イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

二回目の紅白予想に対する反応から考える、演歌歌謡曲の現状および提案について

一昨日公開した『第74回NHK紅白歌合戦』(以下”紅白”と表示)の出場歌手予想に関するエントリーにたくさんのアクセスをいただきました。心より感謝申し上げます。そして、番組への関心の高さを感じています。

読んでくださった方がそれぞれ予想を作成することを希望すると共に、特に今年のヒット曲に関する選出についてはビルボードジャパンのチャートが重要であること、そして同チャートが社会的ヒットの鑑であることをお伝えすべく、紅白予想エントリーを用意しています。

 

その中にあって、時折厳しい言葉もいただきます。今回はX(旧Twitter)で引用リポストの形にて予想があり得ない、全然だめという言葉をいただきました。おそらくはその方がとある演歌歌手のファンでありその歌手が選ばれなかったこと、また別の歌手が復帰するという予想についても強く否定したかったのだろうと捉えています。

この演歌歌謡曲ジャンルについて、業界独自の環境について記す必要があると考えていました。今回いただいた非難を機に、今一度掲載します。

 

 

演歌歌謡曲については、ヒット曲を知る手立てが乏しいというのが正直な私見です。

このジャンルはビルボードジャパンによる複合指標のチャートからはヒットが見えにくく、フィジカルセールス(指標)が唯一に近い比較材料と捉えています。そのフィジカルセールス(CDを主体)において、今年は純烈「だってめぐり逢えたんだ」が最大のヒットとなっていることが下記記事をはじめスポーツ紙等で先日一斉にアナウンスされました。

一般社団法人・日本レコード協会に認定されれば、純烈としてはNHK紅白歌合戦初出場を果たした「プロポーズ」「純烈のハッピーバースデー」に続き、4年ぶり3作目のゴールドディスク認定作品となる。

(中略)

同曲は今年リリースされた演歌・歌謡曲ジャンルの中では最大のヒットとなっており、「輝く!日本レコード大賞」や紅白といった大舞台への連続出演が期待される。

この10万枚突破については出荷ベースであることを認識する必要があります。同時に、純烈のWikipedia(→こちら)にてシングルのディスコグラフィをみると、これまで10万枚(出荷ベース)を突破した「プロポーズ」および「純烈のハッピーバースデー」が6種発売だったのに対し、今作「だってめぐり逢えたんだ」は7種リリースとなっていることも注視する必要があります。

 

演歌歌謡曲のジャンルでは若手や中堅の歌手を中心に、シングルのカップリング曲が異なるバージョンを一度に複数種、そして時期を分けて数回リリースする傾向にあります。純烈「だってめぐり逢えたんだ」は2月に3種、6月と9月にそれぞれ2種をリリースしており、単純計算すると1種あたりの売上はおよそ1万枚強となります。

ビルボードジャパンソングチャートにおける純烈「だってめぐり逢えたんだ」のCHART insightを上記に。同曲はフィジカルセールス(黄色で表示)を3回に分けてリリースしたことがほぼそのまま総合チャート(黒)にも反映されていますが、総合100位以内ランクインは1週にとどまります。また他指標の加点(300位以内ランクイン)においてはダウンロード(紫)およびラジオ(黄緑)指標がそれぞれ2週のみとなっています。

上記ポストにて掲載した4曲のCHART insightをみると、いずれの曲もダウンロードおよびラジオの2指標以外、加点されていないことが解ります。なおビルボードジャパンソングチャートにおけるフィジカルセールス指標はサウンドスキャンのデータに基づくため、オリコンとは異なります。

 

今年の演歌歌謡曲最大のヒットとなった純烈「だってめぐり逢えたんだ」において総合ソングチャート100位以内登場が1週のみという状況は、ビルボードジャパンソングチャートが時代に即して変革を続け社会的ヒットの鑑と成った中にあって、演歌歌謡曲が社会的ヒットから遠ざかっていると言っても過言ではないでしょう。そして他の演歌歌謡曲とヒット規模を比べることも難しいといえます。

