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Mrs.GREEN APPLE、アルバム『ANTENNA』初登場週にトップアーティストチャート制覇へ…この1年の上昇理由を探る

今週、Mrs.GREEN APPLEのニューアルバム『ANTENNA』がリリースされました。フィジカルは水曜(前日にいわゆるフラゲが可能)、そしてデジタルは月曜先行にて、それぞれ解禁されています。

およそ4年ぶりとなるフルアルバムのリリースに合わせるかのように、Mrs.GREEN APPLEは音楽チャートで存在感を高めています。ビルボードジャパンのソングチャートとアルバムチャートを合わせたトップアーティストチャート(Artist 100)では最新7月5日公開分にて2週連続、通算3週目の2位に。そして次週は『ANTENNA』のアルバムチャート初登場に伴い、トップアーティストチャートでも自身初の首位を狙います。

(上記はトップアーティストチャート開始以降となる2021年度以降のCHART insight。総合順位は黒で表示されます。また今回登場するCHART insightはいずれも、最新7月5日公開分までのものとなっています。)

Mrs.GREEN APPLEの快進撃については、7月2日付における日本のSpotifyのデイリーチャートにて4曲がトップ10入りしていることからも明らかであり、また最新7月5日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは100位以内に10曲がランクイン。チャート分析者の間でこの快進撃の理由を探る動きが出たこともあり、ここでは自分なりに考えたことを記載します。この1年、特筆すべき動きが多かったものと捉えています。

 

 

<Mrs.GREEN APPLE ビルボードジャパントップアーティスト上位進出の要因>

 

 

 

YouTube登場、リリーススケジュールの発信等、動画やSNSとの親和性を向上

Mrs.GREEN APPLEは”フェーズ1”と題した活動を3年前のこの時期に終了。”フェーズ2”の開始までに2年近くを要することになるのですが、たとえば大森元貴さんのソロ活動期にYouTubeチャンネルに出演したことを印象深く感じています。

上記はフェーズ2の開幕を宣言した後に公開された、歌唱指導動画【しらスタ】での大森元貴さんの出演映像のひとつ。歌唱動画のチャートにおける影響力は以前も述べていますが、大森さんはソロEPリリース時期に出演した際、Mrs.GREEN APPLEのヒット曲も紹介。またグループとしての活動再開後には「Soranji」の映画タイアップを機に、二宮和也さんとの対談がジャにのちゃんねるにて公開されています。

積極的なのは動画出演に限りません。先月にはアルバムのリード曲となる「Magic」、そして昨日には7月におけるコンテンツカレンダーが公開されています(上記参照)。ひと目で解るスケジュール一覧の公開はK-POPが得意とするところで、そのK-POPSNSとの親和性も高いことから、Mrs.GREEN APPLE側は動画やSNSにて積極的にアプローチを行っていると考えていいでしょう。

さらにはアルバムリリースのタイミングにて、関連ワードに絵文字が施されるようになっています(大森さんによる元のツイートはこちら。期間限定と思われ、今後絵文字が消える可能性を考慮しキャプチャしたものを掲載しています)。この仕掛けによりハッシュタグを使う方が増えるだろうことも見越してのMrs.GREEN APPLE側の施策と言えるでしょう。

 

 

② 前作ミニアルバムに収録された「ダンスホール」がロングヒット

ビルボードジャパンのソングチャートが社会的ヒットの鑑になってきているというのはここで以前からお伝えしています。そしてそれゆえでしょう、チャートの認知度や需要の高まりについてはビルボードジャパンのスタッフによるポッドキャストやインタビュー記事からも感じることができます。

そのビルボードジャパンソングチャートでは昨年度、Mrs.GREEN APPLEダンスホール」が32位にランクイン。ミニアルバム『Unity』に収録されたこの曲はロングヒットを続け、今年度上半期には11位に到達しています。

上記は「ダンスホール」におけるビルボードジャパンソングチャートのCHART insight。総合は黒で、構成指標はフィジカルセールスが黄色(同曲はフィジカルシングル未リリースにつき加算対象外)、ダウンロードが紫、ストリーミングが青、ラジオが黄緑、動画再生が赤、カラオケが緑で表示され、また2023年度以降廃止されたTwitterは水色で示されています。

