流行、人気、トレンド、みたいなものを皆が追って、追われていく。
それはエンターテインメントやカルチャーの成長に伴って大きくなっていく。
その中でアーティストがすべき役割は、そこをただ追う事ではなくて、
それを “作り出す” 事であると思う。
この楽曲をリードタイトルにする事で、”異色の” “まさかの” “ここに来て逆に”
みたいな事を言われるかもしれないが、全くそんなつもりはない。
気を衒うでも、逆張りをするでもなく、自分達のスタイルを磨き続けたBE:FIRSTは、2023年にこれを王道として提示する。
Mainstreamに乗っかるのではなくて、Mainstreamを作る存在として、
BE:FIRSTは自分自身を定義し、証明する。
「Mainstream」について、BE:FIRSTは上記の言葉を提示。メディアを中心に音楽の革新性が紹介され、ミュージックビデオの規模も話題に挙がっています。
J-POPにおいては歌謡曲ライクなメロディの落とし込みや感動的な構成を伴わない曲はあまり好まれない(ヒットしない)傾向があるのではと感じることが少なくないのですが、BE:FIRSTは「Mainstream」でその空気を軽々と飛び越えてきた印象です(尤も彼らはこの飛び越えを既に行っており、その点は後述します)。
「Mainstream」は前週9月20日公開分のビルボードジャパンソングチャートを制し、最新チャートでは4位に。克服すべき点があることは否めないというのが厳しくもチャート分析者としての私見ですが、その状況も変わっていくだろうと考えます。
というわけで今回はBE:FIRSTが最新曲「Mainstream」を発信するに至る、その源流をたどってみたいと思います。今回想起した作品群はあくまで自分視点であることをご了承ください。
<BE:FIRST「Mainstream」から想起した作品群>
① BE:FIRST「Boom Boom Back」(2023)
フィジカルシングル「Smile Again」のカップリングに収録され、先行配信されたヒップホップ作品。フィジカルシングル指標は表題曲のみに加わるため「Boom Boom Back」は同指標未加算ながら、上半期の獲得ポイントは「Smile Again」とほぼ同じ状況に(ビルボードジャパン上半期各種チャートはブログで解説しています→こちら)。キャッチーながら本格的なヒップホップ作品が、最新作の制作につながったかもしれません。
② BE:FIRST「Gifted.」(2021)
そもそもBE:FIRSTの攻めの姿勢は、最初のフィジカルシングルで示されていました。
キャッチーさ以上にドープさを追求した「Gifted.」は、同週フィジカルデビューを果たし同指標で倍以上の売上を記録したINIを抑え、ビルボードジャパンソングチャートを制しました。無論、キャッチーなプレデビュー曲「Shining One」の存在も(比較の意味で)「Gifted.」の存在感を高めるのに有効に作用。プロデューサーのRyosuke "Dr.R" Sakai氏による音世界は最新作でも活きています。
③ アッシャー feat. リル・ジョン & リュダクリス「Yeah!」(2004)
2004年の米ビルボード年間ソングチャートを制覇。当時流行していたクランクとR&Bが高次元で融合し、ワンコードのループが格好いい作品。アッシャーは来年のスーパーボウルハーフタイムショーに出演することがアナウンスされたばかりであり、およそ20年前のセンセーショナルな作品が今も有効であることがこの出演によって証明されたのではないでしょうか。
④ スヌープ・ドッグ feat. ファレル・ウィリアムス「Drop It Like It's Hot」(2004)
ファレルが所属するネプチューンズが手掛け、スヌープ・ドッグに初の米ビルボードソングチャート制覇をもたらしたこの曲のビートには舌鼓が使用。革新的な音でヒップホップ/R&Bの新時代を切り拓いたネプチューンズにおいてもとりわけ飛び道具感のある作品ながら、スヌープのラップも含めクールに仕上げたその手腕には驚かされます。
⑤ ブランディ「What About Us?」(2002)
モニカとの「The Boy Is Mine」(1998)が大ヒットを記録したR&B歌手、ブランディによるサードアルバム『Full Moon』先行曲はロドニー・ジャーキンスがプロデュース。前作から転換したエレクトロファンクには賛否もあった模様ですが、メロディの反復、最後を"Darkchild"(ロドニーの愛称)で閉めるところ等、癖になる様々なアクセントは「Mainstream」の源流のひとつといえるかもしれません。
⑥ ちゃんみな「美人」(2021)
