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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

K-POPのCDアルバム輸出額、上半期は9年ぶりに減少…一方で米チャートから見えてくるものとは

このブログでは先週、ルミネイト社による米の上半期アルバム/楽曲動向を紹介しました。

その数日前、K-POPに関して以下の記事が登場。1~6月における韓国のCDアルバム輸出額は前年同時期に比べて2.0%減少しています。

ルミネイトによるアルバム動向において、フィジカルとデジタル(アルバム単位でのダウンロード)を合算したチャートではTOMORROW X TOGETHER『Minisode 3: TOMORROW』が6位、ATEEZ『Golden Hour: Part.1』が7位、TWICE『With YOU-th』が9位に入り、トップ10の3割を占めています。一方でストリーミングや単曲ダウンロードのアルバム換算分を含むユニット単位では、K-POPはトップ10内に入っていません。

ともすれば上記ニュースの内容に納得し"バブルは弾けた"と捉える方もいらっしゃるかもしれません。その点に対し、チャート分析者の立場からふたつの見方を記します。

 

 

K-POPにおいては好セールスが期待できる歌手が今後登場し、年間単位では改善する(前年を上回る)可能性があるでしょう。たとえばメンバー全員が所属事務所と再契約を結んだばかりのStray Kidsはミニアルバム『ATE』を、またBTSのJIMINさんはソロアルバム『MUSE』を、それぞれ7月19日にリリースしています。高い売上を誇るK-POP歌手のカムバックは今後も登場するものと考えます。

また最新7月27日付米ビルボードアルバムチャートではENHYPEN『ROMANCE: UNTOLD』が2位に初登場。自己最高位を更新したのみならず、セールスにおいても自己最高を記録しています。

 

これらの点を踏まえればセールスの上半期動向を憂慮する必要はないと考えますが、一方では【セールス(特にフィジカル)に特化しないヒット】が求められるものと考えます。

 

K―POP市場ではアルバム販売枚数を増やすため、ジャケットが異なる仕様を複数用意し、異なるフォトカードやポスターを封入するなどして、同じアルバムを複数枚購入させるための販促戦略が使われてきた。また抽選式のサイン会を開きファンの消費を誘導してきた。

[韓流]K―POPアルバム輸出額 9年ぶり減少=バブル終わりか | 聯合ニュース(7月15日付)より

先程の記事から抜粋した内容については日本でもみられ、一方ではその施策を批判したBE:FIRSTならびにBMSGの姿勢(BE:FIRSTのフィジカルシングル「Masterplan」で実行)が称賛されています。コアファンは熱量の高さに伴い多額の金銭を費やす傾向にありますが(また"費やすほどファンの鑑"という認識もあるかもしれません)、ふと熱が冷めた際に消費の多さを振り返りファンを辞めるという方もいらっしゃるかもしれません。

 

チャート分析者の私見と前置きして述べるならば、コアファンへ過度な負担を強いないこと、またフィジカル制作における環境への配慮も必要ながら、チャート管理者側が社会の実態に即してチャートポリシー(集計方法)を変化させ、歌手側の施策等を過度に反映させないようにすることが最善と考えます。またチャートの見方を浸透させ、真の社会的ヒット作品とは何かをより分かりやすく示すことも必要です。

そこで後者に関し、米ビルボードによるアルバムチャートを掘り下げていくと、K-POP全体においてコアファンとライト層の乖離がみえてくると言っていいでしょう。

上記は米ビルボードの2024年度における週間アルバムチャート、1位および2位のリスト。直近までテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が12週連続で首位に立っていましたが(この点については後日言及する予定です)、K-POPも複数作品が2位以内に登場していることが解ります。

ただ、これらK-POP作品では【初登場の翌週においてユニット前週比が小さくトップ5内をキープできない】【ストリーミングによるアルバム換算分(SEA)の全体ユニット数に対する割合が小さい/セールスの割合が大きい】【セールスに占めるフィジカル売上の比率が高い】という特徴がほぼ共通しています。

他方、ロングヒットする作品はいずれもユニット前週比が高く、ストリーミングによるアルバム換算分(SEA)の全体ユニット数に対する割合が大きいのが特徴です。ストリーミングの重要性はソングチャートにおいても同様であり、つまり米のサブスクユーザー(サブスク普及率を踏まえれば広くアメリカの音楽ファン)に対しどう浸透させていくかが、K-POPを米で認知浸透させジャンル人気を確立するためには重要だといえるのです。

 

ただし先述したSEA、および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)共に、ユニット数算出時の計算式においてアルバム収録曲数に関係なく分母は同一となります。2021年度および2023年度の米ビルボード年間アルバムチャートを制したモーガン・ウォレンの2作品、また先述したテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』も30曲以上が収録されており、米ビルボード側はチャートポリシー変更を行うべきと考えます。

収録曲数の少なさが不利となるチャートポリシーゆえ、ストリーミングが大きな影響を持つ米ビルボード各種チャートでK-POPは厳しい状況が続くかもしれません。しかしストリーミングヒットが生まれれば状況は大きく変わると考えます。ストリーミングを介してライト層がコアファンに昇華すればフィジカルセールスにもつながることでしょう。ライト層へのリーチを主体とした中長期的施策にK-POP全体がシフトすべきです。