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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) ビルボードジャパンの2023年度上半期チャートが本日発表…注目すべきポイントとは

(※追記(6時31分):ビルボードジャパンアルバムチャートの記事に一部誤りがあり、訂正された記事が先程アップされました。それを踏まえ、このブログでも貼付ツイートの差替を実施しています。)

(※追記(6月11日8時56分):ビルボードジャパン上半期チャートのうちソングチャートおよびトップアーティストチャートは100位まで公開され、また後者については上位20組の指標構成も掲載されています。それを踏まえて表を作成の上、6月10日付および6月11日付エントリーにて分析を行いました。このエントリーの最後にリンクを掲載しています。)

(※追記(6月14日7時51分):ビルボードジャパン上半期チャートのうちアルバムチャートは20位まで公開され、各指標も20位までの数値が掲載されています。それを踏まえて表を作成の上、6月14日付エントリーにて分析を行いました。このエントリーの最後にリンクを掲載しています。)

 

 

 

ビルボードジャパンは本日、2023年度上半期各種チャートを公開しました。集計期間:2022年11月28日~2023年5月28日(2022年12月7日公開分~2023年5月31日公開分)となります。

 

各チャートの詳細はこちらから確認できます。

・上半期ソングチャートおよび各指標

 

・上半期アニメーションソングチャート

 

・上半期アルバムチャートおよび各指標

 

・上半期作詞家および作曲家チャート

 

・上半期その他各種チャート

 

・上半期トップアーティストチャート

 

 

それでは、ソングチャートを主体に上半期を振り返ります。

参考として、昨年度上半期および昨年度年間ソングチャートについて記載したエントリーのリンクを下記に掲載します。

今年度のソングチャート、週間1~3位のリストはこちら。

ビルボードジャパンソングチャートは週間50位までのポイントが可視化されています。この可視化されたポイントのみで集成した表を下記に掲載しますが、表におけるポイントは暫定のものです。

ビルボードジャパンのソングチャートおよびトップアーティストチャートの記事には100位までがすべて掲載。ソングチャート関連ではストリーミングが20位まで掲載され、うち18曲が集計期間中に1億回再生を突破しています。またその他のチャートについても20位まで、一部については数値付きにて掲載されています。

 

 

なお今回紹介する曲およびアルバムのCHART insightはいずれも、2023年5月31日公開分(上半期最終週)までの最大30週分となり、CHART insightにおける順位やチャート構成比は5月31日公開分のそれを指します(なお一部を除きます)。

CHART insightにおける色の内訳は総合が黒、ソング/アルバムチャート共通指標ではフィジカルリリースが黄色、ダウンロードが紫で、ソングチャートのみの指標ではストリーミングが青、ラジオが黄緑、動画再生が赤、カラオケが緑で、それぞれ表示されます。なおオレンジで示されるルックアップ、水色のTwitterは2023年度以降廃止されています。

 

 

 

ビルボードジャパン2023年度上半期チャート 特筆すべき項目

 


Official髭男dism「Subtitle」をはじめデジタルヒット曲が大ヒット&ロングヒット化

上半期ソングチャートはOfficial髭男dism「Subtitle」が制し、2位には米津玄師「KICK BACK」がランクイン。いずれも昨年10月12日にデジタルリリースされ、前年度は100位以内エントリー7週という短期間で前者が年間27位、後者が30位を記録。この勢いを今年度上半期も維持し「Subtitle」は常時トップ10内、「KICK BACK」は20位以内にエントリーを続けた結果、「Subtitle」は歴代最多となる通算13週の首位を獲得しています。

(「Subtitle」および「KICK BACK」におけるポイント推移表においては、2022年度と2023年度の境界線を太線にて表示しています。)

この他にも前年度からヒットが継続する曲が多いのがビルボードジャパンソングチャートの特徴。「Subtitle」および「KICK BACK」の上半期最終週におけるCHART insightからも解るように、全体の3分の2以上を占めるストリーミング指標がロングヒットに欠かせない要素であり、総合ソングチャートトップ10入りした曲のうちストリーミングトップ10ランクインが9曲。サブスクでの人気獲得が如何に重要かがよく解ります。

