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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「ちゅ、多様性。」「オトナブルー」の流行、その肌感覚と音楽チャートとの差から考えること

本日はビルボードジャパン各種チャートの更新日。Mrs.GREEN APPLEがアルバム『ANTENNA』の初登場に伴いトップアーティストチャート(Artist 100)をはじめて制するかに注目です。この点については先日記載しています。

さて今回は、上記エントリーでも紹介した若年層の流行に関する記事について、今一度取り上げます。

 

2023年上半期のZ世代が選ぶトレンドランキング、流行った曲部門では動画に強い曲が多い傾向にあります。

加えてTikTok上半期トレンド大賞2023においては、新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」が大賞を受賞しています。

ano「ちゅ、多様性。」および新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」については社会的にヒットしていると実感している方が多いかも知れません。他方、今年度上半期のヒット曲とはチャートアクションが少し異なっているのです。

 

まずはビルボードジャパンソングチャートにおける、ano「ちゅ、多様性。」および新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」のCHART insightを見てみます。総合順位は黒、構成指標はダウンロードが紫、ストリーミングが青、ラジオが黄緑、動画再生が赤およびカラオケが緑で示されます。順位およびチャート構成比の円グラフは最新7月5日公開分となっています。

「ちゅ、多様性。」「オトナブルー」共に動画再生指標の割合が高く、また他指標より順位が高くなっています。これは、この2曲が若年層で支持を集めていることに加えて、その若年層における動画の使用が他の年代より高いことも影響していると言えるでしょう。

日本レコード協会による2022年度「音楽メディアユーザー実態調査」報告書(こちらから報告書のPDFを確認することができます)では、音楽の聴取方法におけるYouTubeの比率の高さ、また若年層においてYouTubeTikTokの利用が他の年代以上に高いことが見て取れます。特にYouTubeでの音楽聴取が大きく伸びていることを踏まえれば、動画でヒットする曲の世間への浸透度はこれまでよりも高まっているのかもしれません。

また、YouTubeを代表する音楽チャンネルのTHE FIRST TAKEでは、「ちゅ、多様性。」が今年3月、「オトナブルー」がその翌月に公開。再生回数はブログエントリー執筆段階で前者が1600万弱、後者が3300万超えを達成しており、同チャンネルが発信した今年公開の動画の中でも屈指の人気を誇っています。

 

一方で、ビルボードジャパンが先月発表した上半期ソングチャートでは、ano「ちゅ、多様性。」が45位、新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」が74位となり、大ヒットしたと捉えることは難しいかもしれません(チャートは下記ツイートから確認可能です)。

先程紹介したCHART insightでは2曲の動画再生指標の強さが目立つ一方、ストリーミングの順位や比率が他のヒット曲に比べて大きくありません。これは(追記あり) ビルボードジャパン上半期ソングチャートの記事から表を作成、そこからみえてくるものとは(6月10日付)にて掲載した上半期トップ20ヒットのCHART insightと比較すると解ります。

 

ビルボードジャパンの動画再生指標は現在、公式動画(ミュージックビデオ、リリックビデオ、公式オーディオ等)のみがカウントの対象となり、踊ってみたや歌ってみたに代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)やTikTokは含まれません。それら動画の視聴者が公式動画に移行することで動画再生指標は高くなっていると思われますが、同じ接触指標であるストリーミングに波及することは多くはないと言えるかもしれません。

となると、たとえば歌手側がUGCTikTok投稿者に対して公式動画やストリーミングのリンク先を概要欄に貼付することを積極的に働きかける必要があるでしょう(尤もこれは、どの歌手においても言えることだとは思います)。ただし一方ではビルボードジャパン側が動画の影響力を考慮し、動画再生指標のウエイト上昇を議論することもまた必要かもしれません。

 

ちなみに2023年上半期のZ世代が選ぶトレンドランキング、流行った曲部門では「ちゅ、多様性。」「オトナブルー」に続いてYOASOBI「アイドル」がランクイン。登場わずか7週間で3位にビルボードジャパン上半期ソングチャート3位に到達したこの曲は今年度の首位を早くも確定させたと言えます。

「アイドル」はUGCTikTokでも人気であり、またソングチャートの構成指標であるカラオケでも大ヒットしていることから”活用”という面においても多くの支持を集めています。これは、UGCを再生回数に含むYouTubeの楽曲ランキングにおいて、グローバルで「アイドル」が首位に立ったことからも明らかです。

(YouTubeによる6月30日-7月6日を集計期間とする楽曲ランキングはこちら。なおこのチャートにUGC等が含まれることについては、arne代表の松島功さんが指摘されています(松島さんのツイートはこちら)。)

他方、「アイドル」がオープニングテーマに起用されたテレビアニメ『【推しの子】』の最終回OA日を集計期間に含む最新7月5日公開分のビルボードジャパンソングチャートにおいて、同曲のポイントはそこまで大きく盛り上がらなかったと感じています。アニメと関係ない形で活用する方やその動画をチェックする方がアニメファンほど反応しなかったゆえというのが私見です。

また、活用については流行するまでのスピードもさることながら、その流行の落ち着きについても速いかもしれません。そうであれば尚の事、動画再生に強い曲についてはロングヒットさせるべく動画以外、特にストリーミングで支持を得るよう動く必要があるでしょう。先述した概要欄への記載依頼や、SNSでの呼びかけ(たとえば音楽番組でのパフォーマンス直後にリンク先を掲示する)等の徹底も重要と考えます。

 

ano「ちゅ、多様性。」および新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」については動画再生以外の指標の盛り上がりについて、そしてYOASOBI「アイドル」については活用の落ち着きに伴いポイント下落幅が他のロングヒット曲より大きくなる可能性について、見極めていく必要があると感じています。そして動画再生指標のウエイトに関するビルボードジャパンの議論も願うところです。