イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

旧ジャニーズ事務所所属歌手による音楽作品のデジタル解禁を提案し続ける理由

Hey! Say! JUMPが昨日4曲入りデジタルEPをリリースしたことについては、昨日のエントリーにて記載しました。1曲目に収録されたミュージックビデオもフルバージョンにて公開されています。

昨日も述べましたが、旧ジャニーズ事務所所属歌手の音源リリースはシングルのフィジカルセールスが初週20万以上を見込める歌手ほどデジタルから遠かったものの、そのリリースの方針は事務所初代社長による性加害問題を機に見直しが余儀なくされるといえます。言い換えればデジタル解禁NGというしがらみがなくなり、自由にデジタルの空を翔けることができるかもしれません。

 

無論、旧ジャニーズ事務所初代社長の性加害問題を解決させること、直接被害を受けた方が救われることが最優先の課題です。またこの問題が長年行われてしまったこと、メディアが半ば黙認していた(と思われておかしくない態度を取り続けてきた)ことを踏まえれば、メディアの改善も絶対に必要です。勿論、問題を指摘しやすい、助けを求めやすい環境の構築も必須です。

それらが前提であることをあらためて記した上で、音楽チャート分析を基に音楽業界の改善を提案するこのブログでは今一度、旧ジャニーズ事務所に対し所属歌手全作品のデジタル解禁を希望します。

 

 

このブログでは以前、旧ジャニーズ事務所を巡る諸問題の根底にあるものについて以下のように記しました。

音楽業界におけるジャニーズ事務所の立ち位置は独特のものです。時代に応じた聴かれ方を導入せず、改善の声に応えず、昔ながらのメディアと良好な関係を続けることでその地位を保っています。”報じないこと”と同種の手法を用いてライバルを排し、その姿勢を自己保身を優先するメディアが批判しないことが、当該事務所の立ち位置を悪い意味で独特なものにさせた根底にあるものだと考えます。

(中略)

ジャニーズ事務所所属歌手の大半がデジタル未解禁に徹するのは、メディアが批判しないことも大きな理由と考えます。しかしそのメディアが辞めた方やライバルを同列に並べない以上、彼らに客観的な視点を持って批判し改善を求めることを望むのは難しいでしょう。健全な批判がないことで競争という意識が生まれず、自分が勝てるところでだけ勝てればいいという不健全な意識を醸成してしまったものと考えます。

ジャニーズ事務所側の"勝てるところでだけ勝てればいい"、そして批判しないメディアは所属タレントを優先的に起用することで"自分たちが勝てればいい"という、双方の保身というスタンスが優先され続けた結果、デジタル未解禁という時代錯誤の手法に固執させてしまったものと捉えています。

今回の提案を機に、基本的にフィジカルに絞っていた音源の発信をダウンロードやサブスクに拡げること、またYouTubeでの公開についてはフルバージョンとし、広い意味でデジタルに明るくなることを望みます。

 

 

ジャニーズ事務所所属歌手作品のデジタル解禁提案については反対意見も出てくるものと思われます。その一種が初代社長の性加害の肯定につながりかねないというものですが、その点については以前スレッドにて私見を述べています(→こちら)。その際に例として挙げたのがR.ケリーですが、現在収監中の彼の作品はたとえばSpotifyにて聴取可能な状況です。

スレッドの一部を上記に掲載しましたが、環境を整備した上で聴く/聴かないの選択肢をユーザーに委ねさせることが重要ではと感じています。またガイドライン等ルールの策定は重要です。先日の会見で問題になったNGリストが本来は様々な会見の慣例になっていた模様であり、ならばメディア側がリストを用意させないといったような会見のあり方を事前に提案できたものと捉えています。

 

 

では、今回の提案理由をまとめます。

 

ジャニーズ事務所所属歌手による音楽作品のデジタル解禁を提案する理由>

 

ビルボードジャパンソングチャートでのヒットにつながること

音源のデジタル解禁はビルボードジャパンソングチャートでの上昇や安定につながります。これはこのブログで幾度となく記していますが、時代の聴かれ方に即したビルボードジャパンソングチャートのチャートポリシー(集計方法)変更の流れからも明らかです。

ビルボードジャパンソングチャートはフィジカルセールス指標に係数処理を施した(一定枚数以上の週間フィジカルセールスに適用し、フィジカルセールスをそのまま加算しなくなったことでデジタルのヒット曲が週間単位でも上位に到達しやすい状況を整備した)2017年度以降は特に、社会的ヒットの鑑と成っています。昨年度の年間ソングチャートをみれば社会に浸透している曲が上位に入っていることがよく解るはずです。

昨年度の年間ソングチャート100位以内に入った旧ジャニーズ事務所所属歌手の作品はほぼありませんが、ランクインしたSnow Manブラザービート」やなにわ男子「初心LOVE」は動画をフルバージョンで公開したことも功を奏しています。このことは、サブスクを解禁していればもっと支持されたと考えるに十分です。