Mrs.GREEN APPLEはこの「ダンスホール」のヒットもあり、昨年末は5つの音楽番組に出演(年末の音楽特番から地上波テレビ局の出演傾向を読む (2022年版)(1月5日付)参照)。これによりラジオ、ダウンロードそしてカラオケが上昇に転じ、現在までロングヒットに至っています。またストリーミングに強い曲はなだらかにダウンする傾向がありながら、ここまで総合順位を保つのは珍しいほうと言えるかもしれません。

これがチャート、そして音楽業界におけるMrs.GREEN APPLEの影響力をさらに高め、認知度の上昇につながったことに加えて他の曲にも波及したと考えていいでしょう。

 

 

③ Ado「私は最強」の楽曲提供とセルフカバーバージョンのリリース

昨年は映画『ONE PIECE FILM RED』が大ヒットし、Adoさんによる『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』収録曲も昨夏のソングチャートを席巻。特にヒットした曲のひとつが大森元貴さんによるソングライト、Mrs.GREEN APPLEがプロデュースした「私は最強」であり、中田ヤスタカさんが提供した「新時代」に次ぐヒットと成っています。

(2022年のビルボードジャパン年間ソングチャートでは「新時代」が7位、「私は最強」が24位、Vaundyさんが提供した「逆光」が37位にランクイン。今年度上半期は順に6位、18位および41位となっています。)

そしてこの3曲のうち唯一、提供者がセルフカバー音源をリリースしているのが「私は最強」であり、セルフカバー版は今年度上半期のビルボードジャパンソングチャートにて65位にランクインしています。

Mrs.GREEN APPLEによるセルフカバー版「私は最強」が16位に初登場を果たした昨年11月16日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、Adoさんのバージョンが11→9位に上昇しトップ10返り咲きを果たしています。セルフカバー版のリリースで聴き比べが可能となり、双方のステップアップにつながったのかもしれません。この「私は最強」もまた、「ダンスホール」と同様の役割を果たしたものと考えます。

 

 

④ 過去曲「僕のこと」「ロマンチシズム」に新たなタイアップが登場

共にアルバム『Attitude』(2019)に収録されたシングル曲、「僕のこと」および「ロマンチシズム」には昨年以降新たなタイアップが用意されています。「僕のこと」は昨秋カロリーメイトのCMソングとして起用され、新たなバージョン(Orchestra Version)としてリリースされました。

また「ロマンチシズム」は2ヶ月前に配信がスタートしたスマートフォン向けWebドラマに起用。作品名も『僕の爆アゲ・ロマンチシズム』となっており、Mrs.GREEN APPLEの曲名を想起できるタイトルとなっています。

過去曲が取り上げられることは、その曲が既に一定の支持を得ていること、そして歌手側の営業活動の成果とも言えるかもしれません。新曲に加えて過去曲も注目を集めることで歌手単位での人気が高まり、新旧双方の作品がチャートを駆け上がる原動力となります。

 

 

⑤ 「青と夏」が定番夏ソング化、そして新たな夏曲「Magic」の誕生

ニューアルバム『ANTENNA』のリード曲となる「Magic」はビルボードジャパンソングチャートで11→3→8位と推移。特に前週はラジオ指標で大量のポイントを獲得しています。

この曲はコカ・コーラのサマーキャンペーンを彩るCMソングであり、Mrs.GREEN APPLEにとって新たな夏ソングの誕生と言えるでしょう。

Mrs.GREEN APPLEのサマーアンセムといえば「青と夏」(2018 アルバム『Attitude』収録)ですが、同曲は毎年夏に上昇を果たし、今年は既に2週連続で11位を記録。10位とのポイント差はありますが、今後トップ10入りする可能性は十分考えられます。

上記は「青と夏」の直近150週分におけるCHART insightですが、今年度の上昇幅は2020年以降で最大となっています。リリース年に最高10位を記録したこの曲が今夏その順位を上回るならば尚の事、「青と夏」は現代J-POPにおけるサマーアンセムに成ったと断言していいでしょう。

 

