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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BE:FIRST「Gifted.」から想起…サウンド面で、そして業界全体に影響を及ぼした革新的な作品群をまとめる

BE:FIRSTのデビュー曲「Gifted.」の衝撃が拡がっています。11月10日公開(11月15日付)ビルボードジャパンソングスチャートで首位を狙うこの曲、自分は初めて聴いた瞬間、プレデビュー曲の「Shining One」とテイストが全く異なることもさることながら、曲がいい意味で脱J-Popな作品だったことに驚きました。この曲の登場に、日本の音楽業界を変えんとする意志を強く感じた次第です。

今回はこの「Gifted.」から想起される曲のうち、サウンド面のみならず音楽業界のその後に影響を及ぼしたという意味で革新的と言える作品をいくつか紹介してみます。

 

 

ミュージックステーション』にようやく初出演を果たした三浦大知さんが披露したのが「Cry & Fight」(2016)。この時の衝撃が、今の地位確立に大きく貢献したことは間違いないでしょう。プロデュースには三浦さんの盟友であるUTAさんに加えてSeihoさんが初参加となり、ジャンルを超越したダンスミュージックが誕生しています。

Seihoさんは三浦大知さんとの対談の中で、革新的と反対の意味を持つ”保守(的)”という言葉を用いています。意識してあの音を作り上げ、そしてシングル(表題曲)としてリリースすることでより強まった「Cry & Fight」の衝撃は、「Gifted.」に引き継がれているのではないでしょうか。

 

ジャネット・ジャクソン「That's The Way Love Goes」(1993)は、レコード会社移籍第一弾アルバム『janet.』からの最初のシングル。前作『Rhythm Nation 1814』(1989)の大ヒットや、映画『モー・マネー』に用いられ米ビルボードソングスチャートで最高10位を記録したルーサー・ヴァンドロスとの「The Best Things in Life Are Free」(1992)を経て、ニュージャックスウィングの影響から離れた大人なジャネットが誕生しています。

 

アリーヤ「If Your Girl Only Knew」は、R.ケリーから脱した彼女がセカンドアルバム『One In A Million』(1996)からのファーストシングルに据えたナンバー。当時まだ有名とは言えなかったティンバランドをプロデューサーに招いたこの曲は、ティンバの音が踊れないと非難されながらもその後の彼女のサウンドの礎を築いたのみならず、ティンバランドのキャリアを大きく引き上げることにも成功しています。

 

昨年の「Dynamite」以降、コールドプレイとの「My Universe」(2021)を含めて世界的な人気を手中に収めたBTS。英語詞曲はキャッチーなサウンドが多いのですが、一方で韓国語曲の「Black Swan」(2020)が持つエレガンスは特筆すべきと感じます。

BTSについては韓国語曲の中にも「Dynamite」以降の英語詞曲のようなキャッチーな作品がありますが、ともすれば英語詞曲と韓国語曲とで棲み分けを行っている可能性も否定できません。個人的には英語詞曲でも「Black Swan」のようなサウンドが登場するのを願っていますが、当時既に十分な知名度があったBTSがこのような作品を用意することは非常に重要だったと言えます。

 

未クレジットながらトラヴィス・スコットおよびベイビー・キームを迎えたカニエ・ウェスト「Praise God」(2021)はアルバム『Donda』に収録。最新の米ビルボードソングスチャートではリード曲的位置付けの「Hurricane」と共に100位以内にランクインしています。

カニエ・ウェストは前作『Jesus Is King』(2019)でゴスペル関連チャートを席巻。今作にはゴスペル以外の作品も含まれますが、「Praise God」はゴスペル関連チャートにもランクイン。この曲で登場する三連符フロウが「Gifted.」の2番Aメロでも見られることも含め、カニエの作品がヒップホップ以外にも刺激を与えたと言っていいかもしれません。

(ただし『Donda』リリース時には「Gifted.」が既に出来上がっていたかもしれず、断言はできかねます。)

 

 

「Gifted.」の登場は、そして成功を収めたならば尚の事、日本で支持されるだろうと言われるJ-Popライクな作品/一方で支持されにくいだろうと思われていた革新的もしくは挑戦的なサウンド、という構図を根底から覆すことにつながるかもしれません。

宇多田ヒカルさんのシングル「Addicted To You」(1999)には2種類のバージョンがあり、メインで用いられ且つベストアルバムにも収録されているのが”UP-IN-HEAVEN”ミックスなのですが、個人的には”UNDERWATER MIX”を推しています。ジャネット・ジャクソンをスターダムに押し上げたジャム&ルイスのプロデュースで、それこそ「That's The Way Love Goes」を多分に意識したのがこのバージョンなのです。

一方で「Addicted To You (UP-IN-HEAVEN MIX)」は当時ロドニー・ジャーキンスが得意としていた流麗な上モノが乗ったサウンドで、そのロドニーが手掛けたブランディ & モニカ「The Boy Is Mine」が特大ヒットとなったことからメインミックスに至ったと考えられます。このバージョンも好きなのですが、より分かりやすいほうが支持されたという印象を以前から抱いていました。

以前もブログで紹介した宇多田ヒカルさんの2バージョンの他にも、MISIAさんによる同時発売の2作品で「sweetness」が「忘れない日々」にチャート上で敗れたこと、また攻めの姿勢をみせるBoAさんの韓国語曲が日本でなかなか登場しない状況等を踏まえるに、【日本ではJ-Popライクな作品こそ受け入れられる、だからそれをメインに据えないといけない】という枷が強く存在していたのではと思うのです。

(なお、BoA「Kiss My Lips」はシングルのカップリングとして日本語詞版が登場しています。)

 

 

今回紹介した「Cry & Fight」から「Praise God」までの5曲はサウンド自体の革新性のみならず、その後の音楽業界にも影響を及ぼした作品だと考えています。そしてBE:FIRST「Gifted.」は、ロングヒットに至るならば尚の事、今後の日本の音楽業界に根強く存在するであろう枷を取り払うきっかけになるかもしれませんし、そうなってほしと願わずにはいられません。

 

今回の曲を含むプレイリスト、【”Gifted.” reminds me of the songs.】をSpotifyに作成し、随時曲を追加していますのでご活用ください。