて米津玄師「KICK BACK」は前者(毎週50位まで掲載)で20週、後者(毎週25位まで掲載)で9週ランクインしたことになります。そして総合ソングチャートやこれらジャンル別チャートはダウンロード、ストリーミングそしてラジオという3つの指標で構成されます。

それを踏まえるに、米津玄師「KICK BACK」は米のラジオでも定期的にOAされたといえるかもしれません。『決して海外の音楽シーンのトレンドを意識したり、グローバルヒットになることを狙って作られたようなものではない』『むしろ北米や英語圏のポップスの潮流にはないタイプ』『歌詞も日本語』(『』内はReal Soundのコラムより)という作品が米のラジオでかかること自体、画期的なことではないかと考えます。

たとえば2010年代以降世界を席巻するBTSにおいては、米ビルボードソングチャートの構成指標であるラジオにおいて週間チャート(50位まで掲載)にランクインしたのは3曲のみであり、トップ10入りは「Dynamite」の10位となります(BTS | Biography, Music & News | BillboardからRadio Songsを選択して確認可能)。アジア発の作品が米でヒットするのは難しい現状にて、ラジオも含めたチャートでのヒットは実に興味深いのです。

 

 

さて今回の快挙についてですが、実はもう少し早く達成できたのではと感じています。

上記は米津玄師「KICK BACK」、およびその「KICK BACK」と同じく昨年10月12日にデジタルリリースされたOfficial髭男dism「Subtitle」の登場2週目までにおけるビルボードジャパンソングチャートの動向を記したエントリーですが、2曲の動画再生指標は大きく異なることが解ります。これはフル尺による公式オーディオを広くアップしたかどうかの差が大きく影響しています。

これは直近2週における藤井風「花」でも言及したことですが、ミュージックビデオ未公開の状況でも自身のYouTubeチャンネルにてデジタルリリース時にきちんと公式オーディオを公開すれば、動画再生指標を押し上げることが可能です。「花」は登場2週目においてこの指標が77→21位へ上昇、またOfficial髭男dism「Subtitle」でも同種の現象が発生しています。

他方、米津玄師「KICK BACK」では公式オーディオはリリースから数日後に30秒版が公開され、またリリース日に公開された『チェンソーマン』ノンクレジットオープニング動画はアニメ制作会社のYouTubeチャンネル発ゆえおそらく動画再生指標未加算となっています。それを踏まえれば、仮に公式オーディオをフルで用意すれば昨年10月25日のミュージックビデオ公開までに動画再生指標が高位置で推移したものと考えます。

この提案は音楽チャートを見越したものにとどまらず、また日本/海外の別は関係ありません。公式オーディオの公開はダウンロード等を鈍くさせかねないとする懸念があるかもしれませんが、映像作品タイアップならば尚の事その作品からYouTubeへの導線が太くなり、公式オーディオ聴取が増え、RIAAゴールド認定までのスピードも加速したはずです。公式オーディオはJ-POP歌手、日本の音楽業界全体の課題と考えます。

 

 

最後は提案という形になりましたが、米津玄師「KICK BACK」の記録達成は素晴らしいことです。柴那典さんがReal Soundのコラムにて『J-POPの海外受容という面でもエポックメイキングな出来事』と記していますが、今回の「KICK BACK」におけるゴールド認定やチャート動向を機に日本の楽曲がアジア以外の国や地域でも浸透度が高まる予感がします。

 

もうひとつ提案するならば、日本の楽曲の海外人気については今年9月にビルボードジャパンが立ち上げた新たなチャートをチェックすることを勧めます。Japan Songs (国名)は来月にも米等が追加される模様です。そしてJapan Songs (国名)やGlobal 200をベースにしたGlobal Japan Songs Excl. Japanを知ることは、歌手側の海外展開の施策設定やコアファンの方々の海外発信(いわゆる推し活の発展)にもつながるものと考えます。