イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記・訂正あり)【ビルボードコラム】2021年度ジャニーズ曲のチャートアクションを踏まえ、デジタル解禁の重要性を記す

(※追記(12月9日5時20分):2022年度初週のビルボードジャパンソングスチャートの公表(順位およびポイントの発表)を踏まえ、2021年度ビルボードジャパンソングスチャートの首位一覧表を差し替えました。なお、2021年11月24日公開分(11月29日付)におけるなにわ男子「初心LOVE」の翌週順位を当初12位と記載していましたが、正しくは13位でした。訂正し、お詫び申し上げます。)

 

 

 

月曜は不定期で、日米およびグローバルのビルボードチャートに関するコラムをアップしています。これまではソングスチャートにおける各指標の解説、日米ビルボードに対するチャートポリシー変更希望、ビルボードジャパンの知名度向上案やグローバルチャートにJ-Popを轟かせる方法、ソングスチャートの変革理由等について記してきました。ビルボードコラムは下記リンク先からご確認ください。

今回は2021年度ビルボードジャパンソングスチャートにおける、ジャニーズ事務所所属歌手による作品の動向をチェックします。

 

2021年度のソングスチャートにおいてもフィジカルセールスに強い作品が週間チャートを制するという構図は変わりませんでした。その中で、ほぼすべての歌手がダウンロードやサブスクを解禁していないジャニーズ事務所所属歌手による作品(以下ジャニーズ曲)が53週中23週制しており、勢いの大きさを十分に示しています。

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その一方で、フィジカル関連指標加算2週目の動向はデジタルに強い歌手と比べて大きく異なり、いわば瞬間風速的なヒットにとどまるというのがジャニーズ曲全体の傾向。年間ソングスチャートで上位進出できないこともまた特徴と言えました。

(上記ミュージックビデオはショートバージョンとなります。)

その傾向に大きな変化が見られたのがなにわ男子のデビュー曲「初心LOVE」。2021年度終盤のリリースゆえ年間ソングスチャートへの登場は厳しいものの、その動向からは今後ジャニーズ曲が目指すべき指針が見て取れると言っても過言ではありません。今回は「初心LOVE」を例に、瞬間風速的なジャニーズ曲がチャートでより輝くにはどうすべきかについて、私見を記します。

 

まずは、2021年度ビルボードジャパンソングスチャートにおけるジャニーズ曲の動向をみてみます。2020年12月2日公開分(同年12月7日公開)以降にフィジカル関連指標が初加算されたジャニーズ曲の、初加算から3週目までの動向を下記表にまとめています。なおKis-My-Ft2についてはシングルおよびアルバム収録曲がフィジカルリリースと同時、もしくは先行で一部限定ながらサブスク解禁されており、それらの曲も含めています。

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前提として。表の注釈でも記載していますが、今年度は初週のみならず第2~第4四半期すべての初週でチャートポリシー(集計方法)の変更が実施されています。特に第3四半期(下半期初週)にはフィジカルセールスのウエイトが大きくダウンしているため、ポイントでの純粋な比較はできません*1。ゆえに同じ歌手でも上半期と下半期で、フィジカルセールスが変わらずともポイントが大きく異なっています。

 

先に紹介したなにわ男子「初心LOVE」の強さは、フィジカル関連指標加算2週目での総合首位という結果に表れています。それが如何に凄いかについて、その理由も含めブログエントリーに記しています。

特に牽引したのは動画再生指標の強さであり、フィジカル関連指標初加算週には2位、そして翌週には1位を記録。動画再生指標をジャニーズ曲が制したのは2021度では「初心LOVE」が初となります。

デビュー日に羽田空港で行われれたパフォーマンスをフィジカルリリース週に、ミュージックビデオのダンスバージョンを翌週に公開したことが、なにわ男子「初心LOVE」の動画再生指標上昇につながりました。

