イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) BE:FIRST「Gifted.」から想起した作品群をあらためて紹介…昨日のラジオ番組内容まとめ

(※追記(20時55分):BE:FIRST「Gifted.」から想起した曲や関連曲をまとめたプレイリストをアップしました。)

 

 

 

昨日は地元のラジオ局の番組で、BE:FIRSTについて特集する機会をいただきました。

本来は特集の機会をいただけたならば、アルバム『An Evening With Silk Sonic』をリリースしたばかりのシルク・ソニックを取り上げたい…「Leave The Door Open」がリリースされた3月からずっと思っていました。しかも今回はアルバムリリース直後のOA回だったのですがそれ以上に「Gifted.」の衝撃が大きく、ならばこの曲を主軸として想起される作品を紹介する形にて特集したいと考え、昨日の放送となりました。

あらためて、お聴きくださった皆さんに感謝申し上げます。今回のブログエントリーでは、紹介した曲の解説を記載します。

 

BE:FIRST「Gifted.」は最新11月10日公開(11月15日付)ビルボードジャパンソングスチャートで初登場にて首位を獲得。フィジカルセールスで2倍以上の売上を記録したINI「Rocketeer」を逆転しています。ともすれば明後日公開のチャートでなにわ男子「初心LOVE」が首位を獲得しても、ポイント面では「Gifted.」が上回るかもしれません。

無論、次回チャートにおけるなにわ男子「初心LOVE」のポイント、さらに「Gifted.」や「Rocketeer」のフィジカル関連指標加算2週目における動向、また数週の推移を確認した上で真の社会的ヒット曲に至れるかを見極める必要があります。しかしながらメディア露出が決して多いとは言えないBE:FIRSTが首位を獲得したこと、それもデビュー曲で「Gifted.」を選んだことの凄さを、微力ながらでも伝えたかったのが企画の動機です。

 

・11月14日放送『わがままWAVE It's Cool!!』

 (FMアップルウェーブ 日曜17時)

 音楽特集【BE:FIRST】

 

<お送りした曲目>

01. BE:FIRST「Shining One」(2021)

02. BE:FIRST「Kick Start」(2021)

~ここから特集~

特集前半OP. BE:FIRST「Be Free」(2021)

03. SKY-HI「To The First」(2021)

04. 三浦大知「Cry & Fight」(2016)

05. BTS「On」(2020)

特集後半OP. BE:FIRST「First Step」(2021)

06. アリーヤ「If Your Girl Only Knew」(1996)

07. w-inds.「We Don't Need To Talk Anymore」(2017)

08. BE:FIRST「Gifted.」(2021)

~ここまで特集~

 

実際、今回セレクトした曲の多くは8日前のブログにて記載したものです。

「Gifted.」から自分が想起したのは、”高貴さ・エレガンス”、”ジャンルを超越したサウンド”、”革新性”そして”J-Popらしくなさ”であり、最後の言葉は”J-Popへの挑戦と慣例の打破”と表すこともできるでしょう。高貴さは自負から来るものと考えれば、BE:FIRSTを生んだオーディション、THE FIRSTのテーマ曲であるSKY-HI「To The First」はまさにその意志をはっきりと示したものだと言えます。

この曲をSKY-HIさんと共に手掛けたのがRyosuke "Dr.R" Sakaiさんであり、「Gifted.」もこのタッグで生まれています。Ryosuke "Dr.R" Sakaiさんは「Gifted.」の解説動画を発信していますが、そこからは楽曲制作への強い思い、そして強い自負が感じられます。

 

先日のブログで「Black Swan」を取り上げたBTSですが、その後Twitterでいただいた反応を踏まえ、「On」のほうが圧倒的に「Gifted.」に近いと感じて今回OAしました。マーチングバンドのリズム、力強いコーラス、三連符のフロウ、ひとつのジャンルにとらわれないサウンドもさることながら、曲に込められた強い意志という面でも共通。この意志について、批評家の浅田彰さんによる論評が素晴らしいのです。

