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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ケツメイシ「友よ~この先もずっと・・・」が2週連続で動画再生首位…J-Popのデジタル環境整備の重要性を再掲する

ケツメイシ「友よ~この先もずっと・・・」がビルボードジャパンソングスチャートで急浮上しています。

(※上記CHART insightは、直近11週分を示しています。ケツメイシ「友よ~この先もずっと・・・」のCHART insightはこちらで確認可能です。)

2016年5月11日公開分(5月16日付)で最高5位を記録した「友よ~この先もずっと・・・」は、ミュージックビデオに出演したダチョウ倶楽部上島竜兵さんの訃報を受け、動画再生指標主体に再浮上。前週5月18日公開分(5月23日付)で39位に再登場すると、最新週では13位に上昇しています。

動画再生指標は2週連続で首位を獲得しましたが、この指標については最新のビルボードジャパンによるポッドキャスト(下記YouTube参照)で興味深い指摘が。「友よ~この先もずっと・・・」の動画再生数は1,905,101回→4,177,194回と急激に上昇しているのです。最近の動画再生指標首位曲は200万前後の再生回数で推移しているとのことで、「友よ~この先もずっと・・・」が如何に大きな数値であるか、よく解ります。

それも最新5月25日公開分(5月30日付)のビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標は、2位のBE:FIRST「Bye-Good-Bye」と3位の米津玄師「M八七」が接戦、且つ高レベルで推移。「Bye-Good-Bye」は2,685,173回再生、「M八七」は2,637,144回再生となり、通常の週ならばこの2曲は動画再生指標トップになってもおかしくありませんでした。

ケツメイシは「友よ~この先もずっと・・・」を収録した昨年春リリースのベストアルバム『ケツノパラダイス』も最新の総合アルバムチャートで85→63位に浮上。CHART insightにおける前回の山は『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)で収録曲の「ライフイズビューティフル」を披露したゆえであり、今回が訃報きっかけというのは悲しいことですが、チャート上昇の要因となったことがよく解ります。

 

 

さて、今回のケツメイシにおけるチャートアクションからは、デジタル環境整備の重要性を強く感じます。あらためてソングスチャートおよびアルバムチャートにおけるCHART insightを見てみましょう。

 

・ソングスチャートにおける「友よ~この先もずっと・・・」のCHART insight(直近11週)

・アルバムチャートにおける『ケツノパラダイス』のCHART insight

黒がソングス/アルバムチャートの総合順位を示し、ソングス/アルバム共通指標となるフィジカルセールスは黄色、ダウンロードは紫、ルックアップはオレンジで表示されます。これをみると所有指標において、ソングス/アルバム共に"フィジカルセールス<ダウンロード"であることが解ります。

またサブスク再生回数等に基づくストリーミング(青で表示)は前週100位未満300位圏内でしたが、最新週では100位に到達。これはサブスクをきちんと解禁しているからこその上昇であり、動画再生指標が他指標に、それもフィジカル以上にデジタルに波及していることが解ります。デジタルの整備が大きな伸びにつながったことは確実です。

 

デジタル整備の重要性は、1年半前のブログエントリーでも紹介しました。フリートウッド・マック「Dreams」(1977)がTikTokインフルエンサーに用いられ、その動画をメンバーのミック・フリートウッドが再現したことでバズが発生。米ビルボードソングスチャートでは一昨年秋、「Dreams」がトップ10目前まで再浮上を果たしたのです。米ビルボードソングスチャートではTikTokはストリーミング指標(動画再生含む)のカウント対象とならないため、他指標に波及したことがチャート浮上の理由です。

「Dreams」のミュージックビデオや、同曲が収められた名盤の誉れ高き『Rumors』(1977)のサブスク解禁等はきちんと成されています。つまりはTikTokの人気がデジタルの増加につながり、そのデジタル環境を整えていることがリバイバルヒットにつながっているわけです。さらにミック・フリートウッドのTikTokアカウント開設は流行に乗り楽しもうとするチャレンジ精神ゆえと言えるかもしれず、その行動にも好感が持たれていると言えるでしょう。

(中略)

流行や訃報等に触れた際に生まれる”聴きたくなった”という衝動は、デジタルの興隆により即座に叶うようになりました。そして先のミック・フリートウッドによる動画投稿は、その衝動を加速させることに一役買っていると言えます。

そして1年半前のブログエントリーでは、フリートウッド・マック「Dreams」と対照的な作品として、ブログエントリーの9日前に亡くなった筒美京平さんによる作品がデジタルで十分チェックできない問題を指摘しました。日本の音楽業界のデジタルへの遅れは、TikTokのバズやメディアの採り上げ、訃報等様々な注目のきっかけをフイにしてしまうという意味で、機会損失であると言わざるを得ないのです。

 

 

そんな日本の音楽業界が変わりつつあります。ビート&アンビエント・プロデューサー/プレイリスターのTOMC(トムシー)さんによるツイートで、過去作品の解禁を知ることができました。

1981年にリリースされた泰葉「フライディ・チャイナタウン」のSpotifyこちら。現時点で解禁はこの曲だけであり、レコード会社側が急いで(昨今のシティポップムーブメントに遅れまいと)解禁しただろうことが、下記動画から理解できるものと考えます。

(おそらくは)サブスク解禁と同時に上記リリックビデオも登場。"Official"と銘打ったこの動画の発信元はユニバーサルミュージックジャパンの公式YouTubeアカウント(→こちら)となっています。

このリリックビデオから、米における定番クリスマスソングの"公式ミュージックビデオ"が数年前に作成されたことを思い出した次第。米ビルボードが(そしてビルボードジャパンもそれに倣い)公式動画のみをソングスチャートの加算対象にしたことも制作の背景にあるでしょうが、曲の雰囲気をまとった映像効果も相俟って、下記エントリーで紹介したクリスマスソングはストリーミング指標主体に毎年チャートを上昇しています。

それも、ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」等は米ユニバーサルミュージック発ゆえ、この成功体験を日本の系列企業で活かしたのが泰葉「フライディ・チャイナタウン」と言えるかもしれません。尤も世界のシティポップムーブメントに乗り遅れたとも言えそうですが、この解禁がサンプリング利用につながる等の可能性はゼロではないでしょう。

 

 

デジタルの整備は、フィジカル先行/デジタル後発という施策が多用される事態(デジタルの未解禁のみならず、後発も未だ多い音楽業界への疑問…Mr.Childrenベストアルバムのチャートアクションから思う(5月21日付)等参照)も含め、日本では依然遅れているというのが私見。そして過去作品は権利関係がクリアされなければ尚の事デジタル化は難しく、また公式動画を今から制作することは容易ではないでしょう。

それでも今の時代、いつ何時誰に見つかり、バズが拡がっていくかは解りません。解らないからこそ、いつ何時フックアップされてもいいように整備しておくことが重要です。ケツメイシ「友よ~この先もずっと・・・」の浮上のきっかけは悲しい喪失ではありますが、きちんとアップされていたことで触れた方による故人への追悼の思いや愛情が深くなり、ケツメイシへの感謝の思いもまた強くなっているはずです。

 

 

(※最後に、今回ブログエントリーで採り上げた作品に出演された方の死因を踏まえ、全国のいのちの電話|一般社団法人日本いのちの電話連盟のリンクを掲載させていただきます。)