ジャニーズ曲のミュージックビデオはフィジカルリリース前にアップされ、コアなファンの視聴が主体とみられました。フィジカルリリース週には同梱される映像盤での視聴に切り替わり、そのタイミングで動画再生指標が下がるのがこれまでの傾向でしたが、追加でアップされた動画はその映像盤に収録されていないため、コアなファンの(継続)視聴につながったといえます。

さらに「初心LOVE」が連覇を達成した11月24日公開分(11月29日付)と集計期間を同一とするTikTok週刊楽曲ランキングでも、この曲が制しています。なにわ男子がTikTokに公式アカウントを持っていることも要因ながら、”#うぶらぶダンス”チャレンジも人気の理由となっており、コアなファン以外にライト層も惹きつけていることが解ります。しかも追加動画はフルバージョンであり、公式動画の再生数を伸ばす一因と考えられます。

 

フィジカルセールスの強さ、メディア露出の多さのみならず、ネットでも強さを発揮したというのがなにわ男子「初心LOVE」の成功の要因と言えます。フィジカル関連指標加算2週目における前週比5割超え、そしてフィジカルセールス加算2週目の前週比1割超えを同時に達成したのは2021年度においては「初心LOVE」のみ。ネットの強化がフィジカルセールスにも影響するとなれば、活用する価値は十分あるはずです。

 

 

TikTokでのヒットはこのなにわ男子「初心LOVE」以外にほぼみられませんでしたが、動画再生指標では今年度、ジャニーズ曲が強さを発揮しています。その傾向については以前ビルボードコラムにて紹介しました。

しかしながら、ジャニーズ曲の中でフィジカル関連指標初加算以降3週以内に動画再生指標がトップ10入りを果たしたのはなにわ男子に加えてKing & Prince、SixTONESそしてSnow Manのみ。つまり近年のデビュー組か否かで大きく異なるのです。レコード会社は異なるゆえ、ともすればジャニーズ事務所側のスタッフの取組の差、そしてコアなファンの方々のネット活用の度合いも影響していると言えるかもしれません。

なにわ男子はデビュー間もないことを理由に今年の『NHK紅白歌合戦』に選ばれなかったと推測しますが、ジャニーズ事務所所属歌手は同番組に5組が出場。うち3組が動画再生指標に強い歌手であることから察するに、フィジカルセールスの強さのみならずネットでの強さも選出理由として考慮されたのではないでしょうか。中堅と言える方々のネットへの意識拡大は必須ではないかと考える自分がいます。

 

 

一方で、なにわ男子「初心LOVE」はフィジカル関連指標加算3週目にビルボードジャパンソングスチャートでトップ10内をキープできませんでした。

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最新12月1日公開分(12月6日付)において動画再生指標は首位をキープ、さらにカラオケ指標は早くも58位まで上昇。さらにレンタル解禁に伴いルックアップも好調をキープしているのですが、デジタルを解禁しておらずフィジカルに頼らざるを得ない作品はチャートをキープすることが難しいと言えるかもしれません。

本来、TikTokでの人気はあらゆる指標に影響を与え、総合でのヒットを押し上げる効果をもたらします。最近ではザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」がその好例であり、同曲はレディー・ガガアリアナ・グランデ「Rain On Me」以来となる(K-Pop以外の)洋楽作品のビルボードジャパンソングスチャートトップ10入りを果たしています。

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TikTokから音楽ヒットが生まれる昨今の音楽シーンで、TikTok→ストリーミング→ダウンロード・ラジオオンエア・動画再生、というTikTok発のヒットサイクルがこの曲でも起こっている。景井ひなの投稿や写り込みチャレンジがスタートした8月、「STAY」はTikTokにおける再生回数や影響力などを総合的に判断して生成された国内週間楽曲ランキング“TikTok HOT SONG Weekly Ranking”で2位に初登場し(集計:8月9日~8月15日)、8月23日~8月29日の集計週から3週連続で1位を記録。国内ストリーミング再生数がぐんと伸びたのも8月中旬頃で、9月に入って国内ストリーミングサービスで週間600万回近く再生されるなど、TikTok内の楽曲人気が、他プラットフォームにも流れ込んだ。