11月7日放送の『RADIO SAKAMOTO』(J-WAVE)に登場した浅田彰さんによる論評、その書き起こしの全文は『RADIO SAKAMOTO』のホームページに掲載されています(→こちら)。歌詞の詳細な内容こそ「Gifted.」とは異なりますが、BTSの出自や、世界的成功を手に入れても忘れていない反骨精神は、BE:FIRSTの精神的支柱にも重なるのではないでしょうか。

 

今回時間の都合で割愛しましたが、BoA「Kiss My Lips」(2015)は韓国でアルバムのリード曲として用意された作品。その一方で、K-Popアクトの日本進出時においては今でこそ韓国語曲の日本語版がリード曲として登場する機会が増えましたが、以前は日本独自の曲が用意され、それもJ-Popライクな作品をシングルとして切る傾向が多い印象がありました。攻めの韓国語曲が日本では浸透しにくかったのです。

BoAさんによる「Hurricane Venus」等韓国語曲の素晴らしさに触れたのは、bmrでも活躍された末崎裕之さんの紹介経由でした。そして「Kiss My Lips」の美しさ…まさに高貴でありエレガントであるこの曲が、最終的には日本語版も登場したもののシングルのカップリングとなったことには違和感を抱いた次第であり、日本独特の音楽マーケットに複雑な思いを抱いたものです。

 

いや海外でも、攻めの楽曲は当初高く評価されているとは言えないかもしれません。

11月7日のブログエントリーでも紹介したアリーヤ「If Your Girl Only Knew」は、米ビルボードソングスチャートで最高11位となり、トップ10入りを逃しています。そしてこの曲は日本においても、当初受け入れ難いと思われていたようです。

それまでのアリーヤのイメージにこだわるばかりに、このアルバムに驚きこそすれ、即座に慣れ親しむことは出来なかった。特にティンバランドというまだ得体の知れないプロデューサーが手掛ける、計7曲に及ぶ異様でいて斬新の枠を超えた音世界、これがどうにもこうにも刺激が強烈過ぎた。

・書籍『R&B/HIP-HOP DISC GUIDE』内 アリーヤOne In A Million』評(100ページ)より

レコード会社のA&Rやライターを務めるJAMさんこと細田日出男さんは、アリーヤがR.ケリーと袂を分かって以降のティンバランドとの初タッグ作についてこのように語っていますが、おそらくは米の音楽好きな方々、さらには音楽関係者も同種の解釈を抱いていたことでしょう。しかしながら彼女はその後、ティンバランドと組んだ「Are You That Somebody?」(1998)や「Try Again」(2000)でヒットを連発することになるのです。

しかし、彼とのコラボレートは結果的にアリーヤのキャリアを瞬く間に飛躍させ、それと同時にティンバランドはトップ・クリエイターの一角に躍り出るどころか、それまでの流行の法則という法則をことごとく捩じ曲げて、R&B/ヒップホップのプロダクションのあり方を根底から覆してしまう。

・書籍『R&B/HIP-HOP DISC GUIDE』内 アリーヤOne In A Million』評(100ページ)より

アリーヤは2001年、わずか22歳という若さでその生涯を閉じますが、彼女の革新性は音楽業界を刷新しました。それが証拠に、アッシャー「You Make Me Wanna...」(1997)やTLC「Silly Ho」(1999)といった、ティンバランドのいわば”チキチキビート”を意識したサウンドが米音楽界を席巻していくのです。

また最近では、ティンバランドの手による「One In A Million」(1996)がノーマニ feat. カーディ・B「Wild Side」(2021)で用いられていますが、1990年代のサウンドの踏襲が現在の流行である中にあって強烈なインパクトを持つ作品に仕上がっています。

今聴いても格好いいアリーヤの作品群は、革新性を感じるに十分なのです。

 

一昨日にTwitterで、音楽性こそ異なりながらも想起するとしてフォロワーの方が教えてくださったのがw-inds.「We Don't Need To Talk Anymore」でした。メンバーの橘慶太さんによる初の全面プロデュース曲であり、そのクオリティの高さに驚かされたものです。

