イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり)【ビルボードジャパン最新動向】Hey! Say! JUMPの"フィジカルセールス特化"的戦略がチャート面で気になる理由

(※追記(16時20分):6月10日金曜18時半から20時まで、Twitterの音声サービスであるスペースを活用した生配信を行います。ブログ【ただの音楽ファンが見る音楽業界】(→こちら)のRYOさんと、当日午前4時に発表されるビルボードジャパン上半期チャートについて語ります。開始時刻になりましたら私のTwitterアカウント(→こちら)にてリンクを掲載しますので、当日はよろしくお願いいたします。)

 

 

 

最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

5月23~29日を集計期間とする6月1日公開(6月6日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。Hey! Say! JUMP「a r e a」がフィジカルセールス初加算に伴い初登場で首位を獲得しました。

さて今回は、前週の総合ソングスチャートトップ3のその後について、まずチェックしていきます。

前週5月25日公開分(5月30日付)のソングスチャートトップ3はいずれも、フィジカルセールス初加算且つ16万枚以上売り上げた作品がランクイン。総合首位はフィジカルセールス2位の米津玄師「M八七」、総合2位はフィジカルセールス3位のBE:FIRST「Bye-Good-Bye」となり、フィジカルセールス首位のAKB48「元カレです」は総合3位という結果となりました。

この3曲の今週の動向には大きな差が生じています。米津玄師「M八七」はポイント前週比42.3%で総合2位、BE:FIRST「Bye-Good-Bye」はポイント前週比31.9%で総合7位にダウン。そしてAKB48「元カレです」はポイント前週比が計測不能の状態に。これは同曲がポイントが可視化されない50位未満となったためで、同曲は97位に大きく後退しています。最新のCHART insightは下記に。

AKB48「元カレです」においては前週このようなことを記載しました。そして実際、残念ながらその通りになったと言えます。

AKB48「元カレです」はいわゆるフィジカルセールス偏重型。またルックアップが7位というのも気になるポイントです。ルックアップはCDをパソコン等インターネット接続機器に取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指し、CDの売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数の推測を可能とします。

フィジカルセールスとルックアップの乖離は、ルックアップの順位が高いほど購入者の取り込み率の高さやレンタル枚数の多さを示す一方、フィジカルセールスが高い場合はその逆を指します。

さらに「元カレです」は動画再生指標が加点されながらも100位未満(300位圏内)、ストリーミング指標に至っては300位以内にも入らず加点されていません。フィジカルセールス偏重は接触指標群が強くないと言い換えることも可能であり、今の時代のヒット曲の条件であるライト層の獲得がなければ、次週急落する可能性は高いと言えるでしょう。

最新チャートにおいてはフィジカルセールス(CHART insightでは黄色で表示)が21位に対しルックアップ(オレンジ)が23位と乖離は小さくなった一方、ダウンロード(紫)および動画再生(赤)は100位未満(300位圏内ゆえ加点対象)、そしてストリーミング(青)は一度として300位以内に達しておらず加点されていません。デジタル、そして接触指標群の強くなさが総合チャート(黒)の急落に大きく影響したと言えます。

 

 

このAKB48「元カレです」の動向を踏まえれば、Hey! Say! JUMP「a r e a」はダウンロードおよびサブスク未解禁が影響していること、また動画再生指標も加点されていないため、次週の急落が予想できてしまうのです。

尤も、上記ミュージックビデオは最新チャート集計期間後半の5月27日金曜に公開されたため、「a r e a」の動画再生指標が加算されないのは無理もないかもしれません。しかしその他にもラジオ指標が加点されながら100位未満だったのが気になったのですが、これはいわゆる票割れの影響と考えられます。

Hey! Say! JUMP初のトリプルAサイドシングルとなった今作では、フィジカル関連の2指標は「a r e a」のみに加点され、「恋をするんだ」および「春玄鳥」はフィジカル関連を除く6指標が加点対象となります。そのうち「恋をするんだ」はいち早くミュージックビデオが解禁され、その後もジャニーズ事務所所属歌手の作品の中では比較的高い位置で動画再生指標が安定しています。

またラジオ指標(CHART insightでは黄緑で表示)も今週39位に到達。ラジオは調査対象が31局と少なく、歌手自らがDJを務めたりゲスト出演した番組でなければひとつの番組で同じ歌手の曲が複数かかることは稀でしょう。ゆえに先述したような票割れが起き、ラジオでは「恋をするんだ」が優先されたと考えられます。仮にトリプルAサイドの1曲目がこの「恋をするんだ」ならば、1万ポイント突破も有り得たでしょう。

