複合指標から成るビルボードジャパンのソングチャートとオリコン合算シングルランキングとでYOASOBI「アイドル」の動向に大きな差が生じていることについては、以前紹介しました。
オリコン合算シングルランキングでは現在も、YOASOBI「アイドル」が首位を獲得できない状態です。
(オリコンはデータの転載を固く禁じているため、フィジカルセールスは首位曲のみ掲載。また1位に対するポイントについては、元となるポイントの掲載を控えています。)
ビルボードジャパンソングチャートとオリコン合算シングルランキングとでYOASOBI「アイドル」の差が大きいことがよく解ります。オリコンでは1週間フル加算となった登場2週目以降、86千→99千→93千ポイント台を獲得し好調に推移していますが、オリコンではいずれの週も2位までが10万ポイントを突破。これはオリコンが集計方法にてフィジカルセールスをそのまま加算することが理由です。
ビルボードジャパンは2017年度以降、一定以上の売上枚数に係数処理を導入しフィジカルセールスをそのまま加算しない形となりました。以降、対象枚数を徐々に引き下げたことでフィジカル未リリース曲が週間単位でも首位を獲得しやすくなり、ビルボードジャパンソングチャートが社会的ヒット曲の鑑と成っています。
YOASOBI「アイドル」が、2度目の「デジタル2冠」達成【オリコンランキング】(写真 全2枚)https://t.co/HXN6CXu6xs
— ORICON NEWS(オリコンニュース) (@oricon) 2023年5月9日
#YOASOBI #主題歌 #オリコン #推しの子 #アイドル @anime_oshinoko @YOASOBI_staff
一方でオリコンのデジタル部門ではYOASOBI「アイドル」が強く、ストリーミング再生回数は直近3週分がすべて週間歴代再生回数のトップ5に登場。しかし、オリコン合算シングルランキングがフィジカルセールスに重きを置いていることで「アイドル」が首位に立てていないのが現状です。フィジカルセールスが10万枚を超える曲が登場すれば、「アイドル」のこのランキングにおける首位獲得は今後も難しいでしょう。
最終的には年間単位でYOASOBI「アイドル」が上位に来る可能性は考えられますが、フィジカルセールスがそのまま加算されるオリコンの複合指標ランキングでは「アイドル」の人気が可視化されないと考えます。
さて、先日自分がツイートした内容に対し、多くの反応をいただいています。
J-POPが世界に轟くようになるには、業界全体に浸透している“数の論理”、もっといえばコアファンを用いた“数(を積むこと)の論理”から脱却することが必要だということを、新曲プレイリストを聴いて実感しています。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年5月9日
先述したビルボードジャパンソングチャートとオリコン合算シングルランキングの差を踏まえれば、“数(を積むこと)の論理”から脱却することは必要だと考えます。また後者がフィジカルセールスを大きく反映していること、そもそもオリコンが合算ランキングをどう位置づけようとしているのかが見えにくいことも、上記を考えるきっかけとなっています。
(なおストリーミングにおいても同じユーザーが何回でも聴取が可能ですが、各デジタルプラットフォームはすべての再生回数をそのまま加算しない形を採っているため、数を積めるとは言い難いというのが私見です。)
数(を積むこと)の論理は社会的ヒット曲に通用しなくなってきていると感じてはいますが、一方でその影響は今も小さくありません。たとえば、最新5月10日公開分におけるSexy Zone「Cream」とTHE RAMPAGE from EXILE TRIBE「16BOOSTERZ」の売上争いはその論理の存在を感じるに十分でした。最終的にはビルボードジャパンソングチャートのフィジカルセールス指標、およびオリコンの双方で「Cream」が制しています。
ビルボードジャパンでは連休中につきフィジカルセールス速報記事が登場しなかった一方、オリコンはデイリーランキングを更新。「16BOOSTERZ」が途中まで優勢だったのですが、集計期間終盤になって「Cream」が逆転した形です。その状況をTwitterにて調べた際、「Cream」においてコアファンの中に複数枚CDを購入する、いわば"積む"という行為が確認できました(無論「16BOOSTERZ」でもゼロではなかったと思われます)。
それでもSexy Zone「Cream」はビルボードジャパンソングチャートで5位にとどまり、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「16BOOSTERZ」(2位)の後塵を拝しています。これはラジオのみならず、ストリーミングやダウンロードで「16BOOSTERZ」が勝ったこと、もっといえばSexy Zoneがデジタルを解禁していないがために「Cream」においてストリーミング指標等を加点できなかったことで生まれた差と言えます。
ビルボードジャパンの最新ポッドキャストでは、オーディオストリーミングとともにビデオストリーミングの重要性も語られています。ストリーミング指標は動画のオーディオストリーミングも含まれ、デジタル未解禁のジャニーズ事務所所属歌手においてはSixTONES「マスカラ」やSnow Man「HELLO HELLO」「Secret Touch」、なにわ男子「初心LOVE」等が一昨年、ストリーミング指標300以内に入り加点されていました。
