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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

フィジカルセールス首位ながら総合50位未達の「群青の弦」から考える、演歌歌謡曲のデジタル解禁提案

2月9日公開分(2月14日付)ビルボードジャパンソングスチャートではAimer「残響散歌」が4週連続、通算6週目の首位を獲得し、BE:FIRST「Brave Generation」が初登場でトップ10入りを果たすもののストリーミングに気になる点がある…これらについては一昨日のブログエントリーにて紹介しています。

今回はビルボードジャパンソングスチャートに初登場した注目曲を紹介します。氷川きよし「群青の弦(いと)」はフィジカルセールス指標で首位に初登場を果たしましたが、総合は53位にとどまっています。

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最新2月9日公開分のビルボードジャパンソングスチャートにおいて、氷川きよし「群青の弦」は18,522枚を売り上げました。

初週フィジカルセールスにおいては前作「Happy!」(2021年)の初登場時における11,200枚を大きく上回りました。前々作「南風」(2021年)の20,454枚やその前の「母」(2020年)における24,020枚には及ばずとも、売上は安定していると言えます。その一方で、フィジカル関連指標となるルックアップ*1は21位でフィジカルセールスと大きく乖離。これはCD購入者のパソコン等利用(取込)率の高くなさも示していると言えるでしょう。

そして気になるのは、デジタル関連指標群がいずれも加点されていないということ。サブスク等の再生回数に基づくストリーミングや動画再生、またダウンロードが300位以内に達していないため加点対象外となるのですが、氷川きよし「群青の弦」は他の演歌作品同様、サブスクのみならずダウンロードでも見つけることができない状況です*2。またミュージックビデオはアップされているものの、ショートバージョンとなっています。

「群青の弦」はA~Cタイプの3種リリースとなっていますが、今後D~Fタイプ、ともすればGタイプ以降も時間を置いてリリースされる可能性があり、その都度再浮上する可能性がありますが、ともすればデジタルを解禁していない最近のフィジカルシングルと同様の動きをなぞるかもしれません。

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「母」はフィジカルセールス2位初登場時に総合ソングスチャート18位を記録した一方で翌週には100位未満にダウン、「南風」はフィジカルセールス3位/総合49位となり、同じく翌週100位未満となっています。「南風」においては「母」同様に後日フィジカルが追加リリースされていますが、「総合100位以内の復帰は叶いませんでした。そして2曲とも、ダウンロード、ストリーミングおよび動画再生指標は未加算です。

デジタル関連指標未加算の状況は、デジタル先行でリリースされた「Happy!」においても同様でした(「Happy!」のCHART insightはこちら。この曲は総合ソングスチャートにおいても100位以内に登場していません)。しかし、2019年から2年連続で『NHK紅白歌合戦』で披露された「限界突破×サバイバー」(2017年)においては、興味深いチャートアクションとなっているのです。

(上記はショートバージョンとなります。)

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上記は総合300位以内初登場からの120週における「限界突破×サバイバー」のCHART insight。サブスク解禁はされていながらストリーミング指標は現在に至るまで一度も300位以内には入っていませんが、動画再生(赤で表示)が時折突出しています。またダウンロード(紫)はフィジカルに先立ってリリースされ、加点されています。

(なお「限界突破×サバイバー」の所有指標においてはフィジカルリリースが2017年10月25日。同年8月26日に先行でデジタル解禁され、2月15日には同曲がオープニングテーマに起用された『ドラゴンボール超』のテレビサイズ版となるショートバージョンがリリースされています。このショートバージョンもダウンロード指標に加算されています、)

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そしてこちらが、最後に総合300位以内にランクインした今年1月5日公開分(1月10日付)までの150週における「限界突破×サバイバー」のCHART insight。2つ目と3つ目の山は2019年および2020年の『NHK紅白歌合戦』披露効果となり、一度目の紅白披露のインパクトが大きいことが解ります。そしてその前の山は、コンサートを収録したDVDのリリース後に同曲のコンサート動画が公開されたことに伴うものです。

