イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本的アプローチは通用しない? IZ*ONEの韓国向け/日本向け楽曲で見えてきた差

NGT48の問題について、先週月曜の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時)で宇多丸さんが語っていたことに強く同意します。

僕らから見て、組織全体、こういうシステムの考案者である秋元康御大はやっぱり公の場に出て、大鉈を振るってなにかをやるなり、ちょっとこのシステムそのものが持っている危うさが露呈してしまっているわけだから。

(中略)

でもとにかく山口さんの周りに関しては後味の悪いことになってしまって。あの、まあいまからでも秋元さん、なんかこれはコメント&アクションを起こすべきことではないかな?っていう風に思ったりしますよね。まだグループが存続するのであればなおさら……という感じがいたします。

宇多丸 NGT48・山口真帆卒業発表を語る(4月22日付)より

この問題、ある意味日本の(虐めの)縮図ではないかと捉えています。

(元のツイートを引用した自身のツイートを掲載しました。問題があれば削除いたします。)

自分は山口真帆さんを支持しますし、この問題が真に解決すれば他の虐めの現場にもこの経験が適用されるだろうのみならず、正しいことが言える社会、正しいことを躊躇いなく通せる世の中に、少しずつでも確実に成っていくのではないかと考えています。そのためには、今のシステムの大元を改修しないといけないと思うのです。

 

 

秋元康さんといえば昭和の時代よりエンタテインメント界で活躍していますが、女性アイドルグループにおける方法論がここにきて成り立たなくなっているのではないか、と感じています。なにもNGT48の問題のみならず、複合指標から成るビルボードジャパンソングスチャートにおけるAKB48グループのチャートアクションについても。

(ただここでAKB48と比較対象とした坂道グループもまた秋元康さんが大きく関わっているのですが。)

そして今の日本のアイドルの方法論が日本人に受け入れられなくなっているのではないか…そう考える機会がありました。AKB48グループのメンバーも参加するK-Popアクト、IZ*ONEのチャートアクションからそのことを感じるのです。

 

IZ*ONEはデビューEP『COLOR*IZ』を昨年10月に、『HEART*IZ』を今月韓国でリリース。日本では日本語でのシングル「好きと言わせたい」を今年2月に発売していますが、その日本向けシングルと、『COLOR*IZ』からのリード曲「La Vie en Rose」および『HEART*IZ』からの「Violeta」と比べると、チャートアクションの傾向に大きな違いがあることが判ります。これは何も、シングルCDをリリースしたことによるシングルCDセールスおよびルックアップの各指標か加算されているか否かは関係ないと言えます。

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「Violeta」は登場3週目ゆえ今後はどうなるかわかりませんが、「La Vie en Rose」同様に総合順位(黒の折れ線で表示)よりもストリーミング(青)および動画再生(赤)の各指標の順位が上回っています。一方、「好きと言わせたい」は全体的に総合順位が2指標より勝っています。また「好きと言わせたい」はシングルCDセールス指標加算6週目で総合100位を下回るのですが(総合100位以内の在籍期間7週)、他方「La Vie en Rose」は初登場から17週連続で総合100位以内に在籍。「好きと言わせたい」ではわずか5週のみ動画再生指標100位以内だったのに対し、「La Vie en Rose」は25週連続で同指標100位以内をキープしており、ここにも大きな違いがあります。さらに、「La Vie en Rose」および「Violeta」はストリーミングが総合チャート初登場の段階で既に100位以内に入っている一方、「好きと言わせたい」のストリーミング指標はシングルCDセールス指標初加算と同週に初登場。動画再生指標も、シングルCDセールス初加算の前ではあれど総合チャート初登場から5週目に初加算という状況です。

シングルCDセールスの有無を除いても、チャートアクションや各指標の状況(そして各指標が初加算されるタイミングが日本で遅れたのは日本的なレコード会社等の戦略ではないかと考えます)でこれだけの違いがあるのです。韓国産の楽曲はシングルCDセールス指標に頼れない状況ながら、総合チャートでの最高位こそ高くないものの「La Vie en Rose」(最高21位)は「好きと言わせたい」よりも長くチャートインしています。「Violeta」は今後の動向を見極める必要がありますが、総合ポイントでみれば「La Vie en Rose」が「好きと言わせたい」を上回る可能性もあります。

一方、シングルCDセールスについても、日本的な手法が見て取れます。「好きと言わせたい」においては、個別ハイタッチ会等イベントが行われていました。

またメンバー12名のソロジャケット盤もあるのですが、こちらを購入しても個別ハイタッチ会等への参加が出来ない形です。

日本のアイドルの売り出し方が功を奏してか、「好きと言わせたい」のシングルCDセールス指標は2月18日付ビルボードジャパンシングルCDセールスチャートで303745枚を売り上げ、2位に初登場を果たします。同チャートでは僅差でKis-My-Ft2「君を大好きだ」が勝ったのですが、複合指標からなる総合チャートにおいて、「好きと言わせたい」はデジタルに明るくない「君を大好きだ」を逆転することが出来ませんでした。

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「好きと言わせたい」と「君を大好きだ」のデジタル以外の差を考えるに、「君を大好きだ」が大きく勝ったのがルックアップ。シングルCDを購入したりレンタルした方がパソコンに取り込んだ際のインターネットデータベースへのアクセス数がこの指標であり、シングルCDセールスの順位よりもルックアップが下回れば下回るほど、シングルCDがコアなファンにしか買われていない、グッズとしての意味合いが強まるというのが自分の見方です。レンタルが増えるほどルックアップは上昇しますが、両作品とも発売と同日解禁ゆえレンタルの条件は同一。ここにKis-My-Ft2の強さが見えてきますし、「好きと言わせたい」の2指標の乖離は先に紹介したAKB48のチャートアクションでと同種と言えます。つまり、IZ*ONEにおける販売手法のみならず購入のされ方もまた、AKB48をはじめとするシングルCDセールスが突出したアイドルグループの方法論が踏襲されているのです。

もしかしたら日本のレコード会社等売り出す側は、「La Vie en Rose」のリアクションを踏まえ、シングルCDが発売される「好きと言わせたい」ではストリーミングおよび動画再生が好調に推移するのみならずシングルCDセールス指標も武器になりいいとこ取りだ…と予測していたのではないでしょうか。しかし蓋を開けてみれば、「好きと言わせたい」は「La Vie en Rose」より明らかに失速したように見受けられます。続く「Violeta」が「La Vie en Rose」と同種のチャートアクションを示したならば、IZ*ONEを好きだとしても日本的売り出し方に懸念を示す方が「好きと言わせたい」を敬遠した可能性もあるのかもしれません。

が、それ以前に、一聴して韓国向け楽曲がワールドワイドな視点を持ち合わせているのに対し日本向け楽曲は如何にもJ-Popらしいと実感します。ゆえに、韓国向け楽曲が日本向けよりストリーミングや動画再生が伸びたのは楽曲が純粋に格好いいからなのかもしれません。ストリーミングや動画再生は若年層ほど利用する傾向が高いと聞くゆえ、売り出し方のみならず楽曲制作のアプローチもまた、昔ながらの日本的なものは限界があるものと捉えるのは考えすぎでしょうか。いや、仮にそうだとすれば、NGT48問題の根底にあるものも含め、"旧態依然の日本(人)らしさ"を打破することが問われているかもしれません。今のままでは、様々な面において日本が世界標準からどんどん乖離するのではと思うのです。