無論、デジタル解禁は中長期的のみならず週間単位、フィジカルセールス初加算のタイミングでもより高いポイントを得ることにつながります。

 

② 過去曲がフックアップされやすい環境を構築できること

最新曲のみならず、過去曲が注目された際にデジタルアーカイブを充実させていれば曲の浸透やチャート面でも上昇度合いが大きくなるはずです。昨年はKing & Prince「シンデレラガール」や「ツキヨミ」、また期間限定で復活した男闘呼組等において、バズの度合いは一気に高まったと考えます。このことは先述した「ブラザービート」や「初心LOVE」等も含め、下記エントリーにて紹介しています。

たとえば今年ブレイクした新しい学校のリーダーズによる「オトナブルー」は2020年の作品であり、同曲はシングルとしてフィジカル化されていません。仮にフィジカルのみのリリースだったならば動画再生指標は伸びたとして、デジタルでのさらなるバズにはつながらなかったでしょう。

 

③ フィジカル重視の姿勢およびオリコンの意識を変えさせること

ビルボードジャパンよりもオリコンが有名だから前者を重視する必要はないという見方に対しては、下記ポストにおけるビルボードジャパンソングチャートとオリコン合算シングルランキングの一覧表を比較することを勧めます。なお紹介分はビルボードジャパンソングチャートにおいて10月11日公開分までとなります。

YOASOBI「アイドル」におけるチャート/ランキングを比較すると、どちらが安定しているか、そしてオリコン合算シングルランキングで「アイドル」を週間単位で上回った曲の直後の急落を踏まえれば、ビルボードジャパンソングチャートがより社会的ヒットの鑑となっていることは明白です。

これはストリーミングの強さが今の社会的ヒットに最も大きく影響していること、そして先述したようにビルボードジャパンが時代の変化に即して随時チャートポリシーを変えてきたことを示しています。他方オリコンは合算ランキングを遅れて開始し、そのランキングのチャートポリシー変更も乏しい状況です。フィジカルセールスを強く重視する歌手が多いことが、オリコンの姿勢を悪い意味で変えてこなかったものと考えます。

ジャニーズ事務所所属歌手に限りませんが、”勝てるところでだけ勝てればいい”というスタンスがオリコン重視およびオリコンの変わらなさにもつながり、双方そして音楽業界全体が変われなかった理由といえます。しかしこのタイミングで旧ジャニーズ事務所側は変わる必要に迫られています。彼らの作品がデジタルの海原に放たれれば、他のデジタル未解禁の歌手、そしてオリコンも変革を迫られることは間違いないでしょう。

 

④ デジタル重視の姿勢へ音楽業界全体を促していけること

性加害問題が日本のエンタテインメント業界全体の閉塞感等マイナスイメージを海外に示してしまった以上、その印象を変えるためにも前向きな姿勢の発信は必須と考えます。旧ジャニーズ事務所側がデジタルに積極的に成ることで日本の音楽作品のデジタルアーカイブ化や、デジタルを敬遠する歌手の意向も変えられるでしょう。

日本では特にベテランによるデジタルへのスタンスが好意的とはいえず、海外も柔軟に視野に入れる若手の足を(日本の音楽全体のイメージをダウンさせかねないという意味でも)引っ張っているといえます。音楽業界が総出でベテランを説得していると言い難い姿勢もみえてきますが、その姿勢は性加害問題を見て見ぬふりをし状況を悪化させたメディアのスタンスに近いのではと考えるに、当然変えるべきというのが私見です。

 

⑤ 真の音楽賞誕生につながること、またチャートへの考え方が変わること

ジャニーズ事務所側は音楽賞に対しても参加しないというスタンスを採っていた模様ですが、業界の慣例が変われば既存の音楽賞が過度な配慮等を行わなくなることで真に影響力を持つように成る、またフラットな立ち位置の音楽賞の創設にも期待できます。

そしてビルボードジャパンソングチャートから解るように、どんなにデジタルに強い歌手であってもリリースの度に大ヒットを飛ばせる、いわば常勝することはできません。その前提を理解できるならば、オリコン重視の姿勢を捨て、勝つことは難しいとしても社会的ヒットが可視化されるビルボードジャパンでの上位進出に挑戦する意欲を持てるはずです。この意識の変化は業界全体の健全化につながるでしょう。

 

⑥ フィジカルの経験値は海外のチャートで活かすことができること

デジタルに明るくなることはフィジカルセールスのダウンをもたらすという見方がありますが、デジタル解禁分で補完できるものと考えます。またデジタルに解禁していればいつでも再ブレイクする可能性が生まれることについては②でお伝えしたとおりです。

加えて、短期的にはデジタルとフィジカルを組み合わせることで初動をより高くすることが可能です。たとえばBE:FIRSTの施策の徹底等からもこのことは明らかであり、フィジカルをどう活用するかが重要です。

フィジカルについてはビルボードジャパンのみならず、たとえば米ビルボードアルバムチャートやソングチャートにおいてはダウンロード指標に加算されます。K-POP歌手やテイラー・スウィフト等コアファンの多い、またコアファンの熱量が高い歌手はその点でも強さを発揮しています。