興味深いのは、アメリカでも数年前の曲が今年のサマーアンセムに成ろうとしている点。テイラー・スウィフトが4年前にリリースしたアルバム『Lover』の収録曲「Cruel Summer」は、最新アルバムを携えたコンサートツアーで披露されたことを機にトップ10目前に迫り(最新7月8日付では18→13位に上昇)、次週は同曲初のトップ10入りを果たす可能性が高いことをチャート予想担当者が指摘しています。

過去曲のデジタルアーカイブの充実、歌手としての話題性の高さ(およびその維持)によって曲が見つかり、曲が拡がり、コアファン以外にも届くようになることがこの2曲の動向から伝わってきます。

(テイラー・スウィフト「Cruel Summer」の場合はコンサートツアーで披露していることが直接の動機となっている模様ですが、まずコアファンの発信によって曲がヒットの軌道に乗ると後にラジオを介しても拡がり、ライト層に浸透する(している)ものと思われます。)

冒頭でお伝えしたようにMrs.GREEN APPLEはアルバム『ANTENNA』をデジタル先行でリリースしています。デジタルにもきちんと優しいことを訴求している意義は大きいと感じます。

 

 

⑥ 夏の音楽番組や長時間音楽特番に多数出演

現在は地上波テレビ局による夏季長時間音楽特番の真っ只中。この時期にMrs.GREEN APPLEがアルバムをリリースしたことで、番組側と良好な関係を築けたと捉えていいかもしれません。

既に放送された『THE MUSIC DAY』(日本テレビ 7月1日放送)に加えて、『2023FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ 7月12日放送)や『音楽の日2023』(TBS 7月15日放送)の出演が決定。また夏季長時間音楽特番とは厳密には異なるものの、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)では次週”ミセスフェス”と題して4曲以上パフォーマンスすることが決まっています。

先行曲そして過去曲のヒットも招聘されやすい理由と思われますが、リリースタイミングをこの時期に合わせたことで、さらに大きなメディア露出につなげることができたのではないでしょうか。

 

 

 

⑦ ”ロックバンド×ユニバーサルミュージック×学生がテーマ”というヒットの共通項

Mrs.GREEN APPLEと同様にユニバーサルミュージックに所属し、いずれも2010年代前半までにデビューしたロックバンドにおいては、この数年でストリーミングヒットが数多く誕生しています。その点は今年度上半期ビルボードジャパン各種チャート振り返りエントリー内、【⑦ ユニバーサルミュージックの強さ、およびロックジャンルのヒット】にて述べています。

そしていずれの歌手においてもユニバーサルミュージック所属という以外に共通項が。それは”学生をテーマにしている”という点にあります。

ストリーミングの影響力が高まってきた音楽チャートにおいては、2010年代前半以前にデビューした歌手がヒットを数多く輩出するのは難しい状況です。その中にあってback numberは「水平線」以降ヒット曲が次々生まれているのみならず、「高嶺の花子さん」等の過去曲も安定したヒットに至っています。その「水平線」はインターハイの運営に関わった高校生の手紙から誕生した作品です。

今年度を代表するヒット曲となった10-FEET「第ゼロ感」は大人から若者まで愛する漫画の映画化となる『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディング主題歌、スピッツ「美しい鰭」は学生(もしくは児童)のファンが多い漫画『名探偵コナン』の劇場版最新作、『劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影 (サブマリン)』』で主題歌に用いられ、映画そして主題歌もヒットしています。また映画の主人公は学生もしくは児童という設定です。

さらにSEKAI NO OWARIレコード大賞受賞曲「Habit」において、学校がミュージックビデオの舞台に。メンバーは教師や用務員を演じ、生徒と共に披露したダンスが大きな話題となりました。

この”学生をテーマにしている”という共通項は強引なまとめ方かもしれません。しかしながらMrs.GREEN APPLEは「青と夏」が高校を舞台にした映画『青夏 きみに恋した30日』の主題歌であり、「僕のこと」新バージョンが起用されたカロリーメイトのCMはコロナ禍の学生が主人公でした。