その状況下では、演歌歌謡曲ジャンルの紅白における出場枠が(特別枠を除き)減少するのは自然かもしれません。昨年は放送日をもって活動を休止する氷川きよしさんが特別枠に移行しましたが、氷川さんが抜けた分を演歌歌謡曲ジャンルの歌手が埋められなかったことも、このジャンルの強くなさを示しているものと考えます。大ヒットが生まれなければ、人気歌手がこれまでのヒット曲を歌うという構図になるのは自然でしょう。

また、今回調べてみて気になったのが、純烈「だってめぐり逢えたんだ」のミュージックビデオの公開日が9月4日だということ。多くの方が出演しておりそのスケジュール調整が理由かもしれませんが、元々のリリースから半年が経過してのミュージックビデオ公開という状況は動画からのヒットに結びつきにくいという点において勿体無いと感じています。

 

 

演歌歌謡曲がデジタルに強くないジャンルであることは容易に想起できることかもしれませんが、それをどうやって克服していくかが重要です。この点は以前も指摘していますが、その際氷川きよしさん側による事例を紹介しています。

社会的ヒット曲を生むためには、デジタル、特にストリーミングの継続的なヒットが必要であり、動画も大きな役割を果たします。またポイント最大化のためにフィジカルをデジタルの後押しとして位置付けることも大切です。そもそもデジタル解禁しないことには、ヒット曲のスタートラインにほぼ立てないとも言えます。

社会的ヒットに至るべく、施策を学び活用することが重要です(無論このことはどの歌手においても言えることです)。個人的には、デジタルについての基礎を図解や動画の形でレクチャーし、サブスクへの導線を作ることを提案します。

arne代表の松島功さん(『日経エンタテインメント!』最新号におけるインタビュー記事も必読です)が紹介しているのは、氷川きよしさんサイドの施策の巧さ。活動休止前に演歌系作品をデジタル解禁したそのタイミングで、デジタルの基礎について紹介しています。活動休止中でも氷川さんの作品にすぐに触れられることをデジタルに疎いとされる中高年層に認識していただくことが如何に重要か、氷川さん側は熟知しています。

このような流布は演歌歌謡曲に限らず様々なジャンルで有効に作用するでしょう。

加えて、デジタルについてはカラオケを用いてレクチャーするのは如何でしょう。コロナ禍において「ラジオ体操 第1」がビルボードジャパンソングチャートのカラオケ指標で100位以内にランクインした経緯があります。そこから高齢者施設にカラオケが設置されていることを実感しており、今回はそれを踏まえて提案しています。

 

演歌歌謡曲を好むとされる中高年層においては、デジタルに慣れるのは難しいかもしれません。しかしながら、CDショップや音楽番組が減っている現状においてネットでCDを買う、YouTubeでチェックする等となれば、結果的にはデジタルに触れざるを得なくなります。

ビルボードジャパンソングチャートにおけるフィジカルセールス指標の重要性が大きくなくなったこともあり、演歌歌謡曲の(ジャンルを超えた)ヒットはほぼないのではというのが厳しくも私見です。覆すにはジャンル全体(発し手のみならず聴き手も)がデジタルへ明るくなることが必要でしょう。フィジカルの複数種×複数回リリースは短期的には有効でも、人口は徐々に減っていく以上どこかで切り替える必要があるはずです。

 

 

最後に。紅白においては和田アキ子さんの復活予想にも非難をいただきました。今年のヒット曲があるわけではありませんが、「YONA YONA DANCE」が2020年代を代表する演歌歌謡曲歌手のヒットであること、今年ヒットした新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」が和田さんの「古い日記」を想起させること、また和田さんの活動状況も踏まえるに、可能性はあると考えます。この点は第一回予想でも記しています(→こちら)。

「YONA YONA DANCE」が演歌歌謡曲界において十分ヒットしていることの提示、そして演歌歌謡曲界への提案については2年近く前にも記しています。紅白における演歌歌謡曲の披露が少ないことについて同番組への(批判と提案よりも)非難の形で増えていることに疑問を呈しましたが、今回自分がいただいたのも非難という形でした。客観的なデータを捉え、分析し、様々な改善策を考えるほうが何倍も建設的でしょう。