イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

日本でヒットしにくくなったベストアルバムがアメリカで目立ち始めた? 背景にあるチャートの特性とは

昨年紹介したこちらのセール、青森県津軽地方ではこの夏も行われています。

弘前店は既に終了したのですが、青森や柏、隣県の大館等各店舗で開催中。引退した女性歌手、ボカロPとしてのキャリアを持つ歌手、俳優等マルチに活動する歌手等、日本を代表する方の作品が220円、はたまた110円になっても残っている状況を見て、レンタル、そしてCD自体の将来を悲観した自分がいます。

 

CDの売上や所有行動に少なくとも影響を及ぼしているのが、サブスクの普及であることは間違いないでしょう。そしてこの普及は、アルバムチャートにも大きな変化を及ぼしています。

直近3年間におけるビルボードジャパン年間アルバムチャートでは2019年度に嵐、2021年度にBTSのベストアルバムが首位を獲得したものの、それぞれの年度においてトップ10入りは1作品のみ(2019年度には、ベストアルバム的要素を持ち合わせているクイーン『ボヘミアン・ラプソディサウンドトラックもランクイン)。そして2020年度においてはベストアルバムがトップ10内に入っていません。

ビルボードジャパンが総合アルバムチャート(Hot Albums)を開始した2015年度は、ベストアルバムがトップ10内に3作品ランクイン(上記ツイート内リンク先参照)。サブスクの興隆に合わせて、ベストアルバムがセールスの牽引材料となっていた時代は過ぎたと言えるかもしれません。

原因として考えられるのが、サブスクのプレイリストという存在。

たとえばこちらはSpotifyが作成、用意した米津玄師さんのプレイリスト。執筆時点ではは最新曲「M八七」が先頭に配置されていますが、2年前のサブスク解禁時はアルバム『STRAY SHEEP』収録曲が冒頭に置かれ、頭から順に聴く方が多かったことでSpotifyデイリーチャートに大きく反映されたことが判っています。

サブスクのプレイリスト、もっと言えばサブスク自体がベストアルバムのヒットを小さくしたと言えるかもしれません。

 

日本でのベストアルバムの人気はカラオケ文化の存在も大きく、他方その文化が薄いと言えるアメリカではベストアルバムが人気とは言い難いという印象を抱いています。その中にあって、最新9月10日付米ビルボードアルバムチャートでベストアルバムがランクインしているのは興味深い出来事です。

10位に初登場したのはニッキー・ミナージュ『Queen Radio: Volume 1』。ユニバーサルミュージックでは”ベストヒット・コンピレーション・アルバム”と紹介しています。

最新チャートの集計期間初日に『27曲を収録した通常版がリリースされ、その2日後にジャマイカのシンガー=Skengとコラボレーションした「Likkle Miss」のリミックスを収録し、再リリース』(上記ツイート内リンク先より)という、デラックスエディション手法を用いたこともトップ10入りの要因と言える『Queen Radio: Volume 1』。8月27日付米ビルボードソングスチャートを制した「Super Freaky Girl」も収録されています。

勿論Spotifyにも”This Is ニッキー・ミナージュ”というプレイリストが用意されていますが(→こちら)、ニッキー・ミナージュはプレイリスト的ベストアルバム『Queen Radio: Volume 1』を用意し「Super Freaky Girl」を冒頭に配置することで、ニッキー・ミナージュを聴くならば『Queen Radio: Volume 1』という囲い込みを行ったものと考えられます。そしてベストアルバムの用意は、チャートポリシーの巧い活用とも言えます。

 

ビルボードアルバムチャートのチャートポリシー(集計方法)はデジタル/フィジカルのセールスのほか、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)、そしてストリーミング(公式動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)を含みます。TEAやSEAは曲数の大小にかかわらず分母が同じであり、曲数が多いほうがTEAやSEAで有利に。またデラックスエディションリリースは、追加分の単曲ダウンロードを狙ったものとも考えられます。

昨年の米ビルボード年間アルバムチャートを制したモーガン・ウォレン『Dangerous: The Double Album』はオリジナルアルバムですが、元々収録曲が30曲と多く、さらには後に3曲を追加したデラックスエディションもリリースされています。その曲数の多さもチャートに作用したことを踏まえ、BTSのアンソロジーアルバム『Proof』が米ビルボードで有利になる可能性を上記ブログエントリーで述べています。

そして米ビルボードアルバムチャートでベストアルバムが上位に登場した例として挙げられるのがザ・ウィークエンド。

「Blinding Lights」や「Save Your Tears」を含むベストアルバム『The Highlights』のチャート登場以降、これらの曲が収録されたオリジナルアルバム「After Hours」が乱高下しています(上記ブログエントリー参照)。アルバム単位でより多く売り上げたほうにTEAやSEAが加算されることがその理由であり、ベストアルバムは米ビルボードアルバムチャートのチャートポリシーも理解した上でリリースしたと言えるでしょう。

曲数の多さが有利に働くこと、そしてベストアルバムのほうが売れればそちらにTEAやSEAが加算されること…双方のチャートポリシーを有効活用したのがニッキー・ミナージュ『Queen Radio: Volume 1』だと考えます。尤も「Super Freaky Girl」はオリジナルアルバム未収録ですが、再生すればアルバムのSEAを押し上げ、アルバムチャートにも有利に働くことになるはずです。

 

ビルボードアルバムチャートのチャートポリシーにおいては、TEAやSEAの分母を作品毎に分け、各作品の収録曲数(デラックスエディションをリリースしたならばその曲数)で割るべき等の変更を個人的には希望していますが、今のヒット曲がアルバムチャートにも反映されやすい米ビルボードのチャートポリシーは、ビルボードジャパンにおいても導入を検討すべきではないかと感じています。

そしてニッキー・ミナージュにおいては、シングル「Super Freaky Girl」でもチャートを十分意識した施策が行われていました。さらに一昨日には新たなリミックスもリリースしており、歌手側がチャートを強く意識し行動していることが解ります。

日本においてもチャートを意識したリリース施策は増えていくことでしょう。そのためには、ビルボードジャパンが信頼されるチャートに成ることも必要です。米ビルボードアルバムチャートのチャートポリシー導入検討も含め、ビルボードジャパンには信頼に足るチャートに成るよう自問自答を続けることを強く願います。