総合ソングチャートの記事では『ドラマやアニメタイアップによる相乗効果が、ストリーミング、動画再生、ダウンロードのデジタル指標のポイントを今まで以上に積み上げる展開が目立っている』ことに加えて、それら指標の『ポイント加点が非常に大きくなってきている』ことが指摘されています。デジタルのヒット曲はポイント前週比の下落幅が抑えられていることもあり、大ヒットとロングヒットとが共存できているのです。

 

 

② 米津玄師「KICK BACK」をはじめアニメソングのヒットが多数登場

先述した米津玄師「KICK BACK」がテレビアニメ『チェンソーマン』オープニングテーマとして大ヒットしたのみならず、今年度はアニメ作品関連曲の強さがこれまで以上に強い状況です。『THE FIRST SLAM DUNK』エンディング主題歌の10-FEET「第ゼロ感」は上半期ソングチャート5位、後述するYOASOBI「アイドル」は同3位にランクインする等、アニメソングは総合ソングチャートトップ10の実に半数を占めています。

アニメソングはベテランのフックアップにもつながることは10-FEETのみならず、以前から「チェリー」等がサブスクでロングヒットを記録していたスピッツによる「美しい鰭」(映画『劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影』主題歌)が登場から7週という短期間で上半期ソングチャート29位に入ったことからも明らかです。この2組には他にも共通項がみられますが、その点は後述します。

アニメソングは海外の音楽チャートにもランクインする傾向にあり、そして日本では所有指標も刺激するのがポイント。元来フィジカルリリースされるシングルにアニメソングが多いということもその特徴を如実に示していますが、ソングチャートのダウンロード指標ではトップ10内のうち7曲がアニメソングで占められているのが大きな特徴。アニメソングの存在感、そして注目度は今後ますます高まっていくことでしょう。

 

 

③ YOASOBI「アイドル」、わずか7週で上半期3位にランクイン

Official髭男dism「Subtitle」と米津玄師「KICK BACK」が同日リリースであるように、スピッツ「美しい鰭」とYOASOBI「アイドル」が同週リリースされたことも音楽チャートや音楽業界にとって重要なターニングポイントに成ったと言えます(前者は4月10日デジタル先行/4月12日フィジカルリリース、後者は4月12日デジタルリリース)。その「アイドル」はわずか7週のエントリーで上半期ソングチャート3位に至っています。

チャートポリシーの変更に伴い2万ポイント超えが難しくなった中にあって、上半期最終週まで5週連続で2万ポイントを余裕で超えてきたのは見事の一言。オープニングテーマに起用されたテレビアニメ『【推しの子】』の人気も相まって世界でも人気を獲得した「アイドル」は、第3四半期に同規模以上のヒット曲が出ない限りは年間首位が確実と捉えていいでしょう。

YOASOBI「アイドル」は、”踊ってみた”等に代表されるユーザー生成コンテンツ(UGC)の人気を示すTop User Generated Songsチャートで上半期4位、TikTok人気を表すTikTokチャートで同5位にランクイン。ソングチャートのカラオケ指標でも上半期最終週に首位を獲得しており、”活用”という点でもこの曲が如何に人気かがよく解ります。

YOASOBIは「祝福」(上半期ソングチャート15位)のヒットはあれど、最近はリリース曲のヒットの規模に波があったことは否めません。しかし「アイドル」の特大ヒットが、トップアーティストチャート(Artist 100)も押し上げていることが解ります。このチャートを制することに意欲を示しながら一昨年度はBTS、昨年度はAdoさんにその座を奪われているYOASOBIにとって、年間チャートを制することができるかにも注目です。

 

 

④ Vaundy「怪獣の花唄」を大ヒットに導いた『NHK紅白歌合戦』の影響力

トップアーティストチャートにおいては年間単位で54→12→7位と着実に上昇しているVaundyさんは、「怪獣の花唄」が大ヒットに至ったことが契機となり上半期トップアーティストチャートで2位につけています。

これは間違いなく昨年大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)出演効果と言えます。番組出演直後にチャートを駆け上がった「怪獣の花唄」は、音楽フェスが開催された大型連休時にポイントを大きく伸ばしたことも特筆すべき点でしょう。
NHK紅白歌合戦』自体もネットを介した取組が評価を集めています。視聴率の(以前に比べての)高くなさを踏まえ非難するメディアは少なくないものの、そこで主に語られるリアルタイム視聴率の重要度は以前ほど大きくはありません。Vaundyさんが広く知れ渡ったこと、また藤井風さんが「死ぬのがいいわ」を初披露した点でも、『NHK紅白歌合戦』が如何に影響力を持ち、そして意義のある番組かがよく分かるはずです。