デジタル解禁は海外進出とほぼ同義です。その上で、フィジカル展開に長けることで海外での成功を掴みやすくなります。所有指標、特にフィジカルの効果は一時的であれ、たとえばK-POPは米ビルボードアルバムチャートで毎週のように上位進出を果たし、ジャンル全体の影響力を高めることに成功しています。

 

⑦ エンタテインメント業界に蔓延る”タブー”という考え方が変わること

デジタルの解禁はたとえば脱退した方や、違反行為を犯した方(更正を目指している方もしくは既に更正した方を含む)を”なかったことにする”という、日本のエンタテインメント業界に蔓延る歪な対応を質し、最終的にその慣例を変えることにもつながるでしょう。タイトルに”タブー”と書きましたが本来はそんなことはなく、触れないのが吉という姿勢を慢性的に続けたことで結果的にタブーに成ってしまったものと考えます。

たとえばデジタル解禁を決めたHey! Say! JUMPや、比較的早い段階でデジタルリリースを開始したKAT-TUNにおいて、メンバー脱退前の過去曲もきちんと配信させることは必須です。これは旧ジャニーズに限らずであり、またこれが叶うことでたとえばテレビでの過去映像の使用において過度な配慮がなくなることにもつながるでしょう。

昨日をもって旧ジャニーズ事務所から独立した二宮和也さんは嵐としての活動を継続していくことを明言しています。その二宮さんのソロ作品や嵐の音源はサブスクサービスで本日も聴取可能な状況であり、また二宮さんの独立よりも前にTOBEへ移籍した元V6の三宅健さんによる旧ジャニーズ事務所所属時リリースのソロ作品も同様に聴取可能となっています。

テレビにおいてはTOBEへの移籍を発表した元King & Princeの岸優太さんが、その発表直後に放送された『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ)に出演しましたが、今後も出演の方針に変更がないことが定例社長会見にて明言されています。

これまでは独立した方についてエンタテインメント業界全体が過度に取り上げない傾向があり、ともすればサブスクやYouTubeからコンテンツが外れることも考えられましたが、エンタテインメント業界においてはその流れが大きく変わりつつあります。過去のアーカイブを遮らずにきちんと発信することで、その方の歴史や辿った証をきちんと残すことが可能です。

そしてこの変化は、これまでのエンタテインメント業界の過度な対応を仕方ないとする空気に支配された市井に対し、自ら考えることを促すきっかけにもなるでしょう。

 

 

以上7点、理想論なのは承知で、しかし変える必要があると考え提案しました。

権利関係の難しさゆえにデジタルアーカイブ化は厳しいと指摘する声もありますが、旧ジャニーズ事務所YouTubeチャンネルのひとつ、+81 DANCE STUDIO(→こちら)が過去の所属歌手による作品を用いてきたことを踏まえればそこまで難しくないのではと捉えています。そしてデジタル化は世界における日本のエンタテインメント業界全体の向上に欠かせません。

 

 

最後に。9月の旧ジャニーズ事務所の会見以降、事務所に対し忖度せざるを得ないという同事務所側からの圧力があったという発信がみられます。圧力自体は本当に問題ですが、(先程記した会見に対する事前提案の必要性と同様のアプローチにて)メディア全体がスクラムを組んでルールを策定し、圧力を許さない仕組みを作っていたならばと感じています。それがなかったことが先述したタブー等にも反映されていると思うのです。

2004年の著作権法改正法案可決直後にはCDショップの大手であるタワーレコードHMVが共同声明を発表、法案の悪用を監視することを宣言しています。

(中略)

輸入盤CDはほとんど規制されることなく現在に至っていますが、これはタワーレコードHMVが法案悪用を防ぐべく”監視する”という姿勢を示したことが大きいと考えます。

香川県のネット・ゲーム依存症対策条例がフラッシュバックさせた16年前の悪しき法改正、その共通点および大事なこと(2020年3月25日付)より

自分は2004年の著作権法改正にて輸入盤CDが規制される(輸入されなくなる)可能性について動向を追いかけ続け、発信したブログ等がウォッチドッグ(監視)のひとつとして機能できたものと捉えています。音楽評論家等が野党側を動かし(他方で与党側は法案改正を目指す権力者側に立ち続けました)、法案は通ったものの問題だとして監視するという空気を生みました。そしてタワーレコードHMVによる共同声明発信に至っています。

最終的に法律の悪用にはほとんど至らず、輸入盤CDは手に入れられる状況が続いていますが、これは真に動いた方の努力の賜物だと感じています。今回この事例を挙げたのは、共同声明という手法をメディアが採用し旧ジャニーズ事務所側に対して提示することができたのではないかと感じるためです。問題が拡大してしまう前にできたならばと思わずにはいられません。

 

性加害問題の解決を機に、不条理を放置しないこと、指摘と提案がしやすい環境を作ること、ルールを策定すること、そして真の意味での自己責任等が業界そして日本全体に芽生えることを願っています。