さらに言えば、2019年の『NHK紅白歌合戦』の1ヶ月前にも「限界突破×サバイバー」のライブ映像が日本コロムビアの公式YouTubeチャンネルからアップされています。これが2019年紅白披露前後のビルボードジャパンソングスチャートにおけるインパクトをさらに増幅させたことは間違いないでしょう。

日本コロムビアの演歌歌謡曲ジャンルにおける公式Twitterアカウントでは、後者のライブ映像に絡めてこのようなツイートが行われています。配信情報まとめのリンク先は現在使われていませんが、J-Popの歌手がよく行う訴求方法が踏襲されたこちらのツイートも、音楽チャートに少なからず影響を与えたはずです。

 

氷川きよしさんにおいても、デジタルを活用したヒットの事例が生まれていることが解ります。「限界突破×サバイバー」は紅白での披露によってさらに広く認知浸透したと言えるかもしれませんが、そこに至るまでに投入された動画の効果は決して小さくはなく、総合100位未満であってもロングヒットに至った原動力のひとつであることは間違いないでしょう。

ならば演歌ジャンルの作品においても、たとえばミュージックビデオはショートバージョンのままでもコンサートや舞台でのライブ映像をフルバージョンにて後日公開し、いつ何時注目を集めてもすぐ聴くことのできる環境を構築することを勧めます。そうすればフックアップ時の伸び具合はより大きくなるはずです。デジタル解禁後のオリンピック開催で25位まで浮上した嵐「カイト」等、ここでは複数の事例を紹介しています。

(上記ブログエントリーで紹介した後、「カイト」は最終的にビルボードジャパンソングスチャートで25位まで再浮上を果たしました。)

 

 

デジタルの非充実およびフィジカルリリースの徹底がここ数年の演歌歌謡曲ジャンルにおいて社会的ヒット曲が生まれにくく、時代と乖離しているものと考えます。昨年の紅白においてはリアルタイム視聴率の低さを演歌歌謡曲勢の少なさ(イコール中高年層を排した姿勢)ゆえとする論調が目立つゆえ、自分は客観的なチャート推移を軸に反論を記載し、同時に演歌歌謡曲が盛り上がるための手法についても提示しています。

氷川きよし「群青の弦」についてはこれまでの販売手法のトレースが、結果的にフィジカルセールス首位ながら総合ソングスチャート50位未満、デジタル指標群加算ゼロという状況を呼んだのではないでしょうか。ここ数年は紅白でのパフォーマンスに注目が集まり、若年層の認知度や支持率も高いと言える氷川きよしさんが、一方では若年層が多く用いるデジタルに明るくない音楽訴求方法をなぞるのは非常に勿体無く思うのです。

氷川きよしさんによるポッドキャスト番組『氷川きよし kiiのおかえりごはん』が来月開催される第3回JAPAN PODCAST AWARDSで大賞にノミネートされていることも、音楽作品のデジタル未解禁の多さを勿体無く感じる理由です。この番組はSpotify独自の番組であり、この番組を経由して氷川さんの音楽に触れる方も少なくないでしょう。ポップスサイドの作品はあっても、新曲を含む演歌作品の不在は機会損失だと考えます。

尤も、演歌に位置付けられる作品をデジタル解禁しないのは氷川さんの意思に基づくものかもしれませんが、今年で一旦歌手活動を休止すると発表したならば、休止中であっても聴きたい時にすぐ聴くことのできる環境を醸成することを尚の事強く望みます。この環境を用意することは、ライト層のみならずコアなファンのためにもなるはずです。

*1:ルックアップとはパソコン等にCDを取り込んだ際、インターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)や、レンタル枚数の推測を可能とします。

*2:自分はSpotifyおよびiTunes Storeにてこの状況を確認しています。