しかし2022年以降、デジタル未解禁曲が動画のオーディオストリーミングのみでストリーミング指標を加点する傾向は減っています。これはサブスクユーザーの増加が背景にあると考えられ、さらにはOfficial髭男dism「Subtitle」や米津玄師「KICK BACK」、最近ではYOASOBI「アイドル」等大ヒット曲の存在がユーザーの拡大やサブスク再生回数の増加に影響を及ぼしているともみられます。
加えて、Sexy Zone「CREAM」は他のジャニーズ事務所所属歌手の作品と同様にYouTubeでは短尺版にてミュージックビデオが公開。フルバージョンに比べて再生回数が鈍くなる可能性は高く、ストリーミング指標の未加点や動画再生指標の順位にも影響したと考えます。ゆえにビルボードジャパンソングチャートで上位に進出するためには、フル尺での解禁およびサブスクの解禁は必須だというのが私見です。
今回調べる中で、コアファンの方の中に"ビルボードよりオリコン"という声がみられました。オリコンの知名度、売上枚数重視の運営側やコアファンの存在等がオリコンでの「Cream」首位獲得の原動力と考えますが、冒頭で記したようにオリコン合算シングルランキングではデジタルで圧倒するYOASOBI「アイドル」が未だ首位を逃していることもあり、オリコンがヒットの指針として正しいかをまず考える必要があるでしょう。
(なお、オリコンによるこちらのツイートが自分のタイムラインにプロモーションとして登場してきたことを記しておきます。スクリーンショットを撮ることができずその証明ができないのは残念ですが、一部歌手を優遇すると捉えられかねない措置を講じたこと、そしてリリースアナウンスを発売が判明した段階ではなく発売週に行うことについて、オリコンのチャート管理者としての資質に対し疑問を抱かざるを得ません。)
"数(を積むこと)の論理"は、LINE MUSIC再生キャンペーンにも当てはまるものと考えます。
LINE MUSIC再生キャンペーンは、ビルボードジャパンソングチャートで最大のポイント獲得源にしてライト層の人気を可視化する接触指標のストリーミングに対しコアファンの熱量を強く反映させる、いわば所有指標的な動きをもたらすというものです。キャンペーン終了後にストリーミング指標や総合ポイントが急落するという点においても、このキャンペーンがフィジカルセールスに似た"積む"タイプのものと形容可能でしょう。
LINE MUSICは昨年、ユーザーの再生回数がすべて加算されない形にカウント方法を変更。これによりビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標はある程度健全化されたといえますが、今でもキャンペーンの影響は小さくありません。
最新5月10日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、集計期間最終日までLINE MUSIC再生キャンペーンを実施したBE:FIRST「Smile Again」がポイント前週比5割強となり、他の曲より前週比が低い状況です。これはフィジカルセールス加算2週目における所有指標の急落に加えて、キャンペーンは継続しながら一定の条件を満たした方が離脱しただろうことも影響していると考えます。
それでもBE:FIRST「Smile Again」が上位をキープすることは立派であり、最新のビルボードジャパンポッドキャストでもこの曲の動向が優秀であると紹介されています。ただ一方で、前週および今週の数値を踏まえればこの曲が米ビルボードによるグローバルチャートに登場してもおかしくないと感じているのですが、無料会員向けに公開されるGlobal 200においては「Smile Again」が未だ200位以内に登場していません。
グローバルチャートにおいてはLINE MUSICが加算対象外ではないかと捉えています。理由は同サービスがグローバルに展開していないこともさることながら、再生キャンペーンを実施することでライト層のヒットが可視化されにくくなることを米ビルボード側が懸念したこともあるのではというのが私見です。この仮説が正しいならば、特に世界進出したい歌手はLINE MUSIC再生キャンペーンに頼らない施策の立案が必須でしょう。
フィジカルを購入可能な環境が減り、所得が増えず音楽に費やすことが難しくなってきた中でCDを買う/借りるしか聴取手段がないこと、また限られた可処分時間をLINE MUSIC再生キャンペーンに費やすこと...これら"積む"といえる行為が果たして称賛されるべきかを、歌手側およびコアファンの方々が熟考することを願います。そしてビルボードジャパンの認知度が高まれば、"数(を積むこと)の論理"は弱まっていくはずです。
最後に。このブログではフィジカルセールス指標加算2週目の動向およびLINE MUSIC再生キャンペーン終了後の動向をチェックし、真の社会的ヒット曲になるかを見極める必要があると幾度となく述べてきました。この見極めの期間を、キャンペーン等終了の翌週までではなく1ヶ月ほどに伸ばし、中期的スパンで真の社会的ヒット曲に成ったかを判断するほうがより好いのではと考えるに至っています。