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英でFIFTY FIFTY「Cupid」がK-POP女性グループ初のトップ10入り…英メディアが語るヒットの理由、そして私見

先週発表されたイギリスの最新ソングチャートでFIFTY FIFTY「Cupid」が9位に入り、K-POP女性ダンスボーカルグループで初となるトップ10入りを果たしました。

K-POPの女性ダンスボーカルグループにおいてはBLACKPINKがレディー・ガガと組んだ「Sour Candy」における17位が英ソングチャートの最高位でした。アルバムチャートではK-POPが強さを発揮し、またソングチャートではBTSのJIMINによる「Like Crazy」がトップ10入りを成し遂げましたが、女性ダンスボーカルグループのトップ10入りは今回が初となります。

加えて明日発表予定の5月13日付米ビルボードソングチャートでは初のトップ20入りも見込まれるFIFTY FIFTY「Cupid」について、ヒットの理由をガーディアン(The Guardian)が記事化。今回は同記事を意訳し、紹介します。

 

 

今回の記事には、"独立系レコード会社による綿密な計画の産物である女性ダンスボーカルグループの成功は、世界のオーディエンスに向けたK-POPの新たな飢餓感を象徴する"という副題が添えられています。

英ソングチャートにおけるK-POPのトップ10入りは非常に珍しい状況です(記事の時点で「Cupid」はトップ20入りの段階)。「Cupid」でFIFTY FIFTYは、「Sour Candy」におけるBLACKPINK以来2組目となるK-POP女性ダンスボーカルグループでのトップ40ヒットを達成し、デビューから6ヶ月という短期間で成し遂げています。

「Cupid」はアリアナ・グランデやドージャ・キャットのヒット曲を彷彿とさせる、甘美ながらも無骨なポップサウンドで、グループのハーモニー、キーナによるラップ、そしてK-POP特有の大幅なキーチェンジが特徴的な作品。メンバーのアランはK-POP曲の英ソングチャートにおけるランクインがとても難しいことだと述べ、「だからこそとても光栄です」と語っています。

 

この「Cupid」の成功は、バイラリティ、K-POP業界特有の計画性の高さ、および国内外のファン層の間の興味深い衝突を表しています。

 

キーナ、アラン、シオ、セナの4人組は2022年11月にシングル「Higher」でデビュー。所属芸能事務所のアトラクトは韓国のビッグ4(YG、HYBE、JYPおよびSM)とは規模が大きく異なります。「Cupid」をプロデュースしたアトラクトの共同CEO、アン・ソンイル氏は「私たちは2年間、各メンバーの明確な資質を育み、それぞれのプログラムで培った長所を強調する曲を選んだ」と語っています。

ソンイル氏は、世界市場とその膨大なオーディエンスに照準を合わせていたとも語ります。斬新に思われるかもしれませんが、K-POPの9割が韓国以外で消費されていることを踏まえればこの選択は論理的なものです。たとえばNewJeansは世界的に高い評価を得ており、また1月にはHYBEと米のゲフィン・レコードがグローバルガールズグループ立ち上げの一環として、海外でオーディションを実施しています。

しかし、外国語によるポップスに抵抗感が強いイギリスにおいて、K-POPファンのみならず一般のオーディエンスをターゲットとしたアトラクトの戦略は挑戦的なものでした。ソンイル氏は「ジャンルにとらわれないことが企画の要だった」と話しています。

 

「Cupid」は元々韓国語の曲ですが、より多くの人に届けるべく英語版(Twin Ver.)を録音。そしてアトラクトは、音楽業界の"疲労点"を突き止め、それを克服することを試みました。「現在のK-POP界では多くの企業が、音楽そのものよりも、美学やパフォーマンス、ビジュアルなどの外見に重きを置いています」とソンイル氏は言います。「音楽は、こうした他の要素よりも優先順位が低いことが多いのです」。

 

加えてTikTokによるダンスチャレンジは「Cupid」の成功に欠かせないものとなりました。この人気により、ユーザーが作成した"Sped Up"バージョン動画はTikTok UK Hot 50で26位、Twin Ver.はUKバイラルチャートの26位にランクインしています。

 

K-POPのファンダムは、コンサートチケットや物理的商品、マーチャンダイジングに費やすことを厭わず、忠実なサポートで維持されるお気に入りグループのチャート成績の重要性について議論しています。またニューヨーク・タイムズが最近報じたように、K-POP業界が犠牲を払ってもより多くのオーディエンスにリーチすることを優先し、忠実な国内ファンを見捨てているのではという懸念もまた議論されています。

最近ではHYBEとの入札合戦の末にカカオがSMエンターテインメントを買収したことで、韓国のファンの中にはK-POPの国際的な聴衆へのリーチが自分たちに対しどのような意味を持つのかに加え、音楽への影響を危惧する人もいます。

 

「Cupid」はSpotifyのグローバルデイリーチャートでトップ5入りを続けています。そしてFIFTY FIFTYは先月、ワーナーミュージックとの提携を発表しました。「Cupid」の成功は彼女たちに、より多くの自律性とリソースをもたらすことを約束するものです。メンバーのアランは「この曲が私たちの扉を開いてくれた」と語り、メンバーは楽器やビートメイキングを学び音楽ジャンルを探求したいと話しています。