 

 

ビルボードジャパンソングスチャートでは先述したフィジカル関連指標1曲のみ加算というチャートポリシーゆえ、複数曲をAサイドとするシングルでその双方がヒットすることは稀です。ジャニーズ事務所関連作品では実際、なにわ男子「The Answer」とダブルAサイドとなった「サチアレ」が一度も総合100位以内に到達していません。

「サチアレ」はラジオ指標が(総合順位の黒の折れ線に隠れていますが)4週連続で100位未満ながら加点対象に。さらに動画再生指標の高値安定を踏まえれば、デジタル解禁されていたならばと思わずにはいられません。

 

フィジカル関連指標の1曲のみへの加点、ラジオ指標の票割れの可能性を踏まえても複数曲をAサイドに据えたのは、ジャンルの異なる曲を用意し、それぞれに強力なタイアップを据えることでフィジカルセールスをより強力にしようとする狙いがあったのではと感じています。メンバー出演(主演)のテレビドラマや平日帯の情報番組、テレビアニメといった親しみやすいタイアップの存在は、大きな武器と言えるでしょう。

たしかにHey! Say! JUMP「a r e a」の初週セールスは前作「Sing-along」を3万枚以上上回っています。一方でなにわ男子は前作「初心LOVE」から10万枚近く落としていますが、これは前作がデビュー曲だったことを踏まえれば「The Answer」は成功したと言えるかもしれません。一見すると複数曲をAサイド扱いとすることは良策と感じられます。

複数曲をAサイドに据えた2組の最新作は共に、レンタル解禁日をアルバム同様17日後に設定しています。音源を手に入れたくともリリースの3日後にはレンタルが解禁されず、デジタルも未解禁のため、ユーザーの選択肢は購入に絞られていきます。Hey! Say! JUMPにおいては前作「Sing-along」がレンタル3日後解禁としており(こちらで確認可能)、その点からもCD購入への誘導を高めていると推測できます。

フィジカルセールス誘導のためのレンタル解禁遅らせ施策と考えるならば、「a r e a」および「The Answer」がフィジカルセールスで成功したと言えるかは微妙ではないかというのが私見です。逆にこの施策がライト層離れにつながりかねず、またレンタルによるルックアップ指標加点はフィジカルセールス加算3週目まで待たないといけないことから、次週「a r e a」が急落する可能性が考えられるのです。

今年度のビルボードジャパンソングスチャートで総合首位を獲得した曲のうち、翌週20位以内をキープできなかったのは現時点でJO1「僕らの季節」のみ(2021年12月22日公開分(12月27日付)首位)。しかし「僕らの季節」は33位にとどまっています。Hey! Say! JUMP「a r e a」は次週どの位置に踏みとどまることができるか、注目しないといけません。

 

次週の動向に加えて気になるのは、Hey! Say! JUMPは前作「Sing-along」がビルボードジャパン2021年度最終週に、「a r e a」は今年度上半期最終週に首位となり、スケジュール的に年間や上半期のチャートで存在感を示しにくいと言えること。デジタル未解禁で接触指標群が弱い曲はロングヒットが見込みにくいとしても、もう少し前にリリースされていたならば中長期をスパンとするチャートで有利になったはずです。

Hey! Say! JUMPは一昨年まで4年連続で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)に出場しましたが、昨年は落選。ジャニーズ事務所では同年KAT-TUNが初出場を果たしましたが、その理由にはデジタル解禁も影響していると下記ブログエントリーにて分析しました。紅白側は出場歌手や歌唱曲においてビルボードジャパンのチャートを意識しているはずで、KAT-TUN選出もチャートでの動きが決め手になった可能性があります。

ジャニーズ事務所所属歌手は近年、デジタルに積極的になってきた印象があり、また先月はデジタルシングルが2作品登場したことも注目すべき動向です。それでもフィジカルセールスに特化した歌手が多いため、チャートにおいても重要なのはビルボードジャパンよりオリコンなのかもしれませんが、紅白が今の社会的ヒット曲に敏感であると考えれば、ビルボードジャパンで成績を残すことは出場のために必須と言えるのです。

 

フィジカルリリースする曲においてはAサイドを1曲に絞ること、その曲に特化したプロモーションシフトを組むこと、そしてデジタル環境をきちんと整えることが理想と言えます。複数曲をAサイドに据える場合は、リリース週に票割れが起きないように展開させることも重要でしょう。