一昨日の『ミュージックステーション』で、ビルボードジャパンの2022年度上半期ソングスチャート(Hot 100)が先行公開されました。
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— music station (@Mst_com) 2022年5月26日
ビルボードジャパンが6月10日金曜午前4時に発表する上半期ソングスチャートは6月1日公開分までを含むため、『ミュージックステーション』で紹介された内容は厳密には完全に正しくはないのですが、しかし総合ソングスチャートトップ10の顔ぶれはおそらく変わらないでしょう。
さて、紹介されたチャートについて、アイドルやダンスボーカルグループ等フィジカルセールスが強い歌手の作品がトップ10に登場しないことに疑問を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。ビルボードジャパンのソングスチャートはフィジカルセールスに強い作品が短期的には最上位に登場しても、デジタル(特に接触指標)に強くなければロングヒットせず、年間チャートで上位進出しにくいのが現状です。
ビルボードジャパンは今年度初週、フィジカルセールス指標のウエイトを減少するチャートポリシー変更(集計方法変更)を実施しました(上記ブログエントリー参照)。ライト層支持との乖離が目立つこの指標については一定枚数以上の週間セールスに係数処理を行っていますが、その枚数がさらに引き下げられた形。デジタルのヒットが難しい曲は尚の事、年間チャートで結果を残しにくくなっています。
それでも先述したように、短期的には上位に登場するのがフィジカルセールスに強い作品の特徴ですが、その上位登場週における指標構成からロングヒットの可能性について推測することが可能です。そしてこれは、ソングスチャートのみならずアルバムチャート(Hot Albums)でも同様のことが言えます。
最新5月25日公開分(5月30日付)アルバムチャートは、TOMORROW X TOGETHER『minisode 2: Thursday's Child』が12ランクアップし、初の首位を達成しました。しかし連覇達成の記事を読むと、気になる点がみえてきます。
2022年5月25日公開(集計期間:2022年5月16日~5月22日)の総合アルバム・チャート“HOT Albums”で、TOMORROW X TOGETHERの『minisode 2:Thursday’s Child』が総合首位を獲得した。
『minisode 2:Thursday’s Child』は、TOMORROW X TOGETHERの約1年半ぶりとなる4thミニアルバムで、CDセールス155,803枚で1位を記録している。
総合2位には、ももいろクローバーZの3年ぶりとなる6thアルバム『祝典』がチャートイン。CDセールスが26,203枚で3位、ルックアップ3位、ダウンロード数1,493DLで1位を記録している。
2位のももいろクローバーZ『祝典』ではアルバムチャートを構成する3指標すべての順位が掲載された一方、『minisode 2:Thursday’s Child』はフィジカルセールスのみの記載にとどまっています。これは『minisode 2:Thursday’s Child』が総合では首位を獲得しながら、指標構成に偏りがあることを暗に示したゆえ(の未記載)と捉えています。
上記は最新週におけるビルボードジャパンアルバムチャート、1~5位のCHART insight(こちらから確認可能)。フィジカルセールスが黄色、ダウンロードが紫、そしてルックアップはオレンジで示されています。ルックアップとはパソコン等にCDをインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、売上枚数に対する購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数の推測を可能とします。
前週はダウンロード指標3位のみで総合13位に初登場したTOMORROW X TOGETHER『minisode 2: Thursday's Child』は、今週フィジカル関連指標が初加算され総合チャートを制しました。しかし、15万枚を超えるフィジカルセールスに対しルックアップは31位と大きく異なります。ルックアップのトップ10をみるとフィジカルセールス50位未満が2作品あり、最新週におけるフィジカルセールス50位の売上は368枚という状況です。
TOMORROW X TOGETHER『minisode 2: Thursday's Child』におけるフィジカルセールスとルックアップの乖離は、輸入盤ゆえ購入場所が限定されることやレンタル後日解禁も影響していると考える一方で、上記リンク先での商品説明にもあるようにランダムでの封入物等が存在し、その特典も目的に購入する方が少なからずいらっしゃるだろうことが原因とも言えるでしょう。
実際、このフィジカルセールスと他指標との乖離は米ビルボードでもみられることです。5月13日金曜からの1週間を集計期間とする最新5月28日付米ビルボードアルバムチャートではTOMORROW X TOGETHER『minisode 2: Thursday's Child』が4位に初登場。一方で指標構成をみると極端とも言える内容となっています。
