イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

デジタル後発リリースの総合アルバムチャート制覇と、デジタルを味方にすることの重要性について

最新10月11日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートは、Mr.Children『miss you』が総合首位を獲得、YOASOBI『THE BOOK 3』が続いています。

『miss you』はMr. Childrenの21stアルバムで、(中略) 本作はアルバム・セールス150,267枚で1位を記録している。

続いて、YOASOBIの3rd EP『THE BOOK 3』が総合2位に登場。同作はアルバム・セールス72,927枚で2位、ダウンロード数9,094DLで1位を記録している。

最新アルバムチャートの上位2作品におけるCHART insightをみると、チャート構成比において大きな違いがみられます。

アルバムチャートはフィジカルセールス指標(黄色で表示)とダウンロード(紫)で構成されますが、Mr.Children『miss you』についてはデジタル後発という措置を採っており、ゆえに同作品ではダウンロード指標が加算されていません。この措置等については下記エントリーにて私見を記しています。

(なお、ビルボードジャパンは総合アルバムチャートの記事において『miss you』のデジタル後発について触れていませんが、後発措置が歌手側の意向であるならばその事実を書いたとしても歌手側のマイナスにはならないと考えるゆえ、きちんと記すべきでしょう。施策について記載することの重要性については以前も提案しています(→こちら)。)

 

他方、YOASOBI『THE BOOK 3』はダウンロード指標を制しており、その数値は非常に高いものとなっています。

本作は、10月4日にリリースされたYOASOBIの3rd EP。初週ダウンロード数は9,094DLで、2023年に発表したチャートのうち、初週ダウンロード数は2番目に多い結果となった。なお、2023年で最も週間ダウンロード数が多かったのは、結束バンド『結束バンド』。初週ダウンロード数は2,042DLだったが、CD発売後の2週目にダウンロード数を大きく伸ばし、一週間で15,190DLを売り上げた。

記事にもあるように結束バンド『結束バンド』の1月4日公開分におけるダウンロード数は突出していますが、YOASOBI『THE BOOK 3』はそれに次ぐ水準となっていることは大きな注目点です。

加えて、最新のビルボードジャパンソングチャートにおいて「勇者」がダウンロード指標を制しています。この曲は『THE BOOK 3』収録作品の中でインタールードを除けば最後にデジタルシングル化されています。ゆえに、これまでのシングルをダウンロード購入した方においてはシングルのみ購入しアルバムを買わないという選択肢も採ることができたはずですが、YOASOBIはシングルもアルバムも売れたことになるのです。

『THE BOOK 3』の初週セールスはフィジカル72,927枚/ダウンロード9,094DL。過去作品の初週動向をみると前作『THE BOOK 2』はフィジカル83,585枚/ダウンロード8,717DL(2021年12月8日公開分)、前々作『THE BOOK』はフィジカル74,601枚/ダウンロード10,069DL(2021年1月13日公開分)となり、3作品においてそこまで大きな差が生じているわけではないと考えます。

『THE BOOK 3』は初週フィジカルセールスこそダウンしていますが、アルバム収録曲の「アイドル」および『はじめての - EP』(「セブンティーン」等4曲を収録し、ビルボードジャパンではシングルとしてカウント)がフィジカルシングルとしてリリースされたことで、ともすればフィジカルアルバムの買い控えが起きたかもしれません。その仮定が正しいとして、フィジカルセールスは十分な数値といえるのではないでしょうか。

 

デジタルに明るくなればフィジカルの売上が阻害されるという懸念を持ち合わせている方は、今回のYOASOBIの動向をどう捉えるでしょう。デジタル後発や未解禁はフィジカルへの集中という意味では理解できても、コアファンとライト層の乖離(後者が触れにくい環境)を招くものと考えます。またデジタルは世界リリースとほぼイコールであり、解禁が世界市場の開拓にもつながるということは「アイドル」の成績から解るはずです。

 

なお次週10月18日公開分のソングチャートにおいて、ストリーミングは全体的に増えるものと思われます。これは次週の集計期間初日となる10月9日月曜が祝日だったことが影響していますが、同日付の日本におけるSpotifyデイリーチャートではこのような記録が生まれています。

さらに、直近10月11日付における日本のSpotifyデイリーチャートでは、平日での200位における最高記録が更新されてています(ポストはこちら)。

最新10月11日公開分のビルボードジャパンソングチャートでトップ10入りした曲の中でストリーミング再生回数が週間1千万回を超える曲が3作品あること(Ado「唱」、YOASOBI「アイドル」およびKing Gnu「SPECIALZ」)、Ado「クラクラ」やVaundyさんの2曲等注目の新曲が多いこと、そしてYOASOBI『THE BOOK 3』リリースにより過去作品共々注目されていること等が重なり、ストリーミングの裾野は拡がっています。

その中にあってデジタル後発措置を採用したり、そもそも未解禁であるということは、サブスク等を用いる方にとってリリースタイミングで見つけにくい、もっといえば存在しないと同義となるはずです。歌手側の意向が変わることもさることながら、音楽業界が総出で歌手側の意向を変えさせることは必須でしょう。日本の解禁状況の不十分さに対し海外の方からマイナスイメージを抱かれかねないゆえ、尚の事です。

 

ビルボードジャパンのアルバムチャートには米ビルボードのような、ストリーミング(動画再生含む)再生回数のアルバム換算分(SEA)や単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)が含まれません。仮にビルボードジャパンアルバムチャートが米ビルボード方式に近いチャートポリシーならば、YOASOBI『THE BOOK 3』がMr.Children『miss you』を逆転し総合チャートを制した可能性は高いと考えます。