つまりTikTokは動画再生のみならず他指標にも影響を及ぼすものであり、なにわ男子「初心LOVE」が仮にダウンロードやストリーミングを解禁していたならば、そのヒットの規模はより大きくなったことが容易に想像できるのです。

(上記ビルボードジャパンの記事については、米ビルボード年間チャート発表、2021年のチャートトピックス10項目とは(12月4日付)でも紹介しています。)

 

そのデジタルの重要性は、今年初めて『NHK紅白歌合戦』に出場するKAT-TUNにはっきりと見て取れます。

3年前のシングル「Ask Yourself」がフィジカルセールス加算2週目にポイント前週比11.5%となり首位から23位にダウンしたことを踏まえれば、「Roar」の1→10位ならびにポイント前週比19.9%は大きな飛躍と言えます。無論CDの種類を増やしたことも影響しながら「Roar」がダウンロードおよびサブスクを解禁し、この2指標で1割以上のポイントを確保していることが大きいのです。フィジカルセールス加算2週目におけるポイント前週比2割という数値はジャニーズ事務所所属歌手の中でも高く、デジタル効果が表れていると言えます。

当時のブログエントリーでは『フィジカルセールス加算2週目におけるポイント前週比2割という数値はジャニーズ事務所所属歌手の中でも高く』と記していますが、記載後にチャートポリシー変更が行われており、現在のチャートポリシー下におけるポイント前週比2割とは純粋な比較ができません。とはいえフィジカルセールス加算2週目でトップ10内をキープするジャニーズ曲は2021年度では稀で、デジタルの影響力が判ります。

(なおこの3月24日公開(3月29日付)ビルボードジャパンソングスチャートではKis-My-Ft2Luv Bias」がフィジカル関連指標加算4週目に、一部デジタルプラットフォーム限定ながらダウンロードを解禁した効果で総合31→13位に再浮上したことも書き添えておきます。)

 

 

TikTok活用や公式動画の追加投入が功を奏したこと、またダウンロードやサブスクの解禁がチャートアクションを援護したことを踏まえるに、デジタルの拡充は有効に作用するということが2021年度におけるジャニーズ曲のチャート動向から言えるのではないでしょうか。ならばデジタルの拡充は、ダウンロードやサブスクも含めて是非実行すべきと考えます。

ただそうなると、フィジカルセールスや利益の減少を懸念する声が出てくるでしょう。しかし、なにわ男子「初心LOVE」はフィジカルセールス加算2週目における前週比が1割を超えています。動画再生指標に強いKing & Prince以降のデビュー曲でフィジカルセールス加算2週目における前週比が1割を超えたのはなにわ男子が初なのです*2

デジタルを十分解禁してもフィジカルセールスを阻害するとは考えにくいというのが私見。加えてダウンロードやサブスクの利益が純粋に加算されるとなれば、行わない手はありません。世界を目指すならば尚の事、デジタル環境への提供は必須です。またデジタル解禁で他事務所の男性ダンスボーカルグループとチャートアクション上でも切磋琢磨でき、日本の音楽業界を盛り上げ海外にもその名を轟かせることができるでしょう。

 

2022年度、ジャニーズ事務所がデジタルに前向きになることを心から願います。実際、リリックビデオやライブ映像ではフルバージョンでの公開が目立ってきており、前向きになる息吹を感じています。

なにわ男子「初心LOVE」のTikTokYouTubeにおける成功は、他事務所のみならず同じジャニーズ事務所内の他の歌手への刺激にもつながっているはずです。ジャニーズ事務所内でも切磋琢磨し、より開かれた環境を構築することを願います。それがライト層を拡大し、コアなファンへの昇華も大きく生むはずです。

*1:ビルボードジャパンは具体的な数字を明らかにしていませんが、フィジカルセールスの係数処理適用枚数を30万から10万に引き下げたことをチャート分析に長ける方々が指摘されています。

*2:(追記あり)【ビルボードジャパン最新動向】なにわ男子「初心LOVE」連覇達成の理由、そして意味するものとは(11月25日付)参照。