 

 

K-POP第4世代女性ダンスボーカルグループが作り上げたヒットの形

K-POPアクトはアルバムチャートこそ男性ダンスボーカルグループが強いものの、ソングチャートとなると女性歌手、特に第4世代女性ダンスボーカルグループが強いと言えます。その筆頭として挙げられるのが昨年デビューしたNewJeans。フィジカルシングル「OMG」は上半期ソングチャート22位、そのカップリングでフィジカルセールス指標未加算となる「Ditto」は先行リリース効果もあり同17位にランクインしています。

そのNewJeansをはじめ、「ANTIFRAGILE」が上半期ソングチャート30位を記録したLE SSERAFIM、またIVE等いわゆる第4世代と呼ばれるK-POPのダンスボーカルグループにおいては、接触指標群が引っ張る形でロングヒットする傾向が高まっています。その結果トップアーティストチャートでは、NewJeansがK-POPアクトで最高位となる11位を獲得し、LE SSERAFIMは21位、IVEは28位にそれぞれランクインしています。

トップアーティストチャートのCHART insightからは、リリースの度に彼女たちが一段高いステップに到達していることが見て取れます。これはBTS以降の男性ダンスボーカルグループ、また日本の多くのアイドルグループとも大きく異なる傾向と言えるでしょう。

 

 

⑥ ダンスボーカルグループはトップアーティストチャートでもっと伸びる可能性を持ち合わせているということ

K-POP第4世代女性ダンスボーカルグループとは異なり、BTS以降のK-POP男性ダンスボーカルグループや日本のアイドルグループの多くがトップアーティストチャートで上位を維持しにくい状況と言えるかもしれません。顕著なのはK-POPの男性ダンスボーカルグループで、フィジカルリリース前後で順位が大きく異なっています。上半期トップアーティストチャートではSEVENTEENが14位、Stray Kidsが16位を記録しています。

ソングチャート共々トップアーティストを構成するアルバムチャートでは彼らの作品がK-POP女性ダンスボーカルグループよりも強い状況です。今後はこのアルバムのリード曲を主体にソングチャートでも結果を残し、より安定したチャートアクションにしていくことが課題と考えます。

またジャニーズ事務所所属歌手においてはKing & Prince、そしてSnow Manがアルバムチャートでミリオンセールスを記録したこと等に伴い上半期トップアーティストチャートで前者が8位、後者が9位にランクインしていますが、デジタルが解禁されていればソングチャート共々、より高い位置に就くことができたはずです。

ビルボードジャパンの総括記事においては、ダウンロードやサブスクに明るくないジャニーズ事務所所属歌手における動画再生指標の好調を記した上で、『フィジカルからデジタルマーケットにも軸足を置きつつあるファンダムの変容がみてとれる』と述べています。業界内で特異なポジションを維持する彼らがデジタルをきちんと解禁するようになれば、日本のエンタテインメント業界全体が前向きに成るはずです。

 

 

ユニバーサルミュージックの強さ、およびロックジャンルのヒット

上半期ソングチャートのみならずトップアーティストチャートではback number(3位)やスピッツ(24位)、10-FEET(25位)の強さが目立ちます。またMrs.GREEN APPLE(6位)やAdoさん(5位)等も引き続き強さを発揮していますが、彼らはいずれもユニバーサルミュージック(グループ)に所属。そして彼らの作品はストリーミング指標に強いのが特徴です。

ストリーミングは2010年代前半以前デビューの歌手では強くない傾向でしたが、その中でback numberが早い段階でストリーミングに強い歌手の仲間入りを果たしたことについては以前お伝えしました。

ユニバーサルミュージック側がスピッツ「美しい鰭」や10-FEET「第ゼロ感」にてアニメ作品のタイアップを獲得した経緯は解りかねますが、ともすれば映画制作側へのアプローチを積極的に行っていた可能性も考えられます。加えて、最近では藤井風「死ぬのがいいわ」やimase「NIGHT DANCER」がグローバルで人気が出たタイミングにて現地法人と連携し積極的な展開を実施していることも注目すべき点と言えます。