『minisode 2: Thursday's Child』の初動ユニットは68,500で、その内訳アルバム・セールスが65,500、アルバム・ストリーミングが3,000(全5曲で437万回)と、全体の9割以上をセールスが占めた。週間セールスとしては今年3番目の高記録で、今週のトップ・セールスに輝いている。なお、65,500のうちデジタル・ダウンロードはわずか500枚で、そのほとんどがCDによる売上だった。
米ビルボードアルバムチャートではルックアップは含まれない一方、動画を含むストリーミング再生回数のアルバム換算分(SEA)および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)がアルバムセールス(デジタルおよびフィジカル)に加わり、ユニット換算されます。記事からは、『minisode 2: Thursday's Child』の獲得ユニット数のうちおよそ95%にあたる65000がフィジカルセールス(CDセールス)に因ることが判ります。
(ただし、米ビルボードはSEAやTEAにおいては、収録曲数の多い/少ないにかかわらず共通の分母を用意するため、曲数が多いほうが有利になります。ゆえに5曲入りの『minisode 2: Thursday's Child』がSEAやTEAにとって有利でないことはきちんと伝えなければなりません。この"収録曲数が多いと有利/少ないと不利"という状況は是正すべきということは、以前からブログで唱えています。)
TOMORROW X TOGETHER『minisode 2: Thursday's Child』の米ビルボードアルバムチャートにおける指標構成の偏りは、同じく初登場で首位を獲得したケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』と比べても実感できるでしょう。
ケンドリック・ラマーによる約5年ぶりの新作 『ミスター・モラル&ザ・ビッグ・ステッパーズ』が今年最大のアルバム・ユニットを記録して1位に初登場した、今週の米ビルボード・アルバム・チャート。
(中略)
『ミスター・モラル&ザ・ビッグ・ステッパーズ』の初動ユニットは295,500で、その内訳258,500がアルバム・ストリーミング(SEA)、1,500がトラックごとのユニット(TEA)、35,500がアルバム・セールスだった。初週のアルバム・ストリーミングは、全18曲で3億4,302万回を記録している。
ケンドリック・ラマーの今作は、『5月13日のリリース時にはフィジカル(CD、LP、カセットテープ)は販売されておらず、ストリーミングとデジタル・ダウンロードのみ可能』でした(『』内は上記記事より)。言い換えれば、フィジカルリリースも同時に行われたならば獲得ユニット数がより大きく伸びたことは間違いありません。
米ビルボードアルバムチャートはストリーミング再生回数のアルバム換算分を含むため、ビルボードジャパンのアルバムチャートよりもロングヒットする傾向にあります。それゆえ接触指標で支持を得ることがロングヒットの礎となり、逆もまた真なり、なのです。この点(特に"逆もまた真なり"の部分)についてはStray KidsやBTSを例に、以前紹介しました。
この所有指標と接触指標との乖離から、米一般市民への作品そして歌手の浸透度がみえてきます。総合順位のみならず獲得ユニット数の指標構成もチェックすることで、ロングヒットするかどうか、より社会的ヒットとなるかどうかが判るのです。上位進出は素晴らしいことですが、その先を見据えること、そのために分析する癖をつけることをお勧めします。
無論、K-Popのみならずアイドル作品においても、所有指標の乖離が目立ちます。ビルボードジャパンでの直近の例を見てみましょう。
HKT48『アウトスタンディング』が最新5月25日公開分(5月30日付)ビルボードジャパンアルバムチャートで8位に復帰しました。しかし指標構成をみると、300位以内に入り加点されているのはフィジカルセールス(8位)のみであり、ダウンロードやルックアップは300位にも達していません。この動きは以前から散見され、フィジカルにイベント参加権が封入されたことが影響していることを以前ブログで紹介しています。
最新チャートにおいてはイベント参加権封入の影響かどうか、この段階では確認することができませんでしたが、しかしダウンロードやルックアップが加点されていないことはレンタル数の多くなさ、そして既に購入された方の再購入の可能性を考えるに十分でしょう。この仮説が当たっているならば、そのような作品がライト層に届いていると捉えていいかは疑問です。
日本とアメリカでチャートポリシーは異なるものの、ライト層の取り込みができているかを指標構成から分析し推測することは可能です。所有指標が強いこと自体は武器であり、それ自体は素晴らしいことです。ならばその購入への熱意をライト層獲得を考えることにも費やせば、最終的には推す歌手がより長く活動できるための支えの多さ、原動力になっていくのではないでしょうか。無論、ロングヒットにもつながるはずです。