一方でソンイル氏は慎重です。キャリア初期での成功は予想外であり、アトラクトの慎重な計画から逸脱する重圧になったことを認めています。「世界中のファンやリスナーからの絶大な愛に感謝しつつ、しかし戦略的に設定した目標を達成するためにチームはまだ取り組んでいます。また、宣伝効果を維持しなければならないという大きなプレッシャーもあり、私たちの努力が成功したと判断するのは早計です」。

しかし、メンバーのアランは「Cupid」の晴れ舞台を考えすぎてはいません。「いい曲です。それがこの曲を特別なものにしている基礎だと思います」。

 

Cupid’s arrow: how Fifty Fifty became the rare K-pop band to pierce the UK Top 40 | K-pop | The Guardian(5月5日付)より

 

※DeepL翻訳ツールをベースに意訳しています。全文の翻訳ではないこと、また意訳ゆえニュアンスが異なる可能性がありますので、ガーディアン誌による元の記事もチェックしていただきたいと思います。

 

 

ここからは記事を踏まえた私見となるのですが、K-POPにおけるFIFTY FIFTY「Cupid」の成功の一因は、今のK-POPが『音楽そのものよりも、美学やパフォーマンス、ビジュアルなどの外見に重きを置いています』『音楽は、こうした他の要素よりも優先順位が低いことが多いのです』(上記記事より)という点を考慮の上で制作された、同曲における"音楽そのものの普遍性"がポイントだと考えます。

FIFTY FIFTY「Cupid」から真っ先に思い出したのはジェイド・アンダーソン「Sweet Memories」(2002)でした。この曲は大ヒットには至らず、この曲を含む『Dive Deeper』(2002)以降ジェイドはアルバムをリリースしていません。しかしJ-WAVEではこの曲がよく流れていた記憶があります。

そのJ-WAVEでは、最新5月7日付TOKIO HOT 100(→こちら)にてFIFTY FIFTY「Cupid (Twin Ver.)」が31位に上昇。日本の音楽業界で「Cupid」の人気が可視化されていないと感じる中でJ-WAVEがいち早く反応したことに、同曲の普遍的な好さが証明されたのではと感じています。

記事にも登場するNewJeansは2000年前後の音世界を踏襲しK-POPアクトの中で異彩を放ったことで、デビューから間もなく日本を含む世界の音楽チャートに登場しています。FIFTY FIFTY「Cupid」はNewJeansとアプローチは異なれども人気のK-POPにおける音世界とは大きく違っており、むしろ普段からポップソングを聴く層に届きやすいのではと考えます。

 

そして英語版(Twin Ver.)のスピードアップバージョン(Sped Up)を4月に投入したことが、「Cupid」そしてFIFTY FIFTYをさらなる高みに押し上げた要因といえます。Sped Up版がリリースされた日を集計期間に含むSpotifyグローバル週間チャートでは「Cupid」の英語版が初のトップ10入りを果たし(4月7~13日集計期間分 9位)、この集計期間における米ビルボードのGlobal Excl. U.S.でも初めてトップ10内に登場しています。

Sped Up版はTikTokにて重宝されながら、一方では曲が加工されることを好ましく思わない歌手等もいらっしゃいますが、FIFTY FIFTY側は自らスピードアップバージョンを発信し、ヒットを一段階上げることに成功しました。これが記事における疲労点の克服の大きな成果と言えるでしょう。

 

加えて、英語版自体を用意したことはやはり大きいと認識しています。

自分が過去に寄稿したTOKIONのコラムでは、グローバルチャートに多言語の曲がランクインしている状況を踏まえて英語版は必ずしも用意する必要はないと書きました。その分、たとえば藤井風「死ぬのがいいわ」やimase「NIGHT DANCER」におけるユニバーサルミュージック現地法人の取組のように、様々な言語でフォローアップすることにて補えるというのが自分の認識でした。

英語詞版を絶対に用意しなければならないとは今も考えていませんが、FIFTY FIFTY「Cupid」ではTwin Ver.の人気がオリジナルの韓国語版より高いことを踏まえれば、外国語によるポップスに対し抵抗感を強く抱く国や地域はイギリス以外でも少なくないかもしれません。グローバルを市場と見据えるならば、英語版の用意は前向きに考えたほうがいいのではなと感じた次第です。

(ちなみにYOASOBI「アイドル」でも英語版の登場が予告されています(→こちら)。YOASOBIはグローバルチャートへの意識も高く、ともすれば「アイドル」リリース前の段階から英語版の用意を念頭に置いていたのかもしれません。)

 

 

FIFTY FIFTY「Cupid」はK-POP特有の先鋭性とも呼べる音楽のスタイルとは異なり、またグローバルやTikTokを意識した施策を実施しています。この曲が英に続き米でもトップ10入りを果たせば、ともすればK-POP自体が変わっていくかもしれません。同時に「Cupid」がいつ日本で盛り上がるかも、注視したいと思います。