(上記はTHE FIRST TAKEバージョン。ミュージックビデオでは自死表現が用いられているゆえ、掲載を控えています。)
興隆する女性ラッパーを代表する存在であり、ラップと歌とを自由に行き来するちゃんみなさんのこの曲は、「Mainstream」も手掛けたRyosuke "Dr.R" Sakaiさんが担当。作品のテーマ、特に"前例がないのは怖いかい / ならお手本になりなさい"というリリックに「Mainstream」との関連性を自然と想起した次第です。
⑦ 沢田研二「TOKIO」(1980)
1980年代初日にリリースされたシングルは、コピーライターの糸井重里さんが作詞を担当。『「アメリカが本流で、日本の自分たちはそのフォロワーである」というスタンスでやっている限り、 新しいことはできない。 だから「自分たちのほうこそ見てくれ」という宣言』を込めており(1.『TOKIO』の話から。 - 阿久悠さんのこと。 - ほぼ日刊イトイ新聞参照)、現在そのコンセプトは「Mainstream」に引き継がれています。
⑧ 三浦大知「能動」(2023)
日本の男性アイドル/ダンスボーカルグループに多大な影響を与えた、三浦大知さんによる最新曲。早くもニューアルバム『OVER』のリリース(2024年1月24日)をアナウンスしていますが、その先行曲には「Cry & Fight」(2016)以上の攻めの姿勢が見て取れます。昨日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)にて「Mainstream」共々この曲が披露されたことで、J-POPの革新を感じた視聴者はきっと多いはずです。
⑨ ジャネット・ジャクソン「Rhythm Nation」(1989)
4枚目のアルバム、『Rhythm Nation 1814』の実質的タイトルトラック。同じコスチュームをまとったダンサー陣との共演も「Mainstream」に通じますが、アルバムタイトルに据えた数字の意味にも、「Mainstream」と同じ意志を感じずにはいられません。
タイトル・トラックをジャム&ルイスと書いていた時にジャネットはこう言った。
「私はふざけて、これってもしかして90年代の‘国歌’になるかもね、と言ったの。そこでフランシス・スコット・キー(*訳注:アメリカの国家「星条旗」を書いた)がいつ国歌を書いたのか調べてみたら、1814年9月14日だったの」
このアルバムから多数のナンバーワンヒットが輩出され、この曲がJ-POPでも様々な形で踏襲、さらにミュージックビデオが日本のバラエティ番組で再現されたことからも、ジャネットがこの作品によって天下を取ったことは間違いありません。たとえジャネットがふざけて口にしたとしても、作品に確固たる自信を持っていたのは間違いないでしょう。
「Mainstream」には、未知の領域に積極的に飛び込み、恐れずに自らを変えるBE:FIRSTの姿勢が見て取れます。そしてそれが周囲も魅了し、彼らが自発的に変わっていくことにつながる…その点については、以前のエントリーで記したとおりです。
他方、BE:FIRSTにおいてはチャート分析の度にコアファンの熱量とライト層との乖離を感じていることは冒頭でお伝えしたとおりですが、彼らの存在が広く知られることが解消のひとつの方法と考えるに、昨日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)初出演が彼らの環境を変える転換点に成るものと考えます。
ライト層獲得のために、コアファンの方々にもできることがあるはずです。たとえばプレイリスト作成もそのひとつであり、以前ブログに提案しています。今回のブログエントリーは下記エントリーに基づく内容でもあります。
今回掲載した作品をSpotifyにてプレイリスト化しました。この中には文字数の関係上ここで紹介しなかった曲もあります。また曲を今後追加していくことも検討しています。BE:FIRST「Mainstream」を機に、またプレイリストをきっかけに、ライト層そしてコアファンの皆さんにとっても音楽生活が豊かになっていくならば嬉しいです。
最後にお知らせです。
【ラジオ出演のお知らせ】
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年9月29日
NFRS『スーパーDJコネクション』にて、#Mステ 初出演を果たした #BEFIRST を特集。
10月14日(土)18時からの1時間、音楽インフルエンサーのRYOさん(@yo19930223)と共に、魅力等を語ります。
世界中で聴取可能です(再放送やアーカイブはありません)。https://t.co/LfNa9Ylbfs
久々にラジオで喋ります。よろしければ是非お付き合いください。