そしてMrs.GREEN APPLE冠番組がこの春スタート。『ミセススクールクエスト』(テレビ朝日)は学校を訪ねて高校生と交流することがコンセプトとなっており、作品のみならず歌手自身が学生への積極的なアプローチを行っていることが解ります。『音楽の日2023』で披露される「僕のこと」が学生等との共演ということも、興味深い動きです。

 

先月発表された”Z世代が選ぶ2023年上半期トレンドランキング”、その流行ったアーティスト部門でMrs.GREEN APPLEはYOASOBI、優里さん、Saucy Dogに次ぐ4位にランクインしています。ここにはダンスボーカルグループやアイドルは含まれていませんが(彼らは”流行ったアイドル”として括られ、ここにはK-POPアクトも含まれます)、Mrs.GREEN APPLEが若年層の大きな支持を集めていることは明白です。

 

レコード会社は異なれど、Official髭男dismは2019年のABC夏の高校野球応援ソング且つ『熱闘甲子園』(ABC/テレビ朝日)テーマソングとなった「宿命」が、2019年度のビルボードジャパン年間ソングチャートで10位に。「Pretender」(同年度3位)効果も相まって、収録されたアルバム『Traveler』はアルバムチャート年間15位に至り、バンドは大ブレイクを果たしました。若年層アプローチの重要性がここからも感じられそうです。

 

 

これら7項目…新旧作品のヒット、新作紹介時や学生へのアプローチの徹底が、Mrs.GREEN APPLEを一段も二段も高いステップへと導いたものと感じています。

 

 

さて、Mrs.GREEN APPLE次週7月12日公開分ビルボードジャパントップアーティストチャートを制するかに注目ですが、アルバムチャートの動向も気になります。

ビルボードジャパンのアルバムチャートにおいては上記エントリーにて昨年度上半期と今年度上半期の動向を比較し、ロングヒットがしにくくなっていること、およびフィジカルセールスに強い作品が有利になることを紹介しました。

次回7月12日公開分のアルバムチャート、構成指標の集計期間前半3日間においてMrs.GREEN APPLE『ANTENNA』はフィジカルセールス42,508枚およびダウンロード3,567DLを記録。前作『Attitude』は初登場時となる2019年10月9日公開分においてフィジカルセールス26,854枚(同指標3位)、ダウンロード5,213DL(同指標1位)、ルックアップ指標10位をマークし総合で首位に立っています。

(なおルックアップは2022年度末をもって廃止となった指標であり、パソコン等にCDをインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指します。これにより売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)、およびレンタル枚数の推測がある程度可能となっていました。)

速報値ではTOMORROW X TOGETHER『SWEET』が既に31万を超えるフィジカルセールスを獲得。ゆえにMrs.GREEN APPLE『ANTENNA』の初登場時における総合首位獲得は難しいと思われますが、フィジカルセールスは既に『Attitude』を超え、ダウンロードも前作を上回るかもしれません。『ANTENNA』は昨夏のミニアルバム『Unity』の初登場時(2022年7月13日公開分にて2位)における所有2指標の数値も既に超えています。

そして今週木曜までを集計期間とする日本のSpotifyにおける週間アルバムチャート(収録曲の再生回数を合計したもの)では、Mrs.GREEN APPLE『ANTENNA』が初登場で首位に立っています。米ビルボードには公式動画再生分を含むストリーミング指標が含まれることから、仮にビルボードジャパンが米ビルボード方式のチャートポリシー(集計方法)を採っていたならば『ANTENNA』が『SWEET』を上回った可能性も考えられます。

Mrs.GREEN APPLEは本日からアリーナツアーがスタートすることもあり、ライブが話題を呼ぶことでアルバムやソングチャートにもその熱が反映されていくかもしれません。

 

 

最後に。今回の分析を踏まえるに、Mrs.GREEN APPLEは現時点で既に今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)における出場条件を十分有していると断言していいでしょう。番組の選考基準には冒頭で紹介したビルボードジャパンによるトップアーティストチャートが大きく関わってくるものと捉えており(下記リンク先参照)、Mrs.GREEN APPLEのヒット規模は出場するに十分と考えます。

アルバム『ANTENNA』の動向、トップアーティストチャートの推移、そして『NHK紅白歌合戦』出場の可能性…Mrs.GREEN APPLEについて、様々な側面から注目していきましょう。