イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンとオリコンの複合指標チャートの差から感じること、およびフィジカルセールスに対する私見

ビルボードジャパンソングチャートとオリコン合算シングルランキングという複合指標から成るふたつのチャートの比較についてはこれまでも記してきました。最近呟いた内容(→こちら)にも複数のリアクションをいただいたことから、YOASOBI「アイドル」の登場10週を機に今一度比較していきます。

「アイドル」が初めてオリコン合算シングルランキングを制した際のエントリーはこちらに。

 

ビルボードジャパンにおける最新6月21日公開分ソングチャートではYOASOBI「アイドル」が初登場から10連覇を達成。他方、集計期間を同じとするオリコン合算シングルランキングでは、「アイドル」の首位獲得が1週にとどまります。

これはフィジカルセールス指標における係数処理適用の有無の差が大きく、ビルボードジャパンソングチャートが週間5万枚(推定)以上の売上に対し係数処理を施す一方でオリコン合算シングルランキングでは適用されません。オリコンのポイントは同社がデータの引用を固く禁じるため公開しませんが、YOASOBI「アイドル」を除くオリコンでの首位曲はフィジカルセールス指標以外の獲得ポイントが3万未満となっています。

(なお、オリコンの記事引用を固く禁じる姿勢もまた、ビルボードジャパンとの大きな差になっていると感じています。)

最新のオリコン合算シングルランキングは上記ツイート内リンク先でも確認可能ですが、その最新ランキングで2位に入ったYOASOBI「アイドル」は10週連続でトップ5入り。そして直近2週においては10万ポイントを突破し、最新週にて最高ポイントを更新しています。合計ポイントは91万を突破し、次回はフィジカルセールスも加算されることから合算ランキングにて100万ポイント超えが確実な情勢です。

とはいえ先述したように、オリコン合算シングルランキングはフィジカルセールス指標に係数処理を適用していないため、フィジカルセールスが週間100万枚を突破すれば1週で100万ポイントを獲得することとなります。2023年度は既に週間ミリオンセールスを達成したフィジカルシングルが存在しており(オリコンによるニュースはこちら)、YOASOBI「アイドル」の10週分のポイントを1週分のみで上回っています。

 

ここまで書くと、フィジカルセールスがあたかも悪いかのような印象を与えてしまいかねませんが、そうとは必ずしも考えていません。たとえば米ビルボードアルバムチャートでは最新7月1日付においてATEEZ『The World EP.2: Outlaw』が首位と4,500ユニット差で2位に初登場していますが、獲得した105,500ユニットのうち101,000がアルバムセールスであり、しかもそのうちCDセールスが97.5%を占めています。

ただし米ビルボードアルバムチャートはストリーミング(動画再生含む)のアルバム換算分(SEA)も含み、この割合が高いほどロングヒットする傾向にあります。他方、所有指標に強い作品は登場2週目以降に急落する性質があり、加えて最新チャートの記事には下記の記載があります。ロングヒットするには所有以上に接触指標をどう浸透させるかが課題であり、米でK-POPを浸透させるためにはこの部分の改善が重要と考えます。

Like many K-pop releases, the CD edition of The World EP.2: Outlaw was issued in collectible CD packages (21 total, including exclusive editions for Barnes & Noble, Target and Walmart, as well as some signed editions), each containing a standard set of branded merchandise items and randomized branded elements (action cards, partner cards, photo cards). Of the album’s sales, 97.5% were on the CD format, with the remainder generated by digital download album purchases. The set was not released on any other retail format (cassette, vinyl, etc.).

The World EP.2: Outlaw is the 10th album to sell at least 100,000 copies in a single week in 2023. Of those 10, seven of them are K-pop titles, with sales largely driven by collectible CD variants.

 

(以下意訳:多くのK-POP作品と同様、『The World EP.2:Outlaw』のCDエディションはコレクタブルCDパッケージ(バーンズ・アンド・ノーブルやターゲット、ウォルマートにおける限定エディション、一部のサイン入りエディションを含む全21種類)が発売され、それぞれにブランドグッズの標準セットとランダムなブランド要素(アクションカード、パートナーカード、フォトカード)が入っています。アルバムセールスの97.5%はCDで、残りはデジタルダウンロードによるものです。なお同作はカセットテープやレコードでは販売されていません。

『The World EP.2: Outlaw』は、2023年に1週間で10万枚以上を売り上げた10作品目のアルバムとなります。そのうち7作品はK-POPであり、コレクターズCDのバリエーションが売上に大きく牽引しています。)

(米ビルボードアルバムチャートの動向については、後日詳しく分析する予定です。)

ビルボードアルバムチャートではK-POPのみならずロックや、またベテラン歌手の作品においてもセールスが強い状況です。それらジャンル等の作品においては登場2週目以降のランクダウンが課題ですが、言い換えればフィジカルセールスを巧く用いることで瞬発力を得て週間単位で上位に進出することが可能。ならば、瞬発力も活かしつつ持久力も兼ね備えることが複合指標から成るチャートにおいてベストと考えます。

その点において日本でも、瞬発力に強い曲が持久力を備えないことが大半ゆえ複合指標から成るチャートで急落する傾向にありますが、各指標の影響度を時代に即して変更したビルボードジャパンソングチャートとフィジカルセールス重視のままのオリコン合算シングルランキングでは下落幅が大きく異なります。チャートポリシー(集計方法)の変遷を踏まえれば、ビルボードジャパンが社会的ヒットの鑑なのは間違いありません。

 

フィジカルセールスが日本独特且つ旧態依然のやり方である、もしくはフィジカルセールス指標を複合指標の音楽チャートから外すべきという声があるならば、それら声には完全には賛同しかねます(なお後者については指標自体のウエイトを下げる必要があると考え、理由は以前提示しています→こちら)。フィジカルはデジタルの補完的な役割として位置付けるのが最善と考えるに、すべての歌手がデジタルできちんと挑むこと、デジタル未解禁歌手や芸能事務所側を業界全体で説得することが必要です。

チャートポリシーが変わらないままのオリコンや、デジタル未解禁を続ける歌手側を説得してきたか、そのプロセスを開示することをエンタテインメント業界側に対し切望します。そのプロセスが見えることで、業界全体の改善がより速まるかもしれません。