レコード会社(グループ)単位ではYOASOBIや優里さん等が所属するソニーミュージックが強い印象がありましたが、ユニバーサルミュージックはグループとして推すことに長け、結果としてヒット曲を次々と生み出しているのかもしれません。そして日本ではOfficial髭男dism等も含め、ロックというジャンルが引き続き強さを発揮しているとも言えます。

 

またロックジャンルのヒットにおいては、テレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場する劇中バンド、結束バンドによるファーストアルバム『結束バンド』が上半期アルバムチャートで6位に入ったことも注目すべきポイントです。週間チャートを2週制し、ダウンロード指標では通算7週首位を獲得。上半期アルバムチャートのダウンロード指標では2位の3倍以上となるセールスを記録しています。

上記CHART insightは下半期初週(6月7日公開分)までとなりますが、安定してヒットを続けていることが解ります。

ビルボードジャパンはレンタルCDのインターネット接続機器への取込も含むルックアップ指標を2023年度より廃止。唯一の接触と呼べる当該指標の廃止に伴い今年度以降アルバムチャートでのロングヒットが難しくなったと言えるゆえ、『結束バンド』のヒットは尚の事特筆すべきことなのです。

 

 

おわりに

ビルボードジャパンは2023年度からルックアップおよびTwitterの2指標を廃止しましたが、これにより特にソングチャートは社会的ヒット曲の鑑により近づいたと捉えていいでしょう。

一方で改善が必要な箇所もあると考えますが(この点については下半期チャート開始前に、ビルボードジャパンに対する改善提案をまとめる(6月4日付)で記載しています)、たとえばこの1週間以内に発表された上半期ヒット作品振り返り記事(下記参照)をみると、ビルボードジャパンのチャートが世間の考えるヒット作品と合致してきていると捉えることが可能であり、このことからもチャートが鑑であると言っていいでしょう。

ならば歌手側がチャートへの高い意欲と意識を持つこと、そして施策を実行することはより重要に成ると考えます。この点についてはYOASOBI「アイドル」が米ビルボードによるグローバルチャートのうちGlobal Excl. U.S.を制した際にも記載しています。

 

他方、たとえばソングチャートの動画再生指標においてポイントが加算されない”欠測”と言える状況が現在でも目立っています。下記エントリーでも紹介した百足 & 韻マン「君のまま」は結果的に、動画再生指標がほぼ加点されていません。

再生回数を踏まえれば、加点対象となるISRC(国際標準レコーディングコード)の未付番が続いていると考えていいでしょう。仮にこの点がしっかり行われていたならば、上半期ソングチャートの順位は間違いなく上昇したはずです(「君のまま」は32位にランクイン)。これら失点をなくすことが、歌手側には求められます。

 

逆に、YouTubeにおいては表示される再生回数に対し動画再生指標の順位が低く見えるという傾向が最近みられますが、これはYouTubeにてミュージックビデオ等公式動画を広告として展開していることが影響しています。このような広告展開は今後増えていくかもしれませんが、表示回数は増えてもビルボードジャパンの動画再生指標ではカウント対象外となります。この点は下記エントリーにて解説しています。

広告にミュージックビデオ等公式動画が活用されることでYouTubeにて表示される再生回数は急上昇し、また再生回数の多さが話題となりメディアで採り上げられる可能性も踏まえれば、実際のところ広告展開のメリットは多いのかもしれません。

この広告によるYouTube再生回数の上昇分について、ビルボードジャパンでは当初からカウント対象外としていますが、今後も構成指標のデータ提供元において似た動きが登場するかもしれません。ビルボードジャパンはその都度、数値が適切かをきちんと見極め、客観的な判断を下す必要があります。鑑の精度を高めるべく、ビルボードジャパンはこの判断を確実に、徹底して行っていくことを願ってやみません。

 

 

 

(※追記(6月11日8時56分):ビルボードジャパン上半期チャートのうちソングチャートおよびトップアーティストチャートは100位まで公開され、また後者については上位20組の指標構成も掲載されています。それを踏まえて表を作成の上、6月10日付および6月11日付エントリーにて分析を行いました。下記にそれらエントリーのリンクを掲載します。)

(※追記(6月14日7時51分):ビルボードジャパン上半期チャートのうちアルバムチャートは20位まで公開され、各指標も20位までの数値が掲載されています。それを踏まえて表を作成の上、6月14日付エントリーにて分析を行いました。下記にそれらエントリーのリンクを掲載します。)