EDMをJ-Popに落とし込んだ曲は多々ある中、シンセドロップ中にランニングダンスを披露した三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE「R.Y.U.S.E.I.」(2014)や、メンバーの名前を連呼するRADIO FISH「PERFECT HUMAN」が白眉。そしてw-inds.はシンセドロップではなくヴォーカルドロップを用いてEDMを自分のものにしています。なおこの3曲については、音楽ジャーナリストの柴那典さんが以前ラジオで解説されていました。

自分も大好きだったこの曲は*1、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)で選者のひとりがリリース年のベスト曲として挙げていたはずです。しかし放送では触れられていなかったのが悔しかったことを覚えています。というよりもw-inds.自体、テレビ番組の出演機会がほとんどないことに違和感を感じざるを得ません。

「We Don't Need To Talk Anymore」ではSKY-HIさんが客演したリミックス版もリリースされています。おそらくSKY-HIさんはこの曲の素晴らしさに触れ、きちんと評価されない音楽業界やメディアの状況を変えないといけないと感じたのではないでしょうか。そしてその思いがBMSG設立、THE FIRSTの開催そしてBE:FIRSTの輩出につながっていると考えるのは自然なことでしょう。

CITRUS」のストリーミングヒットがテレビ露出に繋がっていないDa-iCEの境遇にもw-inds.と同種の違和感を覚えます。そしてそのDa-iCEにもSKY-HIさんは「SUPER FICTION」で参加しており、実力がありながらも埋もれかねない(言い換えれば埋もれさせられかねない)歌手をフックアップし、スクラムを組んで乗り越えんとする意志が昔から持ち合わせていることがよく解るのです。

 

 

BE:FIRSTは今度の水曜に放送される『ベストアーティスト2021』に出演することがアナウンスされました(ブログ経由で教えてくださった方にも感謝申し上げます)。司会はジャニーズ事務所所属の櫻井翔さんであることも、この出場に大きな意味を与えるものです。

一方で披露する曲は現段階でアナウンスされておらず、『ベストヒット歌謡祭』(読売テレビ/日本テレビ)同様に「Shining One」となる可能性もあります。また、先述したDa-iCEや「Rocketeer」で「Gifted.」と首位争いを繰り広げたINI、そしてINIの先輩格にあたるJO1のクレジットがないのは気になります。そしてBE:FIRST自体、日本テレビ以外のキー局の音楽番組に出演できるかはまだ解りません。

 

昨日のラジオ番組では、アイドル的な側面も持つ男性ダンスボーカルグループ(ユニット)のメディア露出が特定の組織に偏ることが業界にとって健全なのかという問いを、共演したDJの方からいただきました。この長きに渡ると言える慣例には強い違和感を抱いていますし、自分がなにわ男子「初心LOVE」を取り上げた11月13日付ブログエントリーであらためて問いかけたことでもあります。

一連のツイートはすべて重要と考え、こちらにも掲載した次第です。

 

SKY-HIさんがTHE FIRSTを主宰した理由は、J-Popの枠を超えたサウンドを投入し、さらに音楽チャートを制することでJ-Popではなければヒットしないという状況を変え、多様な音楽を放つことの自由を音楽制作者に促し、実力がありまた実績を残す歌手がきちんと報われる状況に業界をブラッシュアップしようとすることにあるのではないでしょうか。その思いが、BE:FIRST「Gifted.」に集約されているというのが自分の結論です。

 

 

 

※追記(20時55分):今回の曲を含むプレイリスト、【”Gifted.” reminds me of the songs.】をSpotifyに作成しています。今後も曲を追加していますので、是非ご活用ください。

*1:w-inds.「We Don't Need To Talk Anymore」については幾度となくブログにて言及。たとえばリリース前にはw-inds.の次のシングルが痛快過ぎる(2016年12月12日付)で紹介しています。