イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「ココロオドル」のリバイバルヒットの一因は合算基準にも…ビルボードジャパンは今一度チャートポリシーを見直すべき

nobodyknows+による2004年のシングル、「ココロオドル」がリバイバルヒットに至っています。

上記はビルボードジャパンのCHART insight、直近の11週分を示したもの。前週100位未満ながら300位圏内にランクインしたnobodyknows+ココロオドル」は今週23位に躍進しました。赤で示された動画再生によるポイントが過半数を占め、前週5位に登場した同指標は今週2位に上昇。これは間違いなく、THE FIRST TAKEの影響を受けてのものです。

6月10日金曜に公開されたTHE FIRST TAKE版「ココロオドル」は、同日からの1週間におけるYouTubeのミュージックビデオランキング(→こちら)で4位に初登場。同曲のミュージックビデオも52位に再登場を果たしています。それに伴い、様々な動画を組み合わせたYouTubeの楽曲ランキング(→こちら)では3位に登場しました。

この影響が、YouTubeおよびGYAO!を対象としたビルボードジャパンの動画再生指標における2位という結果に表れています(上記参照)。集計期間は6月13日月曜からの1週間となりますが、「ココロオドル」の勢いの大きさがはっきりと示された形です。

この再浮上は、勿論THE FIRST TAKEの認知度の高さやチェックする方の多さ、また若年層における平成レトロブームも相俟ったと言えるかもしれません。とはいえnobodyknows+ココロオドル」はストリーミングが100位未満(300位圏内)の一方でダウンロードが21位となり、接触より所有指標が高いことから、当時リアルタイムで聴いていた層による購入行動が少なくないだろうことも見て取れます。

 

この再浮上は素晴らしいと思う一方で、しかしこの上昇はチャートポリシーの曖昧さに基づくものとも言えます。個人的にはこの曖昧さが解決されないことに強い違和感を覚え、今一度改善の必要性を提示させていただきます。

 

ビルボードジャパンにおいては集計開始日の変更のほか、一部チャートポリシーの見直しも必要と考えます。海外ではリミックスや客演追加などオリジナル以外のバージョンが合算されるため、チャート上昇も目的とする新バージョンの投入が施策として徹底されていますが、ビルボードジャパンでは言語の違いを除き合算されません。これではチャート施策の徹底もさることながら海外歌手とのコラボレーションなどが積極的に行われにくいと考えます。一方で、動画再生指標では「THE FIRST TAKE」やライブバージョンの音源がオリジナルバージョンに合算されるという他指標との矛盾が長い間続いていることもあり、その矛盾解消のためにもビルボードジャパンはグローバルチャートにならい、すべてのバージョンを合算する方向に舵を切ることを提案します。事務作業の簡素化にもつながるはずです。

自分は先週金曜に、TOKIONに上記コラムを寄稿。J-Popのグローバルチャートでの人気を紹介し、さらなるヒットのために必要なことを提示しています。その際、音楽の発し手や音楽ファンのグローバルチャートへの意識拡大等も重要ながら、音楽チャート側の変革も必要であると唱えました。

ビルボードジャパンの合算に関するチャートポリシー(集計方法)の考え方は、3年半前に問い合わせた際に判明した内容(上記リンク先参照)が大きく変わっていないものと思われます。しかし、合算対象とはならないはずの言語の違い以外の変更が、アレンジの異なるTHE FIRST TAKEにおいては合算されているという事態が発生しています。

その一方で、THE FIRST TAKEを機に大ヒットしたDISH//「猫」についてはオリジナル版とTHE FIRST TAKE版の2種類が共にランクインするという状況が続いてもいたのです。

ビルボードジャパンは今年になって、THE FIRST TAKE発の動画における動画再生指標の取り扱いを記事で示しました(下記リンク先参照)。THE FIRST TAKE版が音源化されればTHE FIRST TAKEの動画再生回数はその音源に加算される一方、THE FIRST TAKE版が音源化されない限りはオリジナル版に加算されるというのがその内容です。

THE FIRST TAKE版の音源をリリースしない限りはオリジナル版に加算され続けることを意味するため、オリジナル版を伸ばすべく敢えてTHE FIRST TAKE版の音源を出さない歌手もいるかもしれません。またカウント対象となる動画はISRC(国際標準レコーディングコード)を付番されたものですが、THE FIRST TAKE版にオリジナル版のISRCが付番されているならば、そしてそれがチャートの合算基準を分かっていながら敢えてそうしたのならば、大きな問題だと考えます。

 

この矛盾や問題を孕んだ曖昧な合算基準は、異なる音源をすべて合算対象とすることで解決できます。米ビルボードやグローバルチャートにおけるチャートポリシーでは、歌手側が敢えて合算しないで欲しいとした場合*1を除き、異なる音源が合算されます。海外チャートとのチャートポリシーの違いはJ-Popがグローバルチャートに登場しにくくなるブレーキになりかねないゆえ、すべて合算するチャートポリシーに変更すべきです。

 

 

仮にビルボードジャパンが、3年半前に示した合算基準を今も厳格に適用したならば、nobodyknows+ココロオドル」はチャート上でのリバイバルヒットが示されにくかったことでしょう。とはいえTHE FIRST TAKEの影響力を加味すれば今回の再浮上は十分納得のいくものですが、これではDISH//「猫」等の大ヒットが可視化されにくかった状況(「猫」2バージョンは合算すれば、昨年度年間トップ10入りした可能性は高かったと言えます)により強い疑問を抱かれてもおかしくありません。

ビルボードジャパンに対し今一度、動画再生指標の合算を求めます。せめて議論を行い、チャートポリシー変更の可否を提示して欲しいというのが私見です。

*1:たとえばテイラー・スウィフトは、原盤権が奪われた初期作品群を再レコーディングし、"Taylor's Version"としてリリースし、その作品群はオリジナル版とは異なって合算されます。ただし日本においては"Taylor's Version"がラジオ指標で合算されるという例がみられました(DISH//「猫」は非合算でテイラー・スウィフトは合算? ビルボードジャパンの合算する/しないの明確化を希望する(2021年3月3日付)参照)。これはラジオデータ発信側のミスとも言えるでしょうが、ラジオ局や番組側が使用音源を登録する際に別バージョンへの意識が十分ではなかったこともあり得るでしょう。たとえばビルボードジャパンは、基本的に合算しないというチャートポリシーを徹底するのであれば、ラジオ局側に対し正確な楽曲登録の徹底をお願いしないといけないと考えます。