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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】櫻坂46「五月雨よ」、ソングスチャートを制しながらもライト層取込に疑問を抱く理由

最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

4月4~10日を集計期間とする4月13日公開(4月18日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。櫻坂46「五月雨よ」が初の首位を獲得しました。

櫻坂46「五月雨よ」は前作「流れ弾」に比べ、『初週売上(407,334枚)を約4万5千枚上回り、ダウンロードでは約5千DL下回ったが、ストリーミングは約60万再生上回っている』状況(『』内は上記記事より)。「流れ弾」は昨年度(2021年10月20日公開分(10月25日付))の首位獲得曲であり、2022年度初週にチャートポリシー(集計方法)が変更されたためポイントの単純比較はできませんが、前作並の水準と言えるかもしれません。

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櫻坂46の直近2作(「流れ弾」および「五月雨よ」)における指標構成をみると、各指標の順位には大きな差がほぼありません。唯一ダウンロード(上記では紫で表示)が「流れ弾」では3位、「五月雨よ」では19位と大きく乖離していますが、これは「五月雨よ」がデジタル先行リリースであるのに対し、「流れ弾」はフィジカルとデジタルが同週リリースとなっていたためです。

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2曲の首位獲得週におけるCHART insightをみると、チャート構成比は先述したチャートポリシー変更を挟んでいるため単純比較はできないながら、それでも似た形となっています。そして注目は、接触2指標の乖離にあります。

櫻坂46は「流れ弾」「五月雨よ」の双方でLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)を実施。これがアイドルの中でストリーミング指標(CHART insightでは青で表示)が強い要因となっています。しかし一方で、フィジカル初加算週までに動画再生指標(赤で表示)が減少していることから、ライト層の支持は集まっていないと考えます。ライト層の支持がより集まるこれら接触2指標は本来、似た動きを採るはずです。

ストリーミングおよび動画再生指標の比例について、またLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲の傾向については前週のブログエントリーでも紹介していますが、櫻坂46「五月雨よ」における2指標の乖離は、キャンペーン終了後のストリーミング指標および総合チャートの急落を予感させます。

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上記は「流れ弾」の最新4月13日公開分(4月18日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおけるCHART insight。ストリーミングはわずか3週で加算対象外(300位圏外)となってしまいました。最後のストリーミング指標ランクインとなった昨年11月3日公開分(11月8日付)の集計期間最終日は同曲のLINE MUSIC再生キャンペーン最終日であることから、施策とチャートアクションがリンクしたと断言して差し支えないでしょう。

 

チャート面において女性アイドルグループで現在最も成功している坂道グループは、しかしながらフィジカルセールスに頼った戦略になっていることは2週前に首位を獲得しながらダウン度合いが大きい乃木坂46「Actually...」からも見て取れます。順位面では1→11→36位、ポイント前週比は33.1%→57.3%と、ロングヒット曲の動向とは大きく異なります。

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乃木坂46「Actually...」はLINE MUSIC再生キャンペーン未実施のためストリーミングが高くなく、動画再生とも乖離。その動画再生はフィジカル初加算週と同週に初登場しましたが、その後急落しています。これらはライト層の支持の厚くなさを示すといっていいでしょう。

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気になるのは、最新チャートにおいて櫻坂46「五月雨よ」のルックアップが2位にとどまったということ。オレンジで示されるルックアップは、CDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指し、ユニークユーザー数やレンタル数の推測を可能とします。

このルックアップを今回制したのはSnow Manブラザービート」(総合3位)。最新チャートにおけるフィジカルセールスは「五月雨よ」が452752枚に対し「ブラザービート」は35219枚であり、10倍を超える大差にもかかわらず「五月雨よ」はルックアップで敗れているのです。これは「五月雨よ」におけるレンタル解禁日の設定も大きく影響しているものと考えます。

Snow Manブラザービート」のレンタル解禁がリリースの3日後であるのに対し、櫻坂46「五月雨よ」はアルバムと同日設定となる17日後となっています。これは坂道グループ総じての設定であり、またソニーミュージック系列所属歌手に目立つとも言えますが、このレンタル解禁遅らせ施策がルックアップの大きくなさにつながったと捉えています。

レンタル未解禁だから購入するという消費者心理を狙っての施策と思われますが、可処分所得の全体的な減少(「可処分所得」とは? 低迷する日本人の給与について考える:日経ビジネス電子版(2021年9月14日付)参照)を踏まえれば、そのような心理自体減少していると思われます。また10万を超える初週フィジカルセールスを記録する歌手の作品は、しかしリリース毎に数万単位で変動していることを今週お伝えしたばかりです。

それらを踏まえれば、レンタル解禁遅らせ施策がフィジカルセールス増加に直接つながるとは考えにくく、また歌手のイメージ面においても好ましいと言えないでしょう。

サブスクそしてレンタルと、接触できる環境を徹底することでライト層をきちんと取り込まない限り、坂道グループといえども社会的なヒットに至るのは難しいと言えます。櫻坂46「五月雨よ」がLINE MUSIC再生キャンペーン終了後にストリーミング指標が失速するならば尚の事、坂道グループ全体がライト層取り込みをどうするか、熟考することが急務です。