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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードがアルバムのストリーミング人気を可視化したチャートを新設、その意義を考える

ビルボードが新たなチャートをローンチしました。それがトップストリーミングアルバムチャート(Top Streaming Albums)です。

初回10月28日付となる米ビルボードのトップストリーミングアルバムチャートは、バッド・バニー『Nadie Sabe Lo Que Va a Pasar Mañana』が首位に立っています。

 

今回新設された米ビルボードトップストリーミングアルバムチャートは、総合アルバムチャートにおけるSEA(動画再生を含むストリーミングのアルバム換算分)のユニット数に基づくと捉えていいでしょう。バッド・バニー『Nadie Sabe Lo Que Va a Pasar Mañana』は10月28日付総合アルバムチャートでも首位に立っていますが、アルバムチャートにおけるSEAは今回新設されたチャートと同様、2億3956万となっています。

 

さて、上記ポスト(ツイート)のリンク先にある新設チャートの記事には、『Top Streaming Albums, like Top Album Sales (also 50-positions deep), is a component chart to the overall Billboard 200 albums chart. (トップストリーミングアルバムチャートは、トップアルバムセールスチャート(同じく50位まで)と同様、米ビルボードアルバムチャート全体を構成するチャートです)』と記載されています。

ビルボードアルバムチャートはSEAおよびTEA(アルバム収録曲の単曲ダウンロードにおけるアルバム換算分)、そしてフィジカルおよびデジタルのセールスにて構成されています。TEAの数値は大きくないため、総合アルバムチャートに大きく影響する2指標のどちらも可視化するという動きが、今回のトップストリーミングアルバムチャート公開のきっかけになったと捉えていいでしょう。

 

今年度の米ビルボードアルバムチャートにおける首位作品の動向を上記表にまとめていますが、首位獲得週のユニット全体におけるSEAの割合(”SEA/ユニット”で表示)は、翌週におけるユニット前週比と比例する傾向にあることが見て取れます。他方セールスの割合が大きく、特にフィジカルセールスが強い作品はこのふたつの割合とも低くなっています。とりわけK-POPにおいて、そのことが目立つ状況です。

今回のチャート新設は総合アルバムチャートにて接触指標であるSEAの重要性を示し、長く聴かれるアルバムが支持を集めていることを米ビルボードが示したと考えていいのかもしれません。となるとK-POPは不利になると捉える方がいらっしゃるかもしれませんが(現に米ビルボードへ失望を表明するK-POPファンの反応を確認しています)、ならばK-POP接触指標に強くなるべくアイデアを出すほうがより好いと考えます。

実際、10月28日付米ビルボードアルバムチャートで3位に初登場を果たしたTOMORROW X TOGETHER『The Name Chapter: Freefall』はセールス部門を制していますがSEAは弱い状況です(114,500ユニットのうちセールスは106,000、SEAは8,000)。K-POPの存在感が米ビルボードで大きくなっているのは事実ですが、ソング/アルバムチャートの双方で接触指標を高め、真に米社会へと浸透させることは必要でしょう。

 

(ただし米ビルボードに対し、SEAの算出方法に疑問を抱いていることを記しておきます。聴取回数をユニット数に変換する際の分母は収録曲の大小に関わらず統一されており、収録曲数が少ないアルバムは不利になるといえます。それもあってか、米音楽業界ではオリジナルアルバムリリース直後のデラックスエディション発表も目立ちます。曲数に応じて分母を分けるよう、チャートポリシー(集計方法)の変更を希望します。)

 

 

なお今回新設されたトップストリーミングアルバムチャート、そして以前からあるトップセールスアルバムチャート共に米ビルボードは有料会員向けにのみ公開していますが、接触指標に特化したアルバムチャートをビルボードジャパンも踏襲し、新設することを希望します。現在のビルボードジャパンアルバムチャートは所有指標のみで構成されており、聴かれている作品を可視化することは難しいといえるため尚の事です。

今年度のビルボードジャパンアルバムチャート、およびSpotifyのアルバムチャート動向をまとめた表を掲載しましたが、所有と接触とで傾向が大きく異なります。ビルボードジャパンアルバムチャートにはSEAは含まれていないため、米ビルボードよりもアルバムチャートが社会的ヒットと乖離している点は否めないかもしれません。米ビルボードの今回の動きがビルボードジャパンを刺激することを願います。