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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードがアルバムチャートの集計方法を変更へ…考えられる変化、および米ビルボードへの提案を記す

ビルボードは、アルバムチャートに関するチャートポリシー(集計方法)を変更する旨を事前にアナウンスしています。

そしてこの報道については、ビルボードジャパンが翻訳版をアップしています。今回は変更の内容について紹介し、私見を提示します。

 

7月15日付米ビルボードアルバムチャート(集計期間:6月30日~7月6日)からの変更点は以下の通り。この条件の下、バンドルの販売がカウントに"復活"します。

このパックは一つのアルバム・リリースにつき二つのオプションに限定される。例えばスウェット・シャツとLP、TシャツとCDといった具合で、それぞれのアイテムは同じオンライン・ショップで個別に販売されなければならないという条件もある。ファン・パックには、コンサート・チケットやミート&グリートの参加権、バーチャル・アイテムや無形の特典は含まれず、商品のみが含まれるほか、アルバムのフィジカル・バージョンが含まれる必要がある。つまりデジタル・ダウンロードとグッズの組み合わせは、チャートの対象にはならない。また、ファン・パックは、発売日前にルミネートと米ビルボードの承認を得る必要がある。

ビルボードは、3年前にバンドル自体を廃止。詳細については、下記エントリーにて紹介しています。

今回の復活について、『米ビルボードの執行副社長でチャートとデータ・パートナーシップ担当のシルヴィオ・ピエトロルオンゴは、「ファン・パックの提供は、アーティストとファンのダイナミックな関係を認識するための方法です」と述べて』います(『』内はビルボードジャパンの記事より)。この部分は極めて重要だと捉えています。

 

 

今回のチャートポリシー変更に伴い、ファンダムの数が多く熱量が高い歌手の作品ほど初動ユニット数が大きくなるものと考えます。

 

たとえば、最新5月13日付米ビルボードアルバムチャートではSEVENTEEN『FML』が2位に初登場を果たし、モーガン・ウォレン『One Thing At A Time』に肉薄しています。

注目は、この2作品における構成ユニットの違い。米ビルボードアルバムチャートはフィジカルおよびデジタルのセールスのみならず、単曲購入分のアルバム換算分(TEA)および動画再生を含むストリーミングのアルバム換算分(SEA)で構成されるのですが、モーガン・ウォレン『One Thing At A Time』が獲得ユニット数の9割以上をSEAで占める一方、SEVENTEEN『FML』は9割以上がセールス、それも下記に因るものです。

多くのK-POPアルバムと同様に、『FML』も特典の異なる数種類のパッケージで販売されたCDの売上が全体(132,000枚)の98%を占めていて、デジタル・ダウンロードはわずか2%程度だった。なお、現時点ではアナログ盤(LP)とカセットテープはリリースされていない。

ビルボードの元記事には『特典の異なる数種類のパッケージ』の詳細が掲載(『the CD edition of FML was issued in collectible CD packages (14 total, including exclusives for Barnes & Noble, Target and the Weverse webstore), each containing a standard set of items and randomized elements (postcards, mini posters, bookmarks and stickers).』)。米ビルボードによるチャートポリシー変更が、施策を得意とするK-POPを中心に所有指標で強い作品やジャンルの勢いを助長させることは容易に想像できるはずです。

 

ただ、所有指標は持続しにくく、アルバムチャートではK-POPやロック等所有の強いジャンルを中心に2週目以降の急落が目立ちます。ここ数年の年間チャート動向および今年のモーガン・ウォレン『One Thing At A Time』の強さを踏まえれば、ストリーミングの強さがより真の社会的ヒットたる条件と考えるに、米ビルボードは複数週の動向をチェックすることの重要性等、チャートの見方やスタンスを明示することが必要です。

(他方、先述したTEAやSEAを算出する際に用いられる分母はアルバムの収録曲数に関係なく一律であるため、ここ数年は収録曲数の多い作品が有利になる傾向があります。リリース直後のデラックスエディション発売という手法(によりオリジナル版を手に入れた方が損をする構図)を抑えるという意味でも、米ビルボードにはTEA等に関するチャートポリシーの変更を望みます。)

 

 

加えて、米ビルボードの様々な対応に引っ掛かりを覚えることから、その点に対する改善要求を記します。

 

今回の米ビルボードによるチャートポリシー変更を記した内容は、米ビルボード有料会員のみに公開されています。歌手側やコアファンの過度な施策および対応は問題でも、推す歌手の順位を上げたいと考えるのは自然なことであり、チャートポリシー変更のアナウンスは彼らに対しても重要です。にもかかわらず、記事の公開範囲を狭めることに違和感を覚えます。

また米ビルボードはソングチャートにおいて、昨年1月および先月にチャートポリシー変更を実施している模様ですが、いずれも正式アナウンスがありません(上記参照)。チャートポリシー変更を隠すと捉えられかねない行動は強く引っ掛かります。さらにこの2週間、アルバムチャートの速報は日本時間の火曜早朝となっています。通常は月曜が発表タイミングなのですが、なぜ遅くなったのか等のアナウンスが見られません。

 

これらについて、米ビルボードに対し情報開示やスケジュールの徹底、そして